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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚

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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚
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「うーん、距離がつかみづらいですわねえ。だいたいこの角度かしら」
 城の裏に回った冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)であったが、いかんせん視界が悪い。
「やむを得ないですね。ここです!」(V)
 諦めて勘でだいたいの位置を決めると、一気にバーストダッシュで飛び上がった。その勢いで、城壁の上に飛び乗ろうというのである。
「よし、うまく……、ちょ、ちょっとぉですわぁ!」
 ポンと飛び乗れる予定だった冬山小夜子の視界に、城壁の石壁が迫ってくる。わずかに高さが足りなかったのだ。
「な、なんのですわ!」
 思い切り手を上にのばしつつ、冬山小夜子は城壁に激突した。かろうじて、指先が城壁の上に引っかかる。
「痛い……。でも、潜入は成功ですわよ」(V)
 なんとか這い上がって、冬山小夜子はほっと一息ついた。だが、安心する暇もなく、誰かがやってくる。
 身を低くして隠れると、メイドが一人やってくるのが見えた。
 飛んで火に入るなんとやらだ。吸精幻夜で、さっきぶつけた顔面を回復させるとともに、お宝の位置を聞きだそう。
 そう考えて、冬山小夜子は一気にメイドに飛びかかっていった。
「いただきますわー」
 その首筋に唇を近づけたとたん、メイドの姿が崩れて消えた。
「えっ!?」
 予想外の出来事に、冬山小夜子は呆然と立ちすくんだ。いったい何が起こったというのだろう。
 だが、その答えを模索する間もなく、低い唸り声が聞こえてきた。霧につつまれた城壁の上に、あろうことかキメラが現れる。
「冗談じゃありませんわよ」
 冬山小夜子は、バーストダッシュであわててその場を逃げだしていった。
 
    ★    ★    ★
 
「えっと、このへんであるかな」
 空飛ぶ箒でゆっくりと降下しながら、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は進入口を探していた。
 やっと館の外壁を見つけると、その表面をなぞりながら窓を見つける。
「これなら簡単であるな」
 あっさりと窓を開けると、毒島大佐は部屋の中へと入っていった。
「まあ、泥棒さんですか? いけないですわねえ。でも、泥棒さんでしたら、本気で魔法使っても構いませんよねえ」
 霧の中に立っていた影が、にこやかにそう言った。
「チャイ・セイロン? ちょ、ちょっと待って、我は味方で……」
「まあ、みなさん、だいたいそう言いますわよねえ」
 イルミンスールの制服を着たチャイ・セイロンが、にこやかに火球を連続して放った。
「嘘であろう!?」
 かろうじてバーストダッシュで火球を逃れた毒島大佐は、そのまま部屋の扉を体当たりで破り、さらにむかいの部屋の扉をも破って部屋の中に逃げ込んだ。
「ううっ、今度はなんにゃ……」
 いったん死にかけて、かろうじて緋桜ケイのナーシングで助かったシス・ブラッドフィールドが、ベッドの上で呻いた。
「逃げるのだ!」
「逃がしませんよお」
 叫ぶ毒島大佐の後ろから、チャイ・セイロンが迫った。
「その通りだ」
 緋桜ケイが、躊躇なく火球を放った。毒島大佐が避ける。背後にいたチャイ・セイロンが、火球の直撃を受けて吹き飛んだ。
「おい、いったい何を……」
「やっぱり、偽物か」
 驚く毒島大佐に、緋桜ケイが後ろを指さした。さっきまでチャイ・セイロンの立っていた場所に、霧が集まって何かを再構成しようとしている。
「逃げるのにゃ」
 シス・ブラッドフィールドが叫んで、部屋を飛び出した。あわてて、毒島大佐と緋桜ケイが後に続く。
「うちのリンちゃんをいじめる子には、容赦しませんよお」
 復活したチャイ・セイロンが、再び後を追いかけてきた。
 
    ★    ★    ★
 
「誰かいますですか?」
 声をかけながら、いんすますぽに夫は部屋の扉を開けた。とたんに、銃弾が雨霰と浴びせられる。全身に銃弾を浴びて、戸口にいた人影が倒れた。
「きゃっ」
 倒れかかってきた人影に押し潰されそうになって、リン・ダージがあわてて窓際に下がった。
「そのような物、だごーん様が魂を込めた石像には通用しません」
 自分の身代わりになって銃弾を受けた石像をさして、いんすますぽに夫が胸を張った。
「お返しです。バニバニバニシュルルルルル!」(V)
「ぎゃっ」
 バニッシュを受けて、リン・ダージの形になっていた霧が、輪郭を崩す。
「思いっきりいくからね〜、止め!」(V)
「うむ!」
 いんすますぽに夫の後ろにいたカレン・クレスティアに言われて、ジュレール・リーヴェンディがレールガンを発射した。
 リン・ダージだった物が、窓ごと外に吹き飛ばされていく。
「これで二人目ですか。やれやれ」
 いんすますぽに夫が、疲れたように言った。リン・ダージの偽物を倒したのは、これで二人目だ。
「まだ一人いるのだ」
 部屋にたちこめていた霧が少し晴れ、ベッドの上にいる新たなリン・ダージの姿が現れた。
「ちょっと、ストーップ。このリンちゃん、ちゃんとゴスロリの格好してるから。多分本物よ、本物!」
 カレン・クレスティアが、あわててジュレール・リーヴェンディを止めた。
「毒でしょうか。では、僕が……。でも、その前に、この入団希望書にサインを……」
「そんなもの、今書けるわけないでしょ」
「早くするのである」
 よけいなことをしようとするいんすますぽに夫を、カレン・クレスティアが睨みつけ、ジュレール・リーヴェンディがレールガンの銃口でつついた。
「るるるるる、ひーるるるるるる」(V)
 あわてて、いんすますぽに夫が、リン・ダージを解毒して回復させる。
「うー、ぎもぢ悪い。酷い目に遭ったー」
 意識を取り戻したリン・ダージがゆっくりとベッドの上で上半身を起こした。
「あの伯爵。許さないんだから」
 リン・ダージがベッドの上から下りたとき、開けっ放しだった扉の前をシス・ブラッドフィールドとゆるスターたちが必死に逃げていった。すぐ後に、緋桜ケイと毒島大佐が駆け抜ける。
「逃がさないと言ったでしょお」
 それを追うチャイ・セイロンの姿が、扉の前に現れた。その瞬間、リン・ダージが有無をも言わさずハンドガンを連射した。背後の扉ごと、蜂の巣にされた偽物が形を失う。
「助かったぜ」
 戻ってきたシス・ブラッドフィールドが、火球で、まだ澱んでいた霧を焼き払った。
「この霧は、いったい何なのでしょう」
 いんすますぽに夫が首をかしげた。
「ちー」
 戻ってきたゆるスターの一匹が、むかいの部屋に入って泣き声をあげた。
 行ってみると、本物のチャイ・セイロンが、ベッドに寝かされていた。
 すぐに、緋桜ケイが介抱する。
「やられましたわ。それで、リーダーたちは?」
 意識を取り戻したチャイ・セイロンが、一同に訊ねた。だが、他のゴチメイたちの安否はまだ分からない。
「捜しますわよ。たとえ、この城を焼き尽くしてでも、リーダーたちは見つけだしますわよお」
 珍しく、怒りを顕わにしてチャイ・セイロンが言い放った。
 
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「変な城だな」
「そうだねえ〜」
 フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)ゴルゴルマイアル 雪霞(ごるごるまいある・ゆきか)は、思わず顔を見合わせて言い合った。
 確か、タシガン観光に来たはずであったのだが、いつの間にか町並みは遠く離れてしまっている。タシガン名物の霧も、いつの間にか空飛ぶ箒による飛行が困難だと思えるほどに濃くなっていた。
 引き返すか、でもいったいどこへと思う間もなく、霧の中におぼろに古城が現れたのである。
「寄ってみるか?」
「えー、行くんですか〜」
 ゴルゴルマイアル・雪霞はあまり乗り気ではなさそうだが、フリードリッヒ・常磐はなぜかその古城に強く興味を引かれた。それ以前に、慣れない空飛ぶ箒の飛行で、そろそろ地に足をつけたいということもあった。
「こっちでございます」
 城壁に近づいたとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。見れば、懐かしい伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)が、冬山小夜子と一緒に敵から逃げ回っている。
「助けるぞ、ゴルゴルマイアル!」
 すぐさま、フリードリッヒ・常磐たちは城壁の上に着陸した。
「鶏図!」
 取り出した筆で空中に炎でニワトリの絵を描き出すと、フリードリッヒ・常磐は強化した火術を放った。炎の絵が動きだし、伊藤若冲たちを追いかけていたキメラにぶつかって粉砕する。
「これは、フリッツくん。助かりましたでございます。珍しい絵があると聞いてやってきたのですが、なんだか変なことに巻き込まれてしまったようでございまして。いやはや、大変でございました」
 伊藤若冲が、ぺこりと頭を下げた。
「いや、まだだ」
 フリードリッヒ・常磐が、まだ気を抜くなと注意した。
 砕け散ったと思うキメラの残骸から、いくつもの機晶姫が生まれて動きだしたのだ。だが、それらは半壊していて、見るもおぞましい姿をしている。
「ちょっと、増えちゃったですわ!」
 冬山小夜子が、だめじゃないかと叫んだ。
「この光景、見たことが……」
 迫りくる機晶姫のゾンビに、ゴルゴルマイアル・雪霞が懐かしくもおぞましい記憶をわずかに呼び覚ます。
「とりあえず、きりがございませんから、逃げた方がよろしいかと」
「また、城壁の上をグルグル逃げ回るんですの?」
 伊藤若冲の言葉に、冬山小夜子はもう嫌だとばかりに叫んだ。
 
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「始まったようであるな。ここは援護すべきか。こちらも始めようではないか」(V)
 城で騒ぎが起こったという連絡を受けて、悠久ノカナタが皆をうながした。
「すべて凍らせて打ち砕けば、黒蓮などただの花じゃ」
 率先して氷術を駆使しながら、悠久ノカナタが言った。
「こここーい」
 順調に黒蓮を駆除できると思われたとき、濠の中から、次々に巨大錦鯉が姿を現した。
「か、かわいくないですわ!」
 それを見て、佐倉留美が叫んだ。
「なかったことにしてしまうのじゃ」
 ラムール・エリスティアが、サンダーブラストで、一気に巨大錦鯉を倒していく。
「こういうふざけた物ばかり出てくるとは、やはり、この濠は霧と関係がありそうだな」
 尾の一撃で巨大錦鯉を粉砕しながらジャワ・ディンブラが言った。
「とりあえず、霧をなんとかするように伝えるとするかの」
 ウォーデン・オーディルーロキが、カラスたちにメモを持たせて飛ばした。