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パラミタイルカがやってきた!

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パラミタイルカがやってきた!

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第一章 パラミタイルカふれあいツアー 3

「え、泳ぎOK? それじゃ、お言葉に甘えていっきま〜す!」

 指導員の指示を聞くや否や、真田 舞羽(さなだ・まいは)は水中マスクにシュノーケル、フィンと、手早くシュノーケリング姿に着替えていた。

「せっかくのチャンス、遊び尽くすぞーっ」

 元気いっぱいに、舞羽は青い海原に飛び込んでいく。

「かーいい! やっぱり身近で見るとさらにかーいい!」

 イルカの至近まで接近し、向こうがおもしろがって触れてきたら、舞羽はここぞとばかりに全力で愛でていく。

「あれ、一緒に泳いでもいいんだ。じゃあ、あたしも!」

 泳ぐ人たちが出始めたのを見て、明も水着へと着替えていく。さらに、ゴーグル+シュノーケルを装備して、颯爽と海へ飛び込んだ。
 差し込む日の光は海中で反射し、きらきらと輝く。
 明は優雅に泳いでいくイルカと併走するようにして、遊泳を続ける。
 そのとき、イルカがバブルリングを出して遊びだした。
 明は目を見開き、近くを泳いでいたメイベルの腕を掴んで引き寄せる。

「ほら、バブルリング出たわよ、見ないと! ほら!」
「わぁ、おもしろいですぅ」

 楽しむみんなの様子を、少し下がった場所で舞羽が写真に収めていた。

       *

 少し離れた海面では、葉月 ショウ(はづき・しょう)が浮き輪に身体を預けて、ぷかぷかとのんびり波間を漂っていた。

「あー。やっぱり平穏っていいなぁ」

 思わず独り言がもれてしまう。最近は色々と忙しいイベントが盛りだくさんだったせいで、のんびりする機会がまったくといっていいほどなかった。
 今このときくらいは、何もせずにボーっとしていたって罰は当たらないだろう。

 そう思っていた矢先、リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)に突撃された。

「わぷっ。おい、リタ。なにするんだよ」
「むー、イルカさんと一緒に泳ぎたいですぅ。背中に乗ってみたいですぅ」
「んーイルカの所? 自分で行けばいいじゃないか」
「でもわらわは泳げないのですぅ〜」
「力を抜けば自然と浮くだろ」
「魔道書が水に浮くなんて、ありえないですぅ。連れて行くですぅ」
「はぁ、しかたないな」

 ショウがしぶしぶリタの浮輪をつかむ。と、移動するのを見計らったかのように、ショウの頭上に猫化した葉月 フェル(はづき・ふぇる)が乗っかった。

「私も行くにゃ!」
「ってかフェル、乗るな」
「うーみーうーみー。おいしそうな魚がゴロゴロにゃ。私の喉もごろごろにゃ」
「……言っとくが、イルカは哺乳類だぞ」
「それぐらい知ってるよ。イルカは食べないよ。イルカはね」
「ったく、落っこちても知らないからな」

 悪態をつきながらも、ショウは軽く笑って、イルカたちのもとへと二人を連れて行くのだった。

       *

「ふぅ、ちょっと休むですぅ」

 メイベルたちが一度船へと戻ってきた。

「皆さんお疲れ様!」

 疲れた彼女たちを出迎えたのは、船上で休んでいた双葉 京子(ふたば・きょうこ)だった。
 京子が「真くん」と一歩後ろに控えていた椎名 真(しいな・まこと)に呼びかけると、真は「用意は整っております」とばかりに冷えたスポーツドリンクと乾いたタオルをすばやく準備。みんなに渡していく。

「ありがとうですぅ」
「どういたしまして」

 みんながゆったりと休んだのを見届けてから、京子は再びエサやりに戻った。

「イルカさん〜イルカさん〜。かわいいなー♪ しっとりしてるんだね」

 ツンツンと突付きながら、触れ合う京子。そして海上を漂うくらげを見つけては、「あー、綺麗なくらげー」と嬉々として拾い上げ、

「イルカさんってこんなの食べてるんだ……えいっ!」
「……って!きょ、京子ちゃんそれ餌じゃない!放りなげちゃだめ!!」

 と、真とのやりとりを繰り返していた。
 しかしそのうち、不意に京子は真の異変に気づいた。なんだか妙にそわそわしていて、普段の落ち着きがなくなっているのだ。

「どうしたの真くん、さっきからうずうずしちゃって」
「え、うずうずしてました?」

 こくんと頷いた京子だったが、すぐにあることに思い当たる。

「もしかして、イルカさんと一緒に泳いでみたい……とか?」
「あー……はは。でも、水着持ってきてないし……」
「こういうところって、販売しているんじゃないかな」
「え、そうなのかな? いや、そうだよね。……ごめん、ちょっとだけ泳いでもいいかな?」

 チラリ、と真は京子の表情を確認する。京子はにっこりと笑って。

「泳ぎ得意だったよね、真くん!行っておいでよ!」
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」

 ダッシュで水着を買いに言った真の後ろ姿を見送りながら、こっそりと真を写メに納めようと、京子は携帯を用意するのだった。

       *

「おー。なんかある意味絶景だよな」

 悠然と泳いでいるパラミタイルカの群れを眺めながら、椎堂 紗月(しどう・さつき)は感心したように呟いた。
 その背中を赤羽 美央(あかばね・みお)が飛びつきたそうにうずうずと眺めている。
 しかし、自分の傍らにいるエルム・チノミシル(えるむ・ちのみしる)を見て、美央は自分の欲求を何とか押さえ込んだ。
 今日は美央がお姉ちゃんらしいところをエルムに見せないと。

「どうした、美央ちゃん?」
「へ? あ、あぁ! えっと、そう言えばダディが来るといってたけど、いませんね」
「だよな。さっきから探してもいないとなると、急な用事とかで来れなくなったのかな? ま、遅れてくるならなんとか来るだろ」
「むー、そうですね。仕方ないです、後で連絡入れておきましょうか」
「みお姉、おんぶしてー!」

 エルムが勢いよく美央の背中に飛びついてきた。

「はいはい。でもその前に、せっかく海に来たんですから、泳ぎましょう!」
「はーい。って、みお姉! こんな所で脱いじゃ駄目だよ!」
「大丈夫です。もう下に水着を着ています」
「むぅ、驚かすな!」
「さて、日焼け止めクリームをちゃんと塗らないと。えっと、紗月ちゃん、手の届かないところとか塗ってくれませんか? エルムだと悪戯されるから」
「あぁ、いいぜ。ほら、あっち向いて」

 紗月は美央からクリームを受け取り、背中に満遍なく塗りはじめる。

「大丈夫か? くすぐったかったら言ってくれよな」

 塗っている間に、エルムも水着に着替え終わっていた。

「さーて、じゃあイルカと泳ぎましょうか」
「みお姉、僕もイルカと遊んでみたいんだけど……」
「あぁ、エルムはお泳ぐのは初めてなんですか? むー、じゃあ私が背中に乗せて泳いであげるからつかまってて下さいね」
「うん!」

 まるで本当の姉弟のように、美央がエルムをつれて海へとつかっていく。
 紗月は普段の美央の様子を思い出しながらも、「あぁ、成長してるんだなぁ」と感慨深く見ていたのだった。

       *

「あれがイルカさん? すごいの〜可愛いの〜♪」

 同じ船上では、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)がイルカを眺めていた。
 とくに瑠璃は、「イルカさんと一緒に遊びたいの! 遊べるんだよね?」と上機嫌ではしゃいでいる。

「ほら瑠璃、落ち着きなさい。しかし、パラミタイルカというのも愛らしいですね。ラズィーヤさんたちが来たくなるのも納得します。……って瑠璃、いつの間に水着まで準備してたんですか」
「えっへん。これでイルカさんと一緒に遊べるの!」
「泳ぐのは大丈夫ですが……いいですか、指導員さんの言うことをちゃんと聞かないと駄目ですよ?」
「はーい!」

 元気いっぱいに返事をして、瑠璃は指示に従って海へと入っていく。すい〜っとある程度泳いでいくと、イルカの方から彼女に近づいてきた。

「わぁ、イルカさん! 瑠璃ね、イルカさんと一緒に泳ぎたいの! 背中に乗せてもらいたいの! お願いなの♪」

 瑠璃が語りかけると、イルカは海面に顔をのぞかせ、きゅい、と鳴いた。

「え、いいの? ありがとう!」

 イルカの背びれに瑠璃が掴まると、イルカは瑠璃を連れてゆっくりと、じょじょに速く泳ぎ始めた。

「うわぁ、イルカさんって泳ぐの早いのね! あっちに行くの〜♪こんどはそっちなの〜♪ きゃはは〜すごく楽しいの〜!」
「ちょっと、瑠璃! あまり遠くに行っちゃダメです……って、もう」

 イルカに乗った瑠璃は、どんどん船から遠ざかっていく。
 遙遠は「しかたないですね」と呟くと、漆黒の影で出来た翼を広げ、瑠璃を追うのであった。