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 第七章

 ところで遊園地のほうはどうなっているだろう。
 遊園地より百メートルほど離れた地点には、休憩所を兼ねた公園がある。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はなるだけペンギンを遊園地に行かせないよう、ここでペンギンの足止めを担当していた。
「イタズラ好きのペンギンさん、遊園地には怖いものがいっぱいあるから入っちゃだめなんですよ」
 メイベルのメッセージは言葉ではなく歌だ。新緑の森に湧く水のごとき清らかな声で歌いかける。
「そのかわり、ここでゆっくりしましょうね?」
 歌の美しさはペンギンにも通じているのだろう。七羽ほどいたパラミタコウテイペンギンは、いずれも聞き惚れるようにして足を止めている。ときどきよそ見をする者もあるが、そんなペンギンにはすぐにセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が餌を与えているので逃げたりはしないのだ。
(「さすがメイベル、最初はあんなに騒いでいたペンギンが、今ではこんなに大人しくなっちゃった……まるで母鳥だね。メイベルにはカリスマ性ってのがあるのかな?」)
 歌でペンギンを魅了するメイベルの活躍が、セシリアは自分のことのように嬉しい。
「それはそうとして……触っていいのかな、ペンギン?」
 メイベルのほうをちらちら見ながら、セシリアは恐る恐るペンギンに触れてみたが嫌がられはしなかった。頭を抱いても、キ? と小さく鳴くだけで眼をぱちくりしている。
「ははは、可愛いな〜」
 安心してきゅっと抱き、セシリアはうっとりと目を閉じる。
 ところがセシリアに、小声で呼びかける姿があった。
「セシリアさん、セシリアさん、お気をつけ下さいまし」
 一時的に姿を消していたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)だ。フィリッパの表情は少々険しい。
「んっ? どうしたの?」
「偵察に行っていました。わかりますか? トウゾクカモメの殺気が近づいて来ています……どうやら遊園地を目指しているようですが」
 正門ではかなりの数を食い止めているようだが、カモメの侵入口は一つではない。入ってくるのは完全には防げてはいなかった。
「え、メイベルは?」
「すでにお気づきです。ほら」
 フィリッパが目配せすると、メイベルが目礼するの見えた。メイベルが歌を中断せず、おだやかな様子をたもっているのは、ペンギンを怖がらせないようにとの配慮である。
「結構数がいるね。ペンギンまでいる状態で三人きりで戦うのは無理かも……」
「セシリアさんもそうお考えですか。では、セシリア様……!」
 フィリッパが合図すると、セシリアはペンギンの肩に手を置いて微笑みかけた。
「もう私たち、お友達ですよね? お願い一つ、させてもらっていいかしら?」
 セシリアは歌いながら、優しくペンギンたちの手を引く。
「いっしょに散歩したいんです。みんなで少し、歩きましょう」
 キュウ、とかクア、とか、ペンギンが同意するのが聞こえた。
「遊園地のほうも気になるけど……あっちにも防衛担当のメンバーがいるし、任せておこうか」
 僕たちは僕たちのできることを、そう言って、セシリアはペンギンの誘導を手伝うのである。

 だが遊園地の敷地の大きさに比して、これを防衛するメンバーは明らかに人数が不足している。これでは侵入を防ぎきることはできないだろう。いくらかの作戦ミスと言わざるを得ない。
「やはり人手不足でしたか……でも、ペンギンを近づけないという使命だけは果たしてみせます!」
 影野 陽太(かげの・ようた)もその一人だ。多少の恐れと多大な興奮で、抜いた音波銃が小刻みに震えるがその射撃は精確、たちどころにカモメの胴を射貫き気炎を上げた。
(「環菜会長が買い物を楽しみにしているんです。必ず……必ずいい結果を出さないと!」)
 陽太の優先事項はペンギンを近づけないこと、そして、カモメをできるだけ倒すことの順である。
(「使命を果たして近い将来、会長に安心してお買い物を楽しんでもらいたい! あ、あと、許されるならお伴させてもらって、荷物持ちとかさせてもらえたら良いなぁ……」)
 彼女の数歩後ろを大量の荷物を抱えて歩く自分の姿を想像し、陽太は頬を薄く染めた。
 会長……カンナ様はもしかしたら、夏らしい薄手のワンピースでやってくるかもしれない。日傘がわりの白いパラソルを掲げて、優雅な一日を過ごされるかもしれない。そんな彼女が、「暑いからアイスクリームでも食べようかしら」なんて言ったらどうしよう? それどころか「陽太、買ってきなさい」と命じて、二人がけの白いテーブル席に腰を下ろしたとしたら?? 透き通るような肌を惜しげもなくさらすカンナ様に見つめられながら、アイスを食べるなんてことが自分にできるだろうか?? アイスより先に、自分が溶けてしまわないだろうか……!
(「駄目ですカンナ様……そんな………ああ…………じゃなくて!」)
 長い妄想のようだが時間にすれば数秒だ。陽太は夢から覚めたように首を振って、周囲の地形に目を走らせた。たしかにそれは夢、だが夢を実現させるためには、この現実を打破することが最低条件!
(「決して楽ではないけれど、やはりあの作戦が良さそうです」)
 陽太はには一つ、策があるのだ。同じチームのメンバーには伝えているが、果たして上手く行くかどうか……。

「ごめんなさいね……」
 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は、近づいてくるペンギンの一団にアボミネーションを用いて追い払っている。少々気の毒だが、緊急事態ゆえこうする他はない。
 その間、神代 明日香(かみしろ・あすか)は地に手をつけて何かを探していた。
「見つけました!」
 これですぅ、と床石をずらして鉄製のパネルを露わにする。
「明日香さん、これは?」
 ノルニルが問うと、
「ずっと探していたものですよ。こう使うんですぅ」
 先端テクノロジーは明日香の得意分野だ。巧みににパネルを開き、内部の配線板を引っ張り出すと、そのうち数本を切断した。
「!」
 神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)は驚いて身をすくませる。頭上の灯りが一斉に消えたのだ。
「停電……いえ、遊園地の灯りだけが消えたようですわね。明日香さん、成功ですわ」
 時刻はまだ日中、天窓から光も差してはいるが、やはり電灯がすべて消えた効果は大きい。遊園地は明かりが消え、遊具等が光っているものの一気に薄暗くなっている。
「すごい! これって、遊園地だけ暗くしたってことですね」
「はい」
 明日香は頷くと、同性のノルニルですら見とれそうな笑顔を見せた。(ちなみに夕菜は、そんな明日香を見てとうに頬を染めている)
「通常のカモメは鳥目のため、薄暗い程度でも視力はゼロに等しくなります。といっても相手は変異トウゾクカモメ、どれだけ効果があるかはわかりませんが、遊園地内に入られたとしても、これで戦力を削げるのではないかと思うんですぅ」
 もちろん侵入を許さないのが最良だが、これが現実的な対応といっていい。最小メンバーで護る方法を、との陽太の提案に基づき、明日香が思い付いた手段だった。
「さて、そうと決まれば、わたくしたちは持ち場を護るのみですわ!」
 夕菜は幻槍モノケロスを抜き、その穂先を敵に定める。トウゾクカモメの一団が迫りつつあった。ちょうどメイベルたちがやり過ごした相手だ。
「ノルンちゃん、夕菜ちゃんお願いしますぅ」
 カモメの軍団が迫り来る。だが明日香は動じず即応、銃を抜き撃ちし、ノルニルは奈落の鉄鎖で先頭を転ばせる。
「任せて下さいまし!」
 同じ相手を、幻槍の尖端が貫いていた。

 灯りを消したことが、逆にカモメを呼び寄せた。何かがあると思ったのだろう。だがむしろ勿怪の幸い、闇雲に突入したカモメは、分け入るほどに増す暗さに勢いを減じている。完全に鳥目というわけではないようだが、暗さが不得手なのは確実だ。
 明日香の成功をいち早く察し、草刈 子幸(くさかり・さねたか)は照明スタンドに駆け寄る。
「暗くなればカモメは行方を見失う……でありますか。ならば」
 スタンドにスイッチを入れ、強い光をすべてステージに向けるのだ。
「こうやってステージにおびき寄せるのみ、であります! ささ、ツキも手伝うであります!」
「おうっ! こうか?」
 鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)も協力するが、途中、光がカモメを照らし出してしまい爆笑してしまう。
「わっはっは、じゃけぇあの格好はなかろうー?」
 考えてみれば滑稽な姿の敵ではあろう。カモメの顔に筋肉質の体、どうにもアンバランスな翼もあって笑ってしまう。
「ほら、笑っている場合ではないでありますよ! まあ確かに、頭が鳥で体は人間というのは、なんとも破廉恥ではありますが」
 釣られて笑いそうになる子幸ではあるが、ここで油断すれば取り返しの付かないことになると思い直す。
(「人気コースターもあるというのに、下手を打てばすべてが壊されてしまうであります! 勝利後のご褒美に並ばずに乗るためにも……いやいや!! 乗り物を楽しみにしている多くの子どもたちのためにも、奮起せねばならないのであります!!」)
 意志の強そうな眉をきゅっと上げ、子幸はステージを光で包んだ。
 光の帯を見上げ、久途 侘助(くず・わびすけ)は微笑する。
「光でカモメをおびき寄せる……か。やるな子幸」
 ならば俺たちは、誘惑でカモメをおびき寄せる! そう断言して侘助は、手にしたものを香住 火藍(かすみ・からん)に渡した。
「やるとするか、フルボッコ大作戦!」
「あの本当に……やるんですか」
「俺が嘘や冗談でこんなことを口にするとでも? さあ、さっさと脱ぐんだ!」
 侘助は、どんと火藍の体を壁に押しつけ、着物に手をかけるや左右にぐいと開く。わずか一息でその白い胸元があらわになった。
「ちょ、ちょっと! できます! あんたにやってもらわなくても着替えくらい一人でできますって!」
 火藍は甲高い声を上げ侘助を押しのける。そして草陰に飛び込んでいった。
 十秒後。
「……すみません、少し泣きたくなってきました」
 本当に涙がこぼれそうな表情で、火藍は侘助にその姿を晒した。侘助は大きくうなずき、
「よし、これであとは、俺が開発したこのペンギン臭コロンをふりかければ完成だ!」
 と、なにやらスプレーを互いの身に振りかけている。
 現在二人とも、ペンギンの着ぐるみ姿なのである。侘助の渡した着ぐるみに、火藍も付き合わされているというわけだ。
「俺はペンギンだ! 火藍もペンギンだ! 二人合わせて、誘惑ペンギンブラザーズ!」
「……やめて下さい。そのバカなネーミング」
 火藍は眉を八の字にするものの、使命を忘れたわけではない。
「トウゾクカモメがこちらへやって来ました、誘導を開始しましょう」
 急ぎ、現場へ向かわんとする。
「いや、誘導じゃなくて『誘惑』だ!」
「どっちでもいいじゃないですか!」
 二人はカモメの前に飛び出すと、せかせかと逃げてステージへと誘うのである。薄暗い中、カモメは空腹と怒りの入り交じった声を上げ二人を追いかけた。途上、遊具や柵に突き当たるたび破壊して進んでくるのは困ったものだが、こればかりは致し方ない。
 そして侘助と火藍がステージに着いたとき、スポットライトが二人を包み込んだのだ。
「先輩、似合っているであります!」
 光を投じているのは子幸、やんやと喝采する一方で、
「マジかよ久途の野郎……香住も変なヤツと契約してんな……」
 草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)は頭痛でもするかのように頭を抱えている。キュートな侘助&火藍ペンギンズ……こういうものを目にすることになるとは予想だにしていなかった。
 だが莫邪も自分の役割を忘れてはいない。
「このバカカモメども! 遊園地ってのは遊ぶところだ! 破壊活動してんじゃねえ! 胸くそ悪ぃぜ!」
 子幸と協力し、ステージ下に集結した変異トウゾクカモメたちに鉄製の網を投下する。
「こがぁに上手くいくたぁ思わんかったで!」
 豪放に笑い、朱曉も網投げに参加していた。
 光の誘導が効果あったか、カモメは総数三十羽近く集まっている。だが多いのは数ばかりで、突然の投げ網に右往左往しているようだ。
 その混乱をよそに、ステージに駆け上がる女性の姿があった。
「良い子のみんなー! 元気にしてたかな−!?」
 一条の光が彼女を照らす。姿を見せたのはリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)、司会のお姉さんよろしく、マイクを片手にエコーを効かせている。
 丈の短いミニスカートに、両肩の出る刺激的な衣装、ノリノリの口調でリリィは口上した。
「んー? 返事が聞こえないよー? もっと大きな声でー!」
 カモメはぎゃあぎゃあ言ってるだけなのだが、苛ついてきたのか声が大きくなっている。
「うん、元気そうだね! それじゃあ、今日はヒーローショー、たっぷり楽しんでいってねー!」
 とまでリリィが言ったところで、網が破れカモメがステージに殺到した!
「てめえバカツキ! なんだこの網は、もう破れてるじゃねえか!」
「網が古かったのかのぉ。ま、なんでも思った通りにいくとは限らんけんのぅ」
 舞台袖では莫邪が朱曉を怒鳴りつけているが、網を用意した朱曉はごく平然としている。
 ところがステージではそう呑気なことを言っていられないようだ。激怒したカモメの集団が、リリィに槍で飛びかかったからだ!
「きゃあっ、助けて! ケンリュウガー! ケンリュウガー! 良い子のみんなも一緒に呼んでね! せーの、 ケンリュウガー!
 本当にピンチか、という気もしないではないが危機一髪! そこに!
「救い求める人の声、応えて登場正義の使者っ!」
 轟音とともに舞台の中央が開き、丸い台がせり上がってきた。さらに大量のスモークが吹きだし、おまけに謎のテーマソングまで流れ始めたではないか!
 スモークの中のシルエットが、左手から取り出したカードを右腕の装置らしきものに挿入する。
 らしきもの、と表記があいまいなのは、スモークが濃すぎてよく見えないからだ。それはそれとして!
超! 獣! 武! 装!
 叫びと共に、スモーク中央が大爆発!
超獣武装ケンリュウガー・ザ・グレート!
 ケンリュウガーこと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)のお出ましだ!
「行くぞ! おりゃああああああああああ!」
 気合いと共に牙竜は台から跳び蹴り! カモメを一羽、舞台から叩き落とす。
「さあ、ケンリュウガーが来たからもう大丈夫だよー!」
 軽快にリリィは司会を続けているけれど、実は、あんまり大丈夫ではなかった。
 ステージが明るいため力を取り戻したカモメたちは、槍をめぐらし翼で飛翔し、勢いづいて彼らを圧倒し始めたのである。
「しまった……スモークがまだ出てくる……前が……!」
 もくもくと白い煙がわき出てくる。スモーク発生装置を止めずに出てきたため、牙竜は前が見えず窮地に陥ってしまったのだ。着ぐるみのままの侘助らも戦いづらそうだ。
 しかし、ヒーローは一人ではなかった!
 今度はステージではなく無人の客席から、派手な赤色の煙幕が迸った!
「熱い拳に想いを込めて! 殴る! 燃やす! ぶっ壊す! 烈火の拳姉!
 煙幕の下に扇風機を置いて、これを流しながら出現せしは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)! そして!
「し、しずかに……」
 台詞、噛んだ。
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)! 深呼吸して再度名乗る! 実は恥ずかしさで真っ赤なのである。
「静かに燃え上がれ。悪を恐れぬ強き心よ。静寂の勇姫!
 今度は噛まずに言い終えた!
 てやっ、と声を合わせ二人の美少女戦士は、空中で二回転してステージに着地する。
「私達の正義を貫くために」
 透乃が言い、
「美少女戦士部」
 陽子が継ぐ。
 そして二人声を合わせて、
ここにさんじょー!
 このとき透乃はさりげなく持ってきた扇風機の威力を最大にしてスモークを散らすのである。
「ああっ、あそこにも誰かいます!」
 リリィは相変わらずノリノリでミニ観覧車の方向を指した。子幸のスポットライトが追う!
「ヒーローが必要、って聞いたもんでね」
 観覧車の頂上に、全身甲冑の戦士が立っている。流線と直線を交えたスペイシーなデザインは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の勇姿であった。
「及ばずながら力を貸すぜ。人呼んで宇宙の騎士、エヴァルト・マルトリッツ着陣!
 特に名乗りを考えていたわけではないのだが、つい仲間たちにつられてポーズなどとってみる。ところがそんなエヴァルトめがけて、カモメが一跳びで観覧車にとりつき攻撃を仕掛けてきた。
 しかし即応!
「高く飛べるようだが、身のこなしの速さでは俺の方が上だな!」
 不安定な足場ながらエヴァルトはためらわず跳躍した。観覧車の骨組みの上から、別の骨組みに着地する。そこはカモメのすぐ背後、たちまち拳で突き墜とす。
 ステージで、客席で、あるいは観覧車の上で大乱闘が繰り広げられた。まさに戦いのパノラマだ。
「よし、これなら勝てる!」
 ペンギン姿に四苦八苦しつつ、侘助は氷術でカモメを攻撃し、さらに子幸らも戦いに身を投じる。
「美少女戦士部の底力、見せてあげるんだから!」
 透乃も躍りかかった。『殴る! 燃やす! ぶっ壊す!』のキャッチコピーに偽りなし、カモメを炎に包むのだ。
「ヒーロー仲間がこれだけいて心強いぜ!」
 牙竜も勢いを取り戻す。ちゃんとスモーク発生装置を停止させ、ここからケンリュウガーの本領発揮だ。
 そのとき、
皇帝戦隊エンペラー!
 大地をぐらぐら揺るがすような怒号が轟いた。いや実際、このステージは揺れたはずだ。ヒーローショーステージの壁が開き、そこから光に包まれて新たな戦士が大登場する。その名はゴライオン、キングオブ帝王の異名を持つヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)! 耳を聾すほどの爆音で告げる!
「赤ペンギン捜しで遅くなったことを詫びよう。残念ながらヤツの手がかりはつかめずだ!」
 あまりの大音声に、しばし敵味方、戦いを忘れてヴァルの顔を見た。
 くっ、とヴァルは額に手を当てて苦悩の表情を浮かばせる。
「モールの監視カメラシステムを使えたのは良かったが……まさか白黒カメラとは……」
 悔しげに肩を震わせていた。歯を食いしばっているのもわかる。本当に悔しいらしい。
「ま、まあそういうこともあるっスよ。千慮の一失っていうヤツっス」
 ぱたぱたとシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が駆けてきてヴァルの肩を叩いた。
「ええ、それにまだ、諦めるには早いと思うのだよ」
 才媛神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)も姿を見せていた。ゼミナーはリリィに近づいて、
「マイク貸してもらっていいかな?」
 と声をかけている。
「そうか、エンペラーグリーンにエンペラーパープル、俺たち皇帝戦隊エンペラーは一人じゃなかったな! よく思い出させてくれた! 礼を言うぞ!」
 ぐっと拳を握るヴァルなのだが、これに対しシグノーもゼミナーも居心地悪そうな顔をした。
「エンペラーグリーンって自分っスか? いえ……そういうつもりは……」
「戦隊って名乗っているけど、今のところメンバーはエンペラーゴールドことゴライオン一人でしょ?」
「なんだってー!」
「だから赤ペンギンを入れて二人戦隊にするってことっスよね?」
 いつの間にか戦いは再開している。置いてけぼりな感じでまたまた落ち込みかけたヴァルのために、ゼミナーはマイクを取って声を上げた。
「さすがにエンペラーゴールド一人では無理なのだよ。嗚呼、こんなときにあの者がおれば…そう、エンペラーレッド! さあ、みんなも呼んでみよう、せーの、エンペラーレッド! 聞こえてないみたいだ。なら探してみよう、エンペラーレッド!」
 赤ペンギンよ出てこい、とメッセージを送るのである。
 戦いの最中、ただひたすらゼミナーの声は反響していた。
 果たして、呼びかけの結果たるや如何に……!?