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【2020授業風景】少年探偵と死者のいる教室

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【2020授業風景】少年探偵と死者のいる教室

リアクション



後記

 教室は、雪と氷、雷、怒声と叫びが飛び交って大混乱に陥ってしまったので、避難の意味もあって、あたしとくるとくんは、とりあえず、講義準備室へむかいました。
 講義準備室にいたのは、手足を縛られ、床に転がされた血まみれの男の人でした。
 あれ。
 この人は、いま、教室で、シーツに包まれて倒れているはずの。
「貴方が、犯人なのですね・・・」
 ホワイト・カラーさんが彼に指を突きつけます。
 ちょっと、それは、ムリがありすぎだと思うわ。
「な、なんだってぇ?!」
 いまのPMRのみなさんの合唱は、約束や冗談ではなく、本気の驚きでした。
 なぜなら、この男の人は、どう見ても。
「フライシャー教授。いったい、どうしたんですか」
 部屋に飛びこんできた、如月正悟さんが、血まみれの教授を抱き起します。
「表にいる人物が変装した別人で、本物の教授がここにいらっしゃるのは、なんとなくわかっていましたが、遥遠は、もう少し早く迎えにきたほうが、よかったですか。すいません。他人の人生に興味がないもので」
 緋桜遙遠さんは、意識を失っている教授を冷ややかに見下ろしました。
「まだ助かる可能性はある。医学部に連絡しろ。応急手当だけでもするぞ」
 クレア・シュミットさんが、教授に治療魔法をかけはじめました。
 クレアさんは、いつも事件の現場で、医学の知識、技術を使って、被害者や負傷者を助けてくれます。
 鬼桜月桃さんもきてくれて、治療を手伝っています。
 しばらくして教授が、まぶたを開きました。
「ああ、きみたち、すまない。私は、彼を、あやまって、しかし、あの女の誘惑を断ったら」
「いまは、黙っていてください」
 めずらしく月桃さんが余裕のない感じでしゃべっています。
 教授は出血もひどく、ケガもかなりのものなので、治療するクレアさんも月桃さんも、真剣そのものです。
「ああ。本当に、すまない。リチャード」
 教授は、血まみれの自分の手の平を眺めながら、弱々しい小さな声でつぶやいています。
A Study in Scarlet

 医学部の人たちが担架をもってきて、教授を運んでいくのを見送って、あたしたちは教室に戻りました。
 氷雪、雷鳴がおさまり、灯りのついた教室からは、こちらにいたフライシャー教授の姿は、消えていました。
「くるとくん。人間消失なの?」
「ううん。「スイミングプール」本当はそこにいるはずのない人物を演じて、現実を歪めてしまう映画。悪意のあるゲーム。二人いて、一人が本物なら、一人はニセモノ。ニセモノがここで死ぬ理由は、ないと思う」
「よくわかんないんでけど、刃さん。教室の教授の死体は、どうなったんです」
 あたしは側にいた鬼桜刃さんに聞きました。
「ばたばたしてる間に、持ち出された。あげく、逃げられた。失態だぜ」
 刃さんは、悔しそうです。
「我が銃を渡したのは、彼の協力者のフリをして油断させる作戦でした。無論、渡す前に空砲をこめておきましたので、もし、発砲しても、危険はないと考えていました。それをわかっていた上で、利用されたようです」
 戦部小次郎さんの眉間にも、深い皺がよっています。
「結局、生きてたんですか、死んでたんですか。どこに消えたんですか?」
 あたしの質問にこたえてくれたのは、早川呼雪さんでした。
「俺は、フライシャー教授、彼を本気で心配していた。さっきの混乱の最中に、雷霆に頼まれて、渋井とハティと三人で医務室へ彼を運ぼうとしたんだ。
 三人でシーツに包んだ教授を抱え、廊下を歩いていると、突然、風が吹きあれ、その場に足止めされてしまった。竜巻に巻き込まれたような感じだ。風がおさまった時、シーツを残し、彼は消えていた。俺は、だまされたのか?」
 呼雪さんは悪くないですよ。
 くるとくんが言ったように、悪いのはこの悪意のあるゲームをして、みんなを惑わせた人だと思います。
「死体なんて、知らないよ。とにかく、とにかく、とにかく、僕はこのトランクケースの中身をもらう約束をしたんだ。もし、講義が百話にいかず途中で終わりそうになったら、教室をむちゃくちゃにする、って条件でね」
 顔も体も、あちこち小さなケガだらけになったニコ・オールドワンドさんが、それでも元気に、騒いでいます。
 教授が残したトランクケースの中身の話らしいです。
 ふーん。
 ニコさんは、教授とそんな約束をしてたんだぁ。
 いつの間に。
「今日の講義を本当に終わりにするためにも、開けるしかないであろう」
 みんなが注目する中、藍澤黎さんが、トランクケースを開きました。
 一番上にあったのは、ゴスロリ調のドレスと帽子です。
 たたまれた服の上には、カードが一枚。
 カードには、手書きで、「名探偵諸君 再見! N・G」
「おいおい、こいつはシャレにならないな。二時間近くも、俺たちの前で、芝居してやがったのか、あの野郎は」
 レン・オズワルトさんが、拳で壁を叩きました。
「ノーマン・ゲインか。次は、こうはさせない」
 葛葉翔さんも、ぱしんと両手の平を合わせました。
「まだ、間に合うかもしれん。行くぞ」
「そうね。手がかりだけでも」
「私も行こう。やつは許せん」
 斉藤邦彦さんとネル・マイヤーズさん、春日井茜さんが、教室をでていきます。
「彼がこんなにくるとくんにちょっかいをだすのは、なぜだろうね。もしかして、くるとくんを後継者にと考えてるのかな」
 黒崎天音さんがどこまで本気かわからない調子で、とんでもないことを言っています。
 それは、あたしが絶対に許しませんから。
「ねえねえ。次のお宝は?」
 ニコさんは、みんなの苛立ち、重い雰囲気に関係なく、トランクを見つめ、わくわくしている様子です。
 この人もほんとに。無邪気っていえば、聞こえはいいけど。
「これは、貴殿あてらしいな」
 藍澤さんが、トランクから古書をだし、ニコさんに渡しました。
 表紙には、「前途有望なニコ・オールドワンドくんへ N・G」と書いたカードがついています。
 どういう意味だ?
「やっぱり、先生の先生だ。ありがとございまあす」
「キシャシャシャ。ニコ。おまえ、いっそ、あいつのとこに就職しろよ」
 古書を渡されたニコさんは、素直に喜んで、パートナーのナイン・ブラックさんのイヤがる手をとって、踊りだしました。
 そして、トランクに残ったのは、あたしたち参加者と一緒に、トランクケースの中でこの講義に参加した死者、おそらく、リチャードさんでした。
 みんなが黙ってしまうと、雷霆リナリエッタさんがうっとりと目を細めて、語りだしました。
「一緒に講義準備室に行った時にね、床に転がってる、おじさんを私にみせて、「彼がこうしているとういことは、私は幽霊かもしれませんね。お嬢さん、短い時間ですが、幽霊と恋をしませんか?」って、言ったのよ。
 血もいいけど、策略と陰謀のにおいのする男性は、もっと素敵。
 銃声がした後、シーツの中をのぞいたら、「ショーは終りだ。ハニー、私を退場させてくれ」って、お願いされたの。
 今日の彼は、おいたをしただけで、ここで人を殺したわけでもないでしょ。
 純情可憐一途な私が断れるわけないじゃない。ダーリン。また会いたいわあ」
 彼女は、まわりの険しい視線をまったく気にせずに、熱い吐息をもらしました。

「なによ。このふざけた手帳は。特に、この百は、なんなの。今度、会ったら、絶対に捕まえるわよ!」
 ブリジット・パウエルさんが、教壇に残っていたニセモノのフライシャー教授の手帳を見て怒っています。
 手帳には、一から百まで、今日の講義で語られた怪談の、短評だか、感想だかが、一行ずつぐらい、ふざけた調子で書かれていました。
 あんな演技をしながら、内心はずいぶん楽しんでいたようですね。
「くるとくん。ああいう異常な人に育ったら、ダメよ」
「ボクは、普通に、学校へ行けるようになりたい」
 よしよし。体力なさすぎだもんね。
 お姉さんがそのうち一緒にジョギングをしてあげよう。
 百合園推理研のみなさんには、あたし、聞きたいことがありまして。
「春美さん。あの、交霊術は…」
「推理ゲームをして教授の人柄を当ててたら、どうにも怪しく思えてきたから、みんなで作戦を立てて、教授の自白を誘おうと思ったの。追いつめはしたんだけど、でてきた獲物が大きすぎたわね」
「あれ。お芝居でなんですか。舞さんのも、シーツが立ったのも」
「目隠しをしていないと、他のみなさんの目が気になるから、ああしていたんですよ」
 舞さんにダマされるなんて、ショックです。
「わらわの歌も効果抜群じゃったであろう」
 ええ。金さんも歌はお上手ですね。
「霊が呼べて犯人を指摘できるなら、いつもそうしてるさ」
 蒼也さんの言う通りです。そういえば。
「蒼也さん。怪談レポートの川に消えた女の子とは、あの後、どこであったんですか」
「はははは」
 蒼也さんは、頭をかきながら、パートナーのペルディータさんを指さしました。
「えー。そうなんですか。運命の出会いですねえ」
 あたしが感心しているとディオちゃんが、袖を引っ張ってきました。
「ねえねえ。あまねちゃん。ボクがシーツのお化けをやったんだよ。でも、ボクがおどかしてたのは、彼だったんだあ。びっくりだね。彼だって、わかってたら、怖くて、できなかった気がするよ」
 シーツの幽霊を演じた、小さなうさぎさんのディオちゃんが両腕で肩を抱え、震える仕草をしました。
 ディオちゃんは、かわいらしいな。
「お見事でしたね。あなたたちのブロードウェイ並みのお芝居が決め手になって、教授は自白。事件は無事解決ではないですか」
 こっちへきたシャーロット・モリアーティさんが、そう言って拍手までしてみせました。
 隣では茅野菫さんが笑っています。
「推理研のみなさん。ほんと、幽霊退治ごくろうさま。ショタ探にも、今度、エクソシストのしかたを教えてあげて。この子もずいぶんとうらまれてるだろうから」
「あなたたちは、フライシャー教授の生霊を消しさったのです。
 私は講義前に、講義準備室をたずねた時に、血まみれで床にいる教授を見ていたので、講義をしている教授の幽霊が、ずっと怖くてしかたありませんでした。
 私としたことが、あまりにありえない状況に置かれたせいで、行動力も、判断力も失ってしまっていたようです。
 あなたがたが、生霊を退治してくれて感謝しています。それでは、また。失礼します」
 一礼すると、シャーロットさんと菫さんは連れ立って去っていきました。
 彼女たちは、どこまで、あの人とつながっているんでしょう。
 本心から、彼のサイドの人間なのかな。
「いろいろあったが、この事件は終わった。推理研のメンバーはよくやったと思う。推理ゲームは俺の負けということで、みんなで取り調べ室風のカツ丼を食べに行くか」
 さっきの騒動で暴れたらしく、髪の乱れているレストレイドさんが、陽気に提案しました。
「悪いな、マイト。ゴチになるぜ」
 セイさんがレストレイドさんの肩を叩きます。ですが。
「最後の交霊術でみんなに協力してもらったし、私がだすわ」
「春美先輩。うさぎもワリカンしますっ」
「私もバイト代が入りましたから、大丈夫ですよ」
「警部。みんな。代表として、今日は私がおごらせてもらうわ。反省もあるしね。私の実家で、アレのフルコースでも食べましょう」
 ブリジットさんが代表の貫禄をみせました。
 ア、アレは、アレですよね。
「待て。再現で食わされたアレか、待ってくれ」
 レストレイドさんが悲鳴をあげました。気持ちはよーくわかりますよ。
「いやねえ。再現のは、あくまであまね用よ。警部は男なんだから、踊り食いね。初夏のこの時期は活きがよくって、ぴちぴちよ。地球のより小さい一口サイズなの」

百 犯罪王と怪談とアウトローのいる教室。

Q.E.D.

担当マスターより

▼担当マスター

かわい家

▼マスターコメント

 こんには。かわい家です。 

 今回、PLのみなさんが提出してくださった怪談が84編ありました。
 掲示板を利用してのレポート作成ありがとうございました。お疲れ様でした。
 せっかくの機会なので、言いだしっぺの私が15編を加えて、全99編の怪談集となりました。
 リアクションの中で、PCの提出したレポートの数が増えていた方、以上のような理由です。ごめんなさい。
 百物語なのに99? と思われるかもしれませんが、文芸で、百話収録したした百物語を制作すると災難、凶事にあうとジンクスがあるので、それにならったわけです。
 厳密には、後記でも怪異は語られているし、でなくても、マスターページに書いた零話を含めれば、百になってしまいますが。
 集まった怪談の傾向は大きくわけて、「チャート使用の創作」・「ミステリパートのアクションと連動したもの」・「実話」の三種類です。
 どれがどれなのかは、リアクション中に明確には示していませんので、推測しながら読むのも楽しいかと思います。
 「実話」というのは、PLの方がそう書いて提出してくれたお話です。
 いろんな体験をされてる方がいるんですね。私自身は、たぶん霊感はまったくないです。
 友達に、ねえねえ、こんな不思議なことがあったんだよ、とこっそり教えてもらえたみたいで楽しかったです。

 ミステリパートですが、今回は、シナリオガイドの中で、フライシャー教授は謎の女? に誘われてはいるが同意してはおらず、「講義準備室に死者がいる」と書きましたが、リチャードだとは書きませんでした。
 ガイドに書かれたシーンの後、教授は女の誘いにのっていなくて、死者はリチャードではないかもしれない、可能性が浮かんできます。
 上記の可能性が現実にあったとして、でも講義は行われている、すると教壇に立つ教授の正体は? 
 以上のような理由で、リアクションはああいう展開になりました。
 もちろん、ガイドを書いた時点でそのつもりでしたので、それを指摘するPCがいれば、とりあえず、今回のシナリオで、彼? の身柄を確保できたかと思います。
 準備室にいた教授が死者ではなく生きていたのは、提出されたレポートの約半数(40弱)が捜査アクションとからめた内容だったので、PCたちのレポートが教壇の彼にプレッシャー与えて、講義中に自由に動けず、教授にとどめをささせなかった、と判定しました。
 捜査アクションとからめたレポートが全体の半数に届かなければ、彼の怪しい言動にPCたちは興味を持っていないという判定で、教授は講義中に絶命させられていました。
 
 証言、証拠集めなどの地道なアクションで容疑をかため、それを基盤にした(容疑者にとっては)イヤな言動で精神的に追いつめ、最後はミステリらしい大がかりな仕掛けで、自白させる。
 それぞれのPCのアクションがつながって、ミステリらしい展開になったと思います。
 みんなでミステリな雰囲気を楽しむというシナリオの目的は、果たせたと思います。
 彼を逃がしはしましたが、教授の生命を救えたので、彼とPCたちの勝負は、引き分けではないでしょうか。
 
 少年探偵初参加の方には、「は?」 という話だと思いますが、私のシナリオに参加してくださるPLのみなさんは、本当にいろいろな可能性、推理を考えてこられるので、今回は、おとなしめな推理、アクションが多かったのが意外でした。
 前回のシナリオがくせものすぎたのと、レポートで文字数をとられたのが、大きな原因かなと思います。
 今後も、私のシナリオの犯人は、PCたちの手の届く位置にいる予定ですので、ぜひ、ミステリらしさ満載!(←ここが重要です)の個性的な捜査&推理を展開し、捕まえてやってください。

 私としてはめずらしく、アクションの判定について書きました。
 ですが、結局、私のミステリシナリオは、少年探偵、名探偵、刑事、犯罪王、悪者、怪しげな美女、美形で聡明なお兄さん、賢くかわいい女の子たち、個性的なキャラクターらが存在する世界で、みんなでミステリな雰囲気を楽しもう! というものですので、PCになりきって、この世界を楽しめた者勝ち! だと思っています。
 現実の犯罪捜査をするのではなく、探偵と犯罪者が楽しくカッコよく活躍するミステリをみんなで創るんですもの。

 今回、たくさんの方に参加していただいて感謝しています。
 アクションにメッセージを添えてくださった方々、ありがとうございます。励みになります。
 PLのみなさんの熱意が私のエネルギー源です。今後ともよろしくお願いします。
 それでは、またお会いできる時を、少年探偵とともに楽しみにしております。失礼します。

 追記:7月1日、口調等、一部、修正いたしました。