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リアクション
第5章 審査
「時間ですぅー!」
家庭科室に、エリザベートの声が響き渡った。調理の時間はここまで、いよいよ試食タイムである。どの料理から味見をするかは、勿論エリザベートが決める。彼女は、まず無難そうな料理から手をつけた。
その結果、
・ナナ・ノルデン(なな・のるでん)、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)組のシチュー
・朝野 未沙(あさの・みさ)のなんかしょっぱいギャザリングヘクススープ
・カロル・ネイ(かろる・ねい)の焼うどん
・レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)、ミア・マハ(みあ・まは)組のおにぎりと肉じゃが
・エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)のきつねうどん
以上の品はエリザベートと審査員たちによって、可もなく不可もなくと判断された。
アーサー・レイス(あーさー・れいす)のカレーは、エリザベートには好評だったが、子供向けすぎて一般受けはしなかった。
緋桜 ケイ(ひおう・けい)、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)組のチャーハンとソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)組のインスタントラーメンは、チャーハンとラーメンでセットメニューになるというアイディアはよかったのだが、インスタントラーメンの使用が手抜きと見なされた。
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)組のババロアもまずまずの得点だったが、今一歩上位には食い込めなかった。
日下部 社(くさかべ・やしろ)のフランスパンは、エリザベートには硬すぎた。ちなみにこの男、料理を出す際にも暑いとか言ってボタンを外していた。
如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の赤だしはごく普通と評価されたが、ファタでだしをとっていることが判明したら、審査員によって大きく評価が変わっただろう。
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と鳥羽 寛太(とば・かんた)は、もう料理とかどうでもよくなって、エリザベートを観察していた。
そして、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の番がやって来たとき、事件は起こった。
「これからトウモロコシが旬の季節だし、私の料理はコーンポタージュよ。暑くて食欲がなくても飲めるよう、少し甘めに、冷たい状態でも美味しく作ってあるわ」
そう説明したところまではよかったのだが……
「あま〜い大人のキスで、甘いスープを飲ませてあげるわ!」
自分でポタージュを口に含んだかと思うと、水神 樹(みなかみ・いつき)の唇を奪いにかかった。
「えっ!?」
慌てる樹。しかし、パートナーのカジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)は食べるのに夢中で助けてくれない。
「ご、ごめんなさい! 私には大切な恋人がいますので!」
武術の得意な樹は、本能的に祥子を投げ飛ばした。
(く……仕方ない、妥協よ!)
祥子は、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)に目標を切り替えた。
「なんか今、失礼な目で見られた気がするぞ!」
(くらえ)
祥子は、ウィルネストにしびれ粉を放った。
「わ、おまえどんだけ必死なんだよ!? 返り討ちにしてくれるわ!」
ウィルネストはファイアストームで応戦する。祥子は、しびれ粉ごとこんがり焼かれた。
「うまかった。素材の味を生かしたシンプルなものは、特に好みだ」
せっかくのカジカの高評価も、祥子の耳には届いていなかった。
鬼崎 朔(きざき・さく)も妖精スイーツにしびれ粉を仕込んでいたが、
「あなたが料理したものではないじゃないですかぁ」
とエリザベートに一蹴されてしまった。
しかし、朔はもう一品用意していた。ティセラブレンドティーに龍涎香、自称小麦粉に種モミなどをごった煮したスープだ。
「どうですか?」
「変な味ですぅ……」
「なんかこう、変な気分になったりは?」
「なんのことですぅ?」
朔はエリザベートの反応にしびれを切らせ、彼女に飛びかかった。
「もう、私があなたを食べる!」
カキーン
野球のバットをもった百合園の白い撲殺天使は、どこにでもいる。そう、審査員の中にもだ。
「おいたは許しませんよぅ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の一振りによって、朔は場外へと消えた。
その次は、神代 明日香(かみしろ・あすか)の番だった。この二人の後とか、ずるい。必然的に好印象を与えるじゃないか。思えば、明日香はその料理風景もずるかった。
何がずるかったのか? ではリプレイをご覧いただこう。
いやらシーザーサラダを食べた明日香は、超感覚を発動させ、スカートの中から出した尻尾をふりふりしていた。なぜかスカートは持ち上げ気味である。
明日香が作るのは、牛すじ肉、玉ねぎ、人参、ジャガイモを使った牛すじカレーだ。
明日香は下ごしらえとして、エリザベートの小さな口でも食べやすいサイズに材料を切った。牛すじ肉は茹でてからざるに移して洗い流し、柔らかくするために煮込んだ。
その後材料を炒めてから水を加えて煮込み、カレールウを混ぜて更に煮込む。焦げ付かないようにたまにかき混ぜ、十分煮込んだらご飯にかけて完成だ。
火加減を見るときにかがみ込むと、明日香のスカートは見えそうで見えない絶妙な景色を生み出した。
お分かりいただけただろうか。変態共の欲望が渦巻く中、このかわいらしさである。うーん、ずるい。
さて、料理の評価に移ろう。
「おいしいですぅ」
明日香のカレーは、エリザベートに高評価だった。手をかけたかいがあったといものだ。
「とても丁寧に作られていますね。食べる者への心遣いが伝わってきます」
メイベルも感心する。
「作った子が可愛いからよし!」
ウィルネストの審査基準はおかしいが、おばカレーライスを食べているので許してやって欲しい。
カレーという外れのないチョイスもよかったのかもしれない。明日香の料理は、審査員たちから高い評価を受けた。
「エリザベートちゃん、うれしいですぅ」
「わ、アスカ、急に何するですかぁ」
明日香が、エリザベートに抱きついて、ほっぺをすりすりする。それを見て、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も二人に加わった。
「ボクもいっしょしたいのです。ハグとチューは、せかいきょうつうのコミュニケーションなのです」
美しい光景をお楽しみいただいたところで、今度はマッチョマン、ルイ・フリード(るい・ふりーど)の登場だ。
ウィルネストは「作ってるやつが暑苦しい!」と騒いでいたが、真心のこもった彼の手打ちざるうどんはなかなかの評価を獲得した。
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の本気っぷりは、前述の通りだ。彼の『夏野菜の冷製パスタ』は、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を
「うまい、うますぎる! こいつは高得点だぜ!!」
と唸らせた。他の審査員にも概ね好評だったが、エリザベートはちょっぴり野菜が嫌そうだった。
さて、エリザベートも、ここらで奴らを処理しておかねばならないと考えた。そう、チーム女体盛りだ。
まずはどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)。全身生クリームまみれの姫野 香苗(ひめの・かなえ)の上に刺身がのっけてあった。料理そっちのけで百合百合してた結果がこれだよ! 評価は言うまでもない。
次は橘 カオル(たちばな・かおる)だ。
「刺身を盛りつける器が逃げてしまって絶望していたのですが、活きのいいマグロが落ちていたので、活け作りにしてみました」
そうして彼が差し出したのは、スクール水着を着て、妙にモヒカンチックなマグロだった。これを食べられる人がいたら是非名乗り出て欲しい。次。
ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)の女体盛りが普通に見えてしまうから不思議である。
「はだかにおりょうりのせてるんですね。エリザベートちゃんにとってあげるです。えいっ」
「はうっ」
器となったキャロライン・オブ・ラーズグリーズ(きゃろらいん・おぶらーずぐりーず)は、ヴァーナーのフォークによって大切な何かを失った。
「おまえなにやってんの……? ああ、器と同じ格好になることで、味を引き立たせようという狙いね! 分かる分かる、俺ってグルメだから!」
光学モザイクだけをまとったファタに、ウィルネストはグーサインを出す。その他、女体盛りに対する反応は審査員によってまちまちだったが、櫻井 馨(さくらい・かおる)の興奮ぶりは特に目立っていた。
「全然興奮なんかしてませ……ふぉー!」
審査員なのにいやらシーザーサラダなんて食べるから、馨は外見年齢13歳以下の女の子に異常に反応する男になってしまっていたのだ。
「惜しむらくは、あなたが器だったら尚よかった! いや、むしろこっちのほうがよく見えるからいいのか……」
馨はファタの全身を舐めるように見る。かと思えば、
「エリザベート校長、あーんしてさしあげます。ほら、あーん」
「いらないですぅ」
刺身をせっせとエリザベートの口に運んでいた。
これにやきもちをやいたのは、おばカレーライスを食べていたパートナーの綾崎 リン(あやざき・りん)だ。
「マスターのばかぁ! 何してるんですか!」
「お、なんだ、リン? 嫉妬か?」
「ち、違います! 見てられなくなっただけです。ほ、ほら、私があーんしてあげますから」
リンはひったくるようにして刺身を掴む。
「ひいっ」
キャロラインの大切な何かを、リンの箸が更に奪った。
「べ、別にやりたくてやるわけじゃないですからね! 他の女の子に迷惑をかけないようにするためです」
「なんと分かりやすいツンデレ! 至福のときじゃー!」
今回の調理実習は、馨に思わぬ幸福をもたらした。
個性的な料理はまだまだ続く。
「……これはお菓子ではない。素材の味を生かすとかいうレベルではないし……というか、生だし……それ、人形だし……」
立川 るる(たちかわ・るる)の蜂蜜野菜及び蜂蜜モロコシくん人形に、カジカは何を言えばいいのか分からなかった。
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の痛胆火阿麺は、辛すぎたようだ。ウィルネストは、
「何コレ、いんじゃね!?」
とやたら受けていたが、美羽には「辛すぎる」と逆切れされて、かかと落としをくらってしまった。
続いて出てきたのは、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)組の闇鍋だ。レティシアは審査員たちに、「目隠しをして試食すること。箸でつかんだモノは必ず食べること」というルールを遵守させた。
結果、靴下やらパンツやらを食べさせられた審査員たちは当然ながら憤慨したが、
「あえて食べられないものを入れることでアクセントにしようという試み、実にいいね!」
やはりウィルネストだけは一般人とはひと味違うセンスをもっていたようだ。
この後も、彼は正気とは思えない評価を連発することになる。「味覚崩壊」の汚名を返上しようと審査員を希望した彼だったが、それは逆効果に終わった。
赤羽 美央(あかばね・みお)の特製うに丼は、審査員たちにとってこの日最大の試練であった。もはや兵器と言っても過言ではないそれに、ヴァーナーはにこにこ笑顔で果敢に立ち向かった。
「こ、これはこせいてきですね……うっ」
ヴァーナーは幻槍モノケロスで自らを回復させながら、何度もうに丼を口に運ばせる。しかし、ほどなくして瀕死状態に陥った。あまりの見た目に、手をつけることさえできない審査員も少なくない。
「俺が全部食べきってみせよう」
そのとき、相田 なぶら(あいだ・なぶら)が立ち上がった。
「出された料理を残すなんて、食材にも作ってくれた人にも失礼だ。どんなに悲惨な料理だって、気合と根性で胃に押し込めるはずだ」
なぶら、漢である。審査員の鏡である。尤も、この発言を聞いて美央がうれしいかは別問題だが。
「さあ、いくぞ」
なぶらは、思い切ってうに丼をかきこんだ。
「こいつは強ぇ……」
敵の戦闘力は、なぶらの予想を遥かに上回っていた。覚悟を決めたなぶらだが、全身に震えが走り、脂汗がにじみ出てくる。
「フィアナ、例のものを」
本当の戦いはこれからだ。なぶらは、いざというときのために用意していた秘密兵器を、パートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)に要求した。
「はい、胃薬です。なぶらの考えはとても立派なものです。水や胃薬は私が運びますから、心置きなく食べて下さい」
自分で言ったことは、最後まで自分ひとりで成し遂げて欲しい。フィアナは涙をのんで、なぶらが食べるのを手伝わなかった。これこそがパートナーのあるべき姿なのかもしれない。決して、殺人的な料理を食べたくないからとか、そういうことをフィアナが考えたわけではない。
「お、俺はやったぞ……」
激闘の末、気合いと根性と胃薬の力で、なぶらは全員分のうに丼を完食した。
「あの味に、あの量……手強い相手だった……。フィアナ、俺はよく食ったと……みんなに伝えて……く……れ……がくり」
「なぶらー!」
フィアナの叫びが、家庭科室に木霊した。
今がチャンス! そう思ったフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は、どさくさに紛れて『おばカツカレーライス』をエリザベートの前に出した。しかし、メイベルは悪巧みをする生徒い常に警戒していた。おばカツカレーライスに違和感を抱く。
「カツがのってますけど……なんか、エリザベートさんの作ったカレーに似てますねぇ。まさか、あれを食べさせる気じゃ……」
「なに何故なんで〜? どうしてそうなるの〜? お馬鹿になってるから分かんな〜い」
「怪しいですねぇ」
必死にごまかそうとするフレデリカと、食い下がるメイベル。二人のやりとりを見て、エリザベートがメイベルに言った。
「そんなの、考える必要ないですぅ。私の料理を私に食べさせようとするとぉ、その人の鼻の頭には、血管が浮き出るですぅ」
「え、ホントですかぁ?」
「うそですぅ。でも、マヌケは見つかったようですぅ」
「……あっ」
フレデリカ、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)、リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)、咲夜 由宇(さくや・ゆう)の5人は、鼻の頭に手を当てていた。
カキンッ!
カキンッ!
カキンッ!
カキンッ!
カキンッ!
メイベルの5打席連続ホームランで、5人は綺麗な放物線を描いた。
さてさて、ここからはスイーツタイムである。先鋒は鹿島 斎(かしま・いつき)、
カグヤ・フツノ(かぐや・ふつの)組。二人の料理はオムライスだが、ご存じの通り、ほとんどデザートだ。
「面白い料理なのですが……私にはちょっと甘過ぎるみたいです」
このとんでもオムライスにも、樹はきちんと感想を言う。律儀な人間だ。
アイディア重視の樹のハートを掴んだのは、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だった。彼の料理は、『ナタデココ入りブロッコリーの煮物カレー風味油揚げ付き(隠し味に蜂蜜)』である。
「レシピ通りにやっていては思いつかない料理です! ナタデココの食感も不思議とマッチしています」
味も、甘いものと和風のものが好みの樹に合っていたようだ。予想外の高評価をもらって、「他人から分けてもらった材料を寄せ集めて作りました」とは言えない遙遠だった。
久世 沙幸(くぜ・さゆき)、藍玉 美海(あいだま・みうみ)組のスイーツラーメンは、麺単体、スイーツ単体だとおいしいのだが……麺とスイーツ、そして何より味噌チョコレートスープが一緒になると、残念だった。
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)、ヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)組と芦原 郁乃(あはら・いくの)、秋月 桃花(あきづき・とうか)組は、おっぱいプリンで勝負してきた。
サレン組がさくらんぼで乳首を表現したのに対して、郁乃が作った乳首グミは固まっておらず、グロテスクなことになっていた。
しかし、プリン自体の味は桃花のおかげで郁乃組が上だった。また、プリンが桃花のおっぱい原寸大であることや、ブラジャーをかぶせて提出するという粋な計らいもあり、おっぱいプリン対決には郁乃組に軍配が上がった。
泉 椿(いずみ・つばき)、ミナ・エロマ(みな・えろま)組は、ミナが『イルミンミルクケーキ』を作った。
バタークリームをたっぷり使い、イルミンスールの森らしさを出すため、木の葉を象った砂糖菓子とナッツ類、ドライフルーツで美しく飾ってある。味も甘くしすぎず、素朴な感じを大切にした。
「とってもかわいいです! ん〜、それに、とってもすっきりした甘さです♪ 」
これには、ヴァーナーが大喜びだった。美央のうに丼で瀕死状態になっていたが、復活する。
「なかなかやるですぅ」
エリザベートも満面の笑みを浮かべ、
「うまい、うますぎる! こいつは高得点だぜ!!」
美羽からは本日二度目の決めぜりふが飛び出した。ほかの審査員も、文句のつけようがなかった。
「さて、もう残ってる料理はないですかぁ?」
エリザベートが審査を終えようとしたとき、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が家庭科室に飛び込んできた。
「間に合った! すぐに料理するから待ってて!」
泡は肩にかついだ獣をどかっと地面に置くと、氷術で作った氷の刃を手にまとわせ、獣の肉を捌いていく。そして、調味料で味付けした生肉を更に並べ、審査員たちに、「お待ちどー。はい、召し上がれ!」
と差し出した。
「どうして食べないの? あ、もしかして食べ方わからない? こうやって食べの!」
呆気にとられる審査員たちに、泡は生肉を摘み上げて火術で一気に焼き上げ、かぶり付いてみせる。
「やっぱり料理は焼き立てが一番美味しいわよね!」
なんとも豪快な料理で、試食は幕を閉じた。
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