シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション公開中!

五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・翠玉の行方


『そちらはどうですか、由宇さん』
 PASD本隊に先んじて施設内に入っていたのは、ルイ・フリード(るい・ふりーど)達であった。
 ワーズワースの遺産を追うのはPASDだけではない。もしかしたら、敵の方が先手を打ってこの施設を押さえに来ているかもしれないのだ。それならば、エメラルドも一緒に連れてきている可能性は高い。
『見つからないですぅ……』
 ルイは前もって借りておいた無線機を使い、咲夜 由宇(さくや・ゆう)と連絡を取り合う。
 施設に着くまでは共に行動していたが、ここに入ってからは二手に分かれたのである。現在は、ルイ達が第一ブロック、由宇達が第三ブロックであった。
 周囲に気を配りながら進んでいたため、施設内での現在地が把握出来たのである。銃型HCでそれらのデータを参照し、マッピングを行う。
「どうやら……まだ来てはいないようですね」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が一つ一つ小部屋を確認するが、エメラルドの姿はない。
 敵襲に備え、彼女は光学迷彩、ブラックコート、ベルフラマントを併用し、最大限の隠れ身効果を発揮している。
 さらに空飛ぶ箒に乗り、足音すら立てないようにしている。その後ろから、彼女のパートナーのリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)がブラックコートで気配を消しながら付き従う。
 第一ブロックは、第二、第三に比べると単純な二層構造であった。第二層はまだ分からないが、第一層の方は資料室だ。
 その中には、この施設で何が行われているのかについて記されているものがあった。

旧・生物研究所の今後の使用について

 それによれば、それまで魔獣やドラゴンのような生物の生態を研究する大規模な研究所があったらしいが、それは中央で一括で行われるようになったため、閉鎖する事になったという。
 一度合成魔獣の研究のために使用された後、計画凍結のために施設は一部を除いて解体された。その後、ワーズワースは「アーク」をここに移動させ、アスピドケロンと共に封印したとある。
「『アーク』とは何でしょうか? 名前からすると――」
 その時、無線に連絡が入った。

            * * *

 一方、第三ブロックの第一層を進んでいた由宇達はルイからの無線に答えると、探索を再開した。
(これまでの遺跡とは随分造りが違うのう)
 アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)が周囲を窺う振りをしながら、施設そのものを分析しようとしていた。
 これまでの遺跡と明らかに違うのは、通路の広さだ。銃型HCによるここまでのマッピングデータと、PASDにある他のワーズワースの関連施設の地図を比べると、一目瞭然であった。加えて、用途の分からない機械類が多く見受けられた。イルミンスールの遺跡にはほとんどなかったものである。
 そして、かつての『研究所』と同じで、五千年前の原型を完全に留めている。
 イルミンスールの遺跡は森に侵食され、面影を失っていた。ヒラニプラ側は、セキュリティと電力は生きていたものの、製造所としての機能は停止しており、地上部は跡形もなくなっていたという。
 内海の下にある事から、外側から全貌を確認出来ない。ただ、この施設が五千年の間外界からの影響を一切受けて来なかったのは確実だろう。
「こっちの方から物音が聞こえるです」
 由宇が超感覚を用い、遠くで何かが動く音を聞き取る。また、トレジャーセンスにもかかっていることから、有益なものがある可能性も高い。
「エメラルドか、それとも敵か……」
 アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)が警戒を強める。由宇達の話から、敵がかなりの強さである事も覚悟せねばならない。
 機甲化兵の姿は、ここに来るまでの間に破壊されているものが一体あったため、把握している。本隊より先行しているにも関わらず、それよりも先に何者かが侵入しているらしい。
 それも相まって、エメラルドがいるという思いは強まっているのだが。
 待ち受けているものの正体はすぐに分かった。
(一体とはいえ、この前みたいな事もあるからな)
 ブラックコートを纏い、由宇達に気付かれないように尾行していたリア・リム(りあ・りむ)が狙撃体勢に入る。
「まだ向こうは気付いてない。だけど、通るには倒すしかなさそうだねぇ」
 アレンが紅の魔眼で魔力を高め、雷術を放つ。ほとんど同じタイミングで、アルマンデルも。
 それが当たると、今度はリアが機晶姫用レールガンを撃つ。スナイプによって、敵の発射口へと狙いを定めていた。
 敵は銃撃型だったのである。
「無事か、みんな!」
 機甲化兵が倒れると、彼女は由宇達の方へ向かう。その際も、機甲化兵の動きから目を逸らさないように。
 敵は不意打ちを、しかも弱点である電撃で食らったがために、索敵センサーに異常をきたしたようだった。無差別に銃弾を放出してくる。
 それらは雷術によって容易く打ち落とされた。
 由宇が驚きの歌を歌い、スキル使用におけるSPの回復を図る。そして回復したところで、雷電の使える三者によって、機甲化兵は完全な機能停止へと追い込まれた。
「ふう、助かったですぅ」
 進行方向からは、それ以上何者かの気配は感じられない。最初の危機は無事に乗り切ったのである。
 彼女達はそのまま先へ進んでいった。突き当たりの部屋に入ると、そこには下層への階段が見つかる。
 その時、由宇が超感覚で音を聞いた。
 階段のすぐ下からである。それまで感じられなかったのに、ここに来て突然の事であった。
 いきなり誰かが現れ、歩き始めたとしか考えられない。テレポートでもしてきたのだろうか。
 彼女達は慎重に階段を下っていった。そして、それが何であるかを確認するや否や、ルイに無線を飛ばした。

           
「リヴァルト達かと思ったけど、どうやらPASDの先行した人達みたいだねぇ」
 由宇達が下りていく姿を、遠目から瑠樹が捉えた。
「さっきのを倒したのは、あの人達でしょうか?」
 最初に見た機甲化兵を倒したのは彼女達ではない。ただ、そう考えるのも無理はない状況だった。
 現在の状況を無線で確認する。
 本隊は第二ブロックに多くの人が集まっているようだった。場所によっては、既に戦いも始まっている。
 前を行く者達にそれが伝わっているかは分からない。そのため、彼らは後を追う事にする。