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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


断章二


・3days ――琥珀色1――


 三日前、ヒラニプラの遺跡調査直後。
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)はガーネットとサファイアの二人に挨拶をし、自分がする事を伝える。
「僕はとりあえず、アンバーさんを探してこようと思います。傀儡師達がいる以上、彼女が放浪したままなのは危険ですから」
 彼らはアンバー・ドライを探すつもりのようだ。
「まあ、アイツならあの野郎にやられる心配はないと思うぜ。なあ、サフィー」
 と、傍らにいるサファイアを見遣るガーネット。
「ん、呼んだ?」
 そこへサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が口を挟み、サファイアと目を合わせる。
「なんてね。あたしはサフィよ。棒線ないのがポイントね。よろしく、サフィーちゃん」
「はは、聞いただけじゃ間違えそうだな」
「ちょっとガーナ、そんな笑うことじゃないでしょ……うん、まあよろしく」
 そっけない感じでサフィに応じるサファイア。
「それで、あたし達は今からアンバーちゃんを探しに行くんだけど、ちゃんと二人が無事だって事を伝えたいの。携帯は繋がるか分からないから、メッセージを録らせてくれない?」
 アンバーもこの二人のように、他の五機精の身を案じている事だろう。会おうというのなら、そのメッセージを伝えるのがいいように思えた。
「なーに、お安い御用だぜ」
 まずはガーネットが率先して声を発した。
『アン、あたいが分かるか? ガーネットだ。お前が目覚めてるように、あたいもとっくに目覚めてるぜ。っつーわけで今目の前にいんのが迎えだから、さっさと来い』
 ガーネットらしい物言いだ。
「じゃ、次、サフィーちゃん」
 続いてサファイアが声を出そうとする。
「今の騒がしいのが言ってくれたけど……』
「あ、サフィーちゃん、もっと緊張しててもいいのよ?」
 その方がらしいから、と言外に含ませるサフィ。口をきゅっと締め、ジト目になるサファイア。
「おー、かわいいかわいい」
 ガーネットが囃し立てる。
「うっさい!」
 サファイアはほんとに恥ずかしそうだった。言われた事で意識し、ほんとに緊張してしまったのだろう。
『アン、あたしよ、サファイア。まあ、ほっつき歩いてる暇あったら、さっさと来なさい。何であたしがガーナなんかといるのか、説明してあげるから』
『ガーナなんか、とは失礼だな』
『ちょっと、あたしが喋ってんだから入って来ないで!』
 そんなやり取りをかわす二人。
 サファイアは自分の破壊の力の負い目を感じ、他の五機精と距離をとってたらしいが、こうしてみると決して仲は悪くないようだ。
 もっともそれは、彼女が「吹っ切れた」からなのかもしれないが。
「うん、ちゃんと録れてる。ありがと、二人とも」
 サフィが確認し、それを音楽プレーヤーにコピーする。
「では、行ってきます」
 
            * * *

 二日前。
 アンバー・ドライがいるのはジャタの森の中である。どうやら、ツァンダから歩いているうちに、迷い込んでしまったらしい。
 適当な岩場に腰かけ、一息ついている。
「丸々一日がかりだったけど、ようやく見つけたわ」
 そんなアンバーに対して視線を送る者がいた。一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)である。
「写真とそっくりー。間違いないね」
 パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)も、アンバーの顔を凝視する。
 黄色ともオレンジとも取れる――さながら琥珀色の、おかっぱのような髪をした少女。杖を持ち、ローブのようなものを羽織ってる姿は、魔法使いさながらだ。
 ガーネット曰く、自称大賢者なだけあって、そのような格好をしているのだろうか。
「じゃ、早速――」
 と、アンバーの前に出ようとするが、彼女達より早く声を掛ける者がいた。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)である。
「って先越されたわ……アンバーの事、知ってるのかしら?」
 共にヒラニプラで行動したとはいえ、その時は仮面を被っていたので、今目の前にいるのが同一人物だという確証がない。
「探したぜ」
「なんじゃ、お主は?」
 きょとんと琥珀色の瞳でトライブを見上げるアンバー。
「ペットの散歩から世界制服まで、あなたの町の便利屋さん、トライブ・ロックスター。会いたかったぜ、アンバー・ドライ」
 自己紹介をし、笑いかける。
「よくわらわの名を知っておるのう」
「あんたの友達から聞いたんだ」
 嘘である。実際は、PASDのデータベースにあった四月度の調査報告からだった。その大元となる遺跡で彼はアンバーの手掛かりを見つけていたため、すぐに結びつけて考えていたのだ。
「まあ、立ち話もなんだから、町まで出て食事でも……」
「とうとう見つけたわ!」
 そこへ月実とリズリットの二人が現れる。空気を読んでいる場合ではなかったようだ。
(……ついて来てたのか!)
 厳密には違うが、傀儡師達と別れたタイミングは同じだったため、とライブがそう思うのも無理はないだろう。
「っと、確認するけど、アンバーさんで間違いないわよね。ガーネットさんがアンアン言ってたアンバーさんよね?」
 月実がアンバーに尋ねる。
「アンアン言うなー! それじゃ卑猥みたいじゃないかー!」
 バシっと、月実の頭を叩くリズリット。
「ああ、ごめんなさい、アンアンさん。月実が失礼で」
「アンバーじゃ。それと、アンは一回でよいわ」
 冷静に切り返すアンバー。
「まあ、それはいいとして、ガーナはどこにおる?」
 ガーネットの所在を聞いてくる。
「空京だ。今、五機精を全員集めるために、いろいろとやってるぜ。この前だって、サファイア・フュンフも見つかったしな。今ガーネットと一緒にいるはずだ」
 答えたのはトライブだ。
「サフィーもか。ってことはエムも一緒かの? あやつがエム抜きでガーナといるなんて想像出来んのじゃが……会えば分かるか」
 首を傾げる。サファイアの性格を知ってる彼女にとっては、疑問があるようだった。
「ところで、アンバー。どうしてこんなとこにいるんだ?」
「なに、ちょっと馴染みの顔ぶれを探していたらこんなところまで来てしまっただけじゃ。ちょっと眠ってる間に、随分とシャンバラも様変わりしたのう」
 どうやら五千年が経過している事をまだ彼女は知らないらしい。
「そりゃそうだ。なにせ、あんたが眠りについてから五千年も経ってるんだからな」
「五千年!? ほー、そりゃたまげたわ。とにかく、わらわは早く他の四人に会いたいのじゃ」
「だったら話は早い」
 トライブが提案する。
「俺を雇いな、アンバー。お代はデート一回。これで俺は無期限無条件であんたの味方だ」
 便利屋として、アンバーに協力しようというのだ。
「ちょっと、何話を進めてるのよ」
 そこへ月実が横槍を入れる。
「そういうことだったら、私達も手伝うわよ。ガーネットさんとは面識があるから、早く引き合わせられると思うわ」 
 リズリットがその言葉に続く。
「色々あったんだけど、アンアンさんの協力をしたいの。別に見返りとかはいらないわ」
 両者とも、アンバーに協力したいという気持ちは一緒のようだった。
「……まさかこうなるとはな」
 僅かに顔を歪めるトライブ。アンバーと二人で行動出来ると思っていたが、こうなると無理に自分だけでいい、などとは言えない。
「なんじゃ、別にデートくらいは構わんぞ。それに、せっかくじゃ、皆で仲良くしようではないか」
 アンバーが微笑みながら三人を見る。
「アンバーが、そう言うんなら、分かったぜ」
 そんなわけで、四人で他の五機精に会いに行く運びとなった。
「じゃあ、話もまとまったということで、ご飯にでもしましょ」
 月実がおでん缶を取り出し、食べ始める。
「アンバーさんも食べる? もぐもぐ……」
「月実、おでんだけじゃダメだって! ご飯つけなさいよ、ごはん!」
 そこである疑問がリズリットの脳裏をよぎる。
「あれ、機晶姫ってそもそもご飯食べるっけ?」
 そんなことか、といった感じでアンバーが笑いながら応じる。
「わらわ達は、純粋な機械である機晶姫とはちと違うからのう。この身体は、生身の人間をベースにしておる。じゃから味覚もあるし、それでエネルギーを補充する事だった出来る。ガーナなんて大食らいじゃからな」
 必ずしも必要ではないが、割と好んで食事はするとの事であった。
 四人は軽く談笑し、森を抜けるために移動を始めた。