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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市

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第6章 会えない者に会いたい願望

「どっから悪霊が襲ってくるか分からんから気をつけないと・・・」
 不思議なこの都市の真相を調べようと七枷 陣(ななかせ・じん)は調査にやってきた。
 同じく佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)もその目的だったが、ある願いを叶えるためにやってきたのだ。
「ここに来たら、もう一度・・・あのゴースト兵たちと会えると思ったんだ。食べてくれるといんだけど・・・」
 弥十郎はぽつりとそれだけ言い、料理を作れそうな場所を探しに行く。
「この家は誰も住んでいないのかな?」
 都市が破壊される数時間前、鍵が開いたままの空き家を見つけ、室内に入ると弥十郎は料理に使う材料を持ってキッチンへ行く。
「大丈夫そうかな?」
「うんなんとかね」
 仁科 響(にしな・ひびき)はだしとおろし金でおろした蓮根、そして葛粉を鍋に入れて混ぜ、火加減を中火にして木べらでかき混ぜる。
「(ちょっと薄口醤油が足りないかな)」
 響が流し台でナスを洗って目を離している隙に、スプーンで味見して響が作った風味が消えないように味を整える。
「焦げないように気をつけてね。ナスの揚げ浸しは、生姜やみりん、砂糖と醤油もいるんだよ」
 弥十郎は響に焦がさないよう混ぜるように言い、ナスの揚げ浸しの作り方も教える。
「ナスはもう火が通ったかな。熱っ!ふぅーっ、ぁあ熱かった」
 コンロの火を止めて、はねた油で火傷した手を水で冷やす。
「上手く包めないな・・・」
 丸く茶巾のように包むために、練った蓮根をサランラップへ大よその人数分にわけて輪ゴムでとじる。
「孤島の施設ではGやウニョウニョ動く生き物しか食べさせらね。腹いっぱい食べさせたくて来ちゃったよ」
 施設の中は環境が悪く、暗くて湿っぽかったが自分たちを信じてくれて、一生懸命に作った手料理を美味しいと言ってくれた彼らに会いたいと願いを込めながら作る。
「蓮根饅頭を冷やすための、氷水がいるんだよね」
「じゃあボクの術で氷を作るよ」
 響が氷術で作り出した氷をボウルに入れ、水を加えて蓮根饅頭を冷やす。
「簡単そうに見えて、丁寧に取るのって難しいね・・・。たしか切り方は飾り用サイズだったかな?」
 塩でおくらのうぶげを取り除き、鍋で茹でて冷ました後、輪切りにする。
「もう熱くないね」
 弥十郎が冷めたかどうか指で触れてみる。
「えっとこうやって器に盛りつけて、飾りにするんだよね?あっ、その前に掛けだれも作らなきゃ」
 鍋にだし汁を入れて薄口醤油とみりんを加えて煮立たせ、冷めただしにおろし金で生姜を下ろし、汁だけをしぼり入れる。
 器へキレイに盛りつけて掛けだれをかける。
「ナスの揚げ浸しも上手く出来てるよ。次はポタージュ作りだね」
「水はこれくらいかな。あととうもろこしをほぐして・・・お塩をぱらぱらっと」
 トウモロコシの精進ポタージュを作ろうと、鍋に水とほぐしたとうもろこし、塩を入れて沸騰させる。
「そろそろ中火にしとかなきゃ」
 火加減を調節して3分ほど茹でてあら熱を取った後、煮たお湯と一緒にミキサーに入れてスイッチを入れる。
 ギュィインッ。
「ちょうどいい状態になったね」
「手伝うよ」
 ミキサーを止めてペースト状になったそれを、弥十郎にも手伝ってもらい裏ごししする。
 豆乳を加え、器に注いでパセリを散らす。
「やっと完成したよ・・・」
 桃を切って皿に盛り、響は作った精進料理をテーブルに並べる。
「(もう1度、ゴースト兵たちに会いたい・・・)」
 目を閉じてテーブルの前で祈ると、弥十郎に肩をつつかれる。
「凄いね、本当に現れたよ」
「ごめんね。あの時に作ってたのは佐々木だから・・・。いつか皆に手作りの料理を食べさせてあげたかったんだ」
 響は現れたゴースト兵に手料理を振る舞う。
 彼らが美味しそうに食べている姿を、彼は嬉しそうにみる。
「これで貸し借りなし。次は、僕がネクロマンサーになって呼び出してあげるから・・・期待せずに待っててね」
「いや・・・2度死んだのと同然の身だ。もう呼び出さなくていい」
「え、呼び出さなくていい?そんなぁ」
 その言葉に響は寂しそうにがっかりとする。
「次に会えるのが何時になるかわかんないけど、次に会う時はもっと腕を磨いておくよ」
 弥十郎は消えていくゴースト兵に向かって手を振る。
「お前たちは後悔しないように生きろよ。じゃあな」
「力の限り生きてみせるよ。でも、いつかナラカで会ったらまたよろしくね♪」
 ゴースト兵たちが消えていくまで、弥十郎と響は手を振って見送った。



「もう深夜か・・・これだけ探しても現れないなんて・・・」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は噴水の近くのベンチに座り、悲しそうにはぁと息をつく。
「まだ時間はある。根気よく願って探せば、きっと現れてくれるはずだ」
 彼の傍に座りクレタ・ノール(くれた・のーる)が元気づける。
「(そいえばフードショップで美味しそうな食べ物が沢山あったな。ヴィナが怪しんでるようだから食べないが。年齢は俺の方が上だが、ヴィナって精神年齢がふ・・・俺より大人だし、確実だろう)」
 落ち込むヴィナを見ながら、クレタは思考を脱線させる。
「俺の願いはただ1つ、会えなくなった友達に会いたい・・・。今、どうしてるか分からないけど、俺には大切な友達でね」
「会って何と言うんだ?」
「ただ一言、お礼が言いたいんだよね。ありがとうって」
 はぁとため息をつき、ヴィナはクレタから噴水の方へ視線を移すと、会いたい友達と同じ背丈の人影が見えた。
 まさかとベンチから立ち上がり、その人影の後を追っていく。
「待って・・・待ってよ!」
「なぜ逃げるんだ?」
「クレタさん彼女を捕まえてっ」
「あぁ、あれが探している友達か。おい、待て。何で逃げるんだ?」
 逃げていく人影に気づかれないよう、クレタは隠れ身で接近して捕まえる。
「ヴィナの願いで現れたんじゃないのか?」
「クレタさん離してやって。たぶんもう逃げないと思うからね」
「そうか、じゃあ離すぞ」
 ヴィナに言われクレタは、相手の腕を掴んでいる手を離してやる。
 その人影は女の姿をしていて、それは会いたがっているヴィナの友達だ
「お礼が言いたくてここへきたんだよ。ありがとう」
 女は黙ってその言葉を受け取り、聞き取れないような小さな声音で“ごめんなさい”と謝っているように聞こえた。
「最初から許してるから。自分のこと、許してあげてね」
 それが願いによる幻であっても、直接彼女に伝えたかったのだ。
「帰ろうクレタさん。早くでないとずっと友達の傍にいたくなってしまうかもしれないから」
「もういいのか?」
「これで満足だよ。もっと一緒にいて、いろいろ話しもしたいけどね」
「そうか、分かった」
「(早く帰らないと、ずっといたい気持ちが抑えられなくなってしまうからね)」
 たとえ相手が幻でも、友達の彼女の傍にいたいと思い、帰りたくなくなってしまうからと都市の外へ出る。



「あれ?・・・ふう、まさか表に出られるとはね?お久し振りね、2人共」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は2人のパートナーの願いにより、前世の姿になってしまった。
「まさか、お姉ちゃん?会いたかったです」
 彼の前世である翠蘭になって欲しいと願った柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)が驚いた顔をし、嬉しさのあまり涙をぼろぼろと流す。
 翠蘭と出合った頃は、美鈴の年齢は今よりも低く幼かった。
「まさか、翠蘭か?会いたかったぜ」
 長い髪がセミロングくらいの長さになり、緑色の瞳で見る翡翠をレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が目を丸くして見返す。
 女のように体つきが丸くなり、恋人の姿になった彼をレイスが抱きしめて口づけを交わす。
「何で、あの時・・・俺なんか庇ったんだよ?そのせいで、お前と別れるはめになっただろ・・・俺は・・・・・・。ずっと側にいたかったんだ・・・なのに・・・」
 翠蘭の身体から手を離し、じっと見据える。
「あの時は、しょうがなかったのよ」
 やっぱり説明しないといけないと思い、翠蘭はふぅと息をつき顔を俯かせる。
「たしか美鈴さんよね」
 傍で話したそうに見つめる美鈴の視線に気づき、彼女の方へ顔を向ける。
「そうです。助ける事出来なかったし、あの時は・・・。何も出来なくて、凄く辛くて・・・とても・・・とても悲しかったです」
 封印中だったため幽霊みたいな存在だった彼女には、助けることが出来なかった。
「助けたいという美鈴さんのその優しさだけで十分よ、ありがとう。でも悲しまないで、転生した姿は違うけど今はこうして、一緒にいられる時間が沢山あるじゃないの」
「あなたを傷つけたく無くて、勝手に体がね。その代わり死んだけど・・・」
 レイスの方へ向き直り、翠蘭は彼との会話を続ける。
「それでも無理しすぎだろ。それに性別変わっていたから、探すの苦労したしな」
「―・・・それは護られるのは、嫌だったから。一緒に歩けるようにと、今の男に転生したのよ」
 せめて自分の身くらい守れるようにと、転生する際に女であることを選ばなかったのだ。
「それと逆に私が護って、命を落として悲しませることがないように・・・ね」
「そうか・・・」
「頑張って、ただ私の意識の影響で、護ることに一生懸命だけどね」
 レイスと美鈴の頬に軽くキスをする。
「あれ、やば・・・」
 翠蘭は翡翠へと元の姿に戻り、レイスの方へ倒れ込み気絶してしまう。
「翡翠?顔色悪いぞ、少し休め」
 レイスは彼の身体を受け止めて支えてやる。
「まさか、あの十字の傷。転生しても残るって、珍しいと思ったら、目印だったんですね?出会うための・・・もう一度、会えて良かったです」
 そう思うと美鈴は嬉しくなり、もう一度会えてよかったと微笑んだ。



「生きる気力なんてもう・・・」
 神無月 勇(かんなづき・いさみ)はフラフラと生気のない目で都市の中を歩く。
「悪霊・・・がいるということは、きっと彼女もここにいるに違いないよ。ほら・・・」
 ショーウィンドウの前で足を止めると、死んだ彼女の霊がそこにいる。
「ここに居たんだね・・・ずっと会いたかった」
 本来は集められた悪霊か、ここでなくなった者の霊しか存在しないが、彼の願いがここへ呼び寄せたのだ。
 霊は長い黒髪を後ろでに束ねている。
「夢を1日で終わらせたくない。ずっと夢の中に居たい・・・」
 彼女の傍に寄り添うように、ぺたんと石畳の上に座り、薔薇学の薔薇園で使用されている農薬を飲む。
「君も苦しかったんだよね・・・」
 勇に対して霊は何も言葉を返さないまま目を閉じた。
「うぁ・・・・・・ぐあっ・・・ぁあーっ!」
 彼女が自殺した時と同じくらい苦しみ、口から血を吐く。
 ベチャベチャッと石畳へ飛び散り、真っ赤に染まる。
「死ぬ・・・時に・・・・・・こん・・・なにも・・・つらい思いをしたん・・・だねっ」
 ガリガリと地面を爪で掻きむしるようにもがき苦しみ、ずっと掻き続けている爪がベリベリッと剥がれ、指先から焼るような痛みが走る。
「ぁあっ、あがぁあっ!(死ぬってこんなにつらいんだね・・・苦しい、苦しいよ・・・)」
 その苦しみは農薬を飲んで死ぬ者にしか分からない想像絶する苦しみ。
 喉を掻き毟りたくなるようなほど暴れながら叫ぶ。
 やがて意識が遠くなり、目はどこを見ているかまったく分からない状態だ。
「(寒い・・・寒くて苦しいっ・・・・・・。死ぬってこういうことなんだね・・・。死んだ彼女だけが傍にいて、他の誰もいない・・・誰も・・・)」
 数分間苦しみ続けた彼の身体は冷たくなり、もう動かなくなってしまった。



「会えなくなったやつと会えるのか。死んだやつと会ったやつもいたな・・・。てことは・・・俺も目の前で死んだあいつと、もう一度会えるってことかな?」
 ふらふらと蜃気楼都市を歩き回っている閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、会えなくなった友や死人と会えた生徒たちを見て、自分も会いたいと願う。
「少しの間でもいいから会いたいな・・・魅音」
 死んでしまった幼馴染に会いたいと、その姿を思い描いた。
「ぼーっとしてると寝坊するわよ、・・・なんてね!」
 見知った顔の少女が静麻の顔をじーっと見る。
「魅音なのか?」
「そうよ。もしかして幼馴染の顔を忘れたの?」
 眉を吊り上げて魅音はムッとした表情をする。
「あっ、いや・・・。そんなはずないじゃないか」
 願いが叶い当然現れた静麻を目の前に、静麻はたじろいでしまう。
「そうだどこか出かけないか?」
「ねぇそれってどんな誘い?」
 出かけようと言う彼に、ニッと笑って問いかける。
「まぁなんだ。つまりその・・・で・・・で・・・・・・」
「で・・・?―・・・行こう!」
 なかなか言い出せない静麻の手を握り、魅音は長い黒髪をふりふりと揺らしてファッションストリートへ走る。
「このビビットカラーの黄緑色のスカート、可愛いわね」
「着てみたらいいんじゃないか、似合うかもしれないし」
「本当?じゃあ着てみようかな」
 夏ものの生地で作られたスカートを持って魅音は試着室で着替える。
「どうかな」
「んー・・・似合わない」
「ひっどい!」
「うそだって、いいんじゃないか」
「じゃあね、上は半袖の薄いピンクと、白いカーディガンにしようっと。靴はこの可愛い白いサンダルがいいわね」
「ん、何だその顔は」
「うん?」
 首を傾げている彼女だったが、明らかに静麻に買って欲しいとねだっている顔だ。
「よしサンダルはビーチサンダルな」
「やだっ、そんなコーディネート可愛くない!」
「冗談だって。買ってやるからカゴに入れても持ってこい」
「はい、これお願いね」
「えーっと会計は・・・はっ!?」
 0が数個もあり、財布の中身が3分の2吹っ飛んでしまった。
「(なんてこった。これ・・・外に出たら財布の中に戻ってくるよな。戻ってこなかったらいくら俺でも泣きそうだ・・・)」
「見て見て、じゃーん。どう?」
 さっそく試着室を借りて着替えてきた魅音が似合っているかどうか聞く。
「あ・・・あぁいんじゃないかな・・・」
 可愛らしく微笑む、清楚な夏スタイルの魅音を見て、ぼーっとしてしまう。
「ぁあーっ!」
「なっ、何だ?」
「ちゃんときちんと着なさいよもう」
 静麻の服の襟を整える。
「これでよしっと」
「次は何か食べに行くか」
 軽く食べようかとフードショップへ行く。
「アイス屋さんがまだ開いているわよ」
「何にする?俺はどれにしよう」
「えっとアイスはチョコレートチップで、トッピングは苺にしようかな。普通のカップの生クリームなしのやつで2つお願い。はいこれ」
「あれ、俺頼んだっけ?」
 魅音にアイスのカップを渡される。
「ちょっとチョコレートのカップだと甘いから、あまり甘くないやつにしといたわ」
「こんなのが入っているのか」
 静麻がアイスの下の方を見ると、角切りのスポンジケーキがある。
「食べ終わっちゃった・・・。美味しかったね」
「ん、そうだな。ほら、さっき買った風車、魅音にあげるよ」
「わぁ〜キレイ、ありがとう。大事にするね」
「これもプレゼントだ」
 魅音に髪飾りをつけてやり、キスをして彼女から手を離す。
「もう・・・お別れの時間だ」
「え、だってこれから家に帰って料理作ってあげようと思ったのに」
「一緒にはいられないんだ、・・・分かるかな」
「うん・・・ごめんね。こんな夜中に引きとめちゃって。今日、凄く楽しかったよ」
「俺も魅音と一緒にいられて楽しかったよ」
「行ってらっしゃい、私は待ってないけどね」
 それは彼が出来るだけこっち側に来ないよう、長く生きて欲しいと彼女なりの願いを込めた言葉だった。
 笑顔のまま彼女は彼の前から姿を消した。


「皆、幸せそうね・・・私の夢って何かしら?」
 都市の中で夢を叶えて満足している生徒たちを見て、鬼崎 朔(きざき・さく)は闇夜の空を見上げる。
「フッ・・・心身ともに穢れているこの私が、人並みの幸せを享受していいはずないじゃないの」
 愚かなことを思ってしまったと、都市から出ようとする。
「夢・・・私の夢って・・・。まさか・・・」
 朔を呼ぶ声が聞こえ、はっと目を丸くして振り返ると、とても会いたかった両親の姿がある。
 しかし彼女の両親はすでに死んでしまっている。
 これは会いたいと心の中で願って現れた存在なのだ。
「おいで朔」
 優しい声音の両親に呼ばれ、思わず駆け寄ってしまう。
「会いたかった・・・ずっと寂しかった・・・」
 刺青がなく父親と母親の手を握りながら歩いていた、幼い朔の姿になり2人に抱きつく。
「一緒にいよう、どこにも行かないで」
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)に似た妹、花琳が朔の裾にぎゅっとしがみついた。
「朔ッチの両親・・・?」
 しかしカリンにはその者たちの姿が見えず、朔しか見えていない。
「うん・・・。(このままずっと一緒にいられたらいいのに)」
 憧れだった銀色の髪の軍人の父親に、花琳と一緒に抱えられて幸せそうな顔をする。
「あらら、朔はいつまでも甘えん坊さんね」
 黒髪の短い髪の母親に、クシで髪を結ってもらう。
「私、花琳と遊んでくる」
 抱えてくれた父親にゆっくりと下ろしてもらい、守るべき大切な妹の花琳と手をつないではしゃぎまわる。
「お姉ちゃんこれ欲しい」
「ねぇ花琳がかんざしを欲しがっているの」
「しょうがないな、買ってやろう」
「あの・・・私も・・・」
 自分も欲しいと遠慮がちに言う。
「分かった、朔の分もな。どれがいい?」
「んー・・・これ、とこれ」
「朔にはちょっと早いな。だいたいそっちはかんざしじゃないだろ」
「あらいいじゃないの」
「おいおい、これを使うのが。どれだけ先になると思っているんだ」
「はい、朔大事にするのよ」
 しぶる父親に変わり母親が朔に渡してしまう。
「ありがとう!大事にするわ」
 鼈甲のカンザシと紅を買ってもらった朔は嬉しそうに微笑む。
「まったくお前は甘いな」
「あらあなたほどじゃないわ」
「リンゴ飴食べたいの、いい?」
「仕方ないな・・・」
 朔に呼ばれた父親が娘のところへやってくる。
 その光景を可笑しそうに母親が、“ほらあなただって”と笑う。
「美味しいね」
 父親に買ってもらったリンゴ飴を、妹と一緒に美味しそうに食べる。
「・・・さあ、朔ッチ。そろそろ時間だよ」
 連れて帰ろうとカリンが声をかけるが、朔は返事をしない。
「ほら、朔ッチ帰ろう、皆待っているよ」
「いや」
 やっと朔が返事をしたかと思うと、今度は母親の服にしがみつき、離れようとしない。
「我がまま言わないで。ずっと夢の中にはいられないんだよ。都市がもう現れないように、破壊しにいった生徒だっているんだから」
「いや・・・、帰らない」
「朔ッチ・・・へたしたら2度と出られないんだよ?」
「―・・・いい、帰りたくない。ずっとこのままでいたいから。ここから出て、私の幸せがあるの?」
「そんな寂しいこと言わないで朔ッチ。朔ッチがいないとボク・・・寂しいよ。お願いだから戻ってきて」
 泣きそうになるカリンを見て、しぶしぶ母親から離れ、カリンのところへ戻る。
 カリンは都市を出る前に振り返り、花琳の姿を見てみたいと願う。
「姉ちゃんを支えてくれてありがとう」
「“もう一人の私”か・・・。ただの幻だったとしても、会話出来たことを嬉しく思うよ。どうか、これからもボクの中で見守ってて。「朔ッチの幸せ」を」
 それだけ言うとカリンは朔と都市の外へ出る。