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ガーディアンナイツVS空賊ブラッティローズ

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ガーディアンナイツVS空賊ブラッティローズ

リアクション


ACT3 もうひとりの狩人

 ガーディアンナイツやブラッティローズ一味は着々と準備を進め、運命の中で出会おうとしていた。
 そして”わけあり”たちが密かに集い、飲み語らう場末の酒場。ここにもその運命に導かれし者たちがいた。
「……――というわけだ。どうだろう? 私の提案に乗る気はないか?」
 酒場の奥に溜まっていた中小の空賊集団たちに、公社が厄介もの扱いしているブラッティローズ一味を皆殺しにして宝を奪うことで公社に他の空賊の力を見せつけ、今後は輸送船の護衛などは私兵などではなく空賊に任せるよう迫るという内容の話を終えたサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が皆を見回してそう言う。
 サルヴァトーレの話を聞き終えた空賊たちは顔を見合わせると、突然笑い出した。
「ギャハハっ、あんたバカじゃねぇのか? 俺たち空賊のことを何もわかっちゃいねぇよ! なんで俺たちが商船を襲う他の空賊を襲わなきゃいけねぇんだ? 公社の犬みたいなマネができるかよ」
「そうだそうだ。公社の役に立って金をもらうようなマネをするなんて絶対にお断りだね。
 俺たちゃ自由な空賊だ! ヨーホー、ヨーホー、ラム酒と悪魔が親友だ! ヨーホー、ヨーホー、俺たちゃ自由な空賊だ!」
 空賊たちは歌い笑いながら、サルヴァトーレの元を去っていく。
「……時代遅れな奴らだ」
 サルヴァトーレは静かな口調でそうつぶやくと葉巻を取り出し、口にくわえた。
「どうぞ」
 するとすかさず彼の相棒であるヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が火を差し出す。
 サルヴァトーレはそれを使って葉巻に火をつけた。
「カメッへッ! どうやら今回はダメみたいだな」
 と、サルヴァトーレの後ろの席に座り、酒を片手に様子を見守っていたカメレオン姿のゆる族・ミスターカメレオンが立ち上がって声をあげる。
 彼はサンドタウンの一件でサルヴァトーレに救われ、行動を共にしていた。
「ミスターカメレオン、降りるつもりですか? サンドタウンでの借りを忘れたとは言わせませんよ」
 と、ヴィトがそんなカメレオンに向かってそう言った。
「おいおい、俺様を脅す気か? まあ確かにあんたらには助けてもらった大きな借りがあるが、手下になった覚えはないぜ。それに俺も今回の話はあんまり乗り気がしなかったんだ――金は手に入るかもしれないが、ガーディアンナイツの野郎どもを助けるような形になっちまわないとも限らないしな」
「金次第で敵にも味方にもなる……それこそカメレオンらしいと思いますが?」
「カメッへ、面白い冗談だな! まあ、とにかく俺は今回は降りるぜ。他にやりたいこともあるしな。借りはまたいずれ返すぜ」
 ミスターカメレオンはそう言うと踵を返して酒場を出て行く。
「……止めなくてもよろしいのですか、サルヴァトーレ様」
「好きにさせておけばいい。それよりも有益な話をしようではないか――そうだろ、君」
 サルヴァトーレはそういうと先ほど去っていった空賊たちの中でただひとりだけ残った男を見つめて言った。
「その通りだ、サルヴァトーレさん。しっかりとしたビジネスの話をしようじゃないか」 サルヴァトーレとその空賊――ネイビーと名乗った男は酒を酌み交わしながら話し合う。
 こうして運命の舞台で踊る役者たちは揃い、あとは時が始まりを告げるだけとなった。



ACT4 空戦開始

 護衛船に乗り、ツァンダから商船と共に出発したガーディアンナイツたち。
 彼らはいま空京に向かう航路を飛んでいる。みな周囲を警戒しているが、いまのところ問題は特に起こっていなかった。
「異常なーし」
 空飛ぶ箒に乗って空を飛び回り、辺りの様子を偵察していたルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)は、護衛船に戻ってくると契約者である夢野 久(ゆめの・ひさし)にそう伝えた。「ご苦労だったな、ルルール」
「ホントよ、疲れちゃったわ。もう帰りたーい」
「ルールル!」
 と、グチをこぼしたルールルに向かって佐野 豊実(さの・とよみ)がすごい剣幕で迫る。
「あっ、豊ちゃん。もしかして、いまの聞いてた?」
 アハハっ、と笑って誤魔化そうとするルールル。
 だが豊実の表情は変わらない。
 そして彼女がついに口を開いてしまった。
「もっと真面目にやってもらわないと困るよ! 美術品はなんとしても”私の”ために守らないといけないんだから! いい、奴らのしている事は、”私が”名品を楽しむ事を阻害し、”私が”鑑賞出来るかも知れない作品達を損ないかも知れない行為なんだよ! これは到底許せる行為じゃない! と言うか許さない!! それに美術品の真の価値もわからないような空賊の手なんかに渡ったら――……」
「……あーあっ、始まっちまったか」
 久は呆れたような表情を浮かべて、頬をぽりぽりとかく。
 豊実は芸術家の英霊なので、今回の事にはかなり気合が入りまくっていた。その結果がコレである。
 こうなっては久にも止められない。
 豊実のマシンガントーク集中砲火を食らって目を回しているルールルのことを見て、久は心の中で念仏を唱えるのであった。
「敵さん、全然襲ってこないですね」
 そんな久たちが乗っているのとは別の護衛船。その甲板で優雅に紅茶をすする牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)はそうつぶやいた。
「マイロード、お湯が沸きました。紅茶のおかわりはいかがですか?」
 と、アルコリアの側で陶磁器のティーポットに沸騰直後のお湯を注ぎいれていたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)がそう訊ねる。
「そうね、いいだきます」
「……おい。アル、ナコ!」
 と、真面目に周囲の見張りをしていたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が主人たちの振る舞いを見て堪らず声を荒げた。
「なぁに、シーマちゃん?」
「アル達……依頼を舐めるな」
「舐めてなんていません。こうしてちゃーんと商船の見張りという重要任務をしてるじゃないですか。重要任務……ずずずっ、重要任務って美味しいですね」
「ハァっ」
 アルコリアの適当さ加減にシーマは思わず深いため息をついた。
「すごいすご〜い! おそらすごぉ〜い!」
 と、甲板の上でそう叫び、手にしたカメラを空に向けてあっちこっちをパシャパシャ撮っている者がいる。
 そのはしゃぎようにアルコリア達が目を向けると、そこには今回の仕事には誘っていないはずのアルコリアのパートナー樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)の姿があった。
「あら、なんで眞綾ちゃんがここに?」
 そう言いながら、アルコリアは首をかしげる。
「おい、眞綾! なんでここにいるんだ!?」
「あっ、シーマパパ! それにアルママに、ナコパパまで!? ううっ、みつかっちゃったの〜」
 眞綾はアルコリア達に見つかると、しょんぼりと肩を落とした。
 彼女の話によれば、空が好きな彼女はアルコリアたちが誘ってくれなかったので勝手にガーディアンナイツに志願してついて来てしまったようだ。
 アルコリア達はしょうがないと思いながら、眞綾にあまり無理はしないようにと言いつける。
「わかった!」
 眞綾は元気良くそう答えるとまたカメラのファインダーを覗き、レンズを大好きな空へと向ける。
「わー、あの”にゅうどうぐも”すっごい! おそらからみるといつもよりおっきーい!」
 眞綾はそう言うと迷わずにシャッターを切った。
「……すごい積乱雲ですね」
 アルコリアたちが乗っている護衛船とは違う船の甲板から周囲を警戒していた真人は、眞綾が見ていた雲と同じものを見てそうつぶやいた。
「そう言えば、街で仕入れた情報によるとここの辺りは積乱雲が発生しやすいそうじゃのう」
 白は真人のつぶやきに答えるようにそう言う。
「そうですね。商船や護衛船を運転している人たちは積乱雲の怖さは知っているでしょうが、みんなは知らないかもしれない。もしこの場所で戦闘が起こって、それを知らずに積乱雲の中に入ったりしたら大変ですから、一応各船に連絡を入れておきましょう」
 読書マニアでもある真人は博識であり、積乱雲のこともよく知っていた。
 外から見る分には美しくも見えるが、もし積乱雲の中に入れば数多く発生している激しい乱気流に巻き込まれ大変なことになる。
 さらに雹が船体に襲い掛かったり、翼などが氷つくなどして飛行はままならなくなるだろう。
 だから空を飛ぶものなら、進んでこの危険な場所に入っていこうというものはいない。
 そんな危険な積乱雲のことを真人がみんなに知らせようとして通信を行おうとした。
「……あれ?」
 だが、その通信がどうも上手くいかない。
「どうしたのよ、真人?」
「セルファですか。いや、なぜだかわからないんですが通信ができないんですよ――壊れたんですかね?」
 真人が首を捻っていると、急に辺りが暗くなった。
「ふふふっ、ようやくお出ましか」
 その異変にいち早く気付き、腕組みをしながら空を見上げる毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はそうつぶやいた。
 見れば、そこには太陽を隠して浮かぶ1隻の黒い飛行船の姿があった。
「行くぞ、プリムローズ!」
 毒島はそれがブラッティローズの船であると確信すると、背負っていた空飛ぶ箒を刀のように抜き放ち、それに跨って空へと浮かびあがる。
「あっ、待ってください!?」
 それを追いかけるようにパートナーのプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)も自分の空飛ぶ箒に跨って空へと舞い上がった。
 他の護衛船に乗っていたガーディアンナイツたちも、敵船の存在に気付いて小型飛空挺や空飛ぶ箒などに乗って出撃を開始する。
「姉さん、妨害電波を放ちました。これで奴らは連絡は取り合えませんぜ」
 ブラッティローズ一味の船――奪った商船をブラッティローズが独自に改修、改造をしたブラックローズ号の中では部下がブラッティローズにそう告げていた。
 それを聞いたブラッティローズはニッと笑みを浮かべると、船内通信用の無線機に向かって叫んだ。
「飛空艇部隊、出番だよ! 存分に暴れてきなッ!!」
 そのブラッティローズの声が船内を駆け巡ると、「ヒャッハー!」という叫び声があちらこちらから上がり、飛空艇部隊は船から次々と発進していく。
 こうしてガーディアンナイツとブラッティローズの名品を巡る空戦の火蓋が切って落とされたのだった。