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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション

 SCENE 06

 行方不明者の捜索は困難を極めた。
 姉妹の足跡を探す本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)であるが、鉄製プレートの床に足跡は付かない。たとえ外の土が入っていたとして、追跡可能なほどの足跡にはならないのだった。
「うーん、さすがにこれは無理か。ファンブルってやつだな」
 開始早々そのことに気づき、涼介は思わずうなだれてしまった。トレードマークのとんがり帽子も、心なしかしんなりしている。
「おにいちゃん、がっかりしないで。足跡が見つからないんだったら、シルミット姉妹だったらどう行動するか想像してみようよ」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が彼のマントに手を添えた。
「ありがとう。クレア」
 涼介は笑みを返した。クレアは自分を兄と慕い、自分もまた彼女を妹のように大事に思っている。しかしその彼女に救われることも多い。クレアのひたむきさは、時に涼介を救い、時に涼介を勇気づけてくれるのだ。
「シルミット姉妹はわずか十二才と十才、無謀な戦闘は仕掛けないはずだ。とすると、広くて敵の多い本道より、狭く入り組んだ路を選ぶはず」
 涼介は頭上を見上げた。
「つまり、通風口、とか?」
「そう!」
 涼介はクレアの手を取った。
 
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、戦闘そのものも捜索につながると考えている。行方不明者が囚われの身であるなら別だが、移動中であれば、戦いの騒ぎが彼らを呼び寄せるきっかけになるはずだ。
「例の『The CRUNGE』を呼ぶ危険性もあるが、下手にコソコソ捜すよりも効果は高いはずだ」
 この日何度目だろう、アルツール一行は現在も、ヒューマノイドマシンの一群と交戦中である。
「かかってくるがいい。それとも、こちらからいこうか!?」
 黄金の髪を振り乱し、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が斬り込む。今度のマシンたちは飛び道具より接近戦武器の装備率が高いが、戦法や策などは彼にはない。今回も同じだ。最初から本気を出す!
「ファーヴニルを屠り、フンディング一族の大軍を殲滅した力を見るがいい!」
 鎧の肩パーツを前に、力の限り激突する。火花が散った。装甲車同士が正面衝突するような……いや、もっと巨大な音! 吹き飛ばされたマシンがその後ろのマシンにぶつかり、さらに別のマシンを巻き添えにする。
「外は駄目そうでも、中からの電撃ではどうかな?」
 相手の反撃を許さず、剣をマシンにねじ込む。
 通路を光が満たした。轟雷閃、これがシグルズの剣から敵の内部へ流し込まれたのである。当然、マシンはひとたまりもない。黒い煙を噴いて動作を停止した。
 一方エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)は、通路上の監視カメラに光術を見舞う。
「どれだけ監視カメラが『生きて』いるのかなんてわからないけれど……」
 強い光は、カメラの回路を焼き切るに十分なものだ。たとえ回復するにせよ、すぐにとはいかないだろう。
 一冊の書が、宙を回転して床に落ちた。
 そのとき、すでに書は書ではなかった。美しい女性の姿に一変していたのである。輝くような黄金の髪をなびかせている。
「アルツール、ふと思ったのだが」
 彼女はソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)だ。
「シルミット姉妹と小山内のことか? 自分の力量も相手の危険度も判断できず危険地帯へ飛び込むとは、魔術師として状況判断がなっておらん。まあ、魔法学校生徒の本分ではない、スパイごっこを許した校長にも責任はあるが……とりあえず、後でお説教だな」
「待て待て。我はまだ何も言っておらん。さすが教師だな貴公は。つい話が長くなりおる」
「皮肉を言いにその形態をとったわけでもあるまい」
 言いながら、アルツールはアシッドミストを展開している。どうも効きが悪いようだ。ヒューマノイドマシンには有効な攻撃方法ではないのか。
「失敬。ふと思ったのだ。屋外の兵器ならいざ知らず、屋内用なら電撃や高熱には耐久性を持たせても、凍りつくことまでには気が回っておらんはず……とな」
 言うなりレメゲトンは手を振って、絶対零度の氷術をマシンたちに浴びせた。
 その読みに違いなし、機械は急に速度を減じ、あるいは硬直、あるいは運動力が半分以下に減じたのである。
「悪くないアイデアだったろう?」
 とレメゲトンは誇らしげに胸を張った。
「あの……」
 アルツールに声をかけたのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)をはじめとする三人だった。
「判っている」
 すると彼はシグルズ、レメゲトンに道を開けさせ、自身も通路を開ける。
「えっ……どうして?」
「救出を優先したいから先に行かせてくれ、というのだろう? ちょっと推理してみればわかることだ。慎重さに欠けている行動かもしれないが、この状況では常に慎重策が正しいとも限らない」
 エヴァも振り返って呼びかける。
「退路なら私達が確保していきます。戦闘を避けて先に行きたいのであれば、ここのカメラが死んでいるうちに早くしなさい。今なら、私やアルツールにこのあたりの敵の注意が引き付けられています」
「ありがとうございます」
 メイベルは頭を下げ、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)、そしてフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が後に続いた。