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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪

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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪
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第4章 想い人

 陽もすっかり沈みて暮れる。黄島のあちらこちらにも丸ぁるぃ灯りが見え始めて。
 ステージ中央で、照明に当たる秋月 葵(あきづき・あおい)が右手を勢いよく突き上げた。
「まだまだ行くよ〜! 恋人たちの祭典、サマーバレンタイン! らぶらぶな人も、まだの人も! みんなっ! 盛り上がっていこう!」
 喚声が弾けて呼応した。そんな轟音さえも遠くの国の出来事であるかのように、耳にも入らないと言った様子で椎堂 紗月(しどう・さつき)は海を見つめていた。
 赤島から黄島を目指していたはずのパートナーたちも、また他の生徒たちの誰一人、ただの一人も未だに黄島に到着していなかった。
凪沙の奴…『危なくないから黄島で待ってて』なんて言ったくせに… やっぱり何かあったんだろこれ…」
 じっとずっと見つめていても、見えたのは遠くの空に輝く光りと降りしきる流星のような光りだけだった。
 待つしか事しか出来ないもどかしさを、腕や足が小刻みに揺れるのを、紗月は必死に噛み殺そうと唇を噛んだ。
 パートナーを待つ者たちは、やはり皆この状況に不安を感じていた−−− それでもロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は元気いっぱいに挙手をした。
「はいっ! 『カナッペ』2つっ!」
「オーケィ。ちょっと待ってな」
 屋台の内で本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が笑顔を見せた。
 クラッカーにクリームチーズを敷き塗り、その上にスモークサーモンと夏みかんのジャムを乗せる。トマトとアボカド、ハムを手早く乗せれば夏の暑さにピッタリの冷たい『カナッペ』の完成だ。
「はぃ、どうぞ」
「あっ、ととと。ありがとー」
 グラスが揺れて、カクテルも揺れた。冷たく冷えたノンアルコールカクテルは十分に喉を冷やしてくれたが、受け取った『カナッペ』も指先まで冷やしてくれそうだった。
「はい、こっちがミュリエルちゃんのだよ」
「ありがとうございます」
 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は小さな手で挟むように受け取ると、小さくカジりついて頬を膨らせた。
「おいしい」
「ホントおいしー。なかなかヤルねー」
「ありがとう。喜んで貰えると私も嬉しいよ」
 2人の笑顔に笑みを得て、涼介は静かにデザートの準備を始めた。雰囲気を出すためにバー風の屋台を拵えた。いくら忙しかったとしても、そのマスターが忙しなくしては台無しになってしまう。
 お客さんの笑顔を喜びに、静かな心で、おもてなしを−−−
「はいっ、こっちも是非っ食べてみてよっ!」
 皿をドンっと置いちゃった。元気いっぱいにヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が差し出したのは、湯気の立つ『カナッペ』だった。
「カナッペっておいしいけど冷たいんだよね。冷たいものばっかりだと体の中が冷えちゃうでしょ、だ、か、ら、温かいカナッペを作ったんだ」
 餃子の皮にピザソースを塗り、薄切りにしたピーマンと玉ねぎ、ベーコンを乗せた上にチーズを被せて焼いてある。
「あっ、美味しー」
「でしょ〜、温かくても美味しいんだよ〜、食べてみて食べてみて〜」
「おいしい」
「でしょでしょ〜、よかったぁ〜」
 女の子同士の華会話が始まってしまえば、雰囲気なんて……。
 良いのです、楽しんで頂けるならそれで。と静かに思いながらに涼介はスイカのシャーベットをそっと、2人のグラスに乗せた。
 グラスが冷えて鳴くのと同時に会場のどこからか、悲鳴が上がった。
「まだまだ行くよ〜!!」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は、ステージ上を一気に駆けて横断した。広場を埋め尽くした客が徐々に体の向きを変えて行く。
「想いを伝えきれていない人〜? まだ居るの〜?」
 曲の前奏が始まる中、はステージの袖のエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の手を取った。
「えっ、でも私……」
 大丈夫っ、ねっ、ほらっ。に引かれてステージ上へ。お揃いの浴衣が2つ、並んだ。
「恥ずかしくなんてない、だって今日は−−−」
「!!!−−− 危ないっ!!!」
 気配を感じて瞳を鋭く。エレンディラを引き寄せた。
 ステージの中央に−−− 流星が降ってきた。



 悲鳴が宙を駆け飛ぶ。漆黒のグリフォンが空駆ければ、その背から流星が生まれ襲いきた。ステージや客場に向けて、パッフェルが拡散波動弾を放っていた。
「パッフェルさん、その先の屋台の連なりは見えますか?」
 耳に付けたイヤリングから、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)の声が聞こえた。連なる、と言うほど密集してないように見えたが、人が集まっているのは見えた。
「そのまま屋台地帯へ流星を降らせて下さい」
「…… 了解」
 ソニアは『ここでは、できるだけ人には直接当てないように』とも加え伝えた。黄島を目指して海を渡ろうとした生徒たちは、シーワーム等との戦闘を想定していても、待ち人たちはそうではないはずだ。まともな武装をしていない者が波動弾の直撃を受けたならヒトタマリもないことだろう。
 海を渡ろうとした者たちですら、未だ誰一人として…… なのだから。
「ひゃっ!」
 駆け逃げていて。押され流されて人波にぶつかって、思うようになんて走れなくて。
 小さな体は簡単に飛ばされて、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は膝をついたが、上体を起こすより先に、黒い影が落下してきていた。
 人波が落ちてくる。流星から逃げ駆ける人の波が。
 −−−某さんっ−−−
 強ばらせた肩に衝撃を感じて、全身に覆い被さってくる恐怖が張り固まった。圧し潰される、そう思ったままに、そのままに、圧する感触は少しが経っても襲っては来なかった。
「綾耶」
「………… ぇ……? …………某さんっ?!」
 覆い被さったままの匿名 某(とくな・なにがし)と目があった。すでに顔には苦悶の色が塗られていたが。
「良かった無事で」
「某さんっ!」
「痛っつっ! ちょっ、待て綾耶」
 バランスを崩したを支えようとしたはずに、気付いたらに抱きついたまま転がり転がり、押し倒すような体勢になっていた。
「ひゃぁ!? どこかで見たことがあるような! こ、今回も違いますからね!」
 顔なんて直視できずに。代わりに見えたの服はボロボロで、全身が傷だらけだった。
「大丈夫、だ… 痛ぅ……」
「痛むのでしょう、すぐに看護所に−−−」
 再会の喜びで忘れていた。会場は大混乱の真っ最中だった。少しの先にも人ばかり、空からは流星が降り、悲鳴と破砕音が鳴り上がっている。
「ぁの、綾耶… とりあえず退いてくれ……」
「あっ、ひゃあぁっ!」
 慌てて跳び退く綾耶と、上体を起こすの真っ赤になった表情を見ながら、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は溜息を雫した。
「まったく… こんな時に何をしてるんだか…」
 逃げ惑う人波もバラケ始めた。流星から逃げているだけか、それとも知らず内に誘導されているのか。どちらにしても、このままでは。
「エクスっ!」
唯斗、ようやく来ましたか」
「ようやくって、どれだけ苦労したと−−−」
「あぁ言うな! 衣服の損壊を見れば分かる。それよりもだ」
 視線は上空へ、空を駆ける漆黒のグリフォンへ向けられた。
「先ずはアレを何とかせんとな」
「えぇ、嫌というほど見せられましたからね、すぐにイケますよ」
 向かってくる波動弾の一つに、等活地獄とバニッシュを同時にぶつけた。
「エクス! 光条兵器を!」
 両手にガントレット型光条兵器を装した。「2つの要素を叩き込めば、相殺できるのでしょう?」
 飛び過ぎようとする波動弾の横腹に、打撃と同時に溜めた光条エネルギーを放った。
 今度は圧されて飛ばされたが、弾けさせる事には成功していた。
「よし、イケます」
「エクス! 次だ!」
 波動弾は拡散して襲い来る。砲台を叩けば事は済むのだが、それよりもまずは人々へ被害を防がなければ。
 宙を見上げて、とにかく流星の一つに狙いを定めて、飛びついた。
「ここはとにかく避難よねっ? でもその間にが来たら、分からなくなるかも?」
 屋台の中からも人が慌て逃げている中、椅子に腰掛けたままでリリィ・ブレイブ(りりぃ・ぶれいぶ)は膝を忙しそうに振っていた。
「いや、でも『何よ、遅かったじゃない』って、こう何でもないみたいにグラスを渡すのが、あたしらしいっていうか…
 って! この状況なら無事に会えるかだって怪しいわよ! 訳わかんない流れ星まで降ってきて、みんな混乱しちゃってるし、そもそも赤島から無事に辿り着けるかだって…。
「うぅん! 違う! 涼は絶っっ対にくる! 来るったら来るのよ」
「危ない!」
「えっ?」
 誰かが叫んで教えてくれた、見上げたときには目の前に流星が迫ってきていて−−−
 きっと直撃するはずだった、虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が抱き上げてくれなかったら。
「何をボゥっとしてんだ、お前は」
「涼っ!」
 小型飛空挺でこんな低空に寄るなんて危ないじゃない! とか、今まで何やってたのよ! とか、グラス手放しちゃったじゃない! とか色々言いたい事もあったけど、でも。
「祭りだからって呆け過ぎだ… このまま逃げるぞ」
 逃げるって何よ……… でも……でも……。
 無理に抱き上げられて乗り込んだから、今もにしがみついたままで。
「一応…… その………… おかえり」
「ん? あぁ、無事に避難できたら、もう一回言ってくれ」
「2回も言わないわよ……」
 抱きついたままの背中に、リリィは、そっと額を触れさせた。
 ようやく見つけましたわ。
 メロメロに−−− いや、フラフラになって逃げ回っている芦原 郁乃(あはら・いくの)を見つけて、秋月 桃花(あきづき・とうか)は駆け寄った。
「はぁ、はぁ、桃花ぁ、見ぃつけた」
「大丈夫ですか? あっ」
 膝から落ちるように寝転がる郁乃の頭だけは、どうにか太股で受けとめた。
「これだけお疲れになられているのなら、ボートで休んでいてくだされば良かったのです」
「えぇぇ〜、桃花に会いたくて走ってきたのにぃ〜」
「ありがとうございます、よく頑張りましたね」
 青島から足こぎボートで。凶暴性を高められたモンスターたちが放たれていたと聞いていますし、ボロボロになった白鳥足こぎボートを見れば、その壮絶さは容易に想像できます。
「あれ? ボートの事、どうして」
「あんなに目立つボート、どこに居たって見つけられますわ」
 労いを認め讃えるような優しい笑みを見せて、桃花郁乃を軽々と小脇に抱えた。
「えっ? 桃花?」
「のんびりするのは、ココまでです」
 膝枕な休まる瞬間が続いてはいたが、ここは今も爆煙と爆砕音が轟く真っ直中な訳で。流星はすぐそこにも落ちてきている。
 落ち着いた容姿とは離れ離れたスピードで桃花は広場を駆け抜けた。
 皆が彼女ほどに疾さと判断力で駆けられるなら…… いや、それでも悲鳴が上がるのを防ぐことは難しいか。
「全く、この島でも暴れているなんて… 困ったものですわね」
 服の端々が散っている。赤島からの空路でもパッフェルの流星弾を相手にした。正確に言えば、これまでに何度も彼女とは戦っているのですが、今回はシューティング・スコーピオンなる名を名乗ってますし、切れ長サングラスをかけていますし。
 それに彼女は更正の道を歩み始めたばかりですし、何だかんだ言っても素直なのは知っていますしね。
「何かの意図をもって動いているにしても、もう少し加減を覚えた方が良いですわね」
「ナナぁ!」
 箒に乗ったズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が滑り降りてきた。同様に服の端々が散っている所をみると、青島からの空路も相当激しかったようですね。
「貰ってきたよ、氷の塊」
 事態の鎮静化を図るには、彼女の目的を根底から防ぐ事、その為には、氷術で作れる氷塊では大きさが足りないのでエリザベート校長に依頼したのですが。
「随分と巨大な氷ですね」
「うんっ、重いんだよ〜、大きすぎかな」
「ばっちりです。始めましょう」
 同時に二手に飛び出して、パッフェルの軌道の前に出た。
 ランチャーの銃口が光り輝き、巨大な波動の弾が放たれる。
「ズィーベン!」
「了解っ!」
 宙に放った巨氷塊を、ナナがドラゴンアーツを駆使して曲塊に砕く。
 四方から2人で曲塊の幾つかの間に氷術を放って間を埋めれば−−−
 巨大な『かまくら』が宙に生まれて、傘のように降り向かってくる波動の弾を遮った。
「やはり、この厚さなら防げますね」
「名付けて! 大氷壁アイシクルガード!!」
 幾ら拡散させたとしても、散り始めは範囲も狭い。そこへ『かまくら』を出現させれば、防壁の役割は十分に果たす、生徒たちの元へ落下する事もない。
「……………… 防がれた……」
 放った拡散波動弾は『かまくら』を砕いた、しかし地に辿り着いていない、流星になっていない、みんなの障害になれていない。
「…… もう一度」
 パッフェルはグリフォンを旋回させて上空へと昇り戻った。
 海上でやったように天へ放ってから拡散させる? いや、それはダリルによって対処された、ナナも知っているはずだ。もう一度、地に向けて放ってみる? いや、巨氷塊はまだ残っている、それにこちらが範囲を広げても同じように範囲を広げてくるだろう、それでは意味がない。
「…… 拡散させずに、一撃で……」
「それでは巨大な隕石です」
 イヤリングからのソニアの声。そろそろ帰還する頃合いだ、と彼女に伝えた。
「十分に役目を果たしましたわ、ムキになっても仕方がありません、帰還して下さい」
「…… むぅ…… わかった……」
 小さく口を尖らせながら、パッフェルは宙を駆け去った。散々に降っていた流星が止んで、辺りが急に静けさを取り戻した。
 人々が恐る恐るに空を見上げる。降ってくる流星は無く、代わりに見えたのは、夜空に浮かぶ満点の星々だった。
 今にも落ちてくるのでは−−−と、しばらくは恐怖を覚えたが、島が祭りの活気を取り戻すに連れて、優しく見上げられるようになっていった。
 仕掛けられた障害は、ここまで…… のはず。
 祭りの夜は、まだまだ終わらない。