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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪

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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪
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第2章 信ず人

「はぁぁあぁぁ、やっぱりパッフェルちゃんは可愛いなぁ」
 〜〜〜 海岸沿いの黄色い花畑の中でパッフェルちゃんの吐息を感じながら詩穂は一輪の黄色い花を紫色の髪に、そっと挿してあげるの 〜〜〜
 ポロリと落ちた花火玉が太股に当たって、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はようやく現実に帰還した。帰還してすぐに、愛する者の直感で彼女を見つけた。言われたままに、律儀にも切れ長サングラスをかけて頷くパッフェルの姿を。
 詩穂は好きなんだけどなぁ、サングラスに透けるパッフェルちゃんの赤い瞳も、小さくて、や〜らかい身を包む真っ赤なフリフリメイド服姿も−−−って、パッフェルちゃんの前に立たないでよ!
「生徒たちを迎えうつ形なら、南東の方角から、という事になるが」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)…。パッフェルちゃんのサポート役として同行するんだって… 隣にいるソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)ってのと一緒に……。
「でも、シーワームや化け烏などはエリザベート様が放つのですよね? でしたら、私たちはその時間で赤島を回り込むことも出来ると思いますが」
「北側から、つまり生徒たちの後方から奇襲をかけるという事か?」
「それはダメですぅ! シューティング・スコーピオンは、正面から、堂々とみんなの障害になるのですぅ!」
 そう、そうなのよ、そこなのよエリザベートちゃん、シューティング・スコーピオンってさ……。
「………… シューティング・スコーピオンは…… 織姫と彦星に立ちはだかる…… 流星のキューピッド……」
「そうですぅ! 私の魔力を舐めるな、ですぅ! 魔物を放つのに時間なんて掛からないですぅ! シューティング・スコーピオンは正面から突撃するですぅ!」
「…… どんな状況でも流星を降らせる…… それがシューティング・スコーピオン……」
「そうですぅ! その通りですぅ!」
 あぁもう! ツッコム所が多すぎる! ………… もういいや、のんびりやろう。
「16時になったら、こちらもスタートすれば良いんだな?」
「そうですぅ、その直前に一斉に魔物を放つですぅ、お腹を空かせた魔物たちが生徒たちに襲いかかるのですよ」
 無理矢理魔物を詰め込んだ巨大な玉を割って放つんでしょう? 形状維持に多少の魔力は使ってるんだろうけど… 魔力の大きさ、関係ないよね…
「撤収のタイミングは? 全て撃墜するまでやるのか?」
「もちろんですぅ!」
「でも、あくまで拡散波動の弾で撃ち落とさなければならないんですよね? そこまでコントロールできるものなのですか?」
「…… 細かい狙いはつけられない、でも、数の調整は出来る…… 敵が集まった直前で多く拡散させれば……」
 それなら何度か見た事があるかな……… 敵って言っちゃったね… 頑張れ参加者諸君、生きろ…。
「流星に見えれば、魔法で撃墜してイイのっ?」
 また変なのがパッフェルちゃんに近づいたっ! 立川 るる(たちかわ・るる)って名乗ったけど、何なの? エリザベートちゃんに指さしてるし。
「魔法学校主催なら魔法学校の主催らしく、魔法を使った障害もないと〜 魔法の上達を目指すとか〜 魔法への対処を体で学ぶとか〜」
「なるほど、確かにそうですぅ」
「でしょう! だから、るるも一緒についていって、覚えたてのブリザードとかファイアストームを撃ちまくっちゃうんだっ!」
「面白いですぅ! シューティング・スコーピオンに同行する事を許可するですぅ!」
「わーい、よろしく! シューティング・スコーピオンちゃん!」
 … シューティング・スコーピオンね… シューティング・スコーピオン… うん、やっぱり何度聞いてもねぇ… ダサィよねぇ? 
 せめて真ん中にとかさ… ラッキーな星みたいに… ツノダのヒロみたいに… ってデフォ? 
「校長」
 この暑さでもロングスカートの桐生 円(きりゅう・まどか)は抱えた段ボールから顔を覗かせている。
「屋台ごとの責任者の… 確認を取ってきます」
 中身はイルミンスール印のステッカーとリストのようだ。パートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は既に看護所の設置に向かっていたみたいだし、もう一人のパートナーのミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は… 今走り出したみたいね。
「以前取った行動は謝罪したいと思って。謝罪の意味も込めて、このイベントでボランティアさせて欲しいんだよ。人の嫌がる仕事や人気のない仕事を割り振られても構わない」
 そう言ったの顔を思い出した。詩穂だって… 想いは同じ、だから花火玉のチェックなんて地味な作業をしてるんだから。
「ステージの組み立て−手伝うよ−」
 正面の、それでもずっと先にあるステージに駆けながらミネルバは声を投げていたのだが。仮設程度に組まれていたステージではグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が瞳から火を吹いていた。
エリーエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ))はライトの調整を! ! 音の調整は、そなたと2人でやるぞ!」
「ぅっ、うゅ…… はわわ……」
「エリー様、落ち着いて下さい」
 開催時刻までにステージのリハーサルまで済ませたいライザにとっては、やることが多すぎた。それは同じく出演者希望を出した咲夜 由宇(さくや・ゆう)赤城 花音(あかぎ・かのん)には手に取るように分かった、だからこそに。
 ケースを抱えて、由宇は上目遣いに。
「あのぅ、私たちに何か手伝える事わ無いです〜?」
「あぁ… 確か担当はエレキだったか? それなら音を手伝ってくれ。歌い手殿は、本番に向けて喉を仕上げてくれれば良い」
「了解っ、任せてよ」
 握り拳と力こぶを見せた花音の笑みが、ライザの焦りを少しに柔いだ。
 最高のステージにする為に、皆を喜ばせる為に、喜んで欲しい人たちの為に。
 幕が上がるまで、60分を切っている。それは祭りの開始を意味しているからつまり…………
「オープニングセレモニーの準備も?!?!?!?!!」
 再びにライザの目が暴旋を起こしていた。



 青一色に染まる島。3つが連なる信号機諸島において青島と呼ばれている。
 中奥から西側にかけては緩やかな丘がなり、波なる海が揺れているかのように青い花々が咲き笑んでいる。
「もう少し小さい方が良いか」
 茎に手をかけて、それを止めた。隣に一回り小さい花を見つけて、葉月 ショウ(はづき・しょう)は慎重に採取した。
「採取って…… 研究する訳じゃねぇんだぞ」
 誰に言ったか、独り言。青い花は、青き瞳をしたパートナーたちへのプレゼント。黄島での再会を約束していた。
 小型飛空艇に戻りて、最後の仕上げ。
 翼の剣×2で両翼を。プラ板で羽と頭、離偉漸屠でくちばしを作成した。最後に、頭に喪悲漢をセットすれば! 
 えぇ、ネタですよネタですとも。それでも白鳥に見えるでしょう? 黄島に辿り着いて諸島の中心で愛を叫べば良し娘なんだろ?
 ……………… 怒られる前に、出発しよう。間もなくの開始時刻を確認して、ショウはエンジンを回し始めた。
 島の南側は一面に砂浜が広がっている。打ち寄せる波中に足首まで浸けて仁王立つ男共にズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は眉を平らにした。
「ねぇ、本当に泳いで渡るの?」
「当然だ」
 腕を組む男、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は広がる浅瀬の先の海を見つめている。
「水の中では流石に拳の威力が落ちるか… ふんっ、ならばドラゴンアーツでカバーするまで!」
 行く手を遮る「シーワーム」や「巨大クラーケン」との戦闘をイメージしているのだろう。隆々な腕の筋肉が時折ピクリと動いてる。
「本当に塗らなくてぇ、良いの?」
 バターを塗りたくる男、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が広げて見せたドロドロの手に、ラルクは口を強ばらせた。
「いらねぇよ! 気持ち悪ぃからコッチ向けんな!」
「失礼だなぁ、モンスターたちの特長から、奴らが寄り付かない薬を作ったんだよぅ。これさえ塗れば、楽々黄島まで辿り着けるのさぁ」
「溶けるだろ… 普通に」
「そう、だから全力で泳がないとねぇ」
 やはり泳ぎ切るつもりなのか。自信満々のそ立ち振る舞いが、なぜか海パンすらも凛々しく見せているような。
 諸島間の距離は3Km、無論に泳げない距離ではない。とは言ったものの、 
「…… 狼ちゃんも、泳ぐの?」
「狼じゃない! あたしは猫だ!」
 伸脚運動をしながらに、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)はグラマラスな身体を魅せつけるかのように揺らして−−−いや、伸ばしていた。
「もちろん泳ぐぜ、微かにっつーか見えてんじゃねぇか、楽勝だぜ」
「いや、いくら獣人でも女子が泳いで渡るのは危険な気が…」
「大丈夫だって、クラーケンが襲ってきたら逆に足の一本でも切り取って、あとでイカ焼きにしてやるってんだ」
「そんな無茶苦茶な…」
「大丈夫ですよ」
 ウルフィオナのパートナーであるレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が空飛ぶ箒に跨ったままに笑んでいた。
「ワタシたちがついて行きますから。ねぇ、リリ?」
「えぇっ、私ですか?」
 離れて浮いていたリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)は、より離れるかのように、ソッポを向いた。
「わ、私はレイナに付き添うのです、決してウルフィオナさんについていくわけではないです。勘違いなさらないで下さい」
 言いながら本当に離れてしまった。
 基本的に仲は良さそうなのは伝わってきた。レイナの装備が「悪意の鎧」「欺瞞の冠」「迷妄の楯」といった禍々しいコーディネートが気になる所だが…。
 獣人、そして泳ぎ出すと言えば、イルカ獣人のクラリッサ・シンジェロルツ(くらりっさ・しんじぇろるつ)が、しぶしぶ背中に、それも3人も乗せていた。
「はぁぁ〜 普段は危なくない海なのに… わざわざ危なくして、しかもそこを渡れって… はぁ……」
「何だ? クラリッサ、嫌ならオレたちは馬で渡るぞ」
「どうやって?! 泳ぐの? それとも水の上を駆けるの? どっちでも見てみたいわ」
「あぁ… オレも見てみたいな」
「うー! うー! バカにするなら降りろー!」
 ムキィーと海水をバシャバシャさせるクラリッサを、その背中からリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は覗き込んだ。
「あの、すみません、私まで」
「誘ったのは私です、気にしないで下さい」
 背中越しに聞こえた声は適切な答えを応えたものでは無かったが、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)は静かに続けた。
「誘った側がエスコートするのは当然の事… それにイルカは人を乗せては運ぶ生き物ゆえ、この状況こそ理の通り−−−」
「ないよっ! そんな理っ!!」
「おっと、聞こえていましたか」
 揺れる波よりも背上が揺れている。笑いも溢れた、体もしっかり温まっている、準備は万端、乗せるイルカと背に乗る3人は、開始の合図を待つばかりであった。
 間もなくの開始を直前だというのに、今も白鳥へのカスタマイズに没頭しているのは芦原 郁乃(あはら・いくの)であった。
「こうして、ここをこうすれば、あっ、もっと線を入れれば羽がリアルに見えるよね、あっ、薄くアイラインも入れるんだったぁ」
 リアルな、まさに誰がどこから見ても本物の白鳥と見間違えるほどの装飾が施されていた−−−足こぎボートさんに。
 黄島で待つ桃花の為に。迎えの船がカッコ悪かったら、幻滅しちゃうでしょう?
 一心不乱に純粋無垢に足こぎボートに向かう姿は本当に楽しそうで。
 その一方でミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は不吉な予感をその顔に浮かべていた。
 見つめる先には天の川の海、そしてその先の黄島ではパートナーである満夜が待機しているはずなのだが。
「ふぅむ、我輩が着くまで大人しく待っている、とは言ったがな…」
 空飛ぶ箒の柄の先に七夕の短冊を付けてもみても、不安な予感を拭うことは出来なかった。
「素直に待っていると思えないのが、悩みの種だ」
 フワリと浮かび上がった時、祭りの開始を告げる信号灯が3つの島から同時に上がった。
 それぞれの島のシンボル色をした灯りの演出に喚声も上がったが、赤島と青島に集まりし生徒たちはすぐに戦う者の目へと、その色を変えた。
「ふん、まぁいい、遅れを取るわけには、いかないからな」
 天の川へ生徒たちが一斉に飛び込む中、拭えぬ不安を胸にミハエルも空へと飛び立った。