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リアクション
〜夜の蜂蜜授業、2020〜
すっかり夜も更けて、ほとんどの参加者達がその疲労からテントに入るなり泥のように眠っていた。
本郷 翔が選んだ葉っぱのおかげで、そのまま倒れこんでも布団のように快適な寝床ばかりだった。
ほぼ紐でしかない水着をまとうロザリィヌ・フォン・メルローゼは、昨年度同じ作戦を立てていたナガン ウェルロッドを伴って女性用テントへとごくごく自然に向かっていった。
「って、何で普通に行くんだよ」
「だって、わざわざあんな隠れなくっても、私たちは女性ですわ。普通に女性のテントにはいりこんで−−−」
「そういうわけにはいかないわ」
凛とした声が、テントがならぶ林に響いた。その声の持ち主は、彼女にはすぐわかった。
「う、宇都宮 祥子ですのね!?」
「というか、まぁ、そうね。そっちの趣味の人のことを考慮してないテントわけがいけないんだけど……」
名前を呼ぶとすぐに姿を現した。宇都宮 祥子はため息混じりにそういうと、その後ろにはアピス・グレイスがランスを持って立ちはだかっていた。
「……なんですの? ここで一戦交える気ですの?」
「そこまではしないわ。ただ、別のテントで寝てもらうだけよ」
冷たく言い放ったアピス・グレイスの言葉に、ふぅん、と顎に手を当てて考えるロザリィヌ・フォン・メルローゼは、隙を見て麻痺毒を塗った針を、宇都宮 祥子に投げる。それに気がついた彼女は、同じく麻痺毒のついたナイフを投げた。
両者とも、意図してかせずか、同じ『クラゲ』の麻痺毒を使っていた。
同時にお互い掠ってしまっため、その場に崩れ落ちた。アピス・グレイスはその二人を抱えてテントが立ち並ぶ場所とは違う方向に歩き出した。
「……ナガンのことはスルーでいいのか?」
「貴方は、そこの二人が連れて行きたいそうだから」
ナガン ウェルロッドが振り向いた先にいたのは、タク・アンとナラ・ヅーケだった。二人は満面の笑みでナガン ウェルロッドを抱えて恐らくは彼らの村まで連れて行った。
アピス・グレイスがたどり着いたのは、夜這いをかけようとしてくるパートナーから逃げてきた楠見 陽太郎専用のテントだった。
「あ、れ? ここ、俺だけなんじゃ……」
「大丈夫よ。二人とも身体が動かないから。明日の朝には痺れが取れているはずよ」
何が大丈夫なんですか!!!???
楠見 陽太郎は無理やり置いていかれたしびれたままの二人に目をやる。きっちりと教導団の水着を着込んだ大人びた女性に、ほぼ紐の水着を着た美女。
「……い、イブのほうがマシ……かなぁ」
「あ、後これも忘れ物」
突然顔をのぞかせたアピス・グレイスがさらに放り込んだのは、同じく麻痺したままのイブ・チェンバースだった。
「えええ!?」
「どうしても入りたいって言うから、朝までこの状態でよければ、っていったの。それじゃ」
あっさりとそういっていなくなってしまったアピス・グレイスの背中を見つめ、楠見 陽太郎は眠れない夜の始まりをどう過ごそうか悶々とし始めていた。
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翌日。
日が昇ってすぐに朝の散歩を開始していたのは霧雨 透乃と緋柱 陽子だった。二人は砂浜を歩きながら、打ち上げられている海草をいくつか拾う。恐らく、昨日の競技で斬った海草たちだろう。
「これで朝ごはんつくろっか」
「え、これで?」
緋柱 陽子が首をかしげていると、霧雨 透乃は駆け足で調理場へと向かった。
そこには、既に何人かの仲間が朝ごはんの支度をしていた。ご飯を炊いてあるようで、朝のいい香りが漂っていた。霧雨 透乃は辺りを見回して、あるものを探していた。
「昨日のお魚残ってないかなぁ」
「鮭が残ってるよ。昨日焼いたものだけど……」
霧島 春美が差し出したのは、スタンダードなシャケの塩焼きだった。霧雨 透乃は笑顔を浮かべてそれを受け取ると、拾った海草をナイフで薄く切る。
薄くするのが難しそうなものは刻んで簡単な味付けで煮込み始めた。
「もしかして……おにぎり作るんですかぁ?」
如月 日奈々の言葉に、霧雨 透乃は頷く。次々に集まる調理班メンバー総出でおにぎり作りを開始した。いびつなもの、きれいな三角を作るもの、さまざまだったが、それぞれが味のあるおにぎりが出来上がっていった。
「昨年はサンドウィッチがメインだったなぁ」
「りゅーきもてつだうですよー」
曖浜 瑠樹がおいしそうなにおいに釣られて顔を出すと、既に手伝いを始めていたマティエ・エニュールに言われて強制的におにぎり作りを手伝わされた。
いつの間にか合宿参加者のほとんどでおにぎりを作っており、みんなでお互いの作ったおにぎりを褒めたりけなしたりしながら食していた。
そんな簡単な朝食を終えた頃、ようやくナガン ウェルロッドが戻ってきた。タク・アンとナラ・ヅーケもいっしょだ。3人とも赤ら顔のところ見ると、夜通し飲んでいたらしいことが伺える。
「……ええと、大丈夫か?」
ミューレリア・ラングウェイは心配より空きれを含んだ表情でナガン ウェルロッドに問いかける。そして、キージャ族の二人にもだ。
「ひっひっひ! 任せとけ」
なにやら不安感が大量に押し寄せてきていたのは、自分だけじゃないだろうとミューレリア・ラングウェイは思っていた。
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