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夏の夜空を彩るものは

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夏の夜空を彩るものは

リアクション

 
 
 福神社に開く花火は 
 
 
 楽しい時間は短く感じる。
 空京の花火ももう終わり。ラストを飾るフィナーレが目に痛いほどの光の重なりとなって、夜空に溢れた。
「ノルンちゃん、花火どうでしたー?」
 花火が終わってもまだ空を見上げているノルンを、神代明日香は迎えに行った。
「キレイでした、また観たいです」
 明日香に答えるノルンの金の瞳はまだ花火が映っているかのようにきらきらしている。
「気に入ったなら良かったですぅ。また機会があったら観にいきましょうね〜」
 こんなに喜んでくれるのなら、と言う明日香にノルンはにっこりと笑顔を向けた。
「次は明日香さんも一緒がいいです」
 1人でゆっくり観る花火もいいけれど、あれが綺麗これが良いと2人で観る花火はもっと楽しいだろうから。
 
 花火が終わると、人々は一斉に帰路につきだした。品物を売り切ってしまおうと、夜店の呼び込みも盛んになる。
 それもやがて終わりを告げ、静かになった境内を手伝いの皆が片付けた。地面に落ちているリンゴ飴の欠片やら、煙草の吸殻、飲み残しの入った缶。けれど、対策の効果あってか、訪れた人に比して境内に残っているゴミは少ない。
「これ、売れ残りでゴメンなさいだけど、どぞどぞー♪」
 ティアは揚げいもの残りを手伝いの皆にふるまった。ちょっと冷めてしまったけれど、ほっこりしたじゃがいもはまだ十分に美味しい。
「結構良い売り上げになりましたね」
 予想以上の売れ行きを喜ぶ巽の手から、ティアは売上金全部を受け取った。そしてそれを一気に福神社の賽銭箱に投入する。
「えーいっ!」
「ちょ……ティア!」
「えー、いけなかった? こうでもしないと、タツミの不幸は祓えないんじゃないのー?」
 ティアはあっけらかんと笑うけれど、売上金すべてを入れてしまったら材料費は真っ赤っ赤の大赤字だ。
 やはりこの神社にかかわるとろくなことがない。巽は賽銭箱に突っ伏しながらそう思うのだった。
 
「元気そうですね」
 花火を観終わり、布紅に挨拶に来た樹月刀真に言われ、布紅はおかげさまでと照れた顔で笑った。あれこれと皆に手数をかけてしまいながらも、こうして元気に神様の役目を果たしている。
「初めまして、白花と言います」
 布紅とは初対面の白花が挨拶すると、布紅も挨拶を返した。
「はじめまして、布紅です。花火たくさん観られましたか〜?」
「はい。とても綺麗でした」
 良かった、と布紅は嬉しそうな顔になった。布紅自身、ここで花火を観るのははじめて。綺麗に見えるという話は聞いていたけれど、実際皆がちゃんと花火を観ることが出来たのか、気になっていたのだ。
「花火見物に誘ってくれてありがとうございます。皆で楽しませてもらいました」
 そう言って刀真は線香花火を取り出した。
「そしてこれは、いつも俺達の為に頑張っている神様へちょっとした感謝の気持ちです。一緒にやりましょう。派手な花火も良いですけれど、このささやかさも良いものですよ」
「せっかくだから布紅と一緒にやりたいって刀真に言ったの」
 月夜の言葉に布紅はありがとうございますと礼を言った。
 そこに五月葉終夏もやってくる。
「色々な手持ち花火を持ってきたんだよ。空に咲く大きな花もいいけど、てのひらの中の花もキラキラ咲かせてみない?」
 大きな鞄に詰め込んできた花火を見せると、シシルが納得したように声をあげる。
「鞄の中身、それだったんですね〜」
「たくさん持ってきたから、みんなでどうぞ。今日はホントにお疲れ様」
 忙しく働いていてゆっくりと空京の花火を楽しめなかった人も皆、ささやかに咲く手持ち花火に火をつけて。
「大きな花火を観られた人にも、小さな花火を観る人にも、花火を観られなかった人にも……福がたくさん来るといいですね」
 花火から吹き出す光の奔流を眺めながらそう呟く布紅に、白花は微笑みかける。
「私達の幸福を願う貴女にも、幸福が訪れますように」
 ――と。
 
 
「静かな境内に戻りましたね」
 すべてのチェックを終えた御凪真人が言うと、布紅は閑散とした境内を見回した。
「いつもに戻っただけなのに、なんだか寂しいです。さっきまであんなに人がいたからでしょうか〜」
「この時が寂しいとか静かだとか感じるのなら、祭りの間本当に楽しかったってことですよ」
 楽しんだからこそ、過ぎた後が寂しく感じる。そう言う真人に布紅はきっとそうですねと肯いた。
「とても賑やかで、お参りしてくれる人もみんな楽しそうで……本当に楽しかったです」
「始まりがあれば終わりもきます。でも、今日はこれで終わりですけれど、また新しく始めることはできます。その時はまた、思いっきり楽しみましょう」
「はい。その時はまたよろしくお願いしますね」
 きっとまた色々手数をかけると思うけれど、と布紅は笑った。
 
 
 大輪の花火は開いてすぐに夜空に消える。
 けれど、それを観た誰かの心に何かを残したのならば。
 いつでも何度でも、その花はよみがえる。
 夏の夜空を彩った思い出として――。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

遅れてしまい、申し訳ありません。

今年も本物の花火大会を見た、という方もたくさんいらっしゃるでしょうけれど、このリアクションの中の花火もまた、皆様の中に少しでも残ってくれたら嬉しいな〜と思います。
参加して下さった方、そしてリアクションを読んで下さった方、ありがとうございました。