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【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?

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【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?
【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!? 【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?

リアクション

 風森 巽(かぜもり・たつみ)は芸術活動にいそしんでいた。
 もちろん 芸術活動という名の爆破行為である、ターゲットは目の前で群れるカップルたちだ。
「夜空を彩る花火は芸術だ。芸術は爆発だ。逆説的に、爆発は芸術だ」
―つまり…リア充が爆発する事は芸術活動の一環である!
 そういった行動原理で己の抑圧された欲求を昇華し云々以下略、つまり透過し結晶し醸し出すところ芸術なのだ!
 そこで彼は、因縁の相手を中洲に見つけだしてしまった。こいつはまたとないキャンパスであり、彼の芸術理念の神髄を体言した絶好の題材である!
「フフフ…あのリア充め、フラグ乱立させまくって、意中のツンデレといちゃラブしてる奴が、今度は中州でラブラブバカッポーだと…?」
 しかも隣のお嬢さんは、少なくとも巽は知らない人物である。
 がばりとロケット花火をかつぎ上げ、我すなわち兵器であり、破壊の権化なれ、とつぶやく。負のオーラが、否、芸術に対する真摯さの顕れが、巽の背後から立ち上る…
「暗い夜空に舞い降りて、芸術を行う者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 すべてのターゲットはもちろん、かのフラグ王しかありえない!

「くっ…!」
 牙竜はどこからともなく押し寄せるロケットに悪戦苦闘していた。
 なにやら自分に届くロケットは細工がしてあるらしく、一つのロケットが別のロケットを引き連れ、一発目を叩き落しても二発目三発目が炸裂する手の込みようだ。
「俺に集中してくんのは誰だよっ!」
「視認した、西岸のほうを見ろ、あいつだ」
 精神感応で、雅の言わんとするところを見れば、そこには禍々しいオーラを纏ったツァンダーソークー1が立っていた。
「あっはははははははケンリュウガー! お前のフラグを数えろ!」
「お前かー!」
「愚弟よ、この分ではカップル達の試練となるどころか、我々の命の試練だな…」

「アイン、がんばろうね!」
 大会開始前、ストレッチをしながら、岬 蓮(みさき・れん)は傍らのアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)に笑いかけた。アインは苦々しく蓮を問い詰める。
「…お前は、この祭りの意味を分かっているのか?」
「知っているけど、うーん、それよりも私はアインと何かを共にクリアしたっていう結果が欲しいんだ」
 ここにいる人たちが全員カップルというわけではないと思う。ノリで来た人だってきっといるはずだ。
「まあかまわんが…つきあってやる。やるからには生き延びねばな」
「あーあ、相手が恋人だったらもっと最高なのになぁ」
「そ、それは冗談やないで…!?」
 アインは驚愕した、自分には実は片思いの相手がいたし、蓮とは年は離れているが腐れ縁で共にいるのであって、そのような感情を抱いていない、思わず関西弁になるくらい動揺した。
 蓮はちょっとむっとしてアインに訂正を入れる。
「あー後アインは勘違いしてるかもだけど、別に恋人じゃなくて親友だよ! さっき言ったことは嘘じゃないしね」
 それにアインの恋愛なら全力で応援したい、彼を支えるのは自分だけなのだから。
 はっきりと彼はリタイアしたかったが、彼女は諦めないようだ。
「馬鹿馬鹿しい、何故そこまで危険をおかす…まあいい…貴様を守り通してやるわ!」
 彼の致命的な弱点はやはり、情に流されやすいところだろう。
 なんだかんだ言って、腐れ縁が無茶をするのを黙って見てはいられない。
「じゃあ、いっくどーっ☆レッツラゴーッ!☆」
「そ、それむっちゃカップル繋ぎやでっ!」

 川岸にずらりと並べられたロケットの数に、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)はふと不安を覚えた。
 東西でロケットの筒先を向け合う様は、そのまま銃を突きつけあう東西シャンバラ王国の姿にも思えた。
 いずれどちらかが覇を競い、内戦に突入するのでは…いやそんなはずはない。彼の中ではそんな思いが渦巻いていた。
「ロケット花火を撃ち合うのは、あくまで花火大会のイベントなんだ。僕たち西シャンバラ王国の契約者達が、王国や西側陣営の各校に命じられて、東側の契約者達と銃を撃ち合うための予行演習って訳じゃないんだから…」
「どうしたの?」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)がフリンガーを心配そうに覗き込む、何か不安を抱いているようだがどうしたのだろう?
「ごめんレナ、せっかくロケットを撃ちに来たんだけどさ、なんだか撃ち込む気になれなくなっちゃった…。だからさ、どうせなら中洲へ行かない? カップルと思われるのが嫌なら、いいんだけど」
「…いいわ、付き合ってあげます。楽しそうなイベントだもの、参加しないのは損よ」
 中洲へ赴いて、レナはフリンガーの不安の正体に思い至った。東西の岸を見やり、憂う表情は正しく東西戦争の可能性を透かし見ているのかもしれないのだ。
 しかし今はロケット花火から逃げ回るのが先である。
 強くフリンガーの手を握り、心に誓う。
 『たとえこの先どんな未来が待ち受けていようと、あなたはあたしが必ず守ってあげる』
「…レナ、何か言った?」
「えっ?」
「いや、頑張ろうね」
 手を握れば、同じだけ、いやそれ以上に力を返される、それに安堵するということを、二人は知った。

「フリンガーもレナも、仲良くやっとるのう」
 天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)はヴァルキリーの翼で空を飛び、二人の様子を眺めている。フリンガーに自分がつき合ってもよかったが、やっぱり年齢的なものだろう、彼が選んだのはレナである。仕方があるまい。
「まあ、そう思うのが大人げないのじゃろうな」
 大人げないならないで、ロケットを撃ち込む方にまわる方が楽しそうだ。
 担いできたロケット花火に火をいれ、空中から中洲に向かって撃ち落とす。
「ホレホレ、年寄りと思うて油断しておると痛い目を見るぞえ!」
 それを見て、綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)もロケット花火を束ねだした。ただ打ち込むだけでは、つまらない。
「幻舟も楽しそうだもんね、負けてられないな」
 ロケット花火を幾つも束ねれば、より射程の長い、かつ威力の高いものができるはずだ。
「じゃーん! ICBM(大陸間弾道ミサイル)級ロケット花火!」
 しかし、いざ点火すれば、束ねた自重で飛距離はどうしても出なかった。中洲に到達する前に墜落である。
「ううう、もうちょっと少ない束だったときは、うまく飛んだのに…」
 彼女の次のターゲットは、『クラスター爆弾型ロケット花火』だ。
 ロケットの束を小分けにして、空中で飛散させれば、広範囲を攻めることができるはず。
 腕がなるね! と構想を練り、ロケットを束ねている。

「あ…山葉くんだわ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は見物の人ごみの中に、山葉 涼司(やまは・りょうじ)の姿を見かけた。あの姿は間違いない。
 となりに誰かがいるようで、彼はそちらを向いて話しかけている。この位置からは見えないし、声は聞こえるわけがない。しかし楽しそうに見えた。となりにいるのは花音ちゃんだろうか、多分そうだろう、あんな風に笑っているのだから。
 超感覚を使ってみようか、と思った時だ。
「い…いくら想いを確かめるためとはいえ、こんな乱暴はいけません! 今すぐこんなことはおやめください。こんなことをしたって、何も…」
 だれも聞いていないだろうに、川岸からロケットを撃ち込む人の群に立ちはだかろうとするソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)の叫び声がこだまする…。
 リカインは頭を抱えた。お祭り騒ぎなんだから空気を読んでくれ是非とも!
 ちょいとばかり、今はこの素っ頓狂な暴走機関車のパートナーだと思われたくなかった。自らロケットとなって川岸に突っ込まれないよう、実力行使で黙らせる。
 肉体言語での説得が効いたソルファインを脇に転がし、元の場所を振り向くと、もう涼司はどこにもいなくなっていた。
「残念だな、聞いてみたかったことがあるのに」
 花音ちゃんのことを、彼は守ってあげられるのだろうか。
 シャンバラが東西に分かれたとて、リカインにその実感は今一つない、しかし山葉をはじめとした友人達が、その分裂の渦中にさらされて、つらい選択や、過酷な現実を目の当たりにして傷ついている。
 パラミタは激動の最先端だ、そのカッティングエッジは、常に誰かの一番大切なものに切り込んでいく。
「このままではそうやっているうちに取り返しがつかなくなって、こんなばかげたイベントも開かれなくなってしまうんでしょうね…」
 性別や所属も様々な人々が手をつなぎあう中洲を眺めながらぼんやりと考え込んでしまう。
 しかしそこで、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)の奇声が、リカインの沈みがちな思考を阻止してくれた。
「てめェら! 俺のために的になってくれてサンキュなー!」
「…まあ、こいつが暴走し過ぎないように見張るのもありね」
 それも、イベントのひとつの楽しみ方だ。

「もうどうして、あなたとワタシが組まなきゃならないんですのっ?!」
「そりゃー僕の台詞! …樹ちゃん、なんでぇ…」
 手を繋ぎながら、往生際悪くジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)はけんつくやり合っていた。しかし、林田 樹(はやしだ・いつき)の命令は彼らにとって絶対なのだ。
 二人はそれぞれ樹と組む来満々だったが、今現在これこのとおりの組み合わせである。しかも手はガムテープでぐるぐる巻きである。
「お前達二人が、中州に立ってこい。…命令だ。普段いがみ合っているんだ、こういう機会がないと心を1つに合わせることがないだろうて」
 にらみ合う二人に、とどめの一言を投げる。
「無事生き延びて帰ってきたら、お前等の我が儘をいくらでも聞いてやるぞ」
「じゃあ、ちゃんと僕らは行くから、今晩一緒にね」
「絶対ですわよ!? 樹様、約束ですわ!」
 利害を一致させて二人は中洲に向かったが、それはそれ、これはこれだ。
 中州には向かったものの、樹のもとを離れては、手こそ出さないが舌戦を繰り広げ続けている。
「おー、やってるやってる」
 樹は手をかざして中州を見通し、二人がわめきあっている様子をにやにや眺めている。仲良くしろよ、と二人を中洲に押し出したのだが、この笑いを見れば彼女の所行が如何に鬼であるかがはかれよう。
「コタローはビデオカメラで、二人の手元を撮っておいてくれ。記録、ってことだな」
「ねーたん、やっぱりじにゃとあき、おこってるお。やっぱりいきなりは、めーなんらお!」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は言うとおりにビデオカメラを回していたが、もう既に半泣きである。
「ね、ねーたん、どうしちゃったれすかーっ!?」
 樹はケタケタ笑いながらロケットを二人に向かって打ち込み続けているのだ。
「ふふふ…普段如何に私がお前たちに苦労させられているか…思い知るがいいさ…」
 ものすごい量のロケット花火が次々に点火されて、まっすぐファインダーの向こうのジーナと章に飛んでいく。
「れも、『よるもいっしょ』って、ねーたんねぞーわるいのに。じにゃ、あきらいじょーぶかにゃー?」
 その真相は、まだ君は知らないほうがいいんだにゃー。
「ねーたんあぶにゃー!」
 樹がロケットを撃つのに夢中になっている間、コタローはライトニングブラストで、対岸から樹に向かって飛んでくる花火を叩き落す。
 コタローがとっても恐れる火も、ねーたんへの愛のためなら克服してみせる。
「…れ、れもやっぱり、はなみ、こわいれすよー!」

「ちょ…、こ れ は ひ ど い」
 顔全体が顔文字になりそうな勢いで、七枷 陣(ななかせ・じん)はぼそりとつぶやいた。
 文字通り両手に花状態の彼には『リア充爆発しろ』という怨嗟の声が押し寄せ、ロケットのナイアガラとなって集中している。
 しかしリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)の手を握る七枷 陣には、恐れるものなど何もない。
 運営スタッフさんの、『おいおい…二股?』と翻訳するのだろう表情もへっちゃらだ。
 力強く二人の手を握れば、二人もまた力強く握り返してくれる。
「心配せんでええよリーズ、真奈。まぁ、一応オレも男やし? …守りきったるよ、絶対にさ」
 そんな三人に、容赦なくロケットの塊が押し寄せる。
「ボクにまかせてっ!」
 リーズが爆炎波で誘爆を狙うが、ほんのわずかにタイミングが遅れた。
「やべっ!」
 二人を背中に庇い爆発から遠ざける、しかし余波をまともにくらった。
「ぎゃー!」
 真奈もその反動をものともせずにハウンドドッグで弾幕援護を行うが、すべてを迎撃することはできない。
 基本的に花火を撃ち落すのはリーズと真奈の役目であり、撃ち漏らしや最終防衛は陣の役目である。
 陣がサイコキネシスで阻止したロケットがぽとりと足元に落ち、残った火薬であさっての方向へ飛んでいく。
 あるものは途中で軌道がそらされ、またあるものはそのまま元の場所に戻っていく。
「ああもーリア充爆発しろとか、そんなの関係ねぇ〜っ! だよ! 君達だってリア充になればいいじゃん!」
「リーズ、それは言うたらあかん…死亡フラグや…!」
「リーズ様! こんな火力に屈服するようでは、ご主人様の恋人の名折れですよ…っ!」
 しかしロケットの猛攻に耐え切れず、とうとうリーズが体勢を崩す。
「危ない!」
 追い討ちで繋いだ手をロケットに打ち据えられ、陣とリーズは二人同時に手を離してしまった。
「ぐああ…す、すまん…!」
「ごめんねぇ、真奈さん、ボクの分も二人で生き延びて…!」
 しびれる手をさすりながら、リーズは中洲を離れようとした。
「…いえ、リーズ様お待ち下さい。ご主人様、申し訳ありません」
 真奈のほうから、繋いだ手をほどかれる。リーズはもちろん、陣もぽかんとした。
「真奈さん、どうして!?」
「私だって…リーズ様もお守りしたかったんですよ? 同じくらい…大切な方ですから」
 頬をぽりぽり掻きながら、陣はゆっくりと締めた。
「まあ、あれやな。病める時も、健やかなる時も、って奴や」
「陣くん真奈さん…! わぁ〜ん!」
 3人は静かに中洲を離れ、川岸で中洲を見守り、屋台を冷やかしに行くことにした。

 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)キリカ・キリルク(きりか・きりるく)と共に中洲に降り立った。
 しかしロケット花火サバイバル会場と聞いていたのに、何故かカップルらしきコンビが多すぎて、場違いを感じてしまうのだ。
「なんだ、この妙な居心地の悪さは…。しかしこの帝王怯むまいぞ…!」
「カップル御用達といううわさが流れていましたからね。陰謀があるらしく、それは誤報だそうですよ。
 ほら、男女だけじゃありません、男同士も、女同士もいるでしょう? ですから信じないでください」
「なるほどな」
 繋ぎ合った手が相棒の熱を伝えてくる。ヴァルは何故かふと、キリカの指は自分よりずっと細いのだなと思った。
 何故か手がじわりと汗ばんだ、何故か焦りのようなものを感じて隣を見るが、キリカはいつもの冷静な彼の騎士の顔だ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない、行くぞ」
 二人は中洲に踏み出した。
 他人をかばい、互いを守り、かかる火の粉を振り払う。、
 ロケットが、槍をふって体勢を変えたキリカの背後に襲い掛かった、後の先で弾道を計算できても、手を繋いでいるため軽身功でかわす事ができない、繋いだ手を引き着地点から引き離すと、キリカはその勢いでヴァルの胸元にぶつかる、地面に墜落したロケットがはねた石がこちらに牙を向き、ヴァルはそのままキリカを守るように刀を振った。
「ふう、けがはないか?」
「あ…あの…っ」
「? ああ悪かった」
 ちょうどキリカはヴァルの胸元に顔をうずめ、抱きしめられるような格好になっていた。
「いえっ…!」
 おまけにキリカも体勢を崩したため、とっさに開いた手でヴァルにしがみ付く形となった。
―だ、抱きついちゃった…抱きしめられちゃった…! どうしよう!
 冷静な騎士の表情が崩れてしまうのを自覚し、とても顔など上げられない。
「どうした、どこか痛めたのか?」
 ヴァルがキリカの顔を覗き込む。
「な、なんでもないですっ!」
 騎士の表情を崩して頬を染めたキリカに、何故か帝王は狼狽した。その様子に何かを尋ねねば、と思ったのに、何を聞けばいいのかがわからない。
 どうしてそんな、お前がかわいく見えるんだろう、などとはこの帝王天が裂けたとて口にしてはならない。
 頭の中がかっと熱くなった、キリカの名を呼ぼうとして、…いやこの頭の熱は、ぶん殴られたのだ!
 キリカが持つ、忘却の槍で。

「…つぅ…」
「目が覚めましたか、申し訳ありません、貴方を守れずに…」
「そうか、大丈夫だったか?」
 帝王は繋いだ手をくぐるように身を起こした、キリカの膝を借りて横になっていたらしい。
 手は繋がれたまま、まだかろうじて失格はしていないことと、ほんの少しの時間しか経っていないことを知った。
「さて、まだいけるな」
「当然です」
「顔にすすがついている、守っていてくれたんだな」
 手を伸ばしてすすを拭う。頬に触れても、冷静な騎士の顔を崩さないキリカを、帝王は少し残念に思う。
 しかし倒れていた間ずっと、手を握っていてくれたのだと知ってほっとしたのだ。
 繋いだ手に力を入れなおすと、向こうからも力が込めなおされる。
 キリカは何を思っているだろう。…この熱は忘却の槍をもってしても、忘れることはないだろう。