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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「懐かしいな。巨大スライムが現れたのは、この近くだったっけか」
 何か通った後はないかと、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は地面を調べながら言った。
「イルミンスールの北は、何かとあるからな……」
 イルミンスールの森を北に進んでいけば、いつかは山岳地帯で足止めされてしまう。その先、あるいは大きくパラミタ内海を回っていけばコンロンに辿り着くというのだが……。いずれにしろ、イルミンスールの森は、国境に面しているのは間違いがない。
「撲殺事件というと、私の友人で野球のバット大好きな百合園生をつい連想してしまいますが……。ケイも、今は百合園女学院にいるのでしょう?」
 同行するソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、緋桜ケイに訊ねた。
「ヴァイシャリーは南になるから、方向が違うぜ。犯人の正体をわざわざ隠すために大回りしたっていうんなら分かるが、あまりそこまで手の込んだことをする必要性は感じないな」
「そうですよね。いくら彼女でも大量撲殺事件なんて起こすわけないです! たぶん! きっと!」
 ソア・ウェンボリスが思い切りうなずいた。そう信じたいが、かなり無理矢理な気もしないではなかった。
「それよりも、犯人がコンロンの方から、つまり国外から来たっていう可能性はないのかな」
 かつてオプシディアンたちがスライムを仕掛けてきたのもこの北側からだ。緋桜ケイたちはそれらの関係性の可能性を模索していたが、今のところその推測が正しいとする証拠は一つもない。現時点では、ただの可能性の一つだと緋桜ケイたちが考えているに留まっていた。
「犯人の姿を見た人がいないということは、魔導球のような遠隔操作の武器の可能性もありますね」
「いずれにしろ、犯人を捕まえてみれば分かることさ」
 二人はそのままスライムの湖が現れた付近を中心に探していったが、これといった収穫はなかった。
「おーい、御主人」
 予定の時間をかなり遅れて雪国ベアたちがやってきた。
 なぜか悠久ノカナタが光る箒に乗っているのでおかしいと思うと、代わりに小型飛空艇アルバトロスからロープでグルグル巻きにされたウィルネスト・アーカイヴスがぶら下げられている。地面すれすれなので、うっかりしたら何回か何かにぶつけてきたかもしれない。未だに気絶したままというのがなんとも……。
「なんで一人多いんだ?」
「そうです。なんで多いんです?」
 当然のように、二人が訊ねる。
「いや、まっすぐここへむかってたんだけどよ、ソラがこのへんに自分が落ちてるかもしれないって暴れて、あっちへふらふら、こっちへふらふら……」
「あるかもしれないじゃない」
 力説する『空中庭園』ソラに、『地底迷宮』ミファがうんうんとうなずく。
「で、道を外れたら、被害者Aが落ちてたってわけだ」
 コホンと一つ咳払いしてから雪国ベアが説明する。
「貴重な目撃者じゃないか」
 急いで、緋桜ケイがウィルネスト・アーカイヴスの許へ駆け寄った。
「で、誰か、治療魔法を……」
「……」
 深い沈黙が訪れた。
「いったん帰りましょうか……」
「うん……」
 ソア・ウェンボリスの言葉に、全員が静かにうなずいた。
 
    ★    ★    ★
 
「そろそろ、予想地点ですね」
 赤いバッテン印を書き込んだ地図を片手にナナ・ノルデン(なな・のるでん)がつぶやいた。
 事前に調べてきた殴打事件の場所は、多少ばらつきながらも一定の間隔で世界樹に近づいてきている。次の事件発生地を大まかに予想するのはそんなに難しいことではなかった。とはいえ、ある程度の範囲はあるので、こちらから犯人を見つけだすよりは、おびきだした方が確実だ。
「なんでこう毎回毎回囮役みたいな損な役回りはボクなんだろ……」
 一人先行していたズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は人知れず溜め息をつくと、後ろから光学迷彩で隠れてついてきているはずのナナ・ノルデンをチラリと振り返った。
「こそこそ闇討ちなんてせこいことしてないで出てきなよ!」
 犯人を挑発するように、ズィーベン・ズューデンが叫んだ。
「あれっ、誰か倒れているよね」
 道の先に倒れている人影を見つけて、ズィーベン・ズューデンが駆け寄ろうとした。
 ところが、道の中央に一本のランスが突き立てられている。
「これは……」
 ランスの背後には、曖浜瑠樹とマティエ・エニュールが倒れていた。
「どこかに犯人がいるんだよね!」
 ナナ・ノルデンに聞こえるように、ズィーベン・ズューデンが叫ぶ。
「あなたはそこにいますか。あなたは誰ですか?」
 ふいに声だけがした。
「誰だ、出てこい」
 ズィーベン・ズューデンがディテクトエビルで周囲の悪意を探す。突然、背後から強烈な感情をぶつけられて、ズィーベン・ズューデンがよろめいた。振り返るところへ、水平に棍の一撃が迫る。
「そんなもの……」
 とっさに氷術で氷の盾を作りだして防ごうとしたズィーベン・ズューデンであったが、粉砕された氷壁ごと棍の一撃で後ろへと吹っ飛ばされてしまった。
「こんにちは!」
 待ち構えていたかのように、地面に突き立っていたランスが倒れてきてズィーベン・ズューデンの頭をゴツンと強打した。
「ズィーベン!」
 一瞬の出来事に出遅れてしまったナナ・ノルデンが、わずかに遅れて氷術を放った。敵がナナ・ノルデンと同じように光学迷彩で姿を隠しているのであれば、足許を凍らせれば動きを封じることができる。
「やった!?」
 一瞬動きが止まったかのような敵にナナ・ノルデンは手応えを感じはしたが、さすがに凍りつけば光学迷彩など関係無しに目に見えるはずの敵の足が見えない。凍りついているのは、地面に倒れて気絶したズィーベン・ズューデンだけだ。
「まあ、ここにもいらしたのね。御挨拶が遅れて申し訳ご……」
 ナナ・ノルデンが覚えていたのは、そこまでであった。