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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「うう、ここはどこなんでしょうか。まさに聞きしに勝るダンジョンです。オルフェリア、困ってしまいます」
 初めて来た世界樹で迷子になりながら、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)は半べそをかいてあてどもなく通路を歩いていた。
「なんだか胸が大きくなるお薬があるって聞いたからやってきたのに……。これじゃ、天御柱学院にも帰れないのですよー!! というかここはどこなのですか!? なんだかひもじくなってきました……。あ、あんな所に人が。おーい」
 人影を見つけたオルフェリア・クインレイナーは、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしてそちらへと駆けていった。
「ふう、もうちょっとで焼き殺されるところでした。って、えっ、何、追っ手!? 嫌ぁ!!」
 ものすごい形相で迫ってくるオルフェリア・クインレイナーを見て、瞬間パニックになった天神山葛葉が悲鳴をあげて逃げだした。
「ああ、待ってぇ! オルフェを、オルフェをおいてかないでくださーい!」
 何か目立つ物で気を引こうと考えたオルフェリア・クインレイナーが血煙爪を振り回す。それがまた天神山葛葉の恐怖をあおった。
「狐ちゃん! あーあ、狩る側が狩られてどうするんだよねぇ。行くよー、鍬次郎」
 天神山葛葉のヒールで治療してもらったとはいえ、まだそこそこダメージが残っている斎藤ハツネが、大石鍬次郎をうながしてよろよろと二人の後を追った。
 
    ★    ★    ★
 
「私見ちゃったんです。そう、あれはイルミンスールの一教室で、私のねーさまと友達二人の四人でいたときでした。まあ、そのとき何をやっていたかはおいといて、突然『ここでも何か争いごとがあるですぅ?』という言葉とともに、頭に衝撃が奔ったんです。その後私はすぐに気を失ってしまったんですけど、意識が途切れる瞬間に人影を見たような気がします。そう、確か三人組の女の子だったと思います。年齢は私とそう変わらない十六〜十八歳くらいだったかな? 百合園の制服を着ていたような気がします……」
 世界樹の通路の角にある休憩コーナーで、久世 沙幸(くぜ・さゆき)はラジオ用のハガキを書き終えた。
「うん。これで、私が伝説を見たことが広まるんだもん。こんな感じで広めていけば、きっとそのうち気づいた真犯人が証拠隠滅のために現れるはずだよっ♪」
「はたして、そううまくいくと思っていらっしゃるのかしら」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、久世沙幸の作戦と言えるかどうか分からないものに対して、ちょっと懐疑的だった。
「そう、あれは恐ろしい体験でしたわね……。鈍い音ともに沙幸さんたちが倒れたと思ったら、次はわたくしたちが……。一瞬の出来事でしたね。あのときはみなであなたのたっゆんなおっぱいを胸育していたというのに……」
 過日の出来事を思い出しながら言う藍玉美海の言葉に、反射的に久世沙幸が恥ずかしそうに自分の胸を隠す。
「何も隠さなくてもよろしいんじゃありませんこと? ふふっ、私いいことを考えましたわ。あのときの再現をすればよいではないですか、そうすれば、また犯人が現れますわ」
 両手をワキワキさせながら、藍玉美海が久世沙幸にじりじりと迫っていった。
「さあ、沙幸さん、おとなしくわたくしに揉まれてしまいなさい。それとも、他にたっゆんになりたい方がいらっしゃれば、わたくしが丁寧に豊胸マッサージをしてさしあげますわ……」
「助けてくださあーい!!」
 突然後ろから狐の姿の獣人に体当たりされて、藍玉美海は久世沙幸のたっゆんな胸に顔を埋めて倒れ込んだ。オルフェリア・クインレイナーに追われていた天神山葛葉の変化した姿だ。
「あーん、オルフェリアはただたっゆんになりたかっただけなんですー。出口はどこですかー!」
 オルフェリア・クインレイナーが、天神山葛葉を追いかけて現れる。
「なんですって、本当に揉まれたいおなごが現れたですって!」
 その言葉を聞きつけた藍玉美海が、がばっと勢いよく起きあがる。
「獲物が増えたぜ」
「ふふふふふ、お姉ちゃん、ハツネとお人形遊びしましょう♪……なの」
 オルフェリア・クインレイナーの後ろからは、斎藤ハツネと大石鍬次郎が武器を手に追いかけてくる。
「なんですの、あの二人」
 ディテクトエビルでそこはかとない純粋な悪意を感じて、藍玉美海がとっさに氷術で通路に氷のバーを出現させて二人を通せんぼしようとした。
「斬る!」
 一刀の下に大石鍬次郎が障害物を切り捨てると、それを突破した斎藤ハツネがオルフェリア・クインレイナーにむかってリターニングダガーを投げた。
「危ないんだもん」
 久世沙幸が素早く投げた手裏剣が、空中で斎藤ハツネのダガーにぶつかって双方が弾け飛んだ。
「現れましたね。あなたたちが撲殺魔ですか? ちょっと違うみたいですけれど、私の豊胸マッサージを邪魔する者には容赦いたしませんわよ。まとめてお仕置きですわ。覚悟はよろしくて?」(V)
 両手に凍てつく炎を呼び出すと、藍玉美海が氷塊と火球を放った。
「まずいぜ、いったん退くか」
 かろうじてチェインスマイトで火球と氷塊の威力を半減させながら大石鍬次郎が言った。
 すぐさま、久世沙幸と藍玉美海が次の攻撃の態勢に入る。
「ぺったんこを襲う狼藉者はどこだぁ!!」
 そこへ、騒ぎを聞きつけた日堂真宵たちが斎藤ハツネたちの後ろからやってきた。
「ううっ」
 その言葉に、思わずオルフェリア・クインレイナーが自分の胸を両手で押さえる。
「天誅!」
「きゃああああぁぁぁ!!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの悲鳴を無視して、日堂真宵が魔道書のついた鎖を振り回した。久世沙幸たちからの攻撃に気をとられた斎藤ハツネたちが直撃を受けて薙ぎ倒された。
「さあ、お前たちのカレーを数えるのデース!」
 素早く二人の上に馬乗りになったアーサー・レイスが訊ねた。
「しるか、そんなこと!」
 大石鍬次郎が言い返す。
「いいでしょう、でしたら、お食事がお前たちのゴールデース!」
「うぎゃあー」
 言うなり、アーサー・レイスが両手に持った熱いカレーを二人の顔に押しつけた。
「あれが七不思議の正体でしたの? 拍子抜けですわ。わたくしたちの邪魔をするからこうなるのですわ。やはり、ここは豊胸マッサージですわね!」(V)
 そう叫ぶと、藍玉美海はクルリとオルフェリア・クインレイナーの方を振り返って手をワキワキさせた。
 
 
 深き森の中
 
 
「さて、七不思議とはいったい何なんだろうねぇ」
 てくてくと一人森の中を歩いているを装いながら、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は独りごちた。彼の後ろからは、光学迷彩で姿を隠したマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)がビデオカメラを片手に、撮影しながらついてきている。
「例えば、ゆる族の墓だけどねえ。大きな縫いぐるみ鞄を持った人間の話なんじゃないかなぁ。縫いぐるみの背にチャックがあるからゆる族に見えたとかぁ。あるとき、隠れ身を使い「ある物」を捕まえようとしたれどぉ、うっかり縫いぐるみを消し忘れて、チャックを開けて持ったまま追いかけたので、チャックの開いた空のゆる族が追いかけてくる話になったとかぁ」
「いったい、りゅーきは何語を話しているのでしょうか? 意味が分かりません……」
 曖浜瑠樹のつぶやきを聞いたマティエ・エニュールは頭をかかえた。
 だいたいにして、七不思議は、イルミンスールの森のどこかにゆる族の墓場があって、死期を悟ったゆる族は人知れずそこへ行って死を迎えるというもののはずだ。そのため、その谷には無数の着ぐるみが転がっているらしい。
 で、その学校の怪談が、どこをどうしたらそんな話になるというのだろう。
「そして、その追いかけられた生きている品物が……」
 どーして話がそこに飛躍すると、唖然としたマティエ・エニュールが、思わずがっくりとうなだれて地面を写してしまった。あわてて顔を起こすと、カメラを曖浜瑠樹にむけなおす。だいたい生きている品物って、付喪神か何かのことを言っているのだろうか。だいたい、なんでそこで付喪神が出てくるのだろう。
「人に捕まって売り飛ばされたために……」
 マティエ・エニュールのカメラが、今度は青空を写した。どうして、いきなりなんで捕まえたの売り飛ばされたの……。
「そこで、警戒した付喪神たちが隠れ里を作ってぇ、そこに近づく者たちを撲殺して、里の秘密を守っているんじゃないかなぁ」
 自信たっぷりに、曖浜瑠樹が言った。
「正直、ミッドナイト・シャンバラに投稿しても、即、没になりそうなネタじゃないですか」
 さすがに、今から駆け寄っていって後ろからどついて突っ込みたい気がするのだが、それでは、せっかく曖浜瑠樹を囮にして、七不思議の犯人の姿をカメラに収めるという計画が台無しになってしまう。
「おっと、光学迷彩が時間切れですね。もう一度姿を消さないと……」
 光学迷彩の効果時間が切れてしまい、マティエ・エニュールの姿が顕わになった。
「まあ、こんな所にいきなり人が現れましたわ。これは御挨拶しなければ。こんにちは!!」
 もう一度姿を消そうとしたマティエ・エニュールの背後で、突然そんな声が響いた。
「えっ!?」
 カメラを構えたまま振り返ったマティエ・エニュールを、メイスの一撃が襲った。
「うぎゃあ!!」
 持っていたカメラを粉々にされ、プリチーな白猫着ぐるみの頭をへこまされたマティエ・エニュールが悲鳴とともに倒れて気絶した。
「マティエ? どうした、大丈夫……」
「こんにちは、お友達から始めませんかぁ!!」
 あわてて振り返った曖浜瑠樹に、棍が襲いかかってくる。
「うがっ……」
 武器を持つ者の姿を確認する間もなく、曖浜瑠樹はその場に倒れ込んだ。