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【ろくりんピック】ビーチバレー in ヒラニプラ

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【ろくりんピック】ビーチバレー in ヒラニプラ

リアクション

 4.閑話休題
 

 ……話は前後する。
 
 林田 樹の試合の時、両チームの応援席ではチョットした事件があった。
 
 ■
 
「皆さん……俺、応援団長のクロセル・ラインツァートは、【東チーム】のため! ここで勝負に出ることにします!」
 意を決して、団員達に決意を告げた。
「我が【東チーム】の戦力は少ない。参加選手が圧倒的に少ないのです!」
「…………」
「けれど、そう悲観されることもありません。
 俺が、この俺がっ!! 自らの手を汚してでも、勝利を掴んで見せます!
 止めないでくだっさいっ!」
「……だ、団長!」
 【東チーム】は暫し感動の嵐に包まれる。
「と言う訳で、頼みましたよ! パートナーの皆様! 私に着いてきて下さい!」

 その時ちょうど、フラフラと力尽きてコートから出てきた【西チーム選手】が目についた。
「よし! 『あれ』を使いましょう!」
「……て、どうするのだ? クロセル」
 彼のパートナー――マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)は小首を傾げる。
「チョット来て下さい! 内緒話です、ごにょごにょごにょ……」
 
「何だか、肌寒くない?」
 【西チーム】の応援席である。
 観客達は一様に上着を着込んだ。
「ねぇ、吐く息が白いんだけど……」
「異常気象かしら?」
「でも、空はカンカン照りだよ?」
 空を指す。
 さんさんと輝くヒラニプラの日光は、容赦なく彼らに降り注いでいるように見える……。
「なのに、地上はブリザードなの? 変ね……」
 
「じにゃ、みて! あそこ!」
 【西チーム】応援席から樹を応援していた林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は、【東チーム】との応援席の境を指さした。
「あいすぷろてくと! やってるおねーたんがいるお!」
「アイスプロテクト?」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が、コタローの指し示す方角に目を向ける。
「あれは、【東チーム】の応援団長さんのパートナー!?」
 マナ・ウィンスレットが、確かにアイスプロテクトを掛けていた。
 その隣には、童話 スノーマンの姿が! しかも……。
「雪? ブリザードを使っているでございますか?」
 禁じられた言葉で強化された、ブリザードだ。半端な量ではない。
「しかし、なぜ?」
「生贄探し、ですよ。西の方……」
 クロセルの勝ち誇った声が、スノーマンの背後から流れてきた。
「これで! 失格させて、我がチームをこの手で勝利に導くのだ!」
 
 うおおおおおおおおおおおっ!
 
 クロセルは雄たけびを上げる。
 寒さで弱った【西チーム】選手を狙い、しびれ薬を持った後、ドラゴンアーツで次々と相手コートに放り投げようとしているのだ。
「コート内の選手は、『2人』が原則です! これで我がチームの勝ちですね!」
「樹様が失格!? そんなことはさせません!」
 ジーナはとっさに【六連ミサイルポッド】と【爆炎波】で応戦した。
 強力な風圧で、「選手の放り込み」阻止に成功する。
「じにゃ、こたもきょうりょくすんね! しっかく、はんたいらお!」
 コタローも火炎放射器で攻撃をはじめた。
 スノーマンのブリザードは、火炎放射器の炎により、相殺されてしまう。
 そればかりではない。
「禁じられた言葉は、行動順序が遅くなるでございます!」
 ジーナは嫌な笑いを浮かべる。
「私達の炎、おあつーございますな。暑さに【東チーム】側がひっくり返れば、オールオッケーでございます!」
「っ!! 我がチームへの『妨害』も兼ねていると言うのかっ!?」
 ブリザードは弱まりつつある。
 マナが機転をきかせ3人にディフェンスシフトを掛けるが、応援席中は至難の業だ、
(や、やりますね……こいつら、2人!)
(計画の練り直しと、体制の立て直しの、両方が必要とは……っ!!)
 クロセルは唇を噛むが、今は良い案が浮かばない。
 
「林田、フロイライン。俺も、俺達も手伝うぜ!」
「そうだな。言葉の暴力というのも、また一興であろう」
「特に俺のは、特技『説得』と『演説』のおまけつきだぜ! 受けてみろっ!」
 【西チーム】の二色 峯景(ふたしき・ふよう)『女神の手記』アテナ・グラウコーピス(あてーな・ぐらうこーぴす)は、【東チーム】を罵りはじめた。
 
 ――以下、ピーな罵り言葉のため、省略――

「きたねぇ、きたねぇぞ! ちっくしょおおおおおおおおおおっ!」
「俺は、俺達はこんなに言葉で憤ったのは初めてだあああっ!」
 【東チーム】の憤りに、アテナ・グラウコーピスが油を注ぐ。
「そーゆーおまえの母御は、でべそであろう! ペペペッ」
「てめぇの母さんの方がでべそだ! きったねぇヘソだ! ペペペッ!」
「何だとう! お前らの方が、きたねぇんだ! 汚くしてやる! ペペペッ!」
 
 こうしてクロセルの野望は潰え、東側応援団との口角泡飛ばす「ダーティー」な合戦が、前半終了まで続けられたのであった。
 
 ■

 ……話を元へ戻そう。
 前半終了直後の会場内――。
 
「何だか、そうぞうしいね? 気のせいかな?」

 応援席を横目でとらえて、サリー姿の少女がふらふらと応援席を歩いていた。
 コートでは、両チームの選手が前半終了のタイムアウトで、束の間の休息を取っている……。
 
 ■
 
(これは、チャンス! 絶対にチャンスよね?)
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はスマートフォンに手を掛けた。
(パルメーラをめぐって! 鮪&祥子タイムよ!)
(ささっ、根回し、根回し……と!)
 2人に、メールで連絡を取る。
(もちろん、争わせるために、ね〜♪)
(愛は戦いだもん! サービス、サービス〜♪)

 ■
 
 その頃――。
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は【西チーム】の応援席で、パートナー達からの報告を待っていた。
(敵はもう鏖殺寺院だけじゃないんだから!)
(ことを悠長に構えるつもりはないわ! 東西の対立狙う者が大会を狙っているかもしれないでしょ?)
(……でも、「偽カンナ」の変装はヤッパリ目立つのかしら?)
 「偽カンナ」というよりも、「御神楽環菜」風の「仮装」なのだが。
 観客達からは、大会を盛り上げるための「イベント」と取られたようだ。
 一緒にカメラに映って下さーい! 等とひっきりなしに懇願される。
 しまいにはうんざりしてしまったリカインなのであった。
(面倒臭くなったら、一喝してみよっかなー……と、その前に連絡連絡〜)

 同じ頃。
 リカインから命を受けたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、応援席の違う場所を徘徊していた。
「ディテクトエビル!」
 スキルを発動させる。
(これで、邪な想いを捜しあてれば、いいっしょ!)
(でもここ、敵チーム側だから、全員対象になっちゃうかも?)
 反応があった。
 目の前で、お茶を配っている少女だ。
(……て、えっ!? 空大の詩穂じゃないの?)
 シルフィスティは怖い目で睨みつけたものの、同じチームのメンバーに戸惑う。
 そこへ、はい、と詩穂がペットボトルを差し出した。
「2Lのお茶ですよー! 熱中症対策にいかがです〜?」
「え? ……ああ、うん。ありがとう、でも飲み物は……」
 ジュースを掲げる。
(いざとなったら、これで道に迷っちゃった、って言い分けするつもりなのよね♪)
「でも、1つくらい増えたっていいよね? 持っていって♪」
「……どういたしまして」
 ぺこっ。
 お辞儀をして立ち去った。
 飲んだお茶は、ただの緑茶だった。
「気のせいかなあ?」
 ひたすら首を傾げてしまうシルフィスティなのであった。
 
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)はシルフィスティ同様、ディテクトエビルで怪しげなものを捜しまわっていた。
 彼の前には、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)がいる。
「僕は本当に、ここで一生懸命応援しているだけでいいっスか?」
「はい」
 狐樹廊はにこやかに頷いた。
「それがリカインからの指図です。オレ達もそこかしこと見回りましたら、合流いたします」
「わかったっスよ! それまで、じゃ、1人で頑張るっス! 早く帰って来るっスよーっ!」
 アレックスは無心に応援をはじめる。
 狐樹廊は心で合掌しつつ、本来の作業をはじめるのだった。
(堪忍ですよ! アレックス。されど敵を油断させるためには、カモフラージュも必要なのですよ……)
 ビビッとディテクトエビルに反応が!
「やれやれ、思惑的中! てところですね。どこでしょう?」
 だが、振り向いた先にはだれもいない。
 【東チーム】の応援団が、自分達を睨みつけている。
「おかしいですね。オレら【西チーム】に対する悪意に反応してしまったのでしょうか?」
 彼が目をつけた先では、陽炎が笑っていた。
「ふん、俺、鮪様をフン捕まえよう! たって、そうは行くか!」
 一瞬【光学迷彩】を解いた南 鮪(みなみ・まぐろ)は、首を傾げつつ立ち去って行く狐樹廊を鼻先で嘲笑した。
「だがよぉ。あの女ぁ、何考えてやがる?」
 携帯電話のメールを見る。
 
『今なら、パルメーラちゃんはお1人様だよん♪
 頑張ってね! 鮪ちゃん、ファイトォッ!
 
 騎沙良 詩穂』
 
 ふむ、と一瞬考え込むが。
「まぁ、こまけーこたぁ、いいさ! パルメーラを捜すとするぜぇ!
 っと! その前に、防衛計画を……だな……」
 ブツブツ言いつつ、人ごみの中に消えて行く鮪なのであった。
 
 ■
 
 そして、「パルメーラ拉致事件」の幕は上がる。
 
 ■
 
「お茶〜! ペットボトルの冷たいお茶ですよ〜! いかがですぅ〜?」
 詩穂は応援席で「タダで」ペットボトルのお茶を、その場の人々に配り歩いていた。
「全部2L入りですよー。熱中症対策にいかがですか?」
「いやあ、それは助かるなぁ!」
「あんた、気がきくぜ! いい娘だなぁー」
「かわいいし、気が回るし……どーだ? 【西チーム】なんかにいないで、このまま【東チーム】にきちゃ?」
「ええー、そんなぁ! いやぁん!」
 詩穂は客の軽口にこたえつつ、「サービス精神」を発揮する。
 東西を問わず、彼女の行為はおおむね上々のようだ。
 これも「妨害工作員達の足止めや、拉致タイムのため!」などという腹黒い考えは、誰にも見透かされない。
 最も前者の方は、仕事を理由に断られてしまうことが多かったが。
(こちらにも、根回ししとけばよかったかな?)
 詩穂は気を取り直して、周囲の観客達に尋ねてみる。
「ところで、パルメーラちゃんと王ちゃんにも配りたいんだけど。どこにいるか知ってる?」

 パルメーラの居場所を、詩穂のメールにより知った鮪は、『広報席』近くの仮設女子トイレ前に向かった。
 そこには長い行列をなして、女子が並んでいる。
 もちろん、遥か後方から大鋸に見守られた、パルメーラ……と思しきサリーを纏った少女の姿も。
(その前に! チョイとカオスが必要だぜぇ!)
 鮪は、役員席に置かれた分厚いルールブックに目を止める。
(作戦の成功は、どさくさに紛れてやるのが一番さ! 俺様、あったまいいーっ!)
 周囲に注意を払う。
 誰もいない者影を見つけて、【光学迷彩】に身を包む。
 そして、そろそろとルールブックに近づき、適当な場所に加筆。
 そのままサリー姿の少女に近づく。
 背後から掴んで脇に抱えると、そのまま脱兎のごとく逃げ去った。
「あっ! パルメーラ!!」
「パルメーラ殿!」
 大鋸と警備団が慌てて追いかけようとする。
 鮪は【光学迷彩】をいったん解除して。
「おおっ! と。騒ぐ前にルールブックを読むんだなァ〜!」
「ルールブック?」
 警備団の1人が、役員席のルールブックに近づき、加筆部分を読み上げる。
「なになに、『相手陣営の可愛い子の自軍領域側への拉致(特にパルメーラの拉致)は加点』……て、おまえの字じゃないかっ!」
「い、いつの間に!?」
 おのれっ! と警備団が追いかけてくる。
「ちっ、バレたか!」
 今一度【光学迷彩】に身を包むと、そのまま走り去った。
「鮪の野郎っ! パルメーラを返しやがれっ!」
 大鋸も慌てて追いかける!
 彼の前に、ふらっと詩穂がペットボトルを差し出す。
「どーお? 王ちゃんも、ここは熱中症対策にひとつ……」
「ああ? 俺ぁ、いまそれどころじゃ……」
「大丈夫だって! それにここは教導団のお膝元でしょ?」
 確かに。
 透明人間に攫われたパルメーラの後を、大勢の警備要員達が追いかけて行く。
 まてーっ! てな具合だ。
「ううーっ。まあ、おめぇーの言う通りだけどよぉ……」
 大鋸は自棄にあっさりと引き下がった。
(あれ?)
(王ちゃん、もっと食いついてくるって、睨んでたんだけどなぁ……)
 大鋸の諦めの良さを不可解に思いつつも、取りあえずは接待に全力投球する詩穂なのであった。
 
 一方――。
 攫われたパルメーラ……と思しき少女を、空から監視していた者もある。
「連絡つかなくなっちゃったけど。心配だなぁ……」
 空飛ぶ箒に乗って場内を警備しつつ、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は地上のパルメーラの安否を気にしていた。
「古巣の教導団に【根回し】まで使ったのよ。ま、杞憂で終わればいいのだけれど……詩穂からは変なメールが届くし……」
 スマートフォンを片手でもてあそぶ。
 と、そこに。
 フワフワと宙に浮いたまま、高速で移動するサリー姿の少女の存在が!
 彼女の後ろを、もと同僚の教導団の団員達が血相を変えて追いかけているではないか!
 キャンディスの放送が入る。
「……ただいま入りました情報ですネ! 大変ヨー!」
「なんと! 南鮪と思しき人物が、【光学迷彩】を使って少女を拉致。そのまま逃走を図っているとのことデース……」
「何て事! 鮪め! 性懲りもなく……」
 3度目の正直! と祥子は叫んだ。
 柄に吊るしたボールを掴み、軽くトス
「鮪ぉぉぉ! パルメーラに、なにしてるっちゃーーー!!!」
 則天去私や轟雷閃をまとわせたスパイクで叩きこんだ。
 
 ズバア――ンッ!
 
 鮪! ノックアウト!
 と思いきや。
「へっ、【防衛計画】でおみとおしだぜぇ!」
 頭の避雷針をはずして、逃走!
「パルメーラをいただいたぜぇ! ヒャッハァ〜!」
 そのまま場外へと消えさったのであった。
「ああ! そんなぁ! パルメーラ……」
 祥子はふらふらと地上へ舞い降りてくる。
「でもこんな時のための根回しよね! それに教導団は古巣だもの、彼らに頼んで、パルメーラの行方をすぐに追わなければ……」
 
 けれどその必要はなかった――。
 
「え? パルメーラ?」
 数分後。
 先程鮪に攫われたはずの少女が、すたすたと祥子の元へ帰ってくる。
「パルメーラ! 大丈夫だった? パルメーラ……?」
「うん、パルメーラは無事だよ! 祥子」
「へ? 茜……?」
 
 しゅんっ
 
 少女はちぎのたくらみを解除して、元の姿に戻る。
 偽パルメーラ――湯島 茜(ゆしま・あかね)は、照れ臭そうに祥子に肩をすくめて見せた。
「パルメーラは広報席だよ」
「広報席?」
 祥子は広報席に目を向ける。
 
 そこには仮設トイレから戻ってきたばかりの、パルメーラの姿があった。
 大鋸が駆け寄る。
「なんだか、騒動があったみたいだね?」
「ああ、また例によって、下らねえ企みがあったみてぇだぜ!」
「でも、解決したんだね?」
 大鋸は頷く。
「誰のおかげかは分かっているよ、ちゃんと御礼言わなくっちゃね?」
 パルメーラはそっと胸の中で礼を告げるのであった。
(いきなり、身代りになる! なんて言われてびっくりしたけれど……)
(ありがとうね! 茜ちゃん。それに、祥子ちゃん)

 ■
 
 審判の笛が鳴った。
 キャンディスがここぞとばかりに、声を張り上げる。
「後半戦の開始ネー。両チームの、さらなる激しい攻防が期待されマァース。オーノー、鮪? 拉致タイム? 無理無理! パルメーラの警護は、先程の件で教導団の守りで、更にガッチリネー……」