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【ろくりんピック】ビーチバレー in ヒラニプラ

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【ろくりんピック】ビーチバレー in ヒラニプラ

リアクション

 5.試合(後半)
 
 
「後半戦の開始に伴い、審判長から現在までの試合経緯等の説明があります」
 審判長がワイヤレス・ピンマイクで、説明をはじめる。
「現在の得点は、【西チーム】5点 対 【東チーム】17点」
「後半戦には、前半戦に出場しなかった選手が出場します」
「サーブ権は、前半戦終了時に【西チーム】が得点された経緯から、【西チーム】のサーブで始まります」
「以上、よろしくお願い致します」

 審判に促され、両チームの選手たちがコートに入って行く……。
 
 ■
 
 【西チーム】リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)組 対 【東チーム】ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)組。
 
「手元の資料によると、ノストラダムス・大預言書選手は試合前に『予言』するそうネー!」
 キャンディスが、不思議そうに言う。
「『予言』? 私の本体とどっちが使い物になるんだろ?」
「……その前に、ユーの本体、とちゃんと機能してマスカ?」
「うん! 占いサイトには行けるみたいだよ! それじゃ駄目なの?」
「……では、カメラさん! 試合会場に、ズーム・イン!」

「……そうした次第で、自分、ノストラダムス・大預言書はこれから予言を告げやる。魔導将ノスに予言できないことはないのだ……」
 愛らしい魔道書の少女は、コート内で予言を告げる。
 スッと目を閉じて。
 
 魔の王が大いなる流砂に沈む。
 民は魔の抜けた王の姿を観るであろう。
 再び魔が宿るかは彼の者の心による……
 
「つまり……

『妨害工作にも正々堂々と立ち向かってたら、ビーチの砂に沈むであろう?
 皆、間抜けなジークの姿を観ることになるであろう。
 復活するかはジークのやる気次第である』
 
 ……という意味だな」
「ジークフリートが、僕ら【西チーム】の妨害をすべて引き受ける、って言うこと?」
「その通りだ! リアトリス!」
 ふはははー、とふんぞり返って登場したのは、ジークフリートだ。
 【西チーム】の応援席に向かって、挑発的に叫ぶ。
「俺は魔王ジーク。
 魔王を倒せるのは勇者の一太刀だけだ。
 妨害工作? 小賢しい真似だな……。
 くくく、さあ、かかってくるがいい!」
「何? 【西チーム】からの妨害をすべて受けるだと?」
「では、我々は静観するよりほかないではないか!」
 【東チーム】の面々はジークフリート達にすべて任せることに決めた。
「丸腰で? バカにしやがってぇ!」
「ならば、私達の妨害を受けてみよ!」
「ワタシ達も一応妨害組でございますし……」
「かえんほーしゃきれ、やるおっ!」
 【西チーム】の妨害組は正々堂々と妨害活動を行った。
 六連ミサイルポッド及び爆炎波で攻撃。
 火炎放射器で狙い撃ち。
 特技「説得」、及び「演説」による罵詈雑言の数々……。
 
 ……数十分後。
 
 筆舌い尽くしがたい妨害を受けたジークフリートは、ボロボロの姿になっていた。
 妨害組を煽った上に、『正々堂々と』仕返しも対策もしなかった結果だ。
 コート内でよろよろと歩きつつ。
「まさか、魔王たる俺がっ! いや、こんなことでは負けん……ぞ……」
 ぱたっと倒れる。
 ジークフリート、撃沈。
「予言でも何でもないが。やはり、何も対策をせずに正々堂々と相手からの妨害工作を総て受ける、というのには無理があったようだな」
 ノストラダムスははあっと深い息をつく。
「しかし、自分の予言がこんな形で当たってしまうとは……」
 頭を振りつつ、ジークフリートを引きずるようにしてコートを立ち去って行った。
「いったい、何がしたかったんだよ?」
 リアトリスとベアトリスは美しい顔の眉間に皺を寄せて、不可解な相手チームの選手を見送る。
 
 一方の、【東チーム】応援席。
 総ての『妨害工作の的』となって後の脅威を防ごうとしたジークフリートの勇気を称え、大きな拍手が送られる。
「さすがは魔王っ!」
「彼こそは真の『英雄』!」
「【東チーム】は全員で彼を歓待するぞ!」
「彼に続けぇーっ!」

 得点・サーブ権共に変わらず。
 だがジークフリートの捨て身の勇気で、彼の狙い通り、妨害組の体力気力は総て使い果たさせた。
 敵チームからの妨害の心配が無くなったことにより、【東チーム】の士気は上がる。
 地に伏したとはいえ、「魔王」の功績は当人の想像以上に大きい……。
 
 ■
 
 【西チーム】リアトリス・ウィリアムズ&ベアトリス・ウィリアムズ組 対 【東チーム】咲夜 由宇(さくや・ゆう)アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)組。
 
「『彼』が引き受けてくれたからぁ〜。これから先妨害の心配はないのですぅ〜!」
「そうだねぇ、由宇。だからぁ、安心して正々堂々と戦えるねぇー」
 由宇達は決意も新たに、コートへ入って行く。
「待って下さい! ですぅ。アレン」
 アレンが立ち止まって振り向く。
「由宇、何?」
「『超感覚』使おうと思ってぇ。攻撃に役立つと思うしぃ……」
 ぷよよんと、コウモリの羽が生えてくる。

 一方のリアトリスはベアトリスと打ち合わせをしていた。
「同じ水着に、同じ容姿……」
 ふふっ、とリアトリスはベアトリスの頬を指先で滑らせて、顎先を持ち上げる。
「僕達の武器は、これだけ十分だよ」
「ああ、アリス。分かっているよ……」
 ベアトリスは愛おしげにリアトリスの指先をつまんで、そっと両手で包んだ。
「精神論だけじゃ勝てない。ゲームには頭が必要だ! ってね」

 程なくして、試合が開始される。
 【必殺技】や【必殺防御】に頼らない攻防となった。
 
「アタック! いきますぅっ!」
 由宇は背の羽を揺らしつつ、素早い動作から撃った。
「くっ! 強い!」
「特技は『武術』ですものぉ〜!」
 あほ毛を逆立てて、由宇は得意げに胸を張る。
「馬の骨とは違うのですぅ〜」
「ふーん。なら、こっちは頭を使うだけだよ!」
「頭?」
 あほ毛が垂れる。
 怪訝そうな顔つきの由宇を前に、リアトリスはレシーブ。
 素早い動きで2人は入れ替わる。
「あれぇ? リアトリス、どっちですぅ〜?」
「ビーチバレーって、同一の人間が続けて2回撃つことは出来ないんだよね?」
 敵チームの少女達が笑った。
「リアトリスは撃てないよ! でも君らは防げない」
「だって、どっちがアリスなのか、分からないんだから!」
 ハッ! と2人同時にジャンプ!
「わわっ! 左につくから! 由宇はカバー頼んだよぉ!」
 だが打ったのは右だ!
「こっちが、僕――ベアトリスだよ! ハッ!」
「由宇っ!」
 由宇は超人的な速さでカバーに入るものの、撃ち返すのが精いっぱい。
 チャンスボールが敵陣に入って行こうとする。
「させないよぉ! 奈落の鉄鎖!」
 アレンはチャンスボールの軌道を変えて引きもどし、トスに返る。
「今だよぉ! 由宇!」
「うん!」
 由宇が再びアタックの体勢に入る。
「アトリ!」
「うん! ブロックだね!」
 ベアトリスは頼もしげにウィンク!
「カバーと同時に、トス頼んだよ! 時間差攻撃……と見せかけたフェイント攻撃で行こう! どちらが僕か分かるかな〜♪ ふふふ……」
 心底楽しげに笑う。
 その様子は、勝負、というよりもゲームを心から楽しんでいるようだ。
「トス、いったよ! アリス」
「サンクス! アトリ」
 リアトリスはドラゴンアーツとヒロイックアサルトを使用。
 2人は独楽のようにくるくると入れ替わる。
「さーあ、どっちだ? 由宇♪」
「今度の攻撃は、大変だよ? 1人でとめられるのかな?」
 由宇のあほ毛が益々下がる。
「ええーっ!? そんなぁー! わっかんないですぅ〜! 私、うぅ……」

 ……結果は両者譲らず、共に3得点3失点となった。
 失点が多かったのは、いざという時に頼りになる【必殺防御】が無かったためだ。
 体力気力総てに使い果たしため、両チームの選手が総交代となる。
 
 得点は【西チーム】8点 対 【東チーム】20点。
 サーブ権は【西チーム】。

 【西チーム】イレイン・ハースト(いれいん・はーすと)近衛 涼子(このえ・りょうこ)組 対 【東チーム】ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)組。

「ジークおにいちゃんのこともあるし、王おにいちゃんも見ていることだし。セツカ、がんばるですよ!」
「はい、わかりましたわ! ヴァーナーさん」
 2人のちびっこは、右側・【東チーム】のコートで、気合いを入れ直した。
「ボク達には、【ひっさつわざ】と【ひっさつぼうぎょ】があるです! だいじょうぶです! かちますよぉー、ふぁいっとぉ!」
 必勝のハチマキを締め直す。

 一方の、左側・【西チーム】のコート。
 イレインと涼子は気の毒そうに相手チームの選手を眺めていた。
「あたし達『こども』を相手にするの? 何だか大人げないよね……」
 涼子はイレインを見る。
 自分と同じく、スポーツで鍛えた長身の少女の姿がある。
「でも、ワタシ達は正攻法な訳なんだし」
 イレインは極めて冷静に、現実的な意見を述べる。
「【必殺アタック】は使わないよ。それなら子供とはいえ、相手の方が有利だろう?」
「まぁ、勝利のためには仕方がないよね?」
 涼子は気を取り直す。
 イレインは彼女を呼び寄せ、2人きりの円陣を組んだ。
「ではいくよ! 【西チーム】の勝利のために!」

(イレイン、チャンスボールだよ!)
(わかっているよ! まかせて!)
 イレイン達は精神感応を使い、正々堂々と勝負する。
(あたしはミラージュで幻惑するよ!)
 涼子は分身を作って、ヴァーナー達の視覚を惑わす。
「ひゃあ、セツカちゃん!」
「はい、背の大きい方々――同じですわね!」
「これじゃ、どっから攻撃しかけてくるのか、わかんないですぅー!!」
 分身たちの間から、イレインが飛び出す。
「いくよ!」
 レビテートと長身を活かし、高い位置からのアタック!
「これで、きまりだね!」

「なんのですぅ! 『いーじす・ぶろっく』!」
 ヴァーナーは【必殺ブロック】で対抗する。
「ライトブリンガー、フォーティテュード、オートガード、オートバリア、メジャーヒール、フルはつどーですよ!
 これで、どんなつよいアタックもはねかえすですぅ!」
 ヴァーナーは防いだ。
 ついでに、メジャーヒールの効果で体力も回復する。
「こんどはこっちのばんですよぉー。セツカちゃん、【ひっさつあたっく】! です!」
「はい! ヴァーナーさん!」
 セツカは高く頭上に上がったボール目掛けて飛びあがる。
「じゃ、こっちはミラージュで『分身ブロック』だもんね!」
「そーはいきませんわよ、西の方々」
「何?」
 セツカは天のいかづちを使った。
 ボールにスキルがまとわりつく。
「これが私の、『ライトング・フォール』ですわ!」
「え? 何? 飛べないよ!」
 涼子はブロックできなかった。
「天のいかづちの飛行解除能力で、飛べませんわー」
 ふふふ……とセツカは意地悪く笑う。
 そこで。
 
 ピピーッ。
 
 審判の笛。
「天のいかづちの飛行解除能力は、『コート内での相手チームへの妨害行為』に当たります。
 ヴァーナー選手とセツカ選手は、失格。退場を命じます……」

 ……ヴァーナー達は失格。退場となった。
「まさか! 飛行解除能力が失格対象だとは、思わなかったですわ……」
 しょぼくれた2人の前に、大きな影。
「いい試合だったぞ! 感動したぜぇ」
 大鋸だった。
 コートを出た所で、ヴァーナー達の労をねぎらいに来たのだ。
「2人共、よく頑張ったぜぇ!」
「うう、王おにいちゃん!」
 大鋸の胸に飛び込む。
 そして大泣きしながら、ヴァーナーは、別の機会に王おにいちゃんによい勝ちっぷりを見せますぅ! と誓うのであった。
(よーし、こんどこそ!)
 
 【東チーム】からは新たな交代要員が送りこまれてくる。
 得点は【西チーム】に1点入り、9点。
 サーブ権は西側のまま。

 【西チーム】イレイン・ハースト&近衛 涼子組 対 【東チーム】ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)組。
 
「俺達は正々堂々と勝負してやるぜ!」
「ああ、相手もそのつもりらしいからな! お嬢さん方よぉ!」
 右側にコートに入ったラルク達は指をパキポキと鳴らしつつ、イレイン達を挑発する。
「悪いが勝たせてもらうぜ! イレインよぉ」
 
 勝負は、ラルクの宣言通り、ワンサイドゲームとなった。
 以下にスキルを活用しても、やはり【必殺アタック】と【必殺ブロック】を多用されては手も足も出ない。
 3失点の末に、イレイン達は交代した。
「【必殺】とつくからには、それなりのものがあるということか……」
「あたしたちの読みが浅かった、それだけのこと。でも、1勝したわ!」
 涼子は爽やかに微笑んだ。
「相手の自滅とはいえ、チームに貢献できたのだもん。結果オーライだよね!」
「そうだね、ワタシ達は勝者なんだよね? 胸を張ろうよ!」

 得点は【東チーム】23点。
 サーブ権は【東チーム】へ移る。
 
 【西チーム】霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)組 対 【東チーム】ラルク・クローディス&秘伝 『闘神の書』組。
 
「14点差かぁ、チョッと厳しーかな?」
「大丈夫ですよ! 透乃ちゃん」
 やれやれと頭をかく透乃に、陽子は優しくフォーローの言葉を紡ぎ出す。
「私達は体力気力ともに充実してますし、必殺技だってあるのですから」
「そうだよね! 総合レベルだって58もあるんだし! 敵から見れば立派な強敵だよね!」
「うん、透乃ちゃん。その調子、その調子」
 ヨイショをしつつも、前向きな透乃を少し羨ましく思う陽子なのであった。
(私もこのくらいポジティブシンキングでしたら、はああー……)

 このカードは、久々【必殺技】や【必殺防御】を駆使した戦いとなった。
 
「いくぜ! 攻めるぜ! うおりゃあああああああああああっ!」
 ラルクはアタックでガンガンに攻めまくる。
「【必殺アタック】だ!」

 ドラゴンアァアア――ツッ!

 スキル名を叫びつつ、ラルクは渾身の力を込めてボールを打つ。
 
 バコンッ!
 
 弾丸のようなボールは、普通のレシーブでは返せない。
(ドラゴンアーツの威力で、弾き飛ばされちゃうね!)
(でも……)
「私なら、大丈夫だもんね!」
 殺気看破と女王の加護を使い、自身は爆炎波の炎を過剰なまでに全身に纏う。
「これがあたしの、【必殺防御】だよ!」
「何ぃっ!?」
 驚くラルクの目の前で、炎の塊と化した透乃はボールに飛びつく。
「殺気看破と女王の加護でボールのコースは見切れるよ! あとは爆炎波で撃ちあげちゃうだけだね!」
 ハッ!
 ボールは天高く打ち上げられる。
「けれどこのレシーブ力は、スキルの力だけじゃない。さすがは【必殺防御】ってところかな?」
「で、次は私の番ですね? 透乃ちゃん」
 攻撃の姿勢に入ろうとする。
「……とその前に」
 紅の魔眼で威力を高めたサンダーブラストをアウトラインに放つ。
「【必殺防御】? 陽子ちゃんの?」
 透乃は小首を傾げる。
 陽子は頷いた。
「だって、攻撃する時に妨害に気を取られるの、嫌ですから!」
(でも、その心配はないと思うけどな……)
 そう言った嫌な殺気が、ラルク側にない。
 正々堂々と戦える証拠だ。
 
 陽子は空のボールを指さす。
「さ、透乃ちゃん、いきますよ!」
「うんわかっているよ! 陽子ちゃん!」
 2人は声を合わせる。
「必殺サポォオオオ――トッ!」
「必殺アタァアアア――クッ!」
 
 とうっ!
 
 陽子は奈落の鉄鎖を使った。
 そのまま透乃を踏み台にして、高く飛ぶ。
 折しも、太陽の光の中に消えて行ったボールが急降下で落ちてきた。
「へっ! あの高さじゃとどかねぇな! お嬢ちゃん」
「いーえ、ラルクさん」
 陽子は地上を見下ろして、苦笑する。
「何のための奈落の鉄鎖でしょう? 自分の重力負荷を軽くするためですよ」
「何?」
 ラルクの予想を破って、陽子は上空でボールを捕らえる。
「封印解凍、アルティマ・トゥーレ!」
 スキル名を追加したのち、陽子は【必殺アタック】を放った。
「ハッ! これで1点です!」
「てやんでぃっ!」
『闘神の書』は、ボールの軌道を予測し体勢を整える。
【必殺ブロック】! 
「おぬしの玉の軌道なんだバレバレだ!」
「何ですって!」
 陽子が着地する前に、『闘神の書』は天空からほぼ垂直に落ちてくるボールをブロック。正確に相手陣地に跳ね返す。
「【必殺アタック】やぶれたり! だぜぃ」
「……さあ、それはどうでしょう? 回数を重ねれば、体力のある方が有利ですよね……」

 だが、その言葉は、言った当人の陽子達にそのまま帰ってしまう結果となった。
 体力だけをとれば、ラルク達の方が上だ。
 しかも前回のカードでは、短時間に必殺技3回でカタをつけた為、それほど体力の衰えはない。
 体力尽きた透乃達は1点を失う結果となった。
 そのまま、交代となる。
 
「けれど、私達もただで引き下がった訳じゃないもん!」
「そうですね!」
 と陽子。
「その証拠に、ラルクさん達の呼吸は上がっています。もう一息ですよ、もう一息!」
 次の選手にすべてを託して、2人は立ち去ったのだった。
 
 得点は【東チーム】に1点入り、24点。
 サーブ権は東側のまま。
 

 【西チーム】樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)組 対 【東チーム】ラルク・クローディス&秘伝 『闘神の書』組。
 
「いいか、俺達の阿吽の呼吸を東の亡者どもに見せてやるぞ!」
「ええ、刀真……」
 チョッと待って、と月夜が止める。
 刀真はコートの手前で止まった。
「いま、パワーブレスを掛けるから……」

「へっ、西はキレイどころばっかだぜぃ……」
「美人局、つーより、年若い夫婦見てーだな……」
 肩を大きく呼吸を繰り返しつつ、ラルク達は苦笑した。
「俺達の強がりも、いつまでもつか……」
「倒れるときゃ、一緒だぜぃ! ラルクよぉ」

 虫の息のラルク達に、刀真と月夜は息のあった攻撃で畳み掛ける。
「いくぞ! 【必殺アタック】!」
「いくぞ! 【必殺ブロック】!」
「いくぞ! 【必殺サポート】!」
 いずれも、金剛力を使った奥の手で、刀真は相手チームにトドメを指してゆく。
 【必殺サポート】で天高く放り投げられた月夜は光術を発動。
「【必殺アタック】! 食らってね♪」
「くっ! 眩しい!」
「何も見えねぇ! と、『闘神の書』!」
「あせるんじゃねぇ、ラルク。ボールの軌道を予測するぜぃ!」
 軌道計算。
 『闘神の書』は【必殺ブロック】で応対する。
 その間に、月夜はブロックで傷ついた刀真をヒールで回復させる。
「しかしだな、月夜」
「なぁーに? 刀真?」
「なぜ、俺の【必殺ブロック】は顔面ブロックなんだ?」
「……深いことは気にしなくてもいいの。さ、イタいのイタいの、飛んで行けーっ! じゃ、頑張ってね♪ 刀真」
「…………」
 
 ……最終的には、やはり「体力」がものをいうことになる。
 ヒールを使って回復に努めた刀真達が1点先取し、力尽きたラルクは交代に追い込まれた。
「しかし、俺たちゃー、2勝だぜ!」
「西の強敵ばかりだったし、大殊勲だろうぜぃ。立派、立派!」

 得点は【西チーム】に1点入り、10点。
 サーブ権は西側へ移る。
 【東チーム】の参加選手達は、残すところあと1組。
 
 だが――。
 ここから誰もが予想し得なかった【東チーム】の快進撃が始まる。
 
 ■
 
 【西チーム】樹月 刀真&漆髪 月夜組 対 【東チーム】藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)組。

「なぁ、月夜の様子がおかしくねぇか?」
 【西チーム】の応援席から囁きが流れた。
「何だか、顔色悪くねぇ?」
「あのヒール。刀真だけじゃなくて、自分にも使えばいいのにな」
「けなげというか、何というか……」

 ――優梨子、聞いたか?
亡霊は無言でアイコンタクトを送る
「ええ、応援席の声ですね? 【西チーム】の」
 ふふっ、と優梨子は優雅に笑った。
「敵に塩を送るとは、存外【西チーム】は間抜け面ばかりだこと!」
「…………」
「空大生に言われては、身も蓋もないですか?」
 亡霊はコクンと頷く。
「素直だこと。こちらへ……」
 優梨子は黒檀の砂時計を亡霊に使う。
「私には『用意は整っております』を使いました。亡霊さんは、心置きなくサポートに立ち回って下さい」
「…………」
「砂が落ち切る前にカタをつけます、御安心を。それと殺気看破も、お忘れなく」
 亡霊は無言で頷く。
「では、行きましょう! 私達の舞台へ」

「速いっ!」
 刀真は優梨子達の動きに翻弄された。
「奴ら、事前にスキルを使ったな!」
「察しの早いこと! 刀真さん」
「亡霊の陰に隠れたわ! 刀真!」
「っく! デカ過ぎて、女が見えん!」
 相手の【必殺サポート】。
 月夜が、声を張り上げる。
「背中、駆け昇ってくるわよ!」
「タイミングを計れ!」
 だがこの不意打ち的な行動は、2人の行動を完全に狂わせる。
 優梨子、亡霊の背を蹴ってジャンプ!
 利き手が大きくしなる。
「刀真!」
「ああ、また例の【必殺アタック】だろう、月夜……月夜?」
 月夜はフラフラだ。
「少し休んでろ!」
 刀真は月夜に叫んで、自分は【必殺ブロック】に行く。
 優梨子が笑った。
「あなた1人で攻めも守りもですか? いつまでもつことやら」
「くっ!!」
「このビーチバレーは、パートナーあってのもの。2人いなければ意味はないのですよ♪」
 
 ズバンッ!
 
 アタック撃ち込まれる。
 刀真の両手に阻まれて、ボールは上空へ。
「では、私達は『互い』を労わることにします、刀真さん」
 優梨子は亡霊とアイコンタクト。
 信じられないことが起こる。
「味方に吸血行為だと!?」
「吸精幻夜ですよ、うふふ……」
 優梨子の目は、次第に焦点が合わなくなる。
 だが、パートナーの操り人形になろうと何になろうと、亡霊と優梨子の目標が同じである以上、優梨子の「スキルによる行動制限」はないも同然だ。
 そしておかしなことに、吸血された優梨子の体も回復しつつある。
「え? ええ、はい! リジェネレーションで負傷対策も万全ですよ!」
「何だと!! おい、月夜!」
 月夜はもうろうとしながらも、刀真の回復に力を注ぎこむ……。
 
 結局、月夜の体力切れによる1失点の後、刀真達は交代することとなった。
「だが俺達はあのラルク相手に1勝した」
「ええ、コンビ―ネーションの勝利だわ!」
「長年の付き合いはだてじゃなかった、その証拠となるだろう……」
 後は優しく月夜に肩を貸す刀真なのであった。
 
 得点は【東チーム】に1点入り、25点。
 サーブ権は東側にうつる。
 
 【西チーム】クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)組 対 【東チーム】藤原 優梨子&亡霊 亡霊組。

 試合前のひと時。
 コートの出入り口にて。
「何してんだよ? たいちょー」
 エイミーはクレアの足元を指さした。
 砂地が微妙に盛り上がっている。
「妨害対策だ、エイミー」
「妨害? この期に及んで?」
「ああ、【東チーム】は総ての妨害を排除したが、【西チーム】は違うからな。【防衛計画】に基づき【トラッパー】をしかけたところだ」
 それに……と、これは眉をひそめて。
「我々も残り2組となってしまった。しかもここは『ヒラニプラ』。教導団の私達が、無様に負ける訳にはいかない」
 その後2人は怪しげな足跡が無いか探し、安全を確認したうえで左側・【西チーム】のコートへ入った。
 
「博識、ナーシング、セルフモニタリング……」
 コートの優梨子は指折り数える。
「医学と応急処置も、ですね? 一体何をするつもりなんでしょう?」
「…………?」
「相手コートのレシーバーですよ! 亡霊さん」
 あまりにも多くのスキルと特技を駆使するクレアに、優梨子は意図を読みかねる。
「まさか! こんな場所で病院を開く訳でもあるまいし……」

 その意味は試合開始直後に判明する。
 
「ナイスレシーブ! たいちょー!」
 クレアは優梨子の【必殺アタック】を難なくレシーブする。
(あれが、【必殺防御】ですって!)
 優梨子は我が目を疑う。
 はた目からは何の変哲もない、それは地味なレシーブなのだ。
(なのに、ことごとく拾われてます)
(必要最小限の動きで……なぜ?)
 
 不敵な笑みを浮かべたのは、クレアの方だった。
(なぜあのような一見ビーチバレーとは関係なさそうなスキルと特技を活用したのか?)
(あなた達の身体の僅かな兆候から、その後の行動を予測すためだ!)
(私はその情報を持って、的確に対処しているだけに過ぎん!)
(だが的確な対処は、体力の疲労も最小限に抑えるもの。これで回復スキルを使う優梨子達と、同等に戦えるはず……)
 エイミーっ!
 トスを放つ。
「あいよ! 当たると痛いぜ? 避けとけよっ!」
 エイミーは【必殺アタック】「アーマーピアシング(徹甲弾)」の体勢に入る。
 とどめの一撃にスナイプとシャープシューターを使った、貫通力のあるアタックだ!
「せいっ!」
 打った瞬間、ボールは弾丸型に変形し、回転しながら飛んでいく。
「よっしゃあ! オレはガンガンいったるぜっ!」
 エイミーは得意げに叫んだ。
 【必殺ブロック】に飛んだ優梨子が、ひっそりと笑ったのも知らずに……。
 
 ……試合は結局クレアが1失点の末、交代した。
「エイミーの体力が尽きてしまったか……しかたがない」
 防戦一方となれば、クレアへの集中攻撃は避けられない。
 1人で攻撃も防御もでは体力の消耗が激しくなるのもやむを得ない。
「では、行くぞ! エイミー」
 
 得点は【東チーム】に1点入り、26点。
 【西チーム】は最後の1組となる。
 
 だが、優梨子達は3試合立て続けだ。
 しかも高レベルな強敵ばかりを相手にした。
 亡霊の吸精幻夜の頻度は多く、それに伴いリジェネレーションでの回復が追いつかなくなりつつある……。
 
 【西チーム】手師峰 慎琴(てしみね・まこと)ライラ・オルペウス(らいら・おるぺうす)組 対 【東チーム】藤原 優梨子&亡霊 亡霊組
 

 【西チーム】応援席での一幕。
「優梨子がバテそうだぜ!」
「この分なら、一気に勝てるかもしれない!」
「交代要員は……誰でも大丈夫だろ?」
 応援団員と観客達、戦った選手達が少年に注目する。
「……お前でいいのか?」
「ああ、任せとけ!」
 慎琴は明らかに気の進まなそうなライラを引っ張って、最後の選手に名乗りを上げた。
「俺が、『正々堂々』とラストを飾ってやるよ! そんで、可愛い女の子達のハートもゲットだぜ!」
 にまっと笑う。
 
 だがその考えは甘かった。
 
「え? また、【必殺アタック】?」
「4点連取すればよい、と思っているのですよ! 敵は!」
 ライラが、後方から優梨子の考えを叫ぶ。
「体力に自信が無いから! 一気にカタをつける気なのです! 慎琴」
「くそぉ! 俺ぁ、どうしたらいいんだ!」
 慎琴達に必殺技はない。
(色々と準備が必要だったんだな。……だ、だが! 俺はボロボロになっても最後まで諦めねーっ!)

 だが、気力だけで勝つことは出来ない。
 技量が上手な分、優梨子達は立て続けに4点を連取する。
 
 スコアは「30対10」。
 その瞬間、【東チーム】の勝利が決まった。