リアクション
10
「よかったですぅ〜。『幸せの歌』が演奏できましたぁ」
4階スタジオブースに駆け込んで、局内を落ち着かせようと必死で演奏し、とりあえず責任が果たせたような気がする由宇。
「なあ、頼むわ。ちーの手紙を何とかみんなに聞かせたいんや」
社は千尋の手紙を片手に、前回ハッチャンクマチャンをいじりまくったのとは打って変わって、頭を下げる。
「いいと思う! 試験放送の内容も迷ってたところだし」
詩穂はむしろ乗り気である。
「秋葉原四十八星華が全然フィーチャーされないけどいいの?」
ハッチャンは詩穂に尋ねるが、
「う〜ん、いいです! 芸能人のお仕事は、みんなに喜びと幸せを振りまくことだもん」
「よう言うてくれた! 空京放送局も空京たからくじも、夢を配るのがもともとの仕事や。金も宝も欲しいのはみんな一緒や。せやけど、それに目がくらんでほしくないんや!」
さらにクマチャンは言う。
「試験放送がまじめな感じになっちゃうけどいいの? おふざけゼロだよ?」
「この際ええわ! 構成作家が許可する!」
社はどんと胸を叩く。
☆★☆★☆
「なるほど。お前が不正の張本人か」
今日この場に居合わせた者全員に囲まれ、向日葵、ダークサイズ、さらに放送局大株主の一人の環菜(ニセモノ)も居り、取締役はもはや逃げも隠れもできない。
「言っておくがここにいる者だけでなく、すでにこのマジカル★ナハトが、局の経営部や株主にも疑惑を話してある。無策ではまずいぞ?」
「……」
「さらにこのメイガス★マスカレイドが、重役周辺にくじを買わせてある。これで不正が明らかになれば、ただでは済まぬ、どころではないのう……」
綾香とメーガスは追い打ちをかけて、いかにも悪役っぽくフフフと笑う。
取締役は拳を握り、立ち上がる。
「……何がいかんのだ……自分の幸せと安全を自分で確保して何が悪い! そもそも、たからくじなど、他力本願なものに夢を託すバカどもが多いんだ。夢だと? バカめ! くじが夢であるものか。くじなど所詮賭博だ! 賭博は胴元が儲かるようにしかできていないんだ! それに引っ掛かる方が悪い! 世の中はそうやって回るのだ! 局にしてもそうだ。所詮小悪党のダークサイズに番組を持たせて、それで面白いだの笑えるだのと。悪者に頼って何が夢だ! ふざけるな!!」
取締役は、若干震えた声で、大演説をぶちまける。
ダイソウが手を震わせ、密かに軍帽の唾をクイ、と下げるのを、翡翠だけが気づく。
(ソウトウも怒りを押さえているようですね)
しかし、誰にも聞こえないようにつぶやくダイソウの声を、翡翠は聞き逃さなかった。
「何もそこまで言わなくても……」
(あ、泣いてたんですね……)
しかし翡翠は、あえて何も言わない。
「ふむ、よくぞ言い切りました。手前があなたを灰塵にしてさしあげましょう」
狐樹廊は、この男、もはや生きる価値なしと判断し、前に出ようとするが、そこにスピーカーから、ダークサイドのオープニングの曲が、これまた大音量でかかる。
『だああ! 音楽でかいよ! 下げて下げて!』
『うるさいわね! 使い方よく分かんないのよ!』
スピーカーからハッチャンと美羽の声が聞こえてくる。
『マイクテス、マイクテス。どうかな、入ってるかな? いやー、ようやくアンテナも復旧したってことで、ダークサイドの試験放送でーす』
『試験放送の特別サービス、秋葉原四十八星華のリーダー、騎沙良 詩穂ちゃんが何故かゲストです』
『どうもー! わー! ちょー緊張します〜』
『で、今日は何やるの?』
『えっとですね、今日は試験放送なので、空京放送局も原点に帰ろうって思いまして、素敵なお便りを紹介します。ラジオネームちーちゃんから』
詩穂が千尋の手紙を読み上げる。
『はじめまして! ちーちゃんです
いつも楽しくラジオを聞いてます
おもしろいお話でたっくさんわらったり、
ドキドキするお話でキャーってなったりしてます
でも、こんなお話をきかせてくれる人たちや、
まわりでお仕事をしている人たちは、
ホントはすーっごく大変だってききました!
それでもいっぱいがんばってラジオを作ってくれる空京放送局が
ちーちゃんは大好きです!
これからもラジオを楽しみにしているので
お仕事がんばってください
ダークサイドもこっそり聞いてます
早くちゃんとしたラジオができるのを楽しみにしてます(皆には内緒だよ)』
『あれ? 最後の一文読んじゃまずかったんじゃないの? 内緒だよって書いてある』
『え? え? そういう意味なの? 詩穂、てっきりフリだと思ってましたぁ』
『おいおいおいー!』
ダークサイドの相変わらずな適当トークが流れる。
千尋の手紙が流れる間、いつしか取締役は膝をついて顔を覆う。
「もういい……もういい。私をどこにでも突き出してくれ……」
取締役の声は、さきほどよりさらに震える。
「まあ、もうあなたの解任は確実。退職金も出ないわね。それにこのゴタゴタで、多額の賠償金を請求されるわ。それは全てあなたの罪」
ニセカンナ(リカイン)が、うずくまる取締役にさらに重い言葉を落とす。
「でもあなたはラッキーよ。なぜならここに私が居合わせたから」
と、ニセカンナ(リカイン)は、菫を見る。
「ん? あれやんの? あたしは構わないけど」
「私もそこまで鬼じゃないもの」
菫に意外なところで回ってきた出番。
彼女は今回の不正の改善として、提案を始める。
「ま、今後こういうことが起こらないようにさ、外部の監視委員会を作ろうって話なのよ。当然あたしは監視委員に入るけどね。(ついでにマージンがもらえるようにするけどね)で、それを一回試してみようってわけ」
「だからどうしたというんだ」
取締役は声を絞り出す。
「ジジイのくせに鈍いわね、あんた。今この場で、ここにちらばってるたからくじ券で、キャリーオーバーの一億Gを賭けて、くじをやるのよ」
「い、一億ぅー!」
キャリーオーバーの額に驚いたのは居合わせた人々。
「乱数プログラムとか不正とか、そういう面倒くさいのは今回だけはなし。私のケータイのルーレットで、一億Gの当選番号を決めるわ。取締役にもみんなにも、平等にそのチャンスをあげるわ」
「ま、まじかよー!」
降ってわいたチャンスに、みんな慌ててくじを拾い始める。
そんな中、ドキドキする鞆絵は、リカインに耳打ちする。
「り、リカさん。大丈夫ですか? 本当にばれても知りませんよ?」
「本物になりきってたら後に引けなくなっちゃったわ。でも幸い一億Gを管理してたのは取締役だし、後は野となれ山となれよ」
と、リカたちも違う意味での賭けに出る。
皆がくじを拾い終わり、ニセカンナ(リカイン)の前にずらりと揃う。もちろんキャノン姉妹も、何故か向日葵もわくわくしながらくじを持っている。
「このくじはアルファベットの組と、そのあとに続く10ケタの数字。まずはアルファベット!」
菫委員の仕切りで、ニセカンナ(リカイン)がルーレットを回す。
取締役は許された唯一のチャンスに、心から祈る。
(もう一切言い逃れはしない。全ての罪を贖おう。これに当たれば、賠償だけは解決できる! 頼む!)
「A組!」
「外れたー!」
取締役の夢は、一文字目で破れた。
ルーレットが回り、次々と数字が発表され、歓声と落胆の声が響く。
「4!」
「ああー!」
「7!」
「ちくしょー!」
「2!」
「2かよー!」
「0!」
「惜しいー!」
「3!」
「だめかー!」
みんな、当たっても外れても、何だか楽しそうに数字の発表を聞き、いちいち大きなリアクションをとる。
取締役はそんな様子を見て、思わずふと笑顔がこぼれる。
「7!」
「また7―!」
「8!」
「あちゃー!」
「1!」
「もうちょっとだったのにー!」
「0!」
「次ラスト!」
「6!」
全ての発表が終わり、しんと静まり返る放送局一階フロア。
いつの間にか試験放送も終わっている。
「さあ! 当選者は誰!?」
少し沈黙の時間が続き、その中でガタガタ震えながら、一つの手が上がる。
「……私だ」
「お前かよ!!」
「今回何にもやってないくせにー!!」
☆★☆★☆
後日。
本物の御神楽環菜の知るところとなり、大問題になる可能性もあったが、多忙を極め、ご存じのとおり超のつく富豪である環菜にとっては一億Gは大した金額ではない。
本当に勘違いか、めんどくさかったのかは不明だが、
「忙しくて覚えてないけど、もしかしたらそんなこともあったかもしれない」
と、くじの当選発表に関わったことを認め、当選者のダイソウトウには、本当に一億G支払われてしまった……
その後、ダイソウトウが一億Gを何に使ったか?
ていうか、この体制で空京たからくじは存続できんの?
それはまた、別のお話……
おしまい
最後までお読みいだたきありがとうございました。
今回空京放送局のラジオと少しリンクさせ、こんな感じのお話を用意しましたが、いかがでしたでしょうか?
いつものように、みなさんの多岐に渡るアクションは面白く、ダイソウトウの出番が増えたり(今回はちょっとしか出ない予定でした)、またしても総帥と大幹部に出演してもらったりで、発表に少し時間がかかっちゃいまして、すみませんでした。
常連さんを中心に、悩ましてくれる面白アクションも増え、「ちっくしょー、こんな無茶ぶりに負けるもんか!」って感じですw
ダークサイズメンバーも新たに増え、組織構成や把握をどうやっていこうか、ダイソウトウ閣下も嬉しい悲鳴を上げていることと思います。
当選した一億G、何に使ったんでしょうね。
ラジオで分かる、かもしれない。
次回のダークサイズには、そろそろちゃんとした悪事を働いてもらおうか、悩み中です。
というわけで、ありがとうございました。
今回初参加の方々も、また遊びに来てね。
ジークダークサイズ!