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空京放送局復旧作業・ダークサイズ新キャラの巻

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空京放送局復旧作業・ダークサイズ新キャラの巻

リアクション



 そういうわけで、ダークサイズもそうでない者もごっちゃになって復旧作業が開始された、放送局。
 力仕事、局内通信環境の復旧、パラボラアンテナや壁の色塗り、はたまた炊き出し要員まで、大勢の人員が動き出す。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)に図面をもとに指示を出す。
 ガートルードは土木会社『ハーレック興業』として、空京放送局の工事受注に成功し、今日の作業に必要な大量の資材、機材、お手伝い以外の作業人員を提供している。

「野郎ども! いっちょ始めるぜ!」
「おいっすー!」

 ネヴィルはハーレック興業の子分たちに号令をかけ、作業開始を促す。

「しかしハーレックくん、こんなでかい仕事を取ってくるとはねぇ」

 ネヴィルは髭をしごきながら、作業の様子を監督するガートルードに歩み寄る。

「ま、ここの取締役のような手合いはやりやすいものですよ。ああいう人種は『癒着』って言葉が大好きですからね」
「俺にはよくわからんが、談合だろうがなんだろうが、手は抜かねえぜ」
「もちろん。せっかくの裏金工作で利益率は思いっきり高いんです。質のいい仕事をしてもらって、放送局ビルは私たちの広告塔の役割も担ってもらわなければ」

 どこから情報を仕入れたのか、ガートルードは取締役のよからぬ金を目当てに談合工事を持ちかけ、すでに大きな利益を保証されている。
 ビル再建の工事そのものは、ハーレック興業の仕事として進んでいく。

「さぁーて、一体どこから手をつけりゃいいんだ?」

 局の入口の前で、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はさっそくタバコをふかしながら、辺りを見渡す。

「なんじゃ、おぬしも来とったのか……」

 若干不満げな眼差しでラルクに声を掛けてきた、グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)。そしてそれに従うアーガス・シルバ(あーがす・しるば)オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)伽耶院 大山(がやいん・たいざん)

「おう、誰かと思えば爺さんじゃねえか」
「爺さんと呼ぶ出ないわい! この若造が。まったく、復旧作業にダークサイズが顔を突っ込んでくるとはのう」

 グランはラルクに悪態をつきながら、腰をグイッと伸ばす。背筋を伸ばすと、ラルクに及ばずともなかなかの巨漢である。
 ラルクはグランを横目で見ながらニヤッと笑い、

「ま、放送局がこんだけ荒れたのは俺たちのせいだからな。必要とあれば人足になるのは当然だぜ。爺さんこそ何しに来たんだ?」
「爺さん言うな! こうなった原因はわしらにもあるからのう。できる限り責任は取っておかんとな」
「へへへ。何だ、目的おんなじじゃねえか」
「ふん……今日ばかりは休戦としておくかの」
「そういやよ、特にこの辺の瓦礫は、俺とあんたの技が炸裂したせいだよな」
「あそこの壁の大穴はおぬしのドラゴンアーツじゃの」
「あっちの吹っ飛んだ階段見てみろよ。あれ、爺さんのアックスだな。あんな大技よく出せるよな」
「爺さん言うな! 若いもんには負けんわ。おぬしのドラゴンアーツも直撃を食らったら危なかったの」
「はっはっは! あんたアレよくかわしたな。驚いたぜ」

 二人は何故かお互いの戦績を讃えあっている。

「……彼と我らは敵同士ではありませんでしたかな?」

 前回の戦いに参加していなかった大山は、二人の会話を聞きながら、アーガスとオウガに尋ねる。

「うむ。なぜ仲良く話しておるのだ、あの二人は?」

 いぶかしむアーガス。しかしオウガは、

「何をおっしゃる、アーガスどの。戦いという会話を交えた漢同士には、こういう連帯感はえてして生まれるものでござるよ」

 と、腕を組んで微笑ましく眺める。

「おおい、そこの人たち、ちょっと手伝ってくれないか?」

 グランとラルクが声の主に目をやると、エレム・ロンジェット(えれむ・ろんじぇっと)が大型のクレーンの脇で手招きをしている。
 ラルクはやっと仕事が見つかったと思い、

「おう! 力仕事なら任せてくれ。何すればいい?」

 とエレムに走り寄る。エレムはビルのてっぺんを眺めながら、

「いやあ、しかし派手にやらかしたもんだね。まさか屋上のアンテナが吹っ飛んでるとはな」
「はっはっは。面目ねえ」

 屋上の破壊状況はラルクのせいではないが、彼はダークサイズの一員としての自覚からか、謝罪する。

「いやいや、オレからしたら仕事が増えてありがたいんだけどね。オレ、重機の操作が専門なんだ。機材を上に運びたいんだが、エレベーターも壊れてるらしくてなあ」
「オレにうってつけの仕事じゃねえか。手伝うぜ」

 ラルクは嬉々として腕をまくる。そこにグランもやってくる。

「よし、では片っ端から運ぼうかの」

 グランは大きな道具箱に手をかける。それにエレムは驚く。

「お、おい爺さん、大丈夫か?」
「爺さん言うな! わしを甘く見てもらっては困るわい」

 グランは箱を軽々と持ち上げる。

「す、すげえな……」
「よっしゃ、オレも負けてらんねえぜ」

 ラルクも負けじとさらに大きな鉄筋の枠を持ちあげる。

「ほれ、おぬしらも手伝わんか」

 グランはアーガスたちにも指示を出す。エレムも、

「階段を通れない大物はクレーンで中継しながら上げるから、持てる物持って四階まで一旦上がってくれ。そこから屋上には滑車も使えば楽に上げられるからさ」

 即席の肉体労働チームは一気に稼働を始めた。

「我はあくまでプリーストなのだがな……」

 大山はぽつりと不満を呟く。アーガスも、

「それを言ってしまえば、吾輩もだ。そもそも壁面を破壊するような大技を繰り出したのは、グラン殿とラルク殿であろう……」

 と、ぶつぶつ言っている。オウガもオウガで、

「それは拙者も同意でござる。今日はこういう地味な作業なのでござるか? あ、そういえば向こうのフロアを火事にしたのはアーガス殿でござらぬか」
「オウガ殿、それは揚げ足取りというものであるぞ」
「そもそも我は戦闘に参加しておりませんでしたぞ。なぜ今日に限って駆り出されておるのですかな」

 グランのパートナーたちは次々に文句が出てくる。

「やかましいぞおぬしら。口の前に手を動かさんかい」
「はい……」

 グランの一喝に、理不尽な思いをしながら重い機材を運んで行くのであった。



☆★☆★☆



 ラルク達が地道に階段を使って機材を運ぶのを尻目に、朝野 未沙(あさの・みさ)朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)は、破壊されたエレベーターや、崩壊した壁を眺める。

「うーん。これはなかなか見事な崩壊っぷりだね」

 未沙はぼろぼろの一階を見渡す。

「今日は私たちの大活躍なのっ、お姉ちゃん!」

 未羅はすっかりはりきっている。

「私はぁ、アンテナの設置に行きたいですぅ」

 未那は未沙に自分のやりたい仕事を申請する。未沙は二人に向き直り、

「よっし! じゃあ私はまずエレベーター補修にとりかかるね。未羅ちゃんは穴だらけの壁の修理。パラボラの設置は人手がいると思うから、この辺が一通り終わったらエレベーターで屋上に行こうよ」

 と指示を出す。二人はうなずき、

「今日もアサノファクトリー、お仕事がんばっちゃうよ!」

 機械系修理に大工のフォローもお任せのアサノファクトリーは、素早く作業に取り掛かる。
 機械にめっぽう強い店主の未沙は、迷わずエレベーターに取り掛かる。

「エレベーターのワイヤーはここに通して、箱は総とっかえね。溶接の道具もばっちり。ってその前にこの瓦礫を何とかしなきゃ。あ、そこの人!」

 未沙は、階段の行き来で早くも音を上げそうになっている、アーガスたちに声をかける。

「吾輩たちであるか?」
「うん! この辺のコンクリートと壊れたエレベーターを、外に運び出してもらえる? 全部ゴミでかまわないから」

 と、未沙は大きなコンクリートの破片や歪んだエレベーターを指さす。

「え、ええと、これ全部でござるか?」
「もちろん! 女手じゃびくともしないんだもん」
「よし! このラルク様に任せな!」

 ラルクは率先して瓦礫の運び出しにも取り掛かる。グランもすぐにやってきて、

「何をぼーっとしとる、手伝わんか」

 と、男総出でかからないと動きそうにない瓦礫を見て呆然とするアーガスたちを促す。

「吾輩は肉体派ではないのだが……」
「拙者もこういうのはちょっと……」
「そもそも我は関係ないはずなのだが……」

 アーガス、オウガ、大山はうんざり気味に肉体労働にとりかかる。
 一方、未羅は壁からむき出しになって歪み、融解し、切断されてしまっている鉄骨の骨組みを溶接しにかかっている。

「鉄の骨組みをこんな風にできるなんて、ダークサイズってすごい人たちなの……」

 未羅は感心し、誰にとはなしに一人で喋りながらテキパキと作業を進める。

「鉄筋の溶接と補強で下地を作るの。木枠でふさいでセメントを流し込むの〜。今日は奮発して速乾セメント使うの。セメントは水との割合が大切なの。壊れる前よりガンジョーにしてあげるの」

 機晶姫だからだろうか、未羅の作業はいざ始まると圧倒的に早い。一階部分の壁と床の補修をあっという間に終えてしまう。

「ふふ〜ん、カラーコーンにポールを立てるの。張り紙で注意事項なの。『セメントできたて』、と。お姉ちゃ〜ん、終わったのー」
「早いね、未羅ちゃん! えらいえらい」

 未羅は未沙に撫でてもらって、ご満悦だ。
 未沙も未那のフォローで、手早くエレベーターの修繕を進める。

「またダークサイズとか暴れたら困るもんね。ワイヤーもボックスも全部最新にしておかなくちゃ。あれ。意外と緊急時対応が甘い作りなのね。非常時無線も仕込まなきゃ」
「ぬぉわははは! 設備内通信の設置ならば、吾輩らに任せるのだ!」

 そこにやかましい笑い声をあげて現れたのは、ダークサイズのトラブルメーカー、青 野武(せい・やぶ)と、黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)

「うわぁ〜ん、変なおじさんが現れたですぅ〜」

 明らかに怪しげな出で立ちの集団に、おびえる未那。

「失敬だなチミは! 変なおじさんってか! 吾輩は天才サイエンティスト! 前回はさすがにやりすぎたので、今日は放送局の復活に一役買ってやろうというのに」
「変なおじさん……ほぼ正解ではないですか」

 金烏は、未那の命名に納得しながら野武を見る。

「ぬぉおおい! パートナーともあろう者が何たる口のきき方! そんなことより作業を進めるのだ」
「さあ、細かい作業は私たちに任せて。貴殿らは休憩するなり、他にも必要な作業があればそちらにどうぞ」

 シラノは野武より幾分紳士的に、未沙たちを促す。
 未沙はそれならばと、

「じゃあこれはお任せするとして……でもエレベーターが動くようになるまで屋上のパラボラには手を出せないなぁ」
「階段で屋上は疲れるですぅ」

 未那もはやる気持ちはあるが、階段の辛さのほうが先行している。すると未羅が、

「ねえお姉ちゃん、未那お姉ちゃん、セメントがもう乾くころなの」
「さっすが速乾セメント! いい仕事してくれるね」
「それでね、お姉ちゃん。壁の塗装は私苦手なの」
「そっかぁ。誰かやってくれる人いないかなぁ」

 話しながらエレベーターから離れる未沙たちを見送り、

「よしよし、これで心おきなく秘密工作ができるのである……」

 珍しく声を抑えてほくそ笑む野武。

「非常時無線のふりをして、吾輩らが設置するのは、今回のすっとこしっちゃかメカ! 超小型盗聴装置! これをビルの要所要所に埋め込めば、放送局のあらゆる情報がダイソウトウ様に筒抜けとなるのだ! 局の弱みを握れば支配も容易となるであろう! ぬぉわはははは!」
「青、ちょっとうるさいです。作業がはかどりません」

 シラノが黙々と作業をしながら、野武を冷たくあしらう。

「ぬぉ! 今日のおぬしらは吾輩にぞんざいであるな!」

 一方、暇そうにしているのは、ノニ・十八号。

「エレベーターは狭くて何人も作業ができないですね。退屈なのですよ」

 ノニ・十八号がぼんやり野武たちの作業を見ていると、そこに通りかかる人影。

「おや、もしかして君たちは……」
「やあ。十八号くんだよ」

 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)はきらりと獲物を見つけたと目を光らせる。

「青さんの一派ですね?」
「わあ、すごい。よくご存じですね。お父さん、僕たちもずいぶん有名人のようですよ」

 ノニ・十八号は、嬉しそうに野武の背中をたたく。

「邪魔をするでない、もう少しで終わるのだ」
「青 野武さん」

 と、エメは大量に用意してきた白のペンキ缶を一つ取りだす。

「何かね。吾輩は忙しいのだ」
「先日はお世話になりました。お返しです」

 エメは、前回野武のススで真黒に染まったお返しに、白ペンキをまるごと彼におっかぶせる。

「ぬぉおお! 何をするのだ!」
「よくも私を漆黒に染め上げてくれましたね。今日は君たちを真っ白に染めてあげます」
「のわああああ!」

 エメが白ペンキを振り回しながら、逃げまどう野武たちを追う。

「なんなのだ、一体!」
「こないだの報復のようであります。完全に思い当たる節があるので仕方がないかと」

 逃げながら冷静に返す金烏。
 野武は逃げながらシラノに問う。

「設置は完了したのであるか!?」
「ちょうど終了しました」
「よし、では次の階で作業である。さらばだ!」

 野武は懐から簡易スイッチを取り出し、

ぼむっ

 と、煙幕を張って姿を消した。

「む、逃げられましたね……」

 エメは仕返しをし足りないのか、舌打ちをする。
 と、その鬼ごっこを眺めていた未沙。

「ねえねえ、そこの人!」
「私ですか?」
「ちょうどよかった! 壁のセメントが乾いたところなの。壁の塗装やってくれない?」

 エメはふと考え、うなずく。

「いいですね。放送局の一階エントランスは、私好みに真っ白にしてあげましょう」
「よかった! じゃああたしたちはパラボラの作業に向かうから!」

 と、未沙たちはさっそく復旧したエレベーターに乗り込んで、素早く屋上に向かう。

「おや。私一人で、となるとなかなか大変ですね……」

 引き受けたはいいものの、決して狭くはない一階を見渡して、エメは困った顔をする。
 しかしすぐにキリリと覚悟を決めた顔をして、

「請け負ったからにはやり遂げて見せましょう!……って何やってるんですか!」

 エメが白ペンキを抱えて壁塗りに取り掛かろうとしたそばから、すでにレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)チムチム・リー(ちむちむ・りー)が、すでに壁をべたべた塗り始めている。

「壁の色塗りお手伝いしてるんだよ?」
「ああっ、せっかく美しい白の世界を表現しようとしたのに……」

 見るとレキは様々な色のペンキをひっくり返しながら、山やら鳥やら野菜らしきものを描いている。

「放送局が壊されることがないように、おめでたい絵を描いてあげなきゃ」
「あの、それは何を描いてるんですか?」
「えーっ、見てわかるじゃん! 1富士、2鷹、3なすび!」

 レキはどうも絵のシルエットは苦手らしく、それとは分からないくらい歪んだ輪郭で絵を描いている。

「白……白が塗りたい……」

 エメは呆然とレキの絵を眺める。

「あ、ねえねえ! ちょっと手伝ってー!」

 と、局の入口から氷見 雅(ひみ・みやび)が彼らに声をかける。

「やあ、どうしました?」
「ビルの外壁に何かドでかい絵を描いてやりたいのよ。ペンキ係の人に手伝ってほしいの」

 レキとチムチムのきらりと目を光らせ、

「やるやる! ボクたちもやるよー」
「面白そうアル」
「何を描いたらいいと思う?」

 雅がアンケートを取ると、

「もちろんダイソウトウって人だよね!」
「当然ダイソウトウアル」
「ダイソウトウに決まってんだろ」
「わ、びっくりした!」

 見るといつの間にか久途 侘助(くず・わびすけ)が雅の後ろに立っている。

「ちょっと、後ろに立たないでよ」
「壁に描くならダイソウトウだろ。ビル7階分のダイソウトウ! あと屋上にあの旗立ててやろうぜ」

 侘助が外を指さすと、彼が昨夜頑張って用意してきた、パラボラより大きな旗が地面に刺さっている。

『謎の闇の悪の秘密の結社・ダークサイズ! 入団はこちらまで!』

 ご丁寧に問合せ先まで書いてある。

「壁いっぱいのダイソウトウが、頭のてっぺんに旗さして立ってる絵! これ面白いんじゃねえ?」
「懐かしのハタ坊、いや、ハタトウってわけね。それ採用!」
「取締役に怒られません?」

 エメは一応注意するが、そんな忠告も意に介さないのがダークサイズ。

「いいのいいの、面白ければいいのよ。これは人手が要るわよー! 早速レッツゴー!」

 雅に続いて侘助、レキ、チムチムも外へ走っていく。
 エメはそんな彼らを見送って、

(チャンス!)

 と、一階エントランスの壁を真っ白に塗りなおしていくのであった。



☆★☆★☆



 ひょんなことから空京放送局の壁一面に、ダイソウトウの巨大壁画を描いてやろうという、即興プロジェクトが始まった。

「よーし! クレーンにゴンドラ設置したから、上のほう描く奴は乗ってくれ!」

 エレムが数人をゴンドラに乗せ、グランやラルク達はペンキや巨大なハケなどを次々に運ぶ。

「さあニコさん、謝罪と反省を込めて、しっかり働きましょう! いやあ、それにしても暑いですね」

 ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)は、額に汗して瓦礫運搬と壁塗り作業に全力で取り組みながら、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)に発破をかける。

「ちぇ、めんどくさいよ……」
「何を言ってるんですか、自分の不始末は自分で……あれ? ニコさん?」

 ユーノが振り返るといるはずのニコの姿がない。

「おかしいですね……」
「おおい! イントレの組み立て手伝ってくれー」
「はいっ、喜んで!」

 遠くからの声に素早く反応して、率先してキツイ作業を手伝うユーノ。

「くふふふ……その程度の人数で復旧作業など笑わせる……」
「な、何者!?」

 そこに怪しい笑い声と、悪役っぽい気配に反応するユーノ。作業中の他の面々も、何だ何だと周りをうかがう。

「あんな取締役にいいように使われるのが、そんなに嬉しいかっ」

 組み立てたばかりのイントレの上に現われたのは、黒犬の仮面と魔術師風黒衣で身を隠した謎の人物。

「僕たちは、謎の闇の悪の秘密の結社・ダークサイズ……」
「……何だ、ニコか」
「おい、遊んでねえで降りろ。邪魔だよ」
「お前、ダークサイズの名乗り、一人でやるなよ。ずるいぞ」
「ち、違うっ、ニコじゃないっ」

 速攻で正体を見破るダークサイズメンバーに、必死で否定するニコ。そうとは知らないレキやチムチムは、

「わあ! ダークサイズだ!」
「噂のダークサイズアル」

 と、それなりの反応を示す。それ以上に反応するのがユーノである。

「お、おのれ! 現れましたね、ダークサイズ!」
「いや、あれ君のパートナーでしょ」
「違います! ニコさんはあんなんじゃない!」

 ユーノは、ニコの比較的雑な変装を全然見破れない。

「君たちの善意は取締役に利用されているだけだ。間もなく僕の仲間が、放送局の不正と悪事を暴いてみせる」
「な、何! どういうことですか」
「くふふ……これは置き土産だ」

 ニコは氷術を発動させ、氷の柱を作り上げた。

「うおおー、涼しい」
「こりゃありがたいや」
「いずれわかるだろう。空京放送局を支配するに相応しいのは、あんな年寄りなどではなく、ダイソウトウであることを。ジーク……」

 みんなが喜んでいるのを眺めながら、ニコが決め台詞を言おうとしたところ、

すぽん

 ラルクがニコの仮面を取り上げる。ニコもあわてて顔を隠す。

「氷の柱もいいけどよ、作業手伝えよニコ」
「だ、ダークサイッッ!」

 ニコはあわてて姿を消す。

「あ、おい! さぼるな!」

 結局にこの正体に一切気づかないユーノは、

「ダークサイズ……ただの悪者ではないということですか……放送局に一体何が」

 と、やたらシリアスな顔をする。
 レキとチムチムは作業を再開しながら、

「行っちゃった……」
「あ、レキ。また富士山描いてるアルか。ダイソウトウ描くアル」
「だってパラミタの人にも富士山知ってもらいたいもん」
「……富士山、そんな形じゃないアルよ」

 チムチムはレキの歪んだ富士山を指摘するが、レキはお構いなし。

「ダークサイズって何なんだろうね、チムチム」
「よくわからないアル。でも本物が見れたから満足アル」
「いや、俺たちもダークサイズなんだけどね」

 ラルクや侘助が、やんわり突っ込みを入れる。

「それにしてもニコさんは一体どこに……お手伝いがあるというのに」
「……真面目かっ!」

 ラルクや侘助が、今度は強めに突っ込んだ。


☆★☆★☆



「うむ、素晴らしい! ダイソウトウ閣下の巨大壁画が完成間近なう!」

 わりかしスムーズに進んでいる壁画制作の様子を見ていた、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)。彼は慣れた手つきで、『ぱらみったー』でつぶやき続ける。

「閣下が空京放送局に上洛なさる頃には、胸を張ってお迎えできるぞ。おい、カメラはまだ回らぬのか?」

 ミヒャエルはカメラやパソコンと格闘するアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)イル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)をせっつく。

「おかしいわね、上手くつながらないわ」
「どうしたらいいの、これ?」

 アマーリエとイルは、動画配信を担当しているが、空京ストリーム(KStream)への接続が全然うまくいかない。

「余の方は問題ない。すでに【ダークサイズ】キャノン姉妹応援スレ【チラリズムキボンヌ】を立ち上げ済みだ」

 ロドリーゴは『パラミタ匿名掲示板』で、今日のキャノン姉妹活躍の実況スレを作ったようで、ミヒャエルに向かってグッと親指を立ててみせる。

「応戦スレができたなう! キャノン姉妹のお二人はすでに局内に入られた。早く追いつかねば」

 ミヒャエルは若干の焦りを見せる。

「あーもう、よくわかんない」

 イルに至ってはさじを投げる寸前である。

「あきらめるな! パラミタの一般人のみならず、どこかにおわすであろう閣下に、我らの活躍をお届けするのだ!」
「あーあ。あたし、閣下にまだ会ったことないのよね。今日は会えると思ってたのに」
「閣下は必ずいらっしゃる。アマーリエ、動画はまだか。動画催促なう!」
「あ。アカウント作ってなかったわ」
「基本中の基本なう!」
「ゲッペホー卿よ、早速スレッドが荒らされたぞ」
「何とかなう!」

 ミヒャエルはつぶやきながら、パートナーたちを必死に叱咤する。

「ダイソウトウ閣下がいないのに、私たちの活動、意味あるのかしら?」

 アマーリエが身も蓋もないことを言う。

「甘い! 真の部下とは、頭首不在でも自ら使命を見つけて動く者のことを言うのだ。言うのだなう!」
「あ。設定が間違ってたわ」
「話を聞けい! パートナーに無視されたなう!」

 イルがついに立ち上がり、

「もう、ぶっつけ本番でいきましょう」

 と、勝手に局内に進みだす。

「私はマズイと思うわよ」

 アマーリエは反論しながら着いていく。

「できてないのに勝手に動くでない!」
「キャノン姉妹は今どこに?」
「食堂なう!」