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リアクション
第6章 その魂の目的
「やっぱ、洗い浚い吐かせるんならコレだな」
ナタクは持って来た日本酒を鎌鼬に無理やり飲ます。
「いやぁ不味いーっ。むぅー・・・なんかふらふらするぅー」
「おい・・・あたしの知らないところで何やってんだ?誰の指示で何してんのか全部話せ・・・言わねぇとボコボコにして吊るすぞ?」
酔っ払った頃合を見計らい、グレンはその身を蝕む妄執で自分を董天君の姿に見せ、目的を聞き出そうとする。
「ほへぇー?誰のまねぇなの〜。分かったぁ、エリと術を交換した女だねぇー。きゃははっ、あの女のことぜーんぜん怖くないもぉん」
鎌鼬は董天君のことを怖いと思っておらず、その姿に見せることが出来なかった。
「これでは何も聞けないか・・・」
「いや待て。術を交換したってことは、少なくとも十天君の誰かってことだろ?」
悔しげに呟くグレンに、ナタクは彼の尋問が無駄じゃなかったと言う。
「そうですよ!これで十天君が関わってることが分かったじゃないですか」
傍にいるソニアがこくこくと頷く。
「エリとは誰だ?言え・・・」
「―・・・エリは・・・。うっ!」
言いかけたその時、酒に酔ったせいで鎌鼬は違う意味で吐いてしまった。
「大丈夫です?」
由宇は草で器を作って湖の水を少女にあげて背をさすってやる。
「鎌鼬さん、意外とかわいいのです。うちにこないですか?」
ぱっちりとした大きな瞳をした少女の髪を撫でる。
「悪戯出来るとこ?」
「うーん・・・悪戯は困るです」
「じゃぁいやっ!」
「そうですかー・・・」
あっさり断られてしまい、由宇はしょんぼりとする。
「ごめんね、これあげるから教えてくれないかな?」
「ぷんっだ!」
歌菜がショコラティエのチョコをあげようとするが、鎌鼬はぷぅっと頬を膨らませてそっぽを向く。
「こんな菓子パン見たことないでしょう?何か教えてくれませんか」
ウィングはメロンパンをあげる変わりに聞き出そうとする。
「食べたら考えるぅ」
「どうします?」
「とりあえず食べさせてあげますか」
2人は顔を見合わせてどうするかと考えたあげく、食べさせてやることにした。
「―・・・そろそろ話してくれないかな?」
食べ終わったのを見て、優しく歌菜が話しかける。
「どうしてこんなことをしたの」
「いっぱい悪戯して、生きてる証が欲しかったんだもん」
「存在した証が欲しい・・・か・・・。でも、そのために誰かを傷つけたりは許されないよ」
「ぼっくんの本能は人を困らせて、少しでも生きた証を残すことだもん。それ以外分からないのに、どうしたらいいっていうのっ」
横から口を挟む真に対して、キッと睨みつける。
「(それしか分からないってなんだか悲しいな)」
ムスッとした顔をする少女を悲しげに見つめる。
「なぜオメガの魂をこの村へ連れ去ったの」
今度は美羽が目的を問う。
「あの館みたいに寂しい感じのする村がよかったのぉ。こんな小さな村が1つや2つどうなったって、騒ぎにならないってエリが言ったの」
「―・・・質問を変えるわ。さっきの話しの流れからして、そのエリってやつがそうなの?」
平和に暮らしている人々を平気で巻き込む態度に、怒りを押し殺して質問を続ける。
「そぉだよー」
「名前は・・・?彼女の目的はいったいなんですか?」
敵の名前を知ろうと由宇が話しかける。
「教えてもいいけどぉー、知ったら驚くかも〜」
「それでも知りたいのですっ」
もったいぶる鎌鼬に近づいて聞く。
「ぼっくんの友達のエリ・・・つまり、袁天君はオメガの魂をドッペルゲンガーに吸収させようとしてるんだよぉ」
「ド、ドッペルゲンガーにです!?」
由宇は驚いたように目を丸くする。
「ほぉうら驚いたぁ♪あの魔女の心に闇を広げて、命を取り込ませるんだぁ」
「そんなことしたらオメガさんが死んでしまうですっ!」
「最後には身体も、フフフ」
「はわわっ」
とんでもないことに首を突っ込んでしまったと、由宇は言葉を失い口をぱくぱくさせる。
「そんでドッペルゲンガーが闇世界から出て来ちゃうのぉ♪自分たちの仲間にしようとしてるみたいー。キミたちが傷つく光景が、闇世界を成長させるいいエサになるってことも言ってたかな♪」
「真さん・・・このことを遙遠さんがもし知ったら!」
「間違いなく修羅みたいになっちゃうかもね・・・」
歌菜の言葉に怒りまくって暴れる姿を想像しただけで恐ろしいと真は身を震わせる。
「と、とりあえず連絡をしないとね。アンサズ、緋桜遙遠・・・もしもし聞こえる?あれ、話せないよ・・・」
アスカからもらった護符を使ってみるが、実用化出来なかったため通信することが出来なかった。
「よくもそんな酷いことを平気で出来るわねっ」
「あぁそうそう十天君を8人倒せば、術が解けてあの魔女が館から出られるかもね?」
掴みかかる美羽を妖怪は平然とした態度で見上げる。
「どうしてそんな情報を私たちに教えるの」
「さぁねー、どうせ今のキミたちじゃ無理だし。ぼっくんに協力してくれてる人がいるしぃ、止められるかなぁ?」
その状況を楽しむかのように鎌鼬はケタケタと笑う。
「くしゅっ!―・・・風邪なんてひいてないはずですけど・・・」
真たちに噂されている遙遠がくしゃみをする。
「林の方に生徒たちが集まっていますね。鎌鼬を捕まえたみたいですけど。おや、何かこっちを見てますね」
見上げている仲間たちはいやいやするように首を振っている。
「まだ調べ中でしょうか」
実はもう目的を聞き出しているが、それを話す心の準備が出来ていないのだ。
「入り口付近の民家を調べに行きますか」
魂の行く先の手がかりを探そうと離れていく。
「人がいますね、降りてみましょう」
唯斗たちの姿を見つけ、ふわりと砂利道へ降りる。
「昼間にオメガの匂いがしたっていう民家はここだよな」
木のドアに手をかけ、唯斗はそっと中を覗く。
「手がかりが見つかったんですか?」
「たぶんな・・・。ここに何かあるはずだ。昼間は何もなかったが、闇世界に変わったことで見つかるかもしれない」
声をかけてきた遙遠に、唯斗は振り返らず鬼が潜んでいないか警戒しながら言う。
「なんだか不気味ですね・・・」
睡蓮は赤黒く汚れた台所を見つめて顔を顰める。
「これは悪夢の気配?―・・・いえ、何か違うような・・・でも似てます」
「オメガさんの悪夢が実体化して、闇世界となるんですよ」
疑問を呟くアリスの少女に遙遠が教える。
「そんなことが!?アリスの夢とまったく違いますね・・・。核とかあるんでしょうか・・・?」
「おそらくないですね。脱出する手段はあっても、その闇世界が消えたことはないですから」
「―・・・そうなんですか。でも・・・何かよくないことが起こる度に、心の闇がそんな世界を生み出してしまうんでしょうね」
「えぇ、特に自分のせいで他の者が傷つくのを嫌がる性格ですし」
「アリスの私には分かります。この空間からはとっても寂しい・・・、つらい・・・悲しい声が・・・」
睡蓮がそっと目を閉じた瞬間、ピチョンピチョンと水音が聞こえてきた。
「台所からじゃなさそうだな。しかし・・・ここからしか聞こえないんだが?」
その音を聞いた唯斗は蛇口を見てみるが、水一滴たれていない。
「どこへ行くんだ睡蓮」
ふらふらと歩き出す少女をエクスが呼び止めようとする。
「聞こえるんです・・・」
まるで何かに呼ばれるように、民家の中を歩き回る。
「おい、待て。どこに行くんだ」
「離してください」
「―・・・いったいどこへ行くというんだ?」
明らかに正気じゃないうつろな瞳の睡蓮を止めようと腕を掴む。
「止めるな唯斗。何か手がかかりが掴めるかもしれん」
「それはそうだが・・・。―・・・分かった」
エクスに手を離すように言われ、しぶしぶ睡蓮を離す。
「とりあえず彼女について行ってみましょう。ここは何が起きても不思議じゃないところですからね。感情移入するあまり、何かを察知したのでしょう」
魂の行方につながる手がかりを得ようと、遙遠は少女のあとをついていく。
「近くに鬼がいるぞ」
ディテクトエビルで鬼の気配を察知し、エクスは唯斗に警戒するように言う。
「ウマソウナノ、ミィツケタァ」
木の角材を手に鬼が襲いかかる。
「見つかってしまったか!」
「クッテヤルッ。―・・・ナンダ、ドッカラダ!?モウイッピキ、イタ!」
足元に銃弾を撃ち込まれ、振り返ると一輝の姿がある。
「(こっちに来い)」
一輝はペンライトで鬼を照らし弾幕援護を放つ。
「エモノノクセニ、ナマイキッ。―・・・ドコダ?イネェエゾ!」
銃撃してきたと思った鬼が怒り彼を追いかけるが、バーストダッシュで逃げられてしまった。
「鬼は離れていったようだが、睡蓮はどこだ?」
「唯斗、左の細い道へ入っていったぞ」
「そっちか」
エクスに呼ばれ見失ってしまわないように走る。
そしてまた左へ曲がり、調べていた民家へ戻ってきてしまった。
入ると突然、バタンッとどこかでドアが開く音が聞こえた。
「茶の間の隣へ行ったぞ、唯斗」
「風呂場・・・か。睡蓮はいったい何を描いているんだ?」
空っぽの風呂桶の傍の土壁を、指でなぞっている少女を眉を潜めて見つめる。
「何の音でしょう?」
ごぽぽっと水が流れる音を聞き、遙遠は周囲を見回す。
「誰か蛇口をひねったか?」
風呂桶に水が溜まっていく光景に、エクスが首を傾げる。
「いや、誰も触れていないはずだ」
「ではいったい誰が・・・。なっ、これは!?」
睡蓮が指でなぞっている壁に、風呂桶から溢れた水がズズズッと這うように染み込んでいく。
「見てください、何か文字が書いてありますよ」
「私は見上げる・・・何のことだ?」
唯斗は遙遠が指差す先を見ると、そこには睡蓮が指でなぞったところの文字が、水に濡れたことで壁に現れている。
「睡蓮!」
ふっと気を失った少女の身体をエクスが抱きかかえる。
「大丈夫、眠っているだけのようだ」
「そうか・・・。寺子屋の中で生徒たちが待っているはずだ。そこへ行こう」
眠っているだけど知り、ほっと安堵した唯斗はエクスたちと寺子屋へ向かう。
「とりあえず知らせておきましょうかね。行きなさい」
壁に書かれていた文字を伝えようと、遙遠はカラスの手紙をつけて仲間の元へ飛ばす。
「あ、ヨウくんの手紙や!―・・・何々、風呂場で見つけたんやね。私は見上げる?何の意味があるのかさっぱりやね」
「見上げるってことは高いところ見てるんじゃないかな?」
「あぁー、そっか」
綺人の言葉になるほどと頷く。
「っと・・・話し声を聞いて鬼が来たみたいやね。えぇっと鬼を殺すとオメガさんの心によくないんやったね」
「多少手荒にはなるかもしれませんが。気絶させる程度にしておきましょうご主人様」
「とりあえずその辺に落としておくか!」
弾幕援護で真奈に鬼の視界を封じさせた陣はバーストダッシュで間合いを一気に詰め、泥濘へ蹴り飛ばして沈める。
「おにさんこちら、手のなる方へー♪」
鬼をひきつけようとウェリスは歌いながら走る。
「武器さえなきゃ、ほとんどただのおっさんやね」
後ろを見せている隙にと、少女を追いかける者たちが持つトンカチとクワを、陣は炎の嵐で地面へ落とす。
「お嬢さんは危険なことばっかりするでやんすなぁ・・・」
礼海は無茶をするウェリスに対してため息をつく。
べんっと黒琵琶を弾き鳴らし、叫びの音波で泥濘へ吹き飛ばした。
「殺さずにって結構難しいね」
刀を鞘に収めた綺人は、一息つこうと緑茶を飲む。
「それじゃあ綺人くんが思いついた言葉の意味を、ヨウくんに知らせとくか」
陣は紙ドラゴンにつけてメモを括りつけて遙遠の元へ飛ばした。
「オメガちゃん。迎えに来たよ、どこですかーぁ?」
ルカルカは彷徨っている魂に声がとどかないか呼びかけてみる。
「うーん・・・この辺にはないのかな?」
「あわわ!誰か撃って来るです!」
路地に入ったヴァーナーはズダァンッと銃声を聞き慌てる。
「高台からみたいね」
暗闇に紛れて倉庫の傍の高台から撃ってきた鬼の姿を、ルカルカがダークビジョンで見つける。
「あれが鬼だね」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は砂利道を蹴り、軽身功の体術で高台へ飛びつく。
「隣の台にも鬼がいます!」
彼女を狙う者の存在を伝えようと緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が叫ぶ。
「あんなところから狙うなんて」
倉庫の屋根から集会場の屋根へ飛び移った月美 芽美(つきみ・めいみ)は、軽身功で高台の壁を螺旋を描く様に登っていく。
「ちょっと待ったっ」
クマラが大声を上げて芽美を止めようとする。
「いやよ」
彼女は静止しようとする声を振り切り登る。
「ここで鬼と騒ぎを起こしたら犯人の思うつぼだよっ」
「だから?殺さなきゃ、殺されるじゃない」
「で、でもっ」
「私は悪でもなければ、真っ正直な善人でもないわ。そんなんじゃ世の中生き残れないもの。もう少し人生勉強したほうがよさそうよ坊や」
銃弾に傷つきながらも、高台に登った芽美は鬼の首をへし折る。
「たしかに元は村人だし。それで戦いを避けている人がいるのも知ってるよ」
鬼に掴みかかっている透乃の方は、クマラの言葉を否定するわけじゃない。
「でもね・・・、皆がオメガちゃんを探しやすいように、少しでも場所を確保してあげたいんだよ!」
クワを素手で掴み腹を殴り飛ばし、皆のために戦っていると言い放つ。
「そんな目で見ないでよ・・・。殺さないようにしてあげるわよ、なるべくね」
泣きそうな顔をするクマラにため息をつき、仕方なく芽美は出来るだけ鬼を殺さないようにする。
「エースぅうっ」
「まったく泣くなって。(それでもやっぱり敵が喜ぶ状況なんだろうね・・・。考えを伝えるのって難しいよ・・・)」
鬼と戦う彼女たちを見て、どうしても止めきれないことに葛藤する。
「この闇世界で死なないにしても、私たちが傷つくことでもっと悲しむと思います」
陽子は凶刃の鎖を泥濘から這い上がろうとする鬼の身体に巻きつけて投げ飛ばし気絶させる。
「まずは出来るだけ傷を負わず、死なずに生き残ることが大切なんです」
「それでも争いごとは、よくないよ・・・」
エースは顔を俯かせて呟く。
「集会場はここですね」
透乃たちのおかげで鬼から逃げられたヴァーナーはギイッとドアを開ける。
「真っ暗です・・・」
「2人ともルカルカから離れないでね」
暗いところに目が利く彼女が、ヴァーナーと淵より先に進む。
「今・・・誰かの声が聞こえなかったか?」
「ううん、聞こえなかったけど」
不思議そうに首を傾げる彼に、ルカルカが首を左右に振る。
「ほらまた・・・」
「本当に?―・・・っ!?」
小さな声音で囁くように“誰”、彼女にもという声が聞こえた。
「お、お化けさんですかぁあ!?」
「しっ。この声は・・・」
騒ぐヴァーナーに静かにするように、人差し指を少女の口元に当てる。
「だ・・・れ。―・・・だ・・・、れ・・・。だれ・・・」
声はだんだんと大きくなっていき、ポルターガイストのようにガタガタッガタンッと机や椅子が揺れる。
「オメガちゃんなの!?ルカルカよ!」
探している魔女の声音だと確信したルカルカが呼びかけたとたん、とととっと2階へ上がっていく足音が聞こえる。
「これは・・・もしかしてオメガ殿が通った痕跡が、再生されているのか?」
「ていうことはもうここにはいないの?」
「わぁああっ!」
締めたはずのドアが突然開き、ヴァーナーは思わず声を上げてしまう。
「音がする方へ行けば何か分かるかもしれないわね」
開いたドアから砂利道へ飛び出る。
「人!?あぁっ、ごめんね」
林の方からやってきた御堂 緋音(みどう・あかね)とぶつかりそうになる。
「どうしたんですか、そんなに急いで」
「ねぇ。おかしな音を聞かなかった?」
「音・・・ですか?聞こえましたか」
傍にいる真理の秘録書 『アヴァロンノヴァ』(しんりのひろくしょ・あう゛ぁろんのう゛ぁ)に聞こえたか聞いてみる。
「いや聞こえなかったな」
「せっかくオメガちゃんが通った痕跡が見つかったと思ったのに。もぅっ!」
「手がかりが見つかったんですか!?どこですかっ、私もそこへ連れて行ってください!」
耳を澄ませて必死に音を探すルカルカの肩を緋音が掴む。
「え、えぇ。崖側の集会場でね。でも通った後の痕跡が再生された感じだから、そこからどこに行ったのか分からないの」
凄まじい勢いで聞いてくる彼女に目を丸くする。
「そうですか・・・」
緋音はしょんぼりと沈んだ顔をする。
「どこからかドアが開く音が聞こえたような・・・気のせいですよね・・・」
「うぅ・・・どこにいるの」
「隣のしゅうかいじょうのところが開いてるです!」
「まさかオメガさん!?」
「そこねっ」
手がかりを失いしょんぼりしていた緋音とルカルカは、それを聞いたとたん急に元気になり、全速力で走り駆け込んでいく。
アヴァロンノヴァはため息をつきながらも、そんなに大切なんだなとクスリと笑い、後をついていった。
「ふむ・・・、これがあの魔女の心の世界というものか。興味深いな」
集会場に入るなりアヴァロンノヴァは今にも剥がれ落ちそうな天井の木材を見上げて言う。
恐ろしい化け物が徘徊する孤独な世界に対して言う彼女に緋音がじっと睨む。
「いや、別に魔女をどうこうするつもりはない」
「―・・・悲しみの世界なんて興味もたないでください」
「そう怖い顔をするな、緋音」
気に障ってしまったかと罰の悪い顔をする。
「本当は皆と一緒にいたいのに。羨ましくってこんなところを通ったんでしょうか」
風もないのにギィッギィッと揺れる揺り椅子へ視線を移す。
「これってお人形でしょうか?かわいいですっ」
「動くのかしら?」
ルカルカはヴァーナーが見つけた人形の背のぜんまいを巻いてみる。
床に置くと人形はジィージィーっと音を当ててまっすぐ歩き、何歩か歩いたところで止まってしまった。
「止まっちゃった」
「また動いたです!?」
「どこかに歩いていくみたいですね」
傍から緋音が覗き込む。
「(もう巻いた分は歩いたと思うんだけど・・・)」
ぜんまいを巻かずに動く人形をルカルカは不思議そうに見つめる。
「妙だな。少し巻いた程度であんなに動くものだろうか?」
淵は奇妙な人形を顔を顰めて睨む。
「巻いた分はもう動いたはずよ」
「では・・・巻かれていないのに動いているということか?」
棚と棚の間の細い隙間に入り込んだ人形は行ったり来たりしている。
「もしかしてオメガさんがいる場所の手がかかりなんじゃないですか!?」
「細い隙間・・・細い路地のところ?うーん・・・それに当たるようなとこかしら」
緋音の言葉にルカルカはその意味を考えてみる。
「皆も何か見つけてるでしょうか。手がかりを見つけたことを知らせるです!」
ヴァーナーは急いで知らせるように、彼女たちに顔を向けて言う。
「これで伝わればいいが」
魂の行方につながりそうなことを見つけたとメモ帳に書いたアヴァロンノヴァは、その紙を使い魔のカラスの足につけて飛ばした。
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