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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER プレミアイベント

 清泉北都が操縦する機体は、敵機を、敵の攻撃をかわし、攻撃は一切せず、マジェスティック上空を旋回し続ける。

V:こちら、清泉。まだ機体の自由はきかない。行動は制限されてて、半分リモートコントロールされてる感じ。勝手に動くと機体は自爆するかもしれないから、逆らわないけど。僕らがいま戦ってる、ロンドン塔を攻撃している小隊は、たぶん、本当は敵じゃないでしょ。
V:榊だ。通信妨害があって、このチーム間でしかボイスチャットがつながらないが、おそらく、敵の小隊機を遠隔操作しているのは、景勝たちだと思う。使っている機体はいつもとは違うが、あの動き方は、天御柱学院のハロウィン小隊のものだ。とりあえず、他のメンバーがなすべきことなしてくれるまで、誰も、なにも傷つけずに、機体をキープし続けよう。
V:清泉。了解です。

 同じチームの一員として、チームリーダーのような感じでゲームに参加している榊孝明との通信を終え、北都はため息をつく。
(筐体の外とも連絡不能、機体は自由には動かせない。早い話がここに閉じ込められてるわけだよね。完全防音、密閉型の特別仕様。しかも、外からしかドアの開け閉めはできないときてる。外にいるソーマは、どうしてるのかな)
 プレミアイベントとは名ばかりで、ロンドン塔へ連れこられた北都たちは、ろくな説明もなく強制的に筐体にのせられ、ミッションを開始させられた。 
 使命は、ロンドン塔の防衛と敵の殲滅だ。

(外にいる俺たちは、下にゲームのつかない対戦格闘かよ)
 筐体の外、会場内では、死闘が行われていた。イベント開始後に会場に突入してきた暴徒たち、会場を防衛しようとする黒服と黒マントのメロン・ブラックの私兵たち、ソーマらイベント参加者のパートナーらは、そのどちらにも標的にされながら、それでも、パートナーのいる筐体を守ろうと、必死に闘っている。
「もう少しおとなしくしてくれよなっ」
 ソーマは切りかかってきた暴徒をかわし、投げ捨てた。
「こんな乱戦じゃ、体がもたねぇよ。北都は、必ず、守るけどな」
 一息ついたソーマに、背後から黒ローブの男が襲いかかる。ふいに首に腕をまわされ、締めあげられて、ソーマの意識が遠のいた。
 くそっ。こんなとこで、やられるわけにゃ。
 今度は、背後から衝撃がきて、ソーマは床に倒れる。
「ぐああああ」
 すごい悲鳴があがり、目をやると、倒れた黒マントの男の上には、大型バイクがのっていた。
 さらにライダーは、バイクにまたがったまま、真下の男に、拾ったらしい鉄骨でトドメを刺した。
「マジェ閉園記念のみな殺し大会の会場は、ここですか? 赤い悪魔がいないようだけど、よしとしよう。そこの美形のお兄さん、てめえ、あたしに殺されたい? それとも一緒に殺す?」
 伊達メガネをした戦闘狂のヴァルキリー、ヒルデガルド・ゲメツェルにきかれ、ソーマは即答した。
「後の方のコースで頼むわ」
「かしこまりましたわ。虐殺同行一丁!」

ロンドン塔に着くとすぐに、招待客の一行をぬけだし、塔内に忍びこんで、蒼空の絆のコントロールセンターを探していたフレデリカ・レヴィとパートナーのルイーザ・レイシュタインは、ついにそれらしき部屋をみつけ潜入した。
だが、通常のコンピューターとは違う、ロストテクノロジーを使用した制御装置を前に、どうしたらいいのか迷っている。
「とにかく蒼空の絆の遠隔操作をまとめて制御してるのが、これなんだから、止めてしまえばいいのかな。機体を自由に動かせないと、博士の思いのままだよ」
「へたに壊すと、いま、乗っている人たちや機体、筐体に異常が起こるかもしれないわ。慎重にいきましょう」
「慎重って言っても。ルイ姉。メンテイスさんからの連絡だと地下湖では、博士の手下たちの機体が地下湖を守る古代兵器と戦闘中らしいし、その兵器も暴走気味らしいから、みんなの機体を自由にコントロールできるようにして、それを止めないと、この島は沈んじゃうよ。時間がないよ」
「この装置を熟知しているのは、博士だけなのかしら」
 ドアが開き、焦る二人の前に顔をだしたのは、PMRの正体不明の獣人、ベスティエ・メソニクスだった。
「こんなところまできてしまったのかい。さすが、冒険屋ギルドだね。こんばんは。僕は、ベスティエ・メソニクス。散歩中さ。ところで、いくらきみたちでも、その装置は手に余るだろ。ここでのんびりしていたら、警備の者もやってくるしね。どうだい。彼女の力を借りたら」
 それだけ言って、一人の少女を部屋に招き入れると、ベスティエは去っていく。
 ギンガム・チェックのインバネス・コートに鹿撃ち帽の少女は、黙って装置に近づき、操作をはじめた。
「あなたは誰なの。そんな格好して、推理研のメンバーの人?」
 掘りが深く、鼻の高い英国人らしい容姿の彼女は、装置から大きな瞳をそらさず、フレデリカの質問にこたえる。
「人の知らないことを知るのがボクの仕事。今夜は、ほとんどきみたちがしてくれた。感謝するよ」
「なに言ってるのか、わかんないんだけど、機体の強制コントロールは無力化できるの?」
 彼女は頷き、両手の平を胸の前で合わせた。
「これで巨人の鎖は解けた。満足かな、勇気あるお嬢さん方」

 レインからのメッセージに従って、待ち合わせの場所へむかったエクス・シュペルティア、紫月睡蓮は、レインとの再会を果たしたものの、彼女と三人で、黒服の一団に囲まれてしまっていた。
「すまない。私のために、こんなめに」
「レインは悪くないのだ。話は聞かせてもらった。こいつらは、博士の犬で、レインもまた強引にその仲間に引き込まれたのだな。協力せねば、唯斗やアンナ、わらわたちにも危険が及ぶと脅されて」
「ああ。でも、本当は、脱出する機会をうかがっていたんだ。結局、みんなを巻き込んでしまった」
「レインは悪くないよ。唯斗兄さんやエクス姉さんがきっと、なんとかしてくれるよ」
「まあ、な」
 妹分の睡蓮にそう言われ、頷きはしたものの、多数の敵に囲まれ、正直、エクスにもとりあえずどうすればいいのか、わからない。
「なにも心配はいらぬ。すべては、こちらの作戦じゃ。罠にかかってくれてうれしいぞ。レインのお礼をたっぷりせねばな」
しかし、強気な姿勢は崩さなかった。
「エクス。きみらだけでも逃げろ」
「弱気になるでない。仲間を信じて大船に乗った気でいればよいのだ」
 包囲の輪が狭まってゆく。エクスはそれでも虚勢を張る。
「おぬしら逃げなくてよいのか。本当に容赦はせぬぞ」
「その通りだ」
 冷ややかな女の声。
 一陣の風のように、影が動き、黒服たちがその場に倒れた。超感覚の発動で、二本のねじれた角をはやした復讐の代行者が、死体を見おろす。
「冒険屋ギルド。鬼崎朔(きざき・さく)。メロン・ブラックの命をもらいにきた。やつはどこにいる」
 今度は朔を包囲するように陣形をかえる黒服たち、だが別方向から、
「ええい下らん輩ばかりはびこりおって、我慢ならん。叩き斬るぞ」
 怒声とともに織田信長(おだ・のぶなが)が日本刀を手に斬りこんできた。
「イコンはなかなかどうしてハイカラなカラクリじゃが、その裏にうごめくたわけどものせいで、ロクな使われ方をしておらぬようじゃな。権力者もしょせん人、あやまちを犯すのは人の常よ。細かい理屈は、どうでもよいわ。斬って捨てて、それで終りじゃ」
パートナーの南鮪が起こした拉致事件の最中、捜査陣に阻まれなにもさせてもらえなかった信長は、不満をつのらせ、独自に蒼空の絆の事件の真相を推理して、その黒幕たるメロン・ブラックを斬るために、ロンドン塔へやってきたのだ。
 朔と信長になすすべもなく倒されてゆく、黒服たち。
「ほれ見ろ。わらわの言った通りじゃろ」
 エクスは、さも当たり前のように、レインに語った。

 あれこれ試し、手持ちの道具で簡単に改造したあげく、どうにか自力でドアを内部から開け、筐体からでてきた御空天泣は、会場内のいたるところに死者、負傷者が転がっている惨状に驚いた。
「天ちゃーん。ゲームはどうだった」
 パートナーのラヴィーナ・スミェールチに声をかけられた。
「ラヴィ。どうしたんだよ、これは」
「まるで、戦争さ。あらかた片付いたけどね。ソーマちゃんとバイクのお姉ちゃんがすっごくがんばってたよ。ボクは、迷子になった子供のフリして、あれれ〜? って逃げまわってたら、案外、みんな助けてくれたよ」
 外見は小学生だが、中身はくろい大人であるラヴィは、演技派で人を欺くのが得意なのだ。
「天ちゃんは、これから、どうするの」
「遠隔操作の制御は、どこか別の場所のコントロールルームでしてるようだけど、ドアの開閉は、筐体に仕掛けがあるんだ。みんなの筐体のドアのロックを外そうと思う」
 エンジニア志向の天泣にとって、この筐体には、興味深い、自分の手で直接ふれてみたい仕掛けがたくさん詰まっている。
「失敗したら、爆発でもするのかなあ」
「それはないよ。それに失敗はしないさ。ラヴィも手伝って」
「なーんだ、ドカーンじゃないのか。つまんないオモチャだなあー」
 不満げに唇をとがらせながら、ラヴィは天泣についてゆく。

V:榊さん、聞こえますか。フレデリカ・レヴィです。機体の制御は解けました。現在、蒼空の絆の全機体は、自由に行動できるはずです。
V:了解。フレデリカ。ありがとう。俺のチームのメンバーのみんな、聞こえているかい。俺たちの機体は、自由に行動できるようになった。今後の作戦行動は、天御柱学院のハロウィン小隊の指示に従いたいと思う。みんな、それで、いいかい。
V:僕は、それでいいよ。あ、声だけだとわかりにくいね。清泉だよ。
V:はーい。こちら、山田桃太郎だよ。天泣くんがドアを開けてくれたんで、外にでられるんだよね。ハロウィン小隊と合流するなら、機体の数も増えるし、僕は、筐体をでて、外に行ってみる。僕の美を求める声が聞こえる気がするんだ。じゃあね。
V:紫月唯斗。了解した。
V:こちら、レイン。ただいまから、そちらに合流する。待たせて悪かったな、レイヴン、アンナ。エクスも睡蓮も無事だ。みんな、ありがとう。
V:紫月唯斗。いや、レイヴンだ。レイン、了解した。今後は、レインと二人でチームとして行動する。チーム、テンペスト復活だ。

V:こちらパンプキンヘッド。フーラから連絡を受けた。そちらの隊と合流する。我々は、このゲーム内でメロン・ブラックを殲滅する。繰り返す、このゲームの目的は、メロン・ブラックを倒すことだ。これはゲームだ。実戦ではない。よって公式の戦闘記録には残らない。以上。
V:パンプキンヘッド。レイヴンだ。チームテンペストは、地下へむかいレン・オズワルドを援護する。
V:パンプキンヘッド。榊孝明だ。私情を挟むようで申し訳ないが、俺は自分なりにこの事件ついていろいろ考えていた。答えをだせずに事件は、終りそうだが。一つ頼みがある。メロン・ブラックを発見したら、彼と話をさせて欲しい一分、いや三十秒でいい。
V:こちらパンプキンヘッド。テンペスト、了解した。榊は、状況が許せば希望にこたえる。それでは、テンペストが本隊を離脱後、各機、個別に敷地内の二十の塔、すべてを攻撃、破壊する、データーを送るので自機の標的を見誤らず、余計な犠牲をださぬように注意して、作戦を遂行してくれ」