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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 31 ・・・ 部品の問題 咲夜由宇(さくや・ゆう) アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)

 怪しい人ではないと説明してもなかなか信じてもらえないですぅ。
「私は事件について調べている学生です。殺人現場のまわりで普段、見かけない人をみたり、不自然な大きな箱を見つけたりしませんでしたか」
「あんたを見るのははじめてだし、背中にしょってる箱には、なにが入ってるんだい。学生でもなんでも、地球人は、早く街からでていっておくれ」
「箱は、ギターのケースですぅ」
「そんなもの私とは、関係ないよ」
 惨殺事件の現場周辺で、聞き込みをしようとしているのですが、地元の人はみんな冷たいですぅ。ヤードの人たちもみんなよそよそしいですし。
 しょうがありません、こうなったら。
「私の名前は、咲夜由宇〜」
「いきなり、歌いだすな。それでは、本当に挙動不審者だぞ」
 パートナーのアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)に叱られました。
「音楽は、言葉も国境もこえて人と人の心をつなぐですぅ」
「捜査がうまく行かなくて、やけになってるようにしか見えないねぇ。オレは思うんだが、ここの連中の地球人への拒絶感は、かなりのものだ。これなら、地球人が被害者になった事件について、まともに解決しようなんて思うやつは、いないんじゃないのかなぁ」
「えー、それでは捜査は絶望的ですぅ」
「ねえねえ、お姉ちゃん。さっき、広場でギターを弾いてた人だよね」
 途方にくれかけた私に近づいてきたのは、数人の子供たちです。
「子供さんが、夜中に外を出歩くのは、よくないですぅ」
「警官やいろんな人がきて外がうるさくて、寝てられないよ。こうしてみんなで一緒にいるから平気さ。それより、また、ギター弾いてよ」
「弾いて、弾いて」
「あたし、弾いてほしい曲があるの」
 みんなにお願いされて、私は道端でまたミュージシャンしてしまいました。探偵をしにきたのに、ギターばかり弾いてる気がしますですぅ。
 アレンが人をバカにしたように、ニヤニヤ笑って眺めてるです。
 子供たち相手に三曲ほど演奏すると、また、私の周囲には人が集まりだしました。
 音楽を聴いている時は、みなさん、フレンドリーな感じになるです。
 いまなら、話してくれそうな気がするので、聞いてみますぅ。
「あのお、マジェスティックみなさん、私は、殺人事件について調べています。こんな事件はとめたいんです。それで、教えていただきたいんですが、事件の現場で怪しい人や」
「お姉ちゃん。しっ、しぃーだよ」
 女の子が手の平で私の口をふさぎました。彼女は、ささやきます。
「みんな、わかってるんだよ。あの、おじさんの仕業だって。でも、殺されるのは、いつも地球人だし、怖いからかかわらないようにしてるんだよ。お姉ちゃんがどうしても、おじさんに会いたいって言うなら、あたしがあの人のアパートまで連れてってあげる」
「すいません。お願いしますぅ」
 私とアレンは、子供たちに連れられて、ホワイトチャペル地区の小さなアパートへ行きました。
「ここの二階に、最初の事件が起きた頃に、ヘンなおじさんが引っ越してきたの。マジェスティックの人らしいんだけど、毎晩のように部屋に街の女の人を呼んだり、何日も部屋にこもりきりだったり、親衛隊の連中がしょっ中たずねてきたり、とにかく怪しいんだ。大人はみんな、あの人は、きっと博士と関係があるから、放っといたほうがいいって。ヤードも見てみぬフリをしている」
「ありがとうございます」
 私は子供たちにお礼を言って、アレンとその部屋にむかいます。室内にあかりがついていて、人影が動いているのが窓からみえました。
「由宇。入る前に行っておくよ。中から強烈な血のにおいがする。それも複数人の。なのに、ここは、どうみても病院ではないよな。古びいた安アパートの一室だ。これは、おそらく」
 ドアのノブに手をかけ、アレンが厳しい顔をしました。



 死体が運び去られ、警察関係者が去り、野次馬がいなくなっても、アキラ・セイルーンは、その場を動かなかった。
 第四の被害者が発見された、史実上の第五の殺人現場、被害者のアパートの自室である。
(死体をバラバラにする理由。一人の人間分には、足らないパーツ。自由にやらせてもらうというメッセージ)
 アキラの頭の中で、事実が組み合わさり、新しいなにかが見えかけている。
「咲夜由宇は聞き込みにいったぞ。わしらはいつまで、ここにおるのかのう」
 パートナーのルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)に聞かれても、アキラは答えない。
「考えすぎると、髪がぬけるぞ、鼻血がでるぞ、熱まででるぞ」
「運びやすくするために、死体をバラしたとして、なぜ、こんな、手の込んだマネをするんだ。パラミタミステリクロニクルのためか。だとしたら、死体に残されたメッセージの意味は、実行犯からのノーマンへの決別宣言。ルシェイメア」
「なんじゃ」
「第五の被害者が発見された事実上の第四の現場へ行こう」
 アキラとルシェイメアは、アパートをでて、すぐ近くの広場の一角へ。すでに人の姿はなく、ただ、石畳に残された人型のチョークの線が、事件の痕跡を感じさせた。
「どの現場も、その場で惨殺したにしては、きれいすぎるんだよなあ。もっと、血だのなんだので汚れるだろ普通。いくら、刃物さばきがうまくても、生きてる人間一人、野外で短時間に解体するのに、ここまで手際よくできるものか」
 ぶつぶつとつぶやきながらアキラは、チョークの型に体を合わせるようにして、石畳に寝転んだ。
「なにをしておる」
「むかーしの地球の刑事ドラマでこうして現場で横になって、被害者と同じ状態になって推理する刑事がいたんだよ。それをマネしてみてるだけさ」
「ユニークな捜査方法じゃのう」
 ルシェイメアがしゃがんで、アキラの顔をうえからのぞきこむ。
「眠そうな顔をしておる」
「それはいつものことだ。あのさ、逃げてる姫様の友達が殺されてるって事実と、十九世紀の事件の再現、どちらにウェイトがあるんだろうな。第五の現場の被害者の顔がめった切りなのは、史実と同じだけど、あれ、実は、被害者の顔、隠すためなのかな。体のパーツが足んないのは、殺した人間をバラして混ぜてばら撒いて、実際に殺した人数よりも被害者の数を多くみせるため、とか。あー、なんだか、前に読んだミステリのトリックが次々と浮かんできて、とまんなくなるぜ」
「きみ、ここでなにをしているのかね」
 いきなり声をかけられ、アキラは飛び起きた。
 声の主は、パトロールにきた制服警官だ。
「いや、すいません。事件について調べてて、つい」
「悪いのう。こいつは、名探偵になりきっておるのだ。許せ」
「なんだかわからないが、とにかく、生きているならよかった。一晩に同じ場所で二度も死体を発見するのは、本官もごめんだからな」
「二度もって、お巡りさんが、今夜、ここで被害者を発見したんですか。俺にくわしい状況を教えてください」
「そうだが、しかし、もう何十回もきかれたが、本官は情けないことに、なにも見ておらんのだ。ちょっと、目を離した隙に、そこに死体があらわれていた。本当にそんな感じなのだ。周囲には、怪しいやつもいなかったし。被害者にしてもいつの間にあそこにきたのか」
「俺は、別の場所で殺された被害者が、バラバラにされてから、発見現場に運ばれたんだと考えているんです。死体を運ぶような道具とか、見ませんでしたか」
「見ていない。降ってきたか。それとも、冥界から悪魔が運んできたのか」
 警官とアキラは顔を見合わせ、首をひねった。
「だったら、悪魔の仕業にしてしまえば、よいではないか。貴様らは難しく考えすぎじゃ」
 あっけらかんとルシェイメアが話しだす。
「たかが通り魔のはずの切り裂き魔がこんなにおそれられているのは、なぜじゃ。衆人監視の中、殺人を行い、それでも捕まらない、悪魔か幽霊のようなやつだから伝説になったのじゃろう。地球ならともかくここは、パラミタじゃ。悪魔や幽霊はめずらしくもない。悪魔が殺人の容疑者なら、悪魔を探せばよいではないか。具体的には、この事件では、死体を瞬間移動させられる能力のあるやつを見つければいいのだろう。おい。貴様。この近辺に、そんな能力のありそうな怪しげな人物は、住んでおらぬのか」
(おいおいおい。それを答えにしちゃあ、んー、言われなくても、それはそうだろうけど)
「たしかに、サイキックか、魔法使いなら、不可能じゃないかも」
 ルシェイメアの言葉に、アキラの頭の中のピースがつながってゆく。
「かっての地球の事件もそういう人物ならば、あの犯行は可能だ。十九世紀のロンドンにだって、サイキックも魔法使いもいたかもしれない。いや、きっといただろうな。」
 アキラに事件を眺める心の視野が、一気にひろがった。
「簡単な話じゃよ。
 からまった糸をほぐすには、まず糸口を見つけることだ。新しい事に目を奪われてそいつを忘れていたら負けだ。糸口は案外、近くにあるかも知れないよ」
「なんだよ。それは」
「地球でわけありの女子高生と活躍していた神探偵の言葉じゃ。わしの愛読書じゃよ。今度、読むといい」

 警官に、少女連続殺人事件が発生するようになった頃、ホワイトチャペル地区に越してきたという、怪しげな男の住むアパートを教えてもらい、二人はそこへむかった。
 道路から、男の部屋の窓に人影がみえる。
 二階のその部屋のドアは、すでに開いていた。アキラとルシェイメアは、ためらいなく中へ踏み込んだ。