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●咲き誇れ 我が学舎の薔薇たちよ

 舞台は合唱者用の台が置かれ、合唱団の人間が並ぶ。
 休憩から戻ってきた演奏者たちはピットに戻った。
 歌劇場の中はざわめきに満ちている。
 舞台の背後にはスクリーンがかかり、イルミンスールの音楽室が映し出される。
「うちの学校の生徒たちですぅ」
 エリザベートは嬉しそうにした。
「楽しみですぅ、エリザベートちゃん♪」
 明日香は言った。
 ルカルカは自分のことのように感じ、ちょっと胸を反らした。
「よかったわね」
「はいですぅ♪ 合唱団は負けてはいけないのですぅ!」
「あ、ろくりんぴっくは終わったんですぉ?」
「次があるですぅ〜」
「薔薇学とは同じ東シャンバラですぅ」
 明日香はひそやかに突っ込んだ。
 画面には、イルミンスール生の歌い手(ミンストレイル)たち。
 ネット配信という方法で、女性パートと共に歌おうとしていた。
 地球人がやってくるまで、タシガンの貴族はこのような方法で音楽を聴くということは無かったのである。ここ最近になって飛躍的にこのような技術が浸透してきたが、今でもまだネットに慣れていないものもいるようではある。
 クリストファー、クリスティー、テスラ、南臣、オットーは舞台の真ん中に並んだ。
 音楽科の生徒を総動員して合唱とオケに望む。そこにイルミンスールの歌い手たちが入るのだ。それは相当な数になっていた。

 レクイエム…怒りの日。

 演目の題名を聞いて、貴族たちは動揺こそしないものの眉を顰めた。
 無論、その雰囲気を感じたオケの人間たちはテスラをじっと見つめる。負の感情とは言わないものの、不安に似た何かを感じさせた。
 だが、校長の方は何も言わなかった。
 フォルスブロム伯でさえ言わなかった。
 重要なのは、それが真に美しいかどうかだ。

 指揮者は前に進み出ると、華麗に一礼してからオケの方を向いた。
 そして、タクトを振った。
 荘厳な調べを奏で、スクリーンの向こうのイルミン生と薔薇の学舎の旋律がオペラハウスに響いていく。
 二階の突き出し部屋の一つに観世院校長、他、実行委員のメンバー。そして、フォルスブロム伯と、見知らぬ少年がいた。生徒の一人なのだろうか。
 は少年を見た。
 だが、質問は厳禁だ。失礼に当たる。
 そして、冴弥はフォルスブロム伯に聞いてみたかったことを一つだけ聞いた。
「我が学舎の音楽はいかがですか?」
「悪くない…気にいらんヤツはおるだろうな。だが…」
「え?」
「悪くない。わしには合っている」
「そうですか」
 フォルスブロム伯の横顔に満足そうな雰囲気を感じて、冴弥は少し安堵した。