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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

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第一章 奇襲

司令部は、妹島攻略にあたり、三段構えの作戦を立てた。まず、機動力と攻撃力に優れた切り込み隊が突撃して敵を撹乱。次に、大型飛空艇による爆撃で上陸の妨げとなるサンゴ地帯を無力化した上で、先鋒隊が上陸。橋頭堡を築く。その後、主力部隊が上陸。物量の差で敵を圧倒しつつ、妹島と姉島をつなぐ地峡部へと進出する、という物である。

この内、切り込み隊には選ばれたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)椎堂 紗月(しどう・さつき)篠宮 悠(しのみや・ゆう)が率いる3グループである。この切り込み隊だが、実は、元々の作戦計画にはなかった編成だった。“先鋒隊の投入に先立ち、敵陣に突入したい”という本人たち直々の進言を、宅美が採用したのである。
各グループは、北・東・南の3方向から別れて侵入する事になっていた。これも、彼ら自身の希望である。



代表者による協議の結果(クジ引きともいう)、北岸を担当する事になった樹月 刀真(きづき・とうま)は、玉藻 前(たまもの・まえ)と並んで島端のサンゴ地帯を一気に飛び越えると、自分目掛けて弾丸が飛び出してくるジャングルに、小型飛空艇を突っ込ませた。
飛空艇からトンボを切って飛び降りつつ目で確認すると、乗り捨てた飛空艇があっという間に蜂の巣になり、墜落していくのが見えた。
重力に惹かれるまま落下していく刀真の体は、地面スレスレの所でふわりと浮き上がった。刀真と同じように飛空艇を乗り捨てた玉藻が、自分の九本の尻尾をヘリのローターのように回転させて飛び上がり、落下途中の刀真をひっつかんだのだ。
「いいぞ、玉藻!そのまま敵の上に出ろ!!」
玉藻は、刀真の指示通りに目の前のジャングルをかすめて空に上がっていく。
刀真は抱えられた姿勢のまま、器用に背中から対イコン用爆弾弓を取り出して水平に構えた。彼が敵の火点の一つに狙いを定め、矢を放とうとしたその時。
突然、激しい衝撃が全身を襲ったかと思うと、刀真は再び空中に投げ出された。
「ナニっ!」
一瞬何が起こったのか分からず、落下しながらも必死に状況を確認しようとする刀真。
しかし、ほとんど受身を取る暇もなく、刀真は、不完全な体勢で地面に叩きつけられた。
「ぐっっ!」
全身を激しい衝撃が襲い、息ができなくなる。すぐに、目の前が真っ白になった。
「チュン!チュン!チュン!チュン!」
朦朧とした意識の中で、すぐ耳元に無数の着弾の音を聞いた刀真は、半ば無意識の内に体を転がすと、目の前の茂みの中に飛び込んだ。鍛え上げた戦士としての経験と勘が、本人の意思とは無関係に刀真の身体を動かし、彼の命を救ったのだ。
『玉藻、玉藻は…』
全身の痛みを降り切って体を起こした刀真は、必死に玉藻の姿を探した。その彼の頬の上に、生温かい液体がポタリ、と落ちてくる。驚いて頭上を振り仰いだ刀真の視界に、ほとんど目に見えない位の極細のワイヤーに絡め取られ、ぐったりとしている玉藻の姿が飛び込んできた。
敵が、猟師が鳥を捕るのに使う『かすみ網』と同じ要領で、ジャングルの木々の間に張り巡らしたネットに、頭から突っ込んでしまったのである。刀真がかからなかったのは、単に運が良かったからだ。
防具で守られているとはいえ、全身の至る所にワイヤーが食い込んで血が吹き出し、玉藻の白い肌を朱に染めている。あれだけのスピードにワイヤーに突っ込んで、バラバラに切り刻まれなかっただけ幸運だったと言える。だが、親しい人のその光景は、刀真の思考を凍りつかせるのに充分な凄惨さを持っていた。。

「しっかりして、刀真!玉藻は生きてる!」
聞き慣れた声に、真っ白になっていた刀真の思考が元に戻る。
振り返ると、飛空艇を盾に必死に応戦しながら叫んでいる、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の姿があった。本来ならば後続部隊の支援のために後方に残るはずだったが、嫌な予感がして刀真たちの後を追いかけて来たのである。
「私が支援するから、早く玉藻を下ろして!」
見れば、玉藻の胸が弱々しく上下している。どうやら、突っ込んだ時の衝撃で気を失っただけらしい。確かに危険な状態のようだが、元々再生能力を持っている玉藻の事だ。しばらくすれば動けるようになるだろう。
「わかった!少しの間持ちこたえてくれ!」
刀真は、振り向きもせずにそれだけいうと、光条兵器の柄を口に加えて、ワイヤーが張られている樹を登りだした。たちまち浴びせられる銃弾の雨。
『待ってろ玉藻!今助ける!!』
時折走る鋭い痛みを意にも介さず、刀真はひたすら樹を登り続けた。



一方その頃、島の東側を受け持つ篠宮 悠(しのみや・ゆう)は、敵の攻撃を一切受ける事なく、まっすぐジャングル地帯目指して進んでいた。
一行は、すぐ後ろを飛ぶレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)のメモリー・プロジェクターで偽の映像を投影し、身を隠しながら進んでいたのである。敵のいるジャングルはすぐソコまで迫っていたが、今のところ敵が攻撃してくる気配はなかった。

「攻撃されないのも考えものだな。ジャングルの密度が濃すぎて、敵が何処にいるか皆目見当がつかん」
「そうですね。それにこの状況だと、例え敵の攻撃があっても、上空から狙撃するのは無理そうです」
苦笑するヨハン・メンディリバル(よはん・めんでぃりばる)に、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)は苦虫を噛み潰したような顔で応える。どうやら、思っていたほど楽には行かないようだ。
「見て分かんないなら、飛び込んでみるまでだ!行くぞ!レイオール!!」
「了解!」
ここまで攻撃が無かった事で、敵の不意を打ったと確信した篠宮は、一気に降下を始めた。レイオールもこれに追随する。
「待て、2人とも!」
ヨハンの止める間もあればこそ。
「バンッ!!」
という大きな音と共に、巨大な黒い塊が2人の眼前に現れた。
「な゛っっ!!」
「鉄板!!」
それは敵の罠だった。センサーの上を何かが横切ると、巨大な鉄板が跳ね上がり、行く手を遮る仕掛けになっていたのである。
2人は全力でハンドルを切るが、間に合わない。
2人の乗った飛空艇は吸い込まれるように鉄板に激突し、炎の塊となって墜ちていく。
「ユウっ!!」
「なんだとっ!!」
悲痛な叫びを上げながら、2人の安否を確認しようと必死に目を凝らす真理奈とヨハン。
かろうじて脱出に成功したのだろう。バラバラになって四散する残骸の中に、必死に体勢を立て直そうとしながら落下していく2人の姿が見えた。
「早く、助けないと!」
慌てて機首を下に向ける真理奈。
だがその行く手を、突然の火線が遮った。
それを合図に、物凄い量の弾丸の奔流が真理奈とヨハンに襲いかかる。
「しまった!偽装が解けたか!!」
プロジェクターを使用していたレイオールがいなくなれば、当然2人の姿は敵から丸見えになる。突然の出来事に、さしものヨハンも状況判断が遅れてしまったのだ。
「私達も突っ込みましょう!このままじゃ敵の的になるだけです!」
弾を避けるため、キリモミを切って降下しながら、叫ぶ真理奈。
「落ち着け、上からは無理だ!どんな罠が仕掛けてあるかわからん!ここは一旦ジャングルの外に着陸して、徒歩で侵入するしかない!」
「…くっ…」
悔しそうに、ぐっと下唇を噛み締める真理奈。だが、ヨハンの言う通りだ。今ここで迂闊に飛び込む訳にはいかない。
真理奈とヨハンは、不時着も同然に飛空艇を着陸させると、転がるように飛空艇から飛び出した。たちまち辺りのサンゴが銃撃ではじけ飛ぶ。
『お願い、無事でいて…!』
そう強く念じながら、真理奈は弾の雨の中に身を投じて行った。



刀真達と時を同じくして、島の南側から侵入を開始していた椎堂 紗月(しどう・さつき)は、敵の攻撃を巧みに回避しながら、サンゴ礁の上を飛翔していた。
「思っていたほどの攻撃じゃないな!」
自分といっしょに光る箒にタンデムしている小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)に向かって怒鳴る紗月。
「油断禁物ですわよ、お気をつけ下さいませ!」
紗月とは異なり、星華はどこか不穏なモノを感じていた。敵が厳重に警戒しているにしては、攻撃が少なすぎる。
そんな不安を感じつつも、順調に進撃を続け、敵の篭るジャングル地帯まで辿り着いたその時。
すぐ後ろで、何かがはじけるような「ポンッ」という音が下かと思うと、続けて爆音と熱風が2人を襲った。
「ナニっ!」
紗月が振り返ると、2人の乗った箒のすぐ後ろを飛んでいた、椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)の乗った飛空艇が、煙を吐きながら墜落していくところだった。
「驚いてるバアイじゃありませんわよ、紗月!上見て下さい、上!」
「え゛!?」
言われて空を振り仰いだ月の視界一杯に、太陽の光を浴びてキラキラと光る何かが広がっていた。
「避けて紗月、はやくっ!!」
切羽詰った星華の叫びに、紗月は本能的に機首を下に向け、一気に急降下した。地面すれすれで機首を引き上げると、そのまま地表を掠めるように飛び続ける。
背後で、何かが物凄い勢いで地面に突き刺さっている。
針だ。物凄い数の針が、さっきまで自分達がいたところを埋め尽くしている。
「トラップですわ!上を通ると無数の針が発射されるトラップが、仕掛けてあったんですわ!!」
「クソっ!金鷲党のヤツらめ!」
吐き捨てるように言う紗月。そのすぐ横を銃弾が掠め、墜落したアヤメたちの飛空艇へと吸い込まれる。飛空艇のキャノピーや外装が、みるみる吹き飛ばされていった。
「あの人たち、ワザとやってますわ!私たちが助けに行かなければならないように、ワザと直撃させないように撃ってるんです!」
「畜生、汚ねェマネしやがって…」
歯噛みする紗月。
「上等だ!ワナでもだろうがなんだろうが、ぶっとばすまでだ!」
紗月は、ジャングルの手前ギリギリのところで大きく旋回してUターンすると、飛空艇へと機首を向けた。そのまま、全速力で飛空艇まで突っ走る。
「星華、なんとしてもアヤメとラスティを助け出すぞ!」
「分かってますわ!」
そう言いながらも星華は、自分の心の中に何か言いようの無い不安が広がっていくのを、打ち消す事ができなかった。