シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

リアクション公開中!

【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

リアクション


終章 エピローグ
「円華さんのブランド、発表日がきまったそうですね」
五十鈴宮円華救出作戦の成功を報じる新聞を見ながら、森下冬樹(もりしたふゆき)が言った。
その記事には、金鷲党が崩解したこと、長い間病の床にあった五十鈴宮知信の死に伴い、正式に円華が五十鈴宮家の後を嗣いだことなどが書かれてあった。
「そうだね」
「でも、肝心のブランド名は、発表まで秘密なんですって〜。どんな名前になるんでしょうね〜」
「そうだね」
「もう、御上先生、私の話、ちゃんと聞いてます!」
「え?う、うん。そうだね」
「もう!」
漫画のように顔をふくらませて怒る森下。

『コンコン』
「はい」
ノックの音に返事をして、御上がドアを開けた。
「キルティス君!」
「御上先生、ちょっと、いいですか?」

木々の生い茂る小道を、並んで歩く2人。
木漏れ日に眼を細めながら、御上が口を開く。
「この間は、本当に有難う」
「そんな、私なんて、結局何にも出来なくて……」
「僕の傷の手当、してくれたのキルティス君なんだろ?秋日子君に聞いたよ」
「い、いえ、私は当然のことをしたまでで……」
突然の感謝の言葉に、しどろもどろになるキルティス。
「それからね、由比家なんだけど、結局、なずな君のお父さんがそのまま景信さんとして振る舞い続けることになったよ」
「なずなさんのおとうさんって……影武者だった人ですよね?」
「うん。景信さんには子供がいなくって、このままだと由比家が断絶してしまうからって。ハイナさんの了解も取り付けたらしいよ」
「そうですか……」
「それから、僕なんだけど」
「は、はい?」
何故か、ビクッとするキルティス。
「今度、円華さんの後見人になることになったよ」
「後見人?」
「うん。純華さんの遺言でね。円華さんが結婚するまでの、期限付きだけど」
「遺言って……!」
「あぁ、純華さんね、僕が会った後、すぐに亡くなったんだそうだ。ずっと前から癌を患っていたらしくて。正直、今まで持ったのが奇跡的な位だったんだそうだ」
「そ、そうだったんですか……」
「きっと、景信さんのことがずっと心配だったんだろうな」
歩き疲れたのか、御上が、傍らのベンチに腰掛ける。
「ゴメンね。僕ばっかり話しちゃって。事情を知らない人には話せないコトだから、つい……。そういえば、何か僕にようがあったんじゃないの?」
「は、はい……あの、その……」
“絶対に確かめよう”そう決心してきたのに、イザとなるとどうしても言い出せない。
「うん?」
「み、御上先生!」
「な、なんだい、急に!」
「み、御上先生は、円華さんのコトが、すす、好きなんでしょうか?」
思わず身を乗り出して聞くキルティス。顔が、耳まで真っ赤になっている。
「好きって……」
一瞬、困惑したような顔になる御上。
「あの、異性として、というコトです」
キルティスは、御上のその顔に気づいたが、あえてそう付け加えた。
「異性として、か」
途端に、遠くを見つめるような目をする御上。何故だかキルティスには、御上が急に、とてつもなく遠くに行ってしまったように感じられた。
「僕はね、キルティス君」
「僕は、人を愛せない人間なんだ」
「愛せない?」
言葉の意味を計りかねて、聞き返すキルティス。
「そう。僕は、人を愛せなくなってしまったんだ」
虚空を見つめて、そう呟く。
「ゴメンね、今度、心の整理がついたら話すよ」
そう言って、キルティスに背を向ける御上。
キルティスは、その背中に声をかけることが出来なかった。



二子島を臨む、無人島。
向こうに、金冠岳が崩壊し、すっかり外観が変わってしまった二子島が見える。
その無人島に、2台の小型飛空艇が止まっていた。
そのうちの1台には三道 六黒達3人が、もう1台には、ジャジラッド・ボゴルの姿がある。
「ジャジラッドは、これからどうなさるので?」
悪路がさして興味なさ気に聞く。
「俺は、また地下に潜る。生きてさえいれば、もう2、3回はやれるからな」
「またテロかよ。飽きねぇな、アンタも」
心底ウンザリだ、という感じで冴王が言う。
「お前達は、どうするのだ?」
「我らは、また戦いを求めてさすらうまで。“最強”への道は、まだ遠い」
「だとよ」
「そうか。では、次は敵同士かもしれんな」
「その時は、手加減は致しませんよ」
「望む所だ」
表情一つ変えずにそう答えるジャジラッド。

「三道 六黒様と、ジャジラッド・ボゴル様ですな」
突然の声に振り返った4人の眼の前に、頭からすっぽりと黒いローブをかぶった小男が立っていた。
「なんだ、貴様は?」
「折り入って、お話が御座います」
「話?」
「ハイ。今後の金鷲党の有り様について、是非御意見を聞かせて頂きたいと思いまして、ね」
そう言って笑みを浮かべる男の背後に、いつの間にか、金鷲党の落ち武者達を乗せた飛空艇が浮かんでいた。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

皆さん、こん〇〇わ。神明寺です。
前回からふと気がつけば、既に5ヶ月近くが経過してしまいました。
『【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)』
ようやくのお届けです。
大変遅くなりまして、申し訳ありません。

今回は、書いてるうちにドンドン話が膨らんでいって、気づいたらエラい事になってしまいました。
とにかく難産でしたが、マスター的には“やりきった”感があって、満足しております。

では、また、お会いできる日を楽しみに。

平成庚寅 秋神無月

神明寺 一総