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リアクション
「あら、お友達?」
ミチルが言い、朔達もそれぞれに挨拶する。そんな5人を見ながら、スカサハは思う。
(ファーシー様方と楽しく一緒に過ごしたいであります。朔様とカリンお姉様が仲直りするきっかけになるかもですし……)
しかし、彼女はファーシーの様子も気になった。それに、あるべきものが無い。
「何かあったでありますか? 車椅子はどこでありますか?」
「あ、それはね、置いてきちゃった」
「? 置いてきたって……歩けるようになったでありますかっ?」
「あ、ううん、そうじゃなくて……」
「ファーシーさん!」
そこに、入口の自動ドアが開いてティエリーティア達が入ってくる。
「まったく、何を暴走してるんですかあなたは! もう少し考えて行動してください!」
「俺様は暴走なんかしてねーぞ? 運びてーから運んだだけだ!」
「それを暴走というんです!」
スヴェンとフリードリヒが言い合っている傍で、大地が車椅子を押してくる。
「はいどうぞ、ファーシーさん」
「うん、ありがとう。助かったわ!」
大地に抱き上げられ車椅子に戻る。スカサハは、10人以上もの友人が一様にファーシーの方に来るのを見てびっくりした。
「な、何でありますか、何かのイベントでありますかっ?」
「ううん、違うの、スカサハさん、わたし今日、いろいろあって……それで、みんなが集まってくれたの」
そうしてファーシーは、この1日であった事、言われた事をスカサハに話す。
2人を中心に話が進む中、朔は自分の斜め前に立つカリンの横顔を見て、1人物思いに沈んでいた。
(カリン……あの時に読んだ事、花琳に突き立った短刀、あの朱の十字は……、やっぱり、カリン……なのか? でも……カリンは大切な……大切な私の相棒で護り刀で……友達だから……私は……)
イルミンスール魔法学校の大図書室で行われた魔道書コンテスト。その時、これまでの罪が全て見えるという魔道書でカリンの罪を見た時から、朔は煩悶を続けていた。妹の花琳を殺したのは、カリンなのかもしれない……。カリンは、嘘を吐いているのかもしれない……。それでも確認する勇気が持てず、疑いを抱いた事で2人の関係はギクシャクしてしまった。でも、朔は本当は、彼女とは以前の関係に戻りたいと思っていた。
(朔ッチ……)
そんな朔の視線を感じて、カリンもまた朔との関係に悩んでいた。いつもどこかで考えていたが、今日は、特に深く、何か不安に襲われていた。
(……正直言えば、全てを話してあげたい。『ボクが朔ッチの仇』だと……。でも……そうしたら、あの子はボクを……殺せるのだろうか。パートナーであるボクを……。……そんな苦痛を彼女に与えたくない。ボクは殺されてもいい……だけど……『花琳』の事を考えると……)
今のカリンの中には、花琳の魂が宿っている。朔と契約する前の、鏖殺寺院で活動していた頃の人格である『ブラッド・クロス』の良心の欠片と花琳の魂。それが融合したのが、今のカリンだ。
(ボクは……どうすれば……)
目の前では、スカサハとミチルがファーシーという子の話を聞いている。3人の後ろには、沢山の彼女達の友人。今日は楽しむべきだ。そう思うけれど、不安と共にカリンの気持ちは張り詰めていった。
「……ファーシー様」
スカサハは一通り話を聞くと、ファーシーと目線を合わせて言った。
「スカサハも、皆様に賛成なのであります」
「……え?」
「……スカサハは難しい事はわからないでありますが……それはファーシー様自身がやりたいようにすればいいと思うのであります! でも……スカサハはお友達のために真剣になってくれるファーシー様が大好きでありますよ?」
「あなたはあなたらしくあればいいのよ。思い悩むのも時には必要。でも、もう少し楽に考えてもいいんじゃない?」
ミチルも、優しそうな笑顔でファーシーに言う。
「……スカサハさん、ミチルさん……」
ファーシーは彼女を見つめ返して、恥ずかしそうに微笑んだ。
「うん、ありがとう……」
そこには、確かに暖かな空気が流れていた。
――だがとうとう、カリンに決定的な変化が訪れた。
「……あぁん? なんだ、このナリは? てめぇらがやったのか??」
「……?」
突然紛れ込んだ乱暴な声音に、スカサハとミチルは振り返った。皆も、ファーシーの後ろで危険な匂いを嗅ぎ取っていた。カリンは、自分の銀色の髪と白い衣装を見回している。
「ファーシー、ここは危ないわ。戦場になるかも」
「え? 戦場……?」
ルカルカがファーシーに囁き、離れるように促した。デジタルビデオカメラで件の犯人を警戒していたが、怪しいものは何も映っていなかった。自分達が来る前に被害に遭っていたのだろうか。
「みんなも、ここから離れた方がいいわ! 早く! 店員さんも、持ち場から逃げて!」
カリン達を気にしながら、ファーシー達は慌てて移動を始める。
しかし。
「あ〜……とりあえず、なんだ? てめぇら、全員死ね」
カリンはそう言うと、一気に床を蹴った。先の先と等活地獄を使い、素早く店の展示物を避け、あるいは破壊していく。本心では人殺しなどはしたくない。しかし、止まらない。そして人の多い場所――ファーシーへと迫った。
「きゃあ!」
「ファーシー様!」
「ファーシー!」
咄嗟に抱き締められる。次いで、金属めいた衝突音。
「…………」
ルカルカの腕の中でファーシーが恐る恐る目を開けると、スカサハがカリンの攻撃を受け止めていた。腕に激しい損傷がある。
「ファーシー様……大丈夫でありますか?」
「スカサハさん……」
「カリン!?」
駆け寄ってくる朔に、カリンは鬼神の如き攻撃を繰り出した。
「くぅ!?」
朔はぎりぎりで何とか避ける。
「鬼崎さん!」
それを見ていた誰かが、彼女の名を呼んだ。武術部か、王国の誰かだろうか。
「朔様、カリンお姉様! 止めるであります!」
スカサハも叫ぶ。それを聞いて、カリンはゆらりとした動きで振り返った。
「あぁ? 鬼崎……朔……?」
怪訝そうに言い、それから朔に向き直る。途端、彼女の感情は爆発した。
「鬼崎……てめぇ、裏切り者がッ!」
「!?」
完全に標的を朔に絞り、カリンは立て続けに攻めてくる。変貌したカリン――ブラッド・クロスは花琳殺害後、朔の両親を殺した男・鬼崎洋兵に当時の契約者を殺されていた。そして、封印されたのだ。
「……私の名前を聞いたら……ってどういうことだ!?」
混乱し、手を出せないままに和菓子屋のレジカウンターの前に身を潜める。
「ミチル!」
急いでミチルを呼び、魔鎧化させる。朔に装備されたミチルは、半ば独り言のように言葉を紡いだ。
「……あら、随分と目覚めるのが早かったわね。『ブラッド・クロス』。……可哀相な私たちの仇……」
「……ふむ、お前が相手なら手加減する必要もなし」
「仇……? どういうことだ!?」
魔鎧化したミチルの中には、女性の人格と男性の人格がある。その2人のミチルがカリンに言った意味が判らず、朔は叫んだ。だが、ミチルはそれ以上喋ろうとはしなかった。カリンがまた迫ってくる。
「……くそ、私はどうすれば!!」
ミチル(女性)の声が聞こえてくる。
「あれは、人を殺し続けた結果、血を吸い続けた結果、見境なく人を襲う妖刀。ただ、精神攻撃に弱いわ。だから朔、こうすればいいわ……」
そうして、彼女は朔に策を授けていく。姉に、妹を解放させる為に。
ミチルの中にある2つの人格の正体、それは朔の死んだ両親、父・アーティフと母・みちるだった。ミチルは今のカリンの中に花琳と『ブラッド・クロス』が存在する事を知っていた。ミチルは、娘の花琳の魂を開放し、また、『ブラッド・クロス』を制圧しようとしていた。
「……分かった。それで、カリンは収まるんだな……!?」
「鬼崎ぃ!」
いつの間にか、カリンの髪の色は黒く変わっていた。その彼女に、朔は「その身を蝕む妄執」を使った。
「うっ……うわああああああああ!!!」
『ブラッド・クロス』は叫んだ。過去に殺した人々の顔が見える。恨みを込めた瞳で、こちらを見ている。
「カリン……!」
絶叫するカリンから、何か、紫色のようなものが出てきた気がした。怨嗟の声を上げるように、「それ」は口らしき部分を大きく開ける。朔は「それ」に向かってライトブリンガーで斬り付けた。
「…………っ!」
カリンの全身から、力が抜けた。