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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 1階と2階の間の踊り場
「で? あなたは何者なんですか? いたずらにしては、持っているものが物騒です。なぜ、こんな事を?」
「…………」
 ここまで連れてこられた刹那は、真人達に囲まれ、デパートの店員から借りたビニール紐とガムテープで縛られていた。しかし、決して口を割ろうとしない。
「困りましたね。でも、これだけ喋らないという事は、逆に怪しいんじゃありませんか? 誰かに頼まれて行動したということも……」
「誰か、とおっしゃいますと……」
「あの、黒ずくめしかいないでしょう。私がバズーカを止めようとした時に割り込んで来たわけですし」
 和輝とクレアが話し合っていると、セルファがそこで反応した。
「……殺気!」
「!?」
 一同が振り返ると、物陰からチェリーが半身を出し、照準を合わせている所だった。彼女が狙っていたのは、クレアだ。
「クレア、隠れてください」
「は、はい……」
 稔がクレアを死角に隠す。山田達は立ち上がると、逃走体勢に入った。
「ちっ、見つかったんだな」
「……待ちなさい!」
 セルファが地を蹴った。追いかけながら、言う。
「あんた達、あの子の事知ってるの!?」
「あんなガキ知らないんだな。関係無いから、さっさと捕まえればいいんだな。報酬も払わないんだな!」
「馬鹿……」
 チェリーが呟く。2人は角を曲がり、セルファがそれに続いた時にはもう姿を消していた。セルファは戻り、今の山田の間抜けな台詞を報告する。
「報酬は払わないって言ってたわよ」
「……雇ったの? こんな小さな子を?」
 驚く司に、刹那は言う。
「わらわは、物心ついた頃からさまざまな依頼を請けおってきた。裏も表も問わずじゃ。年は関係ない」
「……認めるんですね」
 真人が確認すると、刹那は頷いた。
「契約関係は、今、切れた。知りたいことがあれば訊くがいい」
「……彼らの目的は何ですか? あと、正体を教えてください」
「あのバズーカの本当の効果も教えて! どうすれば元に戻るの!?」
 和輝と司が言う。それに、刹那は冷静に返答した。
「山田達の目的は、このデパートを落として自分達の根城にすること。正体は、シャンバラ系鏖殺寺院の残党だ。元に戻る方法は知らない。バズーカの効果は……」
 彼女がそれについて語っていると、やがて、銘店以来の2度目の放送が鳴り響いた。
 ぴんぽんぱんぽーん……
『7階、婦人ファッションフロアの黒いコートのロリコンさん、“剣の花嫁のパートナーが迷子”なので至急事務所までおこしください〜』

 そのちょっと前。
「あら、そこに何かいましてよ?」
 避難所となったスペースも落ち着きを見せ、咲夜 由宇(さくや・ゆう)アクア・アクア(あくあ・あくあ)は、被害に遭った剣の花嫁達の間を回っていた。気を付けている犯人の方には全く巡り合えていない。しかしこの時、アクアは確かに黒ずくめの2人組を見た。それで、さりげなく由宇に伝えたのだ。
「行ってみましょう〜」
 示された方角に急いで向かう。だが、そこにはもう山田達の姿は無く――
 代わりに目に止まったのは、髪色を赤く変化させながら、見捨てないでと呟く少女だった。

 殺気看破を展開していた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)を狙う何者かの気配を察知して振り向いた。相手は、物陰からバズーカを構えている。
(……軽く追い払っておくか)
 唯斗は、雷光の鬼気を嵌めた拳に闘気と雷を纏わせて黒コートの少女に迫る。少女は、さっと武器を担いで完全に遮蔽物の向こうへ行き、見えなくなった。一応追いかけてみると、おそろいのコートを着たもう1人の男と走り去っていく所だった。
「何だ? 手ごたえがないな……。バズーカ? の割には何も撃ってないし、何をしたかったんだ?」
 よく分からない、と頭を掻きつつパートナー達の所に戻る。今日はエクスと紫月 睡蓮(しづき・すいれん)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)と一緒に買い物に来ている。
「さて、行くか」
 再び4人で歩き出すこと少し。エクスが、急に立ち止まった。
「……ここは……?」
 前にいた唯斗は、その声で彼女の変化に気が付いた。見ると、驚いたように天井を、周囲を見回している。まるで、知らない場所に突然飛ばされたかのようだ。
「エクス? どうした?」
「エクス様?」
 プラチナムも僅かに眉を上げ、怪訝そうにエクスを伺った。
(惚気過ぎてどうかしてしまったんでしょうか)
 睡蓮もあまり良い予感がせずに彼女を見守る。
 そんな3人が目に入らないかのように、エクスは自分の記憶を思い返していた。
(わらわは封印された筈……。ぬ、この記憶は……そうか、そういう事か……)
 事態を素早く理解したエクスは、自分を囲む3人にようやく目を遣り、そして唯斗に言った。
「お主、唯斗、で良いな?」
「あ、ああ。どうした? 記憶喪失か?」
 面食らい、少し心配そうにする唯斗にエクスは説明した。
「いや、記憶はある。今のも、もちろん、わらわのもな」
「は? いきなり何を……?」
 妙なことを言い出したエクスに、睡蓮も思う。
(姉さんが、何かいつもと違う感じになっちゃいました……。でも、他の方達みたいに別人って感じじゃないですね?)
 睡蓮はデパートの中で、人格の変わった剣の花嫁と連れのトラブルめいた様子をいくつか見て、店内で何か起きている事を薄々感じていたのだ。
「よく、意味が分からないな」
「わらわは、エクスであってエクスではないのじゃ。わらわはおぬしと契約する前のエクスじゃ。おぬしの知るエクスは、今は眠っている」
「……ん? 何だ、ややこしいな。エクスであることに変わりないんだろ?」
 その時、彼らに1人の少年が話しかけてきた。輝石 ライス(きせき・らいす)だ。
「悪い、その話、詳しく聞かせてくれないか? 実は、オレのパートナーも……」
 パートナーに誘われてデパートに来たライスは、面倒でしょうがないのを堪えて買い物に付き合っていた。彼女から『これくらいつきあえないようでは男として……』などと言われ、うるさくて敵わないので仕方なく、である。
 何件も回り嫌になっても、『次はあちらへ行くぞ』などと言う有様。
『いい加減にしろよ、もう帰るぞ』
 ライスがそう言ってさっさと帰ろうとした時だった。彼女は『分かりました。だから私を見捨てないで』と縋り付いてきたのだ。
(ど、どうなってんだ!?)
 ライスはそう思った。何時もなら『そんなことでは……』と説教が続く所だったからだ。
 彼女の状態は異常だった。表情は泣き崩れそうで、焦茶の髪も赤みを帯びている。
(なんだ!? なんとか戻さないと!)
 そして、そんな彼の耳に入ったのがエクスの話だった。
「……そうか。では、そのパートナーはわらわと同じようになっていると見るべきだな。剣の花嫁には前人格というものが存在する場合がある」
 事情を知ったエクスは、ライスに先程と同じ事を説明する。
「髪の色が変わったのであれば、当時は姿も違ったのであろう」
「げ、原因は何なんだ?」
 ライスに問われるままにエクスは答える。
「原因は解らぬ。が、事実そうなっておる」
「原因……そういえば、さっきバズーカ構えてた女がいたな。もしかして、あれが関係してるんじゃないか? 怪しかったし……」
「ま、まじか……!? 情報サンキュー、恩に切るぜ!」
 唯斗が言うと、ライスは去っていった。それを見送りつつ、エクスは言う。
「この現象は一時的なものだ、とも言おうとしたのだが、行ってしまったな」
「あ、一時的なものなんだ」
 よく分からない、と首を傾げて話を聞いていた唯斗がぱっ、と顔を明るくする。
「わらわはその後も姿が変わらなかったようじゃ」
「性格も同じに見えるな。今のエクスと全然変わらないよ。癖とかも一緒だし」
「人格が変わった訳ではないからな」
「ああ、そうなんだ?」
 そういうものかと思いつつ、しかし1番気になることは。
「……なあ、元に戻ったらまた記憶は無くなってるのか?」
「いや、元に戻った後は記憶も統合されるじゃろう。わらわは、繋がっていて繋がっていない存在じゃからな」
「てことは記憶は全部戻るってことか! 良かった……結果オーライってトコか」
「ま、それまで暫し付き合え」
「……まぁそれなら良いさ。いくらでも付き合うよ」
 唯斗はそう言って、睡蓮とプラチナムを振り返った。
「いいよな?」
 プラチナムは、クールな表情に少し戸惑いを含ませて言う。
「……マスター、人生経験不足気味の私としては対応に困るのですが……」
 生まれてからつい先日まで、彼女は封印されていたのだ。
「いつも通りにしてりゃいいんだ。そう難しく考えることないだろ?」
 気楽な調子で答える唯斗に、プラチナムは納得したように歩き出す。
「……解りました、いつも通りですね」
「そうそう。んじゃ、エクスどこ行く?」
 エクスは少し考えて、
「そうじゃな、今はどんな店があるのじゃ? 普通に、いろいろと楽しんでみたいの」
 元に戻ったらわらわは消えてしまうじゃろう……。そう思いつつ、こう言った。

 ライスがパートナーの所へ戻ると、取り乱した彼女の前ではささやかな演奏会が行われていた。由宇とアクアが歌を紡ぎ、落ち着かせようと頑張っている。しかし、パートナーにはあまり効果が無いように思えた。
「戻ってきましたわね」
 アクアが歌を中断した。由宇はライスに言った。
「8階に避難所があります〜。動けるようでしたら、エレベーターで連れていった方が良いかもしれませんね」
「犯人はバズーカを構えた女だって……」
「そうですぅ〜。あと、おじさまも一緒です〜」
「犯人は、黒ずくめの2人組ですわ。わたくし達も先程見ました」
「黒ずくめ……バズーカ……」
 得物からして、剣の花嫁は狭いテナント内でなく、広い場所で攻撃されたのだろうか。だとすると――
「すまねぇけど、こいつ、頼めるか? オレは犯人を捜す」
「わかりましたぁ〜」
「……何が目的か知らないけれど、絶対元に戻してもらうぞ」
 ライスは、フロアの案内譲がいる所まで行って彼女に交渉した。
「デパートの監視カメラを見せてくれるように取り計らってもらえねぇか? 剣の花嫁に攻撃してる犯人を見つけたいんだ!」
「犯人……? は、はい!」
 彼が真剣な顔で言うと、案内譲は慌てたように内線電話を取る。
 その時だった。
 ぴんぽんぱんぽーん……
『7階、婦人ファッションフロアの黒いコートのロリコンさん、“剣の花嫁のパートナーが迷子”なので至急事務所までおこしください〜』
 と聞こえてきたのは。

              ◇◇◇◇◇◇

「ずっと何かと思ってたんだが、これは俺達の事なんだな。刹那も捕まったし、今頃は素性も伝わっている可能性がある……。撤退した方が良さそうなんだな」
 慎重に移動をしながら、太郎は言う。
「……計画は失敗ということか?」
「そう思っても構わないが、バズーカの効果が高い事は判ったんだな。耐久力も十分だろう。これさえ奪われなければ幾らでも勝機はある。時間を掛けて、少しずつ侵食していけばいいんだな。そうすれば、鏖殺寺院の新たな拠点が出来るのも近い」
「……何だか、山田太郎、キャラ変わってないか?」
「これが俺の本気なんだな」
「……そうか……。で、どう逃げる?」
「デパートの外に出るんだな。非常階段を使って降りて、そのまま撤退だ」
「……分かった」
「……だが、さっきから気になっているんだが、誰か近くに居る気がするんだな。でも攻撃してこないし、不可解なんだな……」
「気のせいじゃないのか?」

 1人の男が、その会話を陰で聞いていた。精神感応で太郎の位置を察した彼は、気付かれぬように直ぐ近くまでやってきていた。しかし、太郎達を捕まえようとはしない。それはそうだろう。自身も表に出る立場では無い。
 2人と同じような黒いロングコートに身を包み、仮面を被ったトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はそっと移動を開始した。
「シャンバラ系鏖殺寺院の残党、か……やれやれ面倒だね。けど、大っぴらに動かれてる以上、放っておけねぇか」
 これまでは、2人を探す為に殺気看破を使っていた。しかし、これからは違う用途に使うことになるだろう。

              ◇◇◇◇◇◇

「今度は7階か……!」
「剣の花嫁……間違いなさそうやなあ」
 被害を受けた剣の花嫁のパートナー達――毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)――
「7階だそうだ。行くぞ、陣」
「おう! とっ捕まえて洗いざらい吐かせてやる!」
「7階に犯人がいるのですか。こちらから出向いてみましょうか……」
「これは間違いないだろ、アスティ、カイル、行くぞ!」
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)七枷 陣(ななかせ・じん)、セラフィーナも7階へと。また、本格的に太郎達を探し始めていたセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)達も移動を始める。
 そして、街中を走っていたアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)も、耳に入ってきた様々な情報からデパートへとやってきていた。1階の状態を目にし、怪しい放送を聞いて訝しみながらも7階を目指す。
 山田達を追う者達が、7階に集結しようとしていた。