シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション公開中!

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション

 
 
 鳳明が非常階段側へ行くと、黒いコートを着た2人組が慎重に扉を閉め、下へと降りていく所だった。音がしないように注意しているのか、派手な動きではない。だが、こちらに気付いたら脇目もふらず逃げる可能性もある。それは面倒だ。
 鳳明はそう判断すると、マシンピストルを構えて2人の数段下に牽制弾を撃つ。金属製の階段に着弾の派手な音が連続して響く。
「ななな、また銃撃なんだな!」
 太郎は銃弾の方向を予測し、上空を見上げる。鳳明は、更に牽制弾を撃ちながら彼らに近づいた。
 瞬間。
「きゃっ!」
 太郎は飛空挺をサイコキネシスで攻撃した。
「……サイオニック!」
 ぐらりと揺れ、コントロールの効かなくなる飛空挺。そこから、鳳明は光条兵器を出しながら飛び降りた。階段に着地して2人の逃げ道を塞ぐと、レビテートを使われる前に光条兵器で足元を狙う。連続して斬りつけると、太郎達はやむをえずに上に後退した。
「私1人なら行けるか……いや」
 道が狭すぎる。しかも――
(こいつ……私を狙っている……!)
「山田太郎……!」
 後退しながら太郎を見ると、彼は上の非常階段から降りてきた大佐と対峙している。サイコキネシスとヒプノシスで攻撃を掛けているが、大佐は怯む気配を見せない。見えない力にも、襲ってくる睡魔にも気合で耐えて進んでくる。
「ちっ! 余裕が……!」
 超感覚を駆使して鳳明の攻撃を避けていたチェリーだったが、太郎を気にした一瞬の隙をつかれ、光条兵器が足を凪ぐ。
「ぐっ……!」
「チェリー!」
 チェリーは後ろに倒れかけ、その首根っこを太郎が掴んだ。痛みで力の抜けた手からバズーカが落ちかける。それを、太郎はサイコキネシスで引き寄せ、掴んだ。その間に、大佐が間近まで迫る。大佐の両手には、栄光の刀と妖刀村雨丸があった。
 眠気が残っていたのか、すんでの所で大佐の攻撃は外れた。
「中に戻るんだな!」
 太郎は扉を開け、デパート内に戻った。チェリーは隠れ身を発動する。しかし、太郎まではカバー出来ない。
「いや、ブラックコートが……っ!」
 そこでチェリーは初めて、ブラックコートに穴が開いている事に気付いた。
「いつの間に……!?」
 そして、彼女はもう1つ。既に、隠れ身など何の意味も無いのだという事を悟った。鳳明に斬られた足から血が流れ、床に痕を作っている。
「階段で逃げるんだな!」
 チェリーを引っ張って運びながら太郎は叫ぶ。
「太郎……お前は先に逃げろ! 私を運べば血の痕で……!」
「そうはいかないんだな、貴様が死ねば俺もただでは済まないんだな……くそっ! 待ち伏せか……!」
「ここは通さねえ!」
 階段で待機していた陣がファイアストームを放った。それを、太郎はフォースフィールドを咄嗟に展開。しかし完全には防ぎきれず、炎の熱が太郎達を炙って太郎は尻餅をつく。スプリンクラーが、派手に天井から水を振り撒いた。
「おおおおおおっ!」
 追いかけてきた大佐が、2本の刀を太郎の胸に突きつける。もちろん、左胸だ。
「…………!」
 刃先は、心臓の数ミリ手前で止まっている。白いシャツに、赤い小さな染みが出来ていく。身動きが取れなくなり、太郎はバズーカを手から落とした。それをチェリーが拾い、覚束ない足取りで逃げ出す。彼女は、半獣化していた。鼻が長く伸び、肌が赤茶色と白の短毛に覆われている。
 対極にある階段から逃げようと、チェリーは半ば転びながら走る。
 しかし。
 磁楠の姿を見て足を止める。磁楠は聖剣エクスカリバーを持っていた。
 急いで戻り、フロアの中央へ。そこには、商品を極力取り除いて2人を待ち伏せていた追跡者達の姿があった。
「な……何人いるんだ……!」
 そして、その中にはファーシーが――
「チェリーさん! 大人しくお縄につきなさい! 悪いようにはしないわ!」
「それ、悪いようにする時の常套句だよな……」
 エスカレーターで逃げようと、踵を返す。
「おっと! そうはいかねえぜ!」
 エスカレーターの前に陣取るライス。これでは、身動きが出来ない。
 その時。
 物陰から背の高い男が飛び出てきて、チェリーとファーシー達の間に割り込んだ。隠形の術を使い、これまで身を潜めていたのだ。
「くそ、新手か……!」
 だが、男はチェリーの手を取ると、彼女を庇うように自分の後ろに隠す。黒いロングコートが翻った。その顔には白く、細目の仮面がある。
「……同じ鏖殺寺院のよしみだ。助けてやるぜ」
「何……!?」
 生徒達が集まっている。鳳明も店の中に入ってきていた。男は、彼らに向けて言う。
「鮮血隊副隊長、参上。悪いが邪魔させて貰うぜ」
 彼が煙幕ファンデーションを投げつけると、フロアの――彼らの周囲が白い煙幕で包まれる。その間に、男はチェリーを担ぎ上げると、開け放たれたままの非常口へと向かった。外に出ると、そこにはレッサーワイバーンが待機していた。鮮血隊副隊長と名乗ったその男は、ワイバーンの背にチェリーを乗せると、自分も飛び乗りデパートを離れていく。
「追いかけなきゃ!」
 非常口まで車椅子を走らせたファーシーは、遠ざかるワイバーンを見て急いでエレベーターに向かった。
「……動かないわ! 誰よこんなことしたの!」
 それを聞いた鳳明が、天樹に精神感応で話し掛けた。
(エレベーターとエスカレーターの電源を入れるように伝えて! 犯人の片方が逃げたよ!)
(……分かった)
 天樹は、警備室にあるメモ用紙にその旨を書き込み、警備員に見せる。
「電源を入れても問題無いんだね」
 警備員はそう確認し、2つの移動手段を復活させた。5階エレベーターが口を開ける。ファーシーはその中に入る。
「ファーシーさん!」
「ファーシー……」
「ファーシー様、待ってください」
 等々。友人達もそれに続き、5階の人数が減っていく。大佐は刀を刺したままの状態で太郎に訊いた。
「剣の花嫁達を戻す方法を吐くのだ。死にたくなければな」
「ふ、ふん……誰が言うものか」
 太郎は冷や汗を掻きながらもせせら笑った。
「殺せるわけがないんだな。俺が死ねば永遠に貴様等のパートナーは狂ったままだ。それで、刀を刺す度胸があるか甚だ怪しいんだな」
「……!」
 大佐は則天去私を使って太郎を殴った。太郎は吹っ飛ぶ。
「なめるなよ。我は本気だ。今回の罪、命を持って償ってもらうぞ」
「……すみません」
 2人の間に淳二が割り込む。そして彼は、太郎を思いっきり殴った。飛ばされた太郎は仰向けに倒れた。
「てめえ、よくもミーナを辛い目に……!」
 その上から、アスティもまた手加減無しに渾身の力を込めて殴った。
「私は、あんたを……あんた達を絶対に許さないからね!」
 1発。2発。3発……と、太郎に馬乗りになってひたすらに殴る。拳から血が出ても、太郎の唾液がつこうが気にせず殴る。何発殴っても足りなかった。
「止めるんだ、アスティ! それ以上は……!」
 夫であるカイルフォールが彼女を止めようと背後から羽交い絞めにしようとする。だが、彼女は止まらない。
「だって……許せない! どういう目的だろうと関係無い! あんた達……あんた達のやったことは……! りくと同じように傷ついた剣の花嫁達がたくさんいたはず!」
 アスティは泣いていた。泣きながら、殴る。六花達の痛みを思い、殴る。
「アスティ!!」
 カイルフォールは必死に彼女を引き離した。そこに、陣が再びファイアストームを放った。牽制ではあるが、無傷で済ませるつもりも無い。
「ぐぁ……!」
 服が燃え、熱さに悲鳴を上げる太郎の髪をわし掴みにし、持ち上げる。至近距離から、ともすれば無感情にも見える、冷たい目で太郎を見据えた。
「……どうやったら元に戻るんや? 傷が少ないまま大人しく喋るか、全身焼け爛れた肌を晒して息も絶え絶えになりながら喋るか……オレはどっちでもえぇぞ、選べや」
「……知らない、と言ったら……どうする?」
「……後者やな」
 手を離し、今度は容赦無く炎を浴びせる。
「…………!」
 太郎は暫く、ぼろぼろになった身体で身動き1つしなかった。そして大の字になった状態で、口を開く。
「……剣の花嫁など……。そんなもの、結局全て紛い物なんだな。あいつらは人形なんだな。束の間の夢を見せるただの玩具だ。亡霊だ……そんな物にいつまでも囚われて……人形遊びも……大概にするんだな」
「……剣の花嫁が亡霊、無価値か」
 磁楠が前に出て、太郎を見下ろす。
「確かに一理はあるだろう。その種族の特性上、影と呼ばれても致し方ない部分もあるだろう。そして貴様らはその事実を曝き、論じ、彼らや彼女らを贋作だと断じた。……それで?  だから何だ?」
「……くだらない……んだな……要らない存在……だ……」
「真贋の是非こそ無意味だ。例え今の姿が偽物だとしても、貫き通せばそれは本物になる。彼らが真だと述べればそれは真なのだ」
 眼光鋭く、磁楠は叫ぶ。
「少なくとも、貴様らの様なクズが断じて良いものではない!」
「……ものは言いよう……か……」
「ちっ……」
 磁楠は聖剣エクスカリバーを太郎の顔に近付けた。見る影も無くなった太郎の頬から、鮮血が流れる。
「元に戻すにはどうすればいい。それとも、もっと地獄を見たいか?」
「……そんな簡単な事も……聞かないと解らないか……」
「何だと?」
「もう1度……バズーカを……撃てばいいだけだ……。反転したものを……反転させる……簡単なんだな……」
「つまり、バズーカさえあればいいんだな」
 大佐が前に出てくる。彼の二本の刀とエクスカリバーが、同時に光った。磁楠が言う。
「ならば、もういい……貴様はここで終われ」
「ふん……ハナから……殺る気だったか……」
 三刃は振り下ろされ、そして――