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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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 序の十一 罪と命を引き換えに

 エレベーター、階段、エスカレーター等。様々な方法で7階まできた面々だったが、既に山田達の姿は何処にも無かった。放送があった以上、被害に遭った剣の花嫁もいた筈だが、彼らの姿も無い。ライスのパートナーは避難スペースへ向かい、唯斗達は空京の街へ行こうと下りのエレベーターに乗っていたからだ。
 だが。
「あの情報はガセだったということか?」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が言う。彼らは、殆ど同時刻にフロアに到達し山田達を探した。そして目的を同じにした者が一堂に会した事に気付いて集まったのだ。それぞれの持つ情報を交換し終え、山田達への認識は、ここで大体共通したものになった。
 それを確認し、皆で相談している所だった。
「デパートの設備を使って放送したのだからガセということはないだろう。他にも仲間がいるなら別だがな。内部を制圧した可能性もゼロではない」
「他に仲間がいるとは言っていませんでしたね。あの子も単独で動いていたという事でしたし」
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)に、皆に対して真人は報告する。セルファもそれに続いた。
「ずっと護衛として尾けてたけど、別の同業に依頼した様子もなかったと言ってたわよ」
「そいつは今どこにいるんや? 見あたらねえけど、どこかに転がしてきたんか?」
「居合わせた3人に、警察に連れて行ってもらいました。彼らのうちの1人は剣の花嫁でしたし、デパートより街の方が安全ですから」
「ふーん、警察、か……」
 納得のいったような、それでいて悔しそうな表情で七枷 陣(ななかせ・じん)が呟く。彼も磁楠も、協力者がいれば逃すつもりはなかった。警察に拘束されるのなら、まあいいだろう。ただ、彼女の6歳という年齢が気にはなったが。
「あと、これは何の意図があるのか分かんないんだけどね、あいつら、ファーシーを尾行していたらしいわよ」
「え?」
 突然自分の名前が出て、ファーシーは驚いた。いきなり注目され、それにも驚く。
「わたし? どうして? 剣の花嫁じゃないけど……」
「そうですねえ……」
 そこでクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が何かを思案するようにしてから彼女に言った。
「確認されている限りでは、ピノさんが攻撃されたのが最初の筈です。あるいは、それが関係しているのでは?」
「ピノちゃん……わたし……?」
 解りそうで解らないような……ファーシーが戸惑う隣で、大佐が憮然とした様子で肝心な事を言った。
「で、肝心の山田達はどこに行ったのだ?」
「逃げたんやないかなあ」
 それには、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)がのんびりとした口調で応えた。
「逃げた……?」
「……確かに……私達がこうして集まったということは……向こうも追われていると気付いただろう……逃げたとしてもおかしくはない……」
 司が眉を顰め、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が言う。
「それじゃあ、早く追いかけないと!」
 焦ったように言う司に、セラフィーナが琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)について説明した。
「屋上と警備室にワタシの仲間が行っています。監視カメラの映像を確認したらすぐに屋上に知らせ、犯人を追うようにしていますが……彼はサイオニックです。ソートグラフィーで携帯電話に念写してもらい、皆さんにも写真データを送れるようにいたしましょう。もし、犯人がデパートから逃げたら屋上の鳳明がすぐに追いかけられます」
「では、連絡先を確認しますか。ええよな?」
 泰輔の合図で、皆が携帯電話を取り出す。
「しかし、何故剣の花嫁であるのに1人でデパート内をうろついていたんだ? 他のパートナーに実働や裏方を任せ……まさか、囮にでもなるつもりだったのか」
 磁楠が訊くと、セラフィーナは小さく笑んだ。
「……ワタシにとって今回の事件は、ある意味剣の花嫁とその契約者、この二人への試練のようにも思えます。推測ですが……入れ替わった人格が、現在の人格とその契約者を認めれば、そして、現在の人格とその契約者との間にある『魂同士を繋ぎとめる絆』を認識し、それを強める事が出来たら自ずと元の人格へと戻ることも出来るのでは?」
「それは……もし方法を聞き出せなくても、元に戻れる……ということか?」
「あくまでも、推測に過ぎませんが……」
 繭螺の様子を思い返し問うアシャンテに、セラフィーナは苦笑する。
「ただ……この事件も悪いことばかりではないと、皆さんが花嫁との繋がりの強さを再確認できることを……と願いたいのです」
「繋がり……」
 ファーシーはそれを自分の中に沁み込ませるように復唱し、呟いた。
「そうだね」

 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の前を歩きながら、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の話を聞いて驚いていた。空京の街で冷やかしや食べ歩きをしている最中である。
「え! 本当に姫様だったのか」
 前から『我はシュペルティアが姫! エクスである!』とか言ってはいたが。
「今のもそれについては覚えていたのかの。しかしなんだ、信じていなかったのか?」
 エクスは13アイスの2つ重ねを食べながらジト目で唯斗を見た。
「いや、信じて無かった訳じゃないけど、妙に家事が得意だし……記憶が無いってんだから気にしてなかったんだけどな」
「まあ、シュペルティアの一族は既に滅びておるからな」
「何? ……それで手掛かりが何も見つからない訳か」
「存在自体も隠されておる。わらわはシュペルティア家剣の花嫁のオリジナル。研究素体として捉えられ、封印されたのじゃ。その後研究施設を襲撃した賊に攫われるが、追撃により船ごと今の葦原島に落下した。それからは、お主と契約するまで人知れず封印され続けていた」
「そうか……」
 唯斗は今の話を一通り頭の中で繰り返し飲み込むと、エクスに言った。
「いや、いろいろと納得出来た。何で葦原島にいたのか、とかね」
「ふむ。それは良かった」
 アイスを手に、エクスは機嫌よく言った。この現象がずっと続くモノでは無いと理解している為、彼女は短い間でも楽しもうと思っていた。
 だからだろうか。いつもより饒舌に彼女は語る。
「わらわの能力は今よりも高かったのだぞ。光条兵器も使いこなせていた。簡易的だが契約の泉と同様の力を持っているのだ。契約器と呼ばれる由縁だな。簡易型の分裏技も多く強制契約解除出来るとか出来ないとか。まあ、この辺りは経験が無いので分からんが」
「ふーん……いろいろすごいんだな……」
「エクス様! アイス溶けてます! アイス!」
「お、わ、しまった……」
「姉さん、ハンカチ……」

「今度こそ、来てくれるといいの〜」
 2度目のアナウンスを終えた警備室では、天穹 虹七(てんきゅう・こうな)がコンソールにちょこんと手を乗せて沢山ある画面の1つを見つめていた。
「これでいいかな。何も移動の度に呼び出さなくても、見つけたら追いかければいいだけだと思うんだけど……」
 あまりロリコンロリコン連呼するのもデパートとしてどうなのだろう。
「下手に追いかけると見失うかもしれないですわ〜」
「入れ違いになったら困ります! あちらから来てもらいましょう!」
 ファリア・ウインドリィ(ふぁりあ・ういんどりぃ)アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、口々に言う。
「でもね……」
 困った様子の警備員は、何かを決めたような顔をしてから虹七に言った。
「薄々思ってたんだけど、あの人達、パートナーじゃないよね? ていうか、君、迷子じゃないよね」
「え゛……」
 ズバリと言い当てられ、アリアはついそんな声を出す。
「ち、違います! 虹七ちゃんは本当に迷子で……」
「あのねえ、ここがどこだと思ってるの。さっきから何度か、店内で異常が起きてるって報告が来てるんだよ。それで、犯人を捕まえたいから監視カメラを見せてほしいっていう連絡も2件もらってるしね。……許可したから、彼らもそろそろ来るんじゃないかな?」
「え……、えっと……」
「画面見てると確かに、様子が変な人達が何組もいるし、避難所みたいなのも出来てるみたいだ。あの黒いコートの人達は、犯人だよね。武器持ってるし……」
「おい! 入ってもいいか!?」
 ドアがノックされ、輝石 ライス(きせき・らいす)が入ってくる。彼の後ろから、途中で一緒になった藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)も普通に入ってきた。
(お、こいつも警備室に用があったのか)
 ライスは思う。同じ方向に歩いていたからもしやとは感じていたが、いかんせん何も喋らないので確証が持てなかったのだ。
「えー、君は……」
「輝石ライスだ!」
「あー、そっか……ということは、君が藤谷君だね」
 言われて、天樹は無言で頷く。
「えーと、ただ、今ね、迷子……」
「ごめんなさい!」
 そこで、アリアが勢い良く頭を下げた。びっくりする3人に、彼女は言う。
「こうでもしないと警備室に入れてもらえないと思って……」
「申し訳なかったですわ〜。事態を解決する為と思いましたの〜」
「私が虹七ちゃんのパートナーです。本当にごめんなさい!」
 謝る2人と男3人を見上げ、虹七は素朴な表情でこう言った。
「……虹七と契約しようとしてた人って……ろりこんさんだね?」
「虹七ちゃん、もういいのよ……というか、どこでそんな言葉覚えたの……」
「ロリコンって……あの放送、ここからだったのか」
 アリア達はその放送内容に至った経緯についてライスと天樹に説明する。
「あっ……!」
 その時、警備員が小さく叫んだ。
「犯人達が、非常階段から逃げようとしてる! 5階だ! 藤谷君、屋上!」
 セラフィーナに作戦内容を聞いていた警備員は、天樹を振り返った。天樹はまた頷いて、精神感応で鳳明に伝える。また、セラフィーナから届いていた協力者の連絡先に5階に犯人が居るとメールを一斉送信した。写メは、まだ要らないだろう。
「? 何をやってるんですの〜?」
 少し首を傾げ、ファリアが言う。警備員は、事情の分からない彼女達に、作戦についての説明を始めた。

「セラさんに危ない目に合わせといて、私だけ待ってるのは正直キツいな……。いくら私以前に契約者がいないって言っても……」
 鳳明は、屋上の物陰で小型飛空挺を傍らに、天樹からの連絡が来るのを待っていた。片隅に寝かされている黒髪ショートの青年を見て、思う。
(目の前で苦しんでる人がいるからこうして動いてるのに、むしろ苦しむ人を増やすような事をしないといけないなんて……。早く、犯人捕まえて終わらせなくちゃ!)
 その時、天樹の声が頭の中に響いてきた。
(……事態が動いたよ。屋上まで聞こえてたかわからないけど、ろりこん云々って放送があって、犯人が逃げ出したから多分、囮作戦は終わり。今、犯人達は5階の非常階段から出ようとしてる。回り込んで、デパートから逃がさないようにして)
(……うん、分かった! 5階だね!)
 鳳明は小型飛空挺に乗り、屋上を飛び出す。
「セラさん、攻撃受けてないんだ……! 良かった……!」

「なるほど、すぐに連絡がつく状態で待機してたのか。それで屋上から非常階段へ行けば、デパート内で追い詰められるな」
 警備室で話を聞いたライスは、勝機を感じてドアノブを掴む。
「犯人を追う連中は、みんな奴等よりも上階にいるんだよな。めんどくせーけどしゃーねー……オレが下から行って逃げ道を塞ぐぜ」
 そうして、彼は廊下に出て行った。警備室は2階にある。エスカレーターを駆け上がれば、充分に足止めが出来るだろう。
「念のため、もう1度ロリコン放送をしておこうか。なんか皆、意味解ってるみたいだし」
 警備員がマイクのスイッチを入れる。
 ぴんぽんぱんぽーん……
『5階、和物・呉服フロアの黒いコートのロリコンさん、“剣の花嫁のパートナーが迷子”なので至急事務所までおこしください〜』
「あと、エスカレーターとエレベーターの電源を切っておこう……」

「これは……」
 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は放送を聞いて、事態の収拾が近いのを感じた。避難スペースの仲間達に言う。
「……すみません、俺、ちょっと行ってきます」