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リアクション
救助に向かった第一部隊へ合流すべく、足早に洞窟を進んでいるのは山葉 涼司(やまは・りょうじ)率いる第二救助隊である。
涼司の後ろには、ミンストレルのウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)、ナイトの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と剣の花嫁でバトラーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー) 、ソルジャーのエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)と獣人でローグのアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)の姿があった。
「参ったな、私は近くを通りかかっただけなのに……」
そう言いながらダークビジョンを使い周囲を警戒するのはウィングである。
ウィングは、最初に覚醒後の涼司と会った際思わず発した「お前……誰だ?」の一言が、今回の捜索に巻き込まれた一因なのではないかと考えていた。
「俺だけではいざという時不安だからな、頼りにしてるぜ」
そうほくそ笑む涼司にウィングは溜息で応答する。
「まぁ、戦闘なれしていない生徒をフォローすればよいのであろう? 心配するな。独断先行しようとしたやつは、ドついてでも止めるから」
ウィングと涼司のやり取りを聞き、少し身を縮めたアルフを見て、エールヴァントが小声で囁く。
「アルフ、僕らみたいなパラミタに来たばかりのヒヨッコが策も無しに突っ込んだら大怪我するよ。いいね?」
「フゥ……俺の計画が台無しになるんじゃないだろうな?」
「女の子へのナンパは捜索後でもいいだろう? ホラ、洞窟に突入前に言ってたじゃないか。パーティでメアド交換しまくるって」
アルフの「可愛いハニー達、待ってろよ、今助けに行くぜ!」の言葉に一抹の不安を感じたエールヴァントは、彼を止めるため涼司達の部隊に同行したのであった。
「そうそう、狼くん。私達はまず花音ちゃん達にこの石化解除薬を届けなくちゃいけないんだからね!」
後方を歩いていた美羽の言葉に思わず振り返るアルフ。
「誰が狼くんだ!」
「アルフ……さっき言ってたじゃないか、男はいつだって狼なんだぜ、って……」
エールヴァントが呆れた顔で溜息をつく。
「美羽さん、目的は花音たちが落としたサツマイモの回収です」
眼鏡をクイと指で押し上げたベアトリーチェが会話に参加する。
「それに、先程遭遇した生徒達の情報で、どうやらパラミタオオヘビもいるそうですし、侮れません」
元々、ベアトリーチェは「腕の良い料理人」と呼ばれており、本来彼女は地上でこの腕前をふるって焼き芋パーティを盛り上げるつもりであったのだ。その無念さは如何ほどのものであろうか?
「大丈夫だよ! 涼司もいるし、私達なら何とかなるよ!」
元気一杯に美羽がベアトリーチェに微笑み、照明代わりに手にした強化型光条兵器ブライトマシンガンを見せる。
「美羽、洞窟が崩れる可能性もあるので、派手に戦わないように気をつけろ」
ウィングが美羽に言うと、美羽は首を振る。
「それも大丈夫! 洞窟内の壁は傷つけない、て設定で使用するんだ。これで思いきり光弾を撃ちまくれるのよ!」
「……なるほど」
ウィングの横でアルフが憎々しげに美羽の銃を見る。彼は先程、美羽とベアトリーチェのナンパに挑み、この銃で威嚇された経験があった。
美羽が片腕を元気よく挙げる。
「行こう涼司。早く花音を助けて、みんなで焼き芋パーティしないとね!」
「……ああ、そうだな」
涼司が頷いて歩を進めようとしたその瞬間、これまでにない大きな地鳴りがする。
「きゃぁ!!」
「うわぁっ!?」
思わず周囲の壁に手をついたり、咄嗟にしゃがみこんだりする一同。
「大きいぞ? まさか、地震か!?」
「違う、誰かがこの付近で戦闘しているんだ!」
「もう! 暴れちゃ駄目だって、ちゃんと言ったの!? 涼司!」
美羽の発言に涼司が少し言葉を詰まらせる中、エールヴァントが後方を見て驚愕の表情を浮かべる。
「大変です! 後方の道が崩れていきます!」
「走るのよ!!」
「わかってるぜ! こっちだ!!」
美羽が叫び、一同は素早さに長けたアルフを先頭に洞窟内を全力疾走で駆け出す。
「エールヴァント!?」
最後方を走っていたエールヴァントが地面の窪みに足を取られ、転倒する。
「僕に構わず……!」
「出来るかっ!!」
直ぐ様反転し、エールヴァントの方へ走るウィング、だが崩れ落ちてきた土砂がウィングの視界を塞ぐ。
涼司も叫び、二人の方へ駆け出す。
「こんな事で、俺の生徒を失わさせるかーっ!!」
「やれやれ、あなた達は少し熱すぎます……」
「誰です?」
ベアトリーチェが振り返ると同時に、強烈な冷気が彼女の横を疾風のように通りすぎていく。
冷気はエールヴァントの周囲の壁を瞬く間に分厚い氷の壁へと変えていく。
「あ、あれ……!?」
頭を抱えうずくまっていたエールヴァントが体を起こし周囲を見る。
「氷術!?」
「壁を凍らせたのか?」
「きゅう! きゅう!」
「何だ、この声は……?」
一同が洞窟の先へ目を凝らすと、パラディンの赤羽 美央(あかばね・みお)とその魔装形態に姿を変えたソルジャーの魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー) 、ドルイドの四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)とその肩にちょこんと乗った魔装でウィザードの霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)の自称『もぐもぐ探検隊』がパラミタオオモグラの背に乗って現れる。
「わぁぁ、モグラさんだぁー!!」
思わず歓喜の声を挙げる美羽。
「今のは美央が?」
「落盤事故等で万が一死なれては、別の意味で寒くなってしまいますから」
そう言って美央がモグラの背から、よいしょっと降りてくる。
「私達も先にこのルートを捜索していたんだけど、こっちは行き止まりだったの」
唯乃がポンポンとモグラの頭を叩いて一同に笑う。
「行き止まり!? それは本当か?」
「本当ですよ。ボクがマッピングしながら進んでたんだもん!」
唯乃の肩に乗ったシンベルミネがエッヘンと小さな胸を張る。
「説明してくれないか?」
「うーん、話せば長くなるんだけどー……」
話は第一部隊として洞窟へと潜った美央と唯乃が、現在のパラミタオオモグラを助けた所まで遡る。
シンベルミネに洞窟のマッピングを任せつつ美央達が洞窟内を進んでいると、少し開けた場所でパラミタオオモグラとパラミタオオヘビが格闘してる場面に出くわしたのである。
「きゅう! きゅう!」
「シャアアァァー!!」
唯乃と美央が顔を見合わせる。
「美央さん!」
「どうやらモグラが襲われているみたいですね」
「どうする?」
「……助けましょう。まあ所詮は爬虫類です。とはいえ、パラミタオオヘビもちゃんとした生き物ですから殺しちゃかわいそうなので、殺さずに今のところは引いてもらいましょう」
「だよね!」
「しかし、ふむ……パタミタオオモグラですか。このようなところにいる所属ではないはずなのですが……ふむ。美央、何か有るかもしれないから注意して下さい」
美央の纏う鎧へと姿を変えたサイレントスノーが美央に助言する。
「わかっています。氷術で周囲の気温を下げつつ、私のアルティマ・トゥーレでヘビの体温を直に下げますよ?」
「美央さん、それくらいでパラミタオオヘビが降参するのかな?」
「唯乃。ヘビは変温動物なので、寒くなると動けなくなってきますし、私たちは事前にかけたアイスプロテクトで平気というわけです」
思わず唯乃が不敵に微笑む美央に相槌を打つ。
「なるほど! じゃあ私が氷術を担当するね!」
唯乃の肩に乗ったシンベルミネがブルブルと震える。
「10mのモグラ……ボクの100倍……ちょっと怖いけど主殿達がいれば大丈夫だよね?」
「うん! じゃあ、いっくよーっ!」
唯乃がそう言うのと同時に、地面を蹴った美央が華麗にパラミタオオヘビに向かい跳躍する。
「ふぅ……唯乃の氷術の時間も稼がないといけませんからね」
美央のヴァーチャースピアがパラミタオオヘビの頭上に煌く。
「やああぁぁぁーっ!!」
……そして、美央の作戦通り勝負は呆気無くついた。
ほぼ、氷漬けになったパラミタオオヘビを美央が眺めていると、傍では唯乃が助けたパラミタオオモグラを撫でつつ何か話しかけている。
「美央さん、この子、まだ子供だよ?」
「それでヘビに襲われていたのですね……全く、弱者を狙うとは軟弱なヘビですね」
「美央、生物の世界ではそれが当たり前です」
サイレントスノーの突っ込みを美央は軽くスルーする。その間に唯乃がモグラに向かって「いっそうちの下宿の近くに住んでもいい」等という聞き捨てならぬ提案をしていたのも原因かもしれないが……。
「あと、この子は捕まった人達は知らないって。ただはぐれただけなんじゃないかな?」
「ふむ……」
美央が考えていると、ヨイショっと唯乃がパラミタオオモグラの背に乗ろうとしている。
「唯乃……?」
「えー、何?」
「いえ、それはこちらの台詞のハズですが……」
「ここは行き止まりだし、折角だからこの子に乗って元の分岐の所まで戻ろうかなって」
「きゅう! きゅう!」
「……私も乗りたいです」
少し頬を染めた美央は、伏し目がちにそう呟くのであった。
「……というわけです」
一通り話終わり、唯乃はフゥと息をつく。涼司達のピンチに駆けつけるまでモグラの背に乗った美央が「ヒャッホー!!」と声を上げていた事のみ割愛した以外は全て事実であった。
しかし、一同の顔色はおしなべて暗い。
「どうかしました?」
「つまり……俺達は完全に孤立した、という事であろう?」
ウィングが険しい顔でそう言う。
「あ!」
唯乃が思わず開いた口を手で覆う。
「……心配いりません」
そう断言する美央を一同が見る。
「ここに穴掘りのスペシャリストがいるではないですか?」
「きゅう〜!!」
子供のパラミタオオモグラが嬉しそうな声を出す。
そしてこの時、未だ花音達の元へ辿り着いた生徒はまだ現れていない事を、涼司は何となく感じていたのであった……。
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