リアクション
第五章:楽しめ! 生還者たち!!
夕暮れの中、ショベル部を掲げた下に滑車をつけて通した太ワイヤー経由で縄梯子を引くダリルのユンボーをじっと見ている涼司と生徒達。
縄梯子にまるで釣りのサビキ仕掛けのように捕まって地上に上がってくる花音、ルカルカ、影野、綺人、オルフェリア、加夜、紫音といった面々が会話をしている。
「取り敢えず、ヘビは追い払っただけでしたね?」
「いいんじゃない? 言わばアレもこの土地の主なんだろうし」
「いいですか? 上見たら殺しますよ?」
「スカートは失敗だったなぁ……」
「くそ! 見えない! おい、蹴るなぁ!!」
先程まで緊張した面持ちで救助作業見つめていた涼司が、大きな溜息と同時に少し表情を崩す。
「涼司様、ご心配おかけしてすいませんでした!!」
花音は涼司がきっと怒っているだろうと考えていたのだが、彼の次の言葉は彼女の予想を覆す。
「……花音、それにみんな、無事で良かった……」
わああぁぁぁぁ、と周囲を取り囲んだ生徒達から歓声が起こる。
「とんだ芋堀りになったけど、花音さん達が無事でよかったね」
ルカルカが土まみれの悪戯っぽい笑顔を涼司に向ける、涼司の目が少し潤んだのを加夜は見逃さなかった。
その様子を見ていた鉄心が、オルフェとアルエットに地下の救助者達全員に戻るよう指示を出す。
「地下の皆を戻してくれ、撤収だ!」
「「了解!!」」
続々と地下の洞窟から引き上げてくる救助部隊の生徒達。
ある者は手にキノコやサツマイモを持ち、またある者はすっかりなついたパラミタオオモグラとの別れを惜しんでいた。
「これで、全員戻ったか?」
「校長! まだ、戻っていない生徒がいる!」
人員を数えていた鉄心がそう叫んで涼司の元へ走ってくる。
「何だと? 誰だ?」
「エヴァルト・マルトリッツと桜葉忍、他3名だ!」
少し離れた場所で地表のモグラ塚から奇妙な叫び声を聞いていた垂は、先程、地下への影響を考慮してモグラ叩きを中止させたリリィとエレンの二人を呼んでいた。
「いい? 勝負は一瞬! 手早く仕留めて、皆で焼き芋パーティーを開いて秋の風物詩を満喫するぜ!」
垂が穴の左右に陣取ったリリィとエレンの顔を交互に見る。
「はい!」
リリィがハンマーを振りかぶる。
「わかってるわ!」
負けじとエレンもデッキブラシを構える。
二人が立つ穴の中から奇妙な声と音が近づいてくる。
「シャアアァァーッ」
「おい、忍! 龍の背に乗るってのはこういうもんなのか?」
「エヴァルト! おまえ……何発想を良い方に転換させているんだっ!」
「あああぁぁ、神様! 助けて下さいですぅっ!!」
ーードンッッッ!!!
穴の中から勢い良く飛び出してくるパラミタオオヘビと、その背に乗ったエヴァルトと忍、レン、ミュリエル、ベルトラム。
「「せええぇぇぇぇぇのぉぉッ!!!」」
リリィとエレンが渾身の力を込めて、巨大なハンマーとデッキブラシを、パラミタオオヘビの頭部に炸裂させる。
その瞬間を、芸術家の本能的ゆえか、逃さずにスケッチしたアスカの絵画は、『昇り龍叩き』という名称で後に評判を呼ぶ事になるが……ここでは割愛する。
後にとある女子生徒が語ったところによると、夕刻過ぎに始まった生徒達の焼き芋パーティはかなり遅くまで続いたそうである。
と、いうのも、ヘビを退治してくれたお礼とばかりに、パラミタオオモグラはさらに大量のナガエノスギタケとサツマイモをくれたからであり、食欲の秋で膨張した生徒達の胃袋と無尽蔵とも思える食べ物との戦いが持久戦へとなったためらしい。
全くの余談だが、その女子生徒はパーティから帰宅した瞬間に体重計を物置にしまったとも言った。救助作業はお腹が減るのよ、が彼女の言い訳であったらしい。
夜を迎えても生徒達は焚き火をキャンプファイヤーのように見立てて踊り、食べ、語らった。
誰かがふざけて焚き火に入れた栗が弾け、本人に命中したとの話もあるが、関係者は「因果応報ですね」とクールに片付けたそうである。その関係者はそんな事よりも、モグラ達が持ってきた未知の食材であるナガエノスギタケの調理に夢中であったと、別の親しい生徒が語っていた。
「お疲れ様でした。涼司さん、美羽さん」
そう言ってベアトリーチェに振舞われた焼き芋を囓りながら、焚き火を囲む生徒達を遠目から見つめる涼司は、自身が今いる校長というポジションについて想いを巡らせていた。
「残念ですがパーティは辞退させて下さい。俺は校長……いえ、環菜さんを助けなくちゃいけませんから」
少し寂しそうに笑い去っていった陽太の言葉が、涼司には忘れられなかったのだ。
「アヤ! あっちにお芋のプリンがあるそうです!」
「待ってよ、クリス! ……でも、秋は焼き芋が本当に美味しいよね」
クリスに手を引かれた綺人が涼司の前を通りすぎ、ペコリとお辞儀する綺人に涼司が焼き芋の残りを口に入れながら軽く手を挙げる。
焚き火に近い場所では、出会ったパラミタオオヘビのどちらが大きかったかでエヴァルトと紫音が口論しているのを、ミュリエルと風花がなだめていたが、次第にそれは焼き芋の早食い競争へと変化していった。
食べ物と言えば、真奈とエレンが訝しげに見つめる中、モリガンの振るう謎の串刺し肉の盛況ぶりも凄かった。
洞窟でひたすら探索に明け暮れていた生徒達が、一心不乱に食べ、後日、『ただの食べ過ぎ』で数名が病院送りになったという噂もある程である。
「みんなが楽しそうなのがせめてもの救いか……」
フッと笑った涼司の前に、焼き芋を持って現れたのは加夜である。
「あの……涼司くん?」
「ん? 加夜か……顔が赤いぞ?」
「え? えぇ? ……そ、それは〜」
「ああ、焚き火の影響か……まぁいい、どうした?」
「その、焼き芋があるんですけど、私一人じゃ食べられなくて……半分、貰ってくれません?」
妙にソワソワした加夜を不思議そうな顔で見ながら、涼司が手を出す。
「ああ、丁度もう一つ食べようと思っていたところだ」
「じゃ、じゃあ、今、割りますね?」
パカンと綺麗に割れた焼き芋の断面を見て、加夜が顔を一層赤くし、周囲をバッと見渡すと
人波に紛れたノアが笑顔で「が・ん・ば・れ」と口を動かしているのが見える。
「(断面がハート型なんて……)」
「どうした?」
「あ、あぁ! 何でもありません、はい!」
加夜が涼司に焼き芋の半分を手渡すと、涼司がじっとその断面を見つめる。
「面白いカタチだな……頂くぜ?」
「はい! どうぞ!!」
二人の前を「俺とメアド交換しない?」と次々と女子生徒に言い寄るアルフが通り過ぎ、その後ろをくたびれた顔でエールヴァントが歩いていく。
涼司は楽しそうにする生徒達を見ながら傍らの加夜に話しかける。
「加夜?」
いつになく真剣な眼差しの涼司に加夜が慌てる。
「は、はい? なんでしょう?」
「俺は絶対生徒達を守ってみせるぜと思ってた……だけど、彼らは彼らなりに考えて動いている。俺は、校長として何が出来るんだろうな?」
加夜はハッとしたように俯いてしまう。
彼は既に蒼空学園の一生徒ではなく、その全てを率いる校長となったのだ。正義感の強い涼司の事だ、幾度かの成功と挫折を繰り返しながらも彼は着実に歩んでいくだろう。自分の想い人としては嬉しいが、それは同時に彼の目に彼女が映らなくなってしまうという事も意味していた。
誰かへの激しい想い、つまり愛で彼を拘束するのは容易い。だが、それは優しく真面目な加夜には出来ない事だった。
「(だから今は……)」
加夜は考えていた言葉をグッと飲み込んで、涼司に微笑んだ。
「……それは、これから見つけていけばよいのではないでしょうか?」
「……そうか、そうだな!」
自分の言葉に照れたように笑う涼司を、加夜はどんな顔で見つめていたのか、今でも思い出せない。
ただ、天にまで届きそうな程燃え上がる焚き火の上を満天の星が輝いていた事だけ、それだけは、はっきりと覚えているのであった。
(終わり)
こんにちわ、季節に逆らいダイエット中の深池豪です。
都市部育ちゆえが、モグラという生き物を私は見たことがなく、こんなのだったらいいなぁという感じで書いていましたが、皆さんが私の想像以上に博識だったため今回書きながら勉強させて頂きました。胃袋の中に半日食べ物がないと餓死しちゃうなんて…絶えず食欲の秋を地で行く生き物だなぁと感心してしまいますよね。
さて、今回のお話はそんなパラミタオオモグラの洞窟に落ちた花音達を救助に向かうお話でした。
洞窟を進んだり、縦穴を掘削したり、モグラ叩きをしたり、サポートに回ったり、或いはパーティの準備をしたりと様々なアクションを頂きました。
中でも、洞窟を進むアクションはそれぞれ個性的なものばかりでしたが、その一部は重複等で泣く泣く不採用とさせて頂きました。ごめんなさい!!
私がアクションを採用する際には、話の都合上、漠然とした理由より「こうしたいからこう動く」という明確なテーマを持ったアクションの方を優先で採用させて貰っております。(今回ですと、焼き芋パーティでどんな事がしたいか、を書かれた方がそうです)
ですが、洞窟内でパラミタオオヘビとの戦闘等は、皆様はよく考えられるなぁと感心致しましたし、焼き芋パーティの準備も凝ったものが多くて悩みました。
私個人としては今回は皆さんのアクションに助けられて、楽しくリアクションを書くことができたと思いますが、いかがだったでしょうか?
今回の称号はなるたけ多くの方に付けさせて頂きました。
付いてないよ、と言う方は、私がいいネーミングが浮かばなかっただけです。すいません……。
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。