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第3章 言葉で惑わす妖怪の女・・・秦天君

「3階はまだ誰も見に来ていないようだな」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)たちは生徒たちが来ていない3階のフロアを探し始める。
「1階につき8部屋もあるのか。手間がかかる作業だが頑張ろう」
 まずは1号室から調べてみようと、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が先に入る。
「今のところ邪悪な者の気配はない」
 ディテクトエビルで感じないようだと、彼女は唯斗と紫月 睡蓮(しづき・すいれん)に手招きをして入るように言う。
「この中には・・・いませんよね」
 唯斗は冷蔵庫を開けて念のため中を見てみる。
「マスター、貴方はどれだけ厄介事に首を突っ込んでいるのですか。とり憑かれたらどうする気です?(これはもうどうにもなりませんね)」
 もう趣味なのだとプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)はそう思い割り切ることにした。
「―・・・いけないか?エクスがいるからいればある程度なんとかなると思ってな」
「いえ、文句は無いです。だから止めもせずついてきたんですから」
 彼の態度を見てもはや諦めたと、首を左右に振り捜索に協力する。
「同じ階で探しているのか」
 物音を聞き氷室 カイ(ひむろ・かい)が部屋に入ってきた。
「1人でこの階にいるんですか?」
 台所にいる睡蓮は彼の声に玄関へパタパタと走る。
「あぁ、今は1人だな。1つの部屋にいくつも小部屋があるわけじゃないが、これだけあると大変だろ?俺も協力しよう」
「そうしていただけると助かります」
「中を開けないとならない押入れやクローゼットはわらわが担当しよう。霊が潜んでいるかもしれないからな」
「ダークビジョンで暗いところが見えても、開けた瞬間に襲われたら対処出来ないからな」
 頷くとカイはソファーの陰やテレビの後ろにいないか探す。
「この家にはいないようだな」
「2号室へ行ってみるか」
 合流したカイと共に唯斗たちは隣の家へ向かう。
「引き出しのある棚や箪笥には近づくな、何やら邪悪な気配がするぞ」
「中を開けると霊がいるってことか?」
「そういうことだ」
 エクスは察知した者が潜んでいると唯斗に教える。
「あれ・・・窓って開いてないですよね?」
 きょんとした顔で睡蓮は、風もないのに揺らめくカーテンを見つめる。
「一応、閉まっているか確認したら開いていなかったな。開けたか?」
 窓を開けたかカイが唯斗に聞く。
「いいや、敵の目につきやすいベランダに出るはずがないだろうから開けてないな」
 ふるふると首を左右に振り、逃げているオメガが見つかりやすいところにいるわけがないのに、そんなことするはずがないと言う。
「そうか・・・。ということはカーテンの向こうに何かいるのか?」
「術の反応はあるかエクス」
「まったくないな。とはいってもオメガ以外に危険でない魂や霊がいるとは思えん」
「じゃあ・・・そこにいるのって」
 睡蓮がカーテンへそっと近づく。
 後数歩で手が届く瞬間、バダンッと乱暴に玄関のドアを開ける音が室内に響く。
「オメガ、どこにいるんだいーっ」
 ハスキーな女の声が聞こえ、その声の主はズカズカと無遠慮に部屋へ入ってきた。
 明らかにマンションの1階に集まった生徒たちの声音とは異なる。
「―・・・まさか、秦天君か?ドッペルゲンガーに魂を吸収させようとしている女だな」
 エクスの言葉を聞いたカーテンに隠れている者がビクッと身を震わせ、洋室からリビングへ逃げていく。
「いた、オメガさん!―・・・ぁっ」
 しまったと睡蓮はとっさに両手で口を塞ぐ。
「今・・・・・オメガって聞こえたけど。もしかしてこの家の中にいるのかねぇ?」
「マスター、気をつけてください。アレ、言動等見た目残念っぽいですが力はあるかと」
 煙管を片手にだらしのない着方の着物姿の女を睨み、プラチナムは唯斗に注意するように言い、人型から魔鎧になり彼に装着する。
「なんだいあんたら?」
「オメガの魂をやるわけにはいかないんだ。ここから去れっ」
 雷光を纏った拳で唯斗が秦天君に殴りかかる。
「はぁん?あきちの邪魔をしようっていうのかい、いい度胸してるねぇ」
 彼女は煙管を咥えて拳を受け流し、床へ放り投げる。
「―・・・っ、しっかりしろこんなところで倒れている場合じゃないだろ」
 叩きつけられそうになる彼をカイが受け止める。
「魂を見失ってしまう、廊下へ出るぞ」
 家の外へ逃げていく魂に視線を移し、秦天君のことは後回しだというふうに言う。
「戦うよりも追いかけましょうマスター」
「そうだな・・・魂をオメガの身体に戻すことが目的であって、戦いが目的じゃない」
 プラチナムにも追うように言われ、急ぎ後を追おうと廊下へ出る。
「逃げたっていうのかい!?鎌鼬、あんた見てなかったのかねぇっ」
「どこにいるのか分からなかったもん」
 ふるふると首を振り、鎌鼬は魂が隠れている場所を知らなかったという仕草をする。
 実は逃げるところ見ていたが、わざと彼女に言わなかったのだ。
「ったく、使えない子だねぇ!しっかりおしっ」
 苛立ち紛れに顔にかかる白い前髪を手で退けて秦天君が少女を睨みつける。
「あちきたちより先に行かせないよ」
 オメガの魂を追う唯斗たちを行かせてたまるかと、ぽっくりを履いた足で蹴りかかる。
「秦天君みっけー!いくよ芽美ちゃん」
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が立ちはだかり、等活地獄の殺劇拳をくりだす。
 ズザザァアアッ。
 彼女の殺気に気づき飛び退く。
「あんたらもあちきの邪魔をしようっていうのかいっ」
「えぇ、悪いかしら?」
 当然のように言い月美 芽美(つきみ・めいみ)が則天去私の光を纏った拳撃を放つ。
 拳が光の帯を引き女の足を狙う。
「小娘なんかとじゃれている暇はないんだけどねぇ」
 手摺に手をかけて間髪避け、片足で芽美の頭部を狙って反撃をする。
「くぅっ!」
 とっさに拳でガードするが壁際に飛ばされてしまう。
「あちきが素手だからって舐めてんのかい?」
「いいえ・・・私たちも素手とかわらないもの」
「ふぅん?じゃあ何も技を使わずに素手だけで相手してやる。来なよ」
 芽美たちを挑発し、気を荒立たせて隙を狙うとする。
「あんたら鎌鼬は狙わないのかねぇ」
「戦意のないものに用はないわ」
「へぇ〜そうかい。じゃあ後で仕置きしてやらなきゃねぇ、鎌鼬・・・」
 ギロリと睨まれた少女はびくっと身を震わせる。
「わざわざ戦わない相手を狙うより、秦天君を倒した後でやるほうが効率がいいと思ってね。(困ったなぁ、この子を探しにくる生徒がいるはずだよね、早く来て欲しいよ〜。この子は殺さないなんていつまでもごまかしきれないもん)」
 鎌鼬が改心したことが分かってしまうとこの女に殺されてしまう。
 かといってそれがバレて守れば隙をつかれ、自分たちの身が危うくなってしまうと透乃は秦天君だけが目的だということを隠す。
 芽美の方はバレてもまったく守る気はないという態度で挑み続ける。
「ほらほら小娘、どうしたんだい」
 秦天君は止まっているシーリングファンを掴み、透乃の蹴りをかわす。
「むぅ、また避けられた!」
 体術が避けられてしまったと透乃はムッとした顔をする。
「おい鎌鼬。この場であちきに踏み殺されたいか、協力するか選べ!」
 ずっと見ているだけの少女に向かって乱暴に言い放つ。
「そんなことしたらどうなるか・・・分かっているでしょうね?」
 芽美が鎌鼬をギッと睨みつける。
「ふぇえぇん」
「泣くんじゃないわよみっともないわね。最終的にどうするかはあなたが決めなさい。その結果、どうなろうと私はあなたを咎めはしないわ。殺すことになったとしてもね」
 自分の生き方は自分で決めろと鎌鼬に選択の言葉を投げる。
「怖いお姉ちゃん・・・ここは逃げさせてもらうことにするよ」
「そう・・・」
 風となった少女が秦天君を連れて自分たちから離れていくのを黙って見る。
「むーっ、なんか不完全燃焼!どうして放っておくの?芽美ちゃんらしくないねぇ」
「まだ秦天君を倒す機会はあるわ。それと、あの子が選ぶ結果で殺すかもね。他の生徒には悪いけど」
 少女が改心したかどうかなんて芽美にとってささいなこと。
 あの女を殺す時に邪魔になることをするのではあれば、“殺す”ということだ。

-PM15:00-

「戸棚の下は隠れられそうですね」
 手薄な5階を担当しようと恵那は6号室でオメガの魂を探している。
「いませんね・・・。狙ってくる敵がいますから別の場所に移動したりしてるんでしょうけど」
 ふぅと息をつき棚を閉める。
「この部屋はまだ見てないですね」
 ドアを開けて中の様子を覗き、霊がいない隙にと寝室へ入る。
「ベッドの下にもいないみたいです・・・。―・・・!?今・・・後ろを誰か通ったような気が・・・」
 床に屈み探しているその時、背後に何かが通り過ぎたような気配を感じた。
「オメガさん・・・ですか?」
 呼びかけてみるものの返事が返ってくる気配はない。
「ひぁっ!あっ、・・・悪霊っ!」
 ひんやりとした嫌な空気が首筋に触れ、ぱっと振り返ると悪霊が彼女にとり憑こうとしている。
「ここで動揺しては憑かれてしまいます」
 逃げようとすると寝室のドアが霊によって閉じられてしまう。
「なっ、何で開かなくなっているんですか!」
 ガシャガシャとドアノブを回すが、まったく開かない。
「霊がすぐそこまで来ているというのに・・・」
 後ろには悪霊がゆっくりと彼女に迫ってきている。
「誰か、誰かいませんか!」
 ドンドンドンッと切羽詰ったようにドアを必死に叩く。
「くぅっ、もう・・・ここまでですか」
 諦めかけた瞬間、ギィッとドアが開かれた。
「もう大丈夫だよ、僕が悪霊を追い払ってあげる。クリス、恵那さんを頼むよ」
 彼女の叫び声を聞き、綺人は霊に向かって光術を放つ。
「ありがとうございます」
「いえ、無事でなによりです」
 クリスは恵那に肩を貸し、ニコッと微笑みかける。
「早くこの家から出ようっ」
 消える気配のない悪霊から離れようと、綺人たちは急いで6号室から出る。
「しぶといね、まだ向かってくる気だよ」
「アヤ、8号室へ隠れましょう」
「そうだねクリス、緋音さんがまだ気を失ったままだし」
「今のうちに急いでくださいっ」
 生者の身体を狙う悪霊に瀬織がバニッシュで怯ませ、8号室へ駆け込む。
「はぁ・・・なんとか逃げきったかな?」
 綺人はぺたんと床に座り込んだ。
「そうだといいんですけどね」
 瀬織は壁際で霊が入ってこないか見張る。
「霊がいない今のうちに回復してやろう・・・」
 恵那と目を覚まさない緋音にユーリは命のうねりの術で、精神的に疲労し体力を失っている彼女たちを癒す。
「立てるか・・・?」
「えぇ、なんとか・・・」
「そこから離れてください!」
 突然、瀬織が恵那たちに壁際から離れるように言う。
「―・・・恵那さん、逃げて・・・くだ・・・さい・・・っ」
 彼女を守ろうと台所へ突き飛ばしたクリスが苦しそうに床に座り込む。
 瀬織はディテクトエビルで霊の接近を察知したものの、間に合わず隣の家の壁を通り抜けてきた悪霊にクリスは恵那を庇って憑かれてしまう。
「悪霊たちがリビングに集まってきました!」
「身体がないから厄介だね、瀬織はクリスたちを守って」
「分かりました。無茶はしないでくださいね綺人さん」
「うん、分かっているよ。(とは言っても、数が多いね・・・光術だけじゃちょっとつらいよ。早くここから出てクリスの身体から霊を出さなきゃいけないのに・・・)」
 綺人の表情に焦りの色が生じる。
「・・・通りすがりの、退魔師だ・・・・・・加勢する」
 オカリナの哀愁漂う調べを奏で、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)は綺人に加勢する。
「相手はスピリットだ・・・・・・。単体の術だけでは、対処しきれないだろう・・・」
 光条兵器で彼をとり憑き殺そうとする霊を薙ぐ。
「超感覚だけでは、一度に引きつけるのは難しいか・・・」
 刀身が二つに分かれた十字架型の形状をしたその剣を、わざと掠めながら挑発するように振るい、ルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)の元へ引きつける。
「ナオ君・・・あまり、無茶しないでくださいね」
 一掃するために仕留め損なわないよう、ルクシィが七緒にパワーブレスの祝福を与える。
「ルクシィ・・・!」
 寄せた分だけ倒してしまおうと彼女の名を呼ぶ。
「いきます・・・バニッシュ!!」
 彼女の声に答えるように、悪霊たちを聖なる光に包み退治する。
「このベックォン、どれくらい沸いてくるんでしょうか」
「倒しても別のやつが床から現れてくるな・・・」
 瀬織のバニッシュとユーリが放つ光術で消すものの、何としてでも引きずり込もうと亡者たちの手が次々と沸き続ける。
「別にあんたのためじゃないんだからっ・・・邪魔だったから追っ払っただけっ」
 パーミリア・キュラドーラ(ぱーみりあ・きゅらどーら)が2人を狙う手を氷術で凍てつかせて破壊する。
「ありがとうございます」
「れっ礼なんていらないっ、助けたわけじゃないんだからね!」
 素直に礼を言う瀬織に、わざとツンとした態度をとりパーミリアは照れ隠しをする。
「これはさすがにまずいか・・・。この部屋は危険だ、退こう・・・」
「ナオ君、上!」
「―・・・!?(くっ、察知するのが遅れたか)」
 天井から現れたベックォンが七緒を狙い、皮膚が剥がれ落ち骨の見える不気味な手を伸ばす。
「ぐっ・・・偶然!偶然なんだからっ。誰があんたなんかのために、貴重な魔力使ってやるもんですかっ!!(そうよ・・・こんなトコで死なれちゃ困るのよ!あんたを倒すのは他でもない・・・・・・あたしなんだからっ)」
 言葉と行動が魔逆しているが、氷術でパーミリアは彼女を助けてやる。
「すまない・・・」
「だ、だからあんたのためじゃないって言ってるじゃないの!それ以上なんか言ったら術を叩き込むわよっ。―・・・なっ何笑ってるのよ、何かムカツクわねーっ!」
 助けてくれたのだと分かり微笑する七緒に、彼女はプチンッとキレたように怒鳴る。
 七緒たちは外階段を駆け上り6階へ逃げきった。
「追ってくるスピリットは消したからな・・・。ここまで来れば、もう大丈夫なはずだ・・・・・・」
「ありがとう、助かったよ」
「―・・・礼はいい。当然のことをしたまでだ・・・。それよりも、クリス・ローゼンに憑いた霊を対処しなければ・・・」
「ゴーストタウンから出るか、気絶するほどのことをしないと霊が離れてくれないみたいなんだよね」
「そんなに時間は経っていないのだろ・・・?―・・・まだ、深く憑かれてはいないはずだ。用は気持ちで負けないこと・・・。さぁ・・・、吐き出すように、身体から追い出すんだ」
 クリスの背をさすってやりトントンと叩く。
「霊を絶対に哀れむな・・・。感情移入もするな、自分には関係ない・・・そう霊に心の中で言うんだ・・・・・・」
「出てきましたよ!」
 彼女の身体から抜け出た霊をルクシィが指差す。
「この場から去ってください」
 瀬織は他の者に憑く前にと悪霊にバニッシュを放つ。
「ふぅ、これで一安心ですね」
「時間が経つごとに、霊がマンションに入り込んでいるようだ・・・。気をつけろ・・・」
「それでは私たちはこれで失礼いたしますね」
 ルクシィはぺこっとお辞儀をし、七緒の傍へ駆け寄り瀬織たちから離れていく。
「私を庇ったせいで・・・、すみません」
「いえ・・・いいですよこれくらい。何とか助かりましたし」
 しゅんとする恵那にクリスが笑顔を向ける。
「―・・・誰かこっちに走ってくるよ?暗くてよく見えないけど、たぶん生徒かな」
 綺人が睨むように廊下の奥を見ると、カイたちが何かを追いかけているよう必死に走っている。
「彼らの前にいるのって・・・えっと・・・・・・オメガさん!?」
 館で見た彼女の姿を思い出した恵那が声を上げる。
「5号室へ入って行きましたね」
 彼女は彼らが魂を追っているのだと気づき、自分も協力しようとその部屋へ駆け込む。
「見つかったんですか!?」
 入るなり大きな声でオメガの魂を見つけたのか聞く。
「あぁ・・・。だが部屋の中を探しても見つからなくてな、逃げられてしまった」
「十天君の女が現れて、それに怯えて私たちに気づかずに行ってしまったようです」
 睡蓮はせっかく見つけたのにと、しょんぼりとする。
「部屋の中にこんなのが落ちていたぞ」
「何ですかそれ」
 唯斗が寝室で見つけた画用紙を、恵那は傍からひょいっと覗き込む。
「絵が描いてあるな」
 エクスも見ようと背伸びをして覗く。
「構図からして何かに埋もれて隠れているようにも見えるな」
 何を意味しているのか、カイが考え込む。
「他に手がかりはないみたいですから、他の場所を探してみましょう」
 部屋から出た恵那たちはさらに上の階へ行ってみようと階段を上る。

-PM15:40-

「すぐ目につく庭やベランダよりも、屋内にいるはずだよな」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はオメガの魂が隠れていないかクローゼットの中を開ける。
「廊下にいるとしたら十天君たちから逃げている時どすなぁ」
 通りがからないか玄関の外へ綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)はちらりと視線を移す。
「しかし1箇所に留まってはいないじゃろう」
 寝室のドアを開けてアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)がベッドの下にいないかチェックする。
「いないな。7階の7号室まで見たから次は8号室に行ってみるか」
 隣の部屋へ行ってみようと紫音たちは廊下へ出る。
「何も・・・いないよな?」
 ベックォンはともかく霊に憑かれてしまっては洒落にならないと、死者が徘徊していないかドアの陰に隠れて廊下を見る。
「よし、今のうちに隣に行くぜ!」
 ドアノブを掴み室内へ駆け込む。
「―・・・?何か奥の方で物音がするな。オメガか?」
 いきなり近づいて驚かせて逃げられないように、そっと洋室へ入る。
 ガタタンッ。
 押入れの壁に何かがぶつかるような音が響く。
「さすがに中まではダークビジョンでも見れないからな。開けるしかないか・・・」
「気をつけなはれ」
「分かっている・・・」
 障子をゆっくりと開け、中を覗き込む。
「外れか!皆、下がれっ」
 押入れに隠れていたのはオメガではなく、手だけの亡者が潜んでいるのだ。
 無数の死者たちが彼を引きずり込もうと手を伸ばす。
「超感覚でも気づくのが遅れちまったか」
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が主の危機を察し、魔鎧となって彼を守る。
 ギリッギギィイッ。
 霊は紫音を引き込むために弱らせようと爪を立てるが、鎧のガードで掠り傷1つつけられない。
「大人しくナラカへ逝くのじゃ!」
 なおも諦めず襲いかかる亡者をアルスがバニッシュで消滅させる。
「こんな霊だらけの部屋にはいないかもな。8階へ行ってみようぜ」
 余計な体力を消耗するまいと紫音たちは玄関へ走り廊下へ出る。
「追って来られないよう、塞いでおいたほうがえぇどすなぁ」
 ベックォンが追えないように、風花はサイコキネシスで机を動かし玄関を塞ぐ。
「1号室の近くの内階段へ戻るのは時間のロスじゃ。外階段を使おう」
「おっ、そのほうが効率がいいか!」
 アルスに頷き紫音はパートナーたちと共に外階段へ向かう。
「開けるぜ」
 ドアノブに手をかけてそっと開けると、キィイイッと錆びた金属音が響く。
「何もいないみたいだぜ・・・。霊が現れないうちに早く上っちまう」
「待て主、下の階から誰かが上って来てるようじゃ」
 敵かもしれないとアルスが身構える。
「―・・・はぁ。何じゃ、生徒か」
「こんなの拾ったんだが、たぶんオメガが自分の隠れている場所を知らせようと残した絵だと思うんだ。何を意味しているか分かるか?」
「ふむ。そうせざる終えないほど危険な者なのじゃな、十天君とドッペルゲンガーは」
 唯斗が見えた画用紙を見た彼女は、敵に知られないよう彼らに手がかりを残したのだろうと考えた。
「しかしこれだけでは正確な場所がわからぬ。それと同じようなのを見つけた生徒がいるかもしれないのぅ」
「そうか・・・」
「下の階からは連絡がないから、そっちにはもういないのだろうのぅ。このまま上へ進むとしよう」
 上にいるのだろうとアルスたちは8階へ向かった。