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リアクション
第6章 追う者・残る者・足止めする者
ドゥルジの放ったエネルギー弾は全員を襲ったが、狙いが正確とは言いがたかった。
腕に当たった者もいれば足元近くにめり込んだ者もいる。エネルギーが分散されたのか、わざと出力を絞ったのか、回避せず防御した者でも近距離のわりには威力の重さにしびれたり弾き飛ばされることはあっても貫かれることはない。
だがそれらすべてが牽制で、彼の真の狙いがどこにあったかを知ったときには遅かった。
「わわっ!」
「きゃあっ!」
風龍の足止めに徹していたリーズのヘリファルテとファティの光る箒が砕かれ、撃ち落される。
「ファティ!」
ウィングと七枷陣が、それぞれ墜落するパートナーを救助した。
邪魔者のいなくなった空間に、風龍が伸び上がる。
頭部にドゥルジがふわりと降り立った。
「待て!」
陣の放った雷術が、白光となって空間を走る。だがそれは、間に割って入った赤龍の喉元で散っていった。
わずかに砕かれた肉片が――わずかと言っても相対的な比喩で、実は相当の量――ぼたぼたと下に落ちてくる。ドロドロに腐った肉の悪臭に、だれもが眉根を寄せる前で。
ドゥルジは彼らへの関心をすっかり失ってしまったように無表情に見下ろし、あっさり背を向けた。
風龍がカチャカチャ骨をこすれ合わせながら旋回し、背骨をうねらせてゆうるりと東へ飛び去っていく。
「おい、やばいぞ。行っちまう」
「分かってるさ! だが、あのばかでかい死龍が…」
「――どう見ても、あっさりあとを追わせてくれるような雰囲気じゃないな」
赤龍は、この学園からだれ1人出すなという命令を受けていた。出ようとすればどうなるかは、正門の外で破壊された壁が物語っている。
奈落の鉄鎖で引きずり下ろすという案が出たが、どう見ても50メートル近くある巨体を数本の鉄鎖で下ろすには無理があるように思えた。
第一、時間がかかりすぎる。ドゥルジの乗る風龍はどんどん遠ざかっているのだ。
「俺が下ろす!」
校舎から走り出てきたタケシが、階段の上で言い放った。
「だけどチャンスは1度きりだ。だから追う者たちはスタンバっててくれ!」
階段を駆け下り、みんなから離れた所に1人で立つ。
タケシは胸いっぱいに空気を吸い込むと、ポケットから何かを取り出し、手に握り込んで掲げた。
「石を持ってきたぞ! 渡すから取りに降りて来い!!」
「ええっ!?」
その言葉に仰天した何人かが、タケシを振り返る。
だが何人かは「その方法があったか!」と、地上に降り始めた赤龍を振り仰いだ。
降下する赤龍から風が吹きつけられ、悪臭が一段と強まる。
地上3メートル近くまできたとき、タケシの指示が飛んだ。
「いまだ! 鉄鎖で縛りつけろ!」
そして自身は、手に持っていた何かを宙に放り上げ、バスタードソードをバットにみたててノックの要領でカッ飛ばす。
「欲しけりゃ取ってきやがれッ!!」
中庭から拾ってきたただの石は、見事赤龍の横を抜け、気をそらす役割を果たした。
神和 綺人(かんなぎ・あやと)、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)、ファティマ・ツァイセル(ふぁてぃま・つぁいせる)、そしてカイから預かったレオナが四方より奈落の鉄鎖を放ち、赤龍をその場につなぎとめることに成功する。
「行け!」
タケシの号令で、5台の小型飛空艇と2頭のレッサーワイバーンが飛び立った。そして地獄の翼を用いて、要と遙遠が舞い上がる。
赤龍は自分の足に絡みついた鉄鎖からのアンバランスな力にとまどい、大きく体勢を崩したが、彼らを行かせるほどではなかった。
ファイヤーウォールが炎の壁となって立ち上がり、行く手をふさぐ。巨大な火炎弾が、まるで対空ミサイルのように小型飛空艇に向かって次々と放たれた。
「あつっ!」
アスカの小型飛空艇オイレに乗り込んでいた鴉が、轟音を立てて真横を通りすぎた炎に、あわてて手をかばいこむ。
「あんなの、かすっただけで丸焼けになるぞ」
「しっかり掴まっててくださいねぇ〜、少々あらっぽくいきますわよぉ」
ヴォンッ
アクセルとブレーキを微妙な加減で踏み込み、アスカは真下に迫る火炎弾を、後部を浮かせて回避する。失速し、墜落しかけたところを立て直して、ファイヤーウォールを越えるべく、再び上昇した。
ファイヤーウォールを飛び越え、東に向かおうとする彼らに合わせて赤龍は頭を巡らし、間髪いれずに火炎弾を撃ち出す。
「しつこいな」
火の粉を撒き散らしながら追ってくる火炎弾と火炎弾の間を縫うようにすり抜けたカイがつぶやく。
そのとき、突然ブリザードが、死角から迫っていた火炎弾を横殴りした。
「ひゃっほー! 命中ーっ!」
光る箒にまたがった朝霧 栞(あさぎり・しおり)が、快哉を叫ぶ。
「あのでかぶつは俺たちに任せて、早く行っちゃいな」
同じように小型飛空艇や光る箒で上空に舞い上がった者たちが、氷術やブリザードで火炎弾をすべて撃ち落しているのを見て、カイは礼を言うように頷いた。
スロットルを全開にし、まっすぐ東に向かって飛んで行くオイレを見送って、下の赤龍を見下ろす。
「にゃはは〜……悪いけど、手加減はしないからな!!」
自分めがけて飛んできた火炎弾に向け、栞は右手に集積した魔法力を解放した。
(あれ…?)
「あのー、アンノーン、ミリオンはどこでしょうかぁ?」
オルフェリアは、風龍が飛び去る一瞬、右後ろ足にキラリと光る――しかも見覚えのある――何かを見た気がして、あわてて自分の周囲を見回した。
アンノーンもまた、オルフェリアの言葉に彼の存在を思い出して、キョロキョロと周りを見回したあと、肩をすくめる。
ミリオンの姿はどこにもなかった。
「まさか……ミリオン、風龍さんに乗って行っちゃったとか…?」
オルフェリアが攻撃され、自分が庇わなければ死ぬところだったことに、ミリオンは激怒していた。表には出ていなかったが、全身を包んだ空気や暗く影を落とした瞳の放つ光から、それと分かった。
最後に見たのは、レビテートで…。
「た、大変です、たいへんっ。私たちも追いかけないと」
あわわ、あわわと手をぐるぐる振り回し、あたふたバイクを探す。
ここまで乗ってきたバイクは、どこに――――
「ああっ! そういえば、外にとめてきたんでしたっ、皆さんがお昼寝しているのだと思って!」
バイクまでたどり着くには校門をくぐらねばならず、校門には近づいただけで赤龍に襲われるわけで。
「打つ手なしだな」
ぼそり、アンノーンがつぶやいた。
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