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リアクション
第9章 負けられない戦い
「それで、あの薄気味悪い男は第三防御システムは何だと言っていたの?」
こじあけられた隔壁をくぐりながら、芽美が訊いた。
手にはあいかわらずデジカメが握られている。
「火炎放射です。ただ、どういうふうに出てくるかは不明だそうです」
「ふーん。じゃあ私がおとりになるよ」
あっけらかんと先頭を行く透乃が言った。
「透乃ちゃん!」
「軽身功や残心もあるし。もしものときも、最初の一手は避けられると思う」
「それでも危険です! 透乃ちゃんに何かあったら……私が行きます!」
気色ばむ陽子の手を、ぎゅっと握った。
「大丈夫。2人のこと信じてる。だから行けるんだよ」
何の心配もしていないと、笑って、透乃は駆け出した。
侵入した透乃に反応して、通路が機械の作動音をたて始める。獣の威嚇のようだと思った。
(わざと心理プレッシャーをかけるように作ってある。涼司ちゃん、悪趣味だよ)
カメラのシャッター音のような音がして、前方のいたる所から噴出口が現れる。
視界の隅でチカッと赤い光がまたたいたと思った瞬間、陽子の放ったサンダーブラストが噴出口を破壊した。
突っ走る透乃の周囲で青白い稲妻がいくつも走り、直撃した噴出口が火花を散らして壊れていく。
「ゴール!」
噴出口のなくなった地点で立ち止まり、白煙立ちこめる通路の向こうにいる2人に手を上げる。
ターーーーーン……
一発の銃声が通路に響き渡った。
ぐらりと透乃の姿が揺れて、しゃがみ込む。
「透乃ちゃん!」
陽子と芽美があわてて駆け寄った。
3人の横を大助が神速で走り過ぎていく。
自分を狙ってくる銃弾を先の先でことごとくかわし、ぐんぐんと角を盾にして狙撃していたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)に迫る。かわす間も与えず、その手の狙撃銃型光条兵器を蹴り飛ばした。
すぐ前は行き止まりだ。通路をすべってブレーキをかける大助。目は油断なく、ローザマリアを捉えている。
ローザマリアは銃を拾いに走るような愚行には出ず、すでに両手にブライトグラディウスを構えていた。
「マスター、さっきのレーザーのダメージからまだ回復できていません。しかもあれ、光条兵器ですよ!」
「――ふんばれ」
間合いを詰めようと突進してくる大助をローザマリアは片手ですり流し、膝を入れる。突き上げられた剣先がゴーグルに触れ、ゴム紐を切り裂いた。
「……邪魔すんな。オレはこんなところで、立ち止まってる場合じゃないんだよ」
大助の苛立ちに、ローザマリアはただ静けさで応える。
言葉で説得する気はないらしい。大助の血のついたブライトグラディウスを見せつけるように構えて通路に立つ。
「そうか」
こめかみを流れ落ちた血をぬぐい、低い体勢をとった大助は、真正面から突っ込んで行った。
「透乃ちゃん、大丈夫ですか?」
「……いったーいなぁっ、もおっ」
頬にあてていた手をはずすと、血がついていた。
「あーっ!!」
「――透乃ちゃんの顔に傷をつけるなんて…」
ゆらりと陽子が立ち上がる。
その目が、大助とぶつかり合っているローザマリアの方を向いた。
両手に収束した魔法力でファイヤーストームを放つ。しかしその炎は、通路から現れたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のラスターエスクードによって弾かれてしまった。
「間に合ったようね」
少し乱れた息でつぶやく。
騒ぎを聞きつけて学園へ戻ってきた彼女は、彼方とのやりとりで事態を把握し、一番近い第一防壁のここへ直接駆けつけたのだった。
「リカイン、あなた邪魔する気?」
透乃が前に出る。
「涼司君の許可なしにここに入るのは許されないことよ、泥棒」
「泥棒じゃない! これには、人の命がかかってるんだから!」
「校長の留守に宝物室へ入り込んで物をかすめ取ろうとするなんて、泥棒と一緒でしょ」
一蹴するように、リカインは肩をすくめて見せた。
「校長就任でただでさえ気苦労の多い涼司君に、これ以上負担をかけるような真似は謹んでほしいわね」
「涼司ちゃんは分かってくれるよ!
もう! こんなこと言い合ってる暇ないんだから! どかないっていうんなら、力ずくでも通る!」
一瞬で、透乃がヒロイックアサルトを発動させた。
今の彼女の気持ちにふさわしく、赤い輝きがその身を包む。
「邪魔しないでね、フィス姉さん」
後ろで銃を持っているシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)に、一応ことわっておく。
「もちろん」
(でも、あの後ろの2人をやるのは、全然邪魔じゃないわよね)
シルフィスティは陽子と芽美に視線を投げると、思わせぶりなしぐさで魔道銃を構えた。
「2人とも、手加減なしでいくよ」
横の2人に言い置いて、透乃は一気に距離を詰める。
盛夏の骨気を発動させた拳でラスターエスクードに殴りかかり、脇に蹴り捨てた。
「あっ!」
がらんがらんと音を立てて、ラスターエスクードが通路を滑っていく。
透乃が、握りしめた左手を眼前まで突き上げた。
「拳で勝負よ」
「……後悔しないでね」
しびれた手を庇いつつ、リカインもまた、ヒロイックアサルトを発動させた。さらにドラゴンアーツ、パワーブレスの輝きが加わって、虹のような輝きが流動する。
じりじりと相手の出方を伺う2人。
ファイヤーストームを放とうとする陽子を牽制するべく、シルフィスティが魔道銃を発射する。
「おー、こわこわっ。いやー、ヒスった女ってマジこえーよなぁ」
通路の壁を背にしゃがみ込んで、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は胸ポケットに入れてあった紙をガサガサ広げた。
さっき目の前を高速で転がっていったラスターエスクードの件があるから、とばっちりを食うまいと両足は胸につくぐらい引っ込めている。
紙には彼方から聞き出した、第二秘書の携帯番号が書き留めてあった。
(今日の校長のスケジュールで立ち寄り先が分かりゃ、そっから連絡とれるだろ。でなくたって、こいつから電話してもらえるよう連絡してもらやーいいわけで)
「あ、もしもし。俺、アストライト・グロリアフルっていーます。実は校長と至急連絡がとりたくて――」
銃の撃ち合いや殴り合いの音が電話に入り込まないよう、極力送話口をおおって、アストライトは用件を告げる。
おそらくは彼が一番、有効的な方法を用いていた。
「さて、どうするか…」
武尊は腰に手をあて、ため息をつく。
通路は2組の戦闘で、すっかりふさがってしまっていた。
「迂回路があればいいんだが」
ちら、と左の通路を見る。30メートルほど先で行き止まりだ。
正面も行き止まり。
(道が1本しかないって、そもそもおかしくないか? 宝物室周辺ならともかく、まだ第三防御ラインだぞ? これじゃ挟撃もできない)
そう考えていると、右の通路に健流が入って行った。
つかつか歩み寄り、手で触れたあと、突然行き止まりの壁を蹴りつけだす。
「あ、おいっ」
「防御壁だ。ぼくたちをわざとあちらへ行かそうと、隔壁を閉じているんだ」
「なるほど。今までのも全部そうか」
防御システムや通路で誘導されて、宝物室とは別の場所にたどり着き、そこで叩かれる。なまじ防御システムがあるからこちらが正しい道だと思い込んでしまうのだ。
ご丁寧に迎撃者たちまで配置されていたことも、思い込みの理由のひとつだった。
おそらく今戦っている2組の防御側も、適当なタイミングで退くつもりに違いない。
「退く先に宝物室があると、追っていったところで一網打尽。バン! か…。
ちょっとどいててくれ」
健流の蹴りで曲がったパネルをさらに引き剥がし、内部に最大級の雷術を叩き込む。壁は耐電圧であっても内部までそうとは限らない。思った通り、内部配線を伝って天井部まで駆け上がった雷が、一瞬で電圧装置を破壊する。ショートさせてしまえば、これはただの壁だった。
「やっぱりバレちゃったね」
ガンガン音を立てる正面の壁を見ながら、美羽が言った。
「やはり戦いは避けられないんですね」
ベアトリーチェがほうっと息を吐く。
「あのまま隔離室まで誘導されてくれていれば最善だったのだが。なかなかそうもゆかぬようだ」
反対側の壁際で、タワーシールドを構えたコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が応じた。
仲間を見殺しにできない、と動く彼らの気持ちは痛いほど分かる。これしかないと思いつめてしまうことも理解できた。これは、防衛側に立っただれもが理解していることだ。だからこそ、ともに傷つけあうことなくすめばよかったのだが。
だが、それでも曲げられない法があり、律がある。
「彼方、壁の向こうにいるのはだれだ」
三船たちが急きょありあわせの道具――ロッカーや会議用長机、椅子など――で築いた簡易バリケードの内側で、ヘッドセットを付けた刀真が訊く。
『周臣 健流と国頭 武尊。それに今、三道 六黒と両ノ面 悪路が合流した』
「国頭か…。
テティス、提案があるんですが」
『なに?』
「ちょっと君のはいているパンツを脱いで彼に渡してあげませんか?」
『はぁーーーーーーーッ?』
『あ、それいいかも』
ボクン!
マイクの向こう側で殴られている音が聞こえた。
『……美羽…』
「おっけー」
そうくると思っていたとばかりにバリケードを乗り越え済みだった美羽の必殺・ミニスカかかと落としが振り下ろされる。
刀真は寸手のところで回避した。
「わっ!
彼は『パンツ番長』と呼ばれているS級四天王ですよ? パンツ渡しただけで帰ってもらえるなら大助かりじゃないですか」
ドコーーーーーン!
国頭、三道、周臣3人の力で隔壁が破られたとき。
刀真は美羽の肘打ちを受けて壁に後頭部をめり込ませていた。
「そこまでだ4人とも。それ以上くるなら殺す」
「いや、おまえの方がもう死にかけてるし」
刀真の惨状に武尊がツッコミを入れる。
と、武尊の目が、さっと横に流れた。それぞれの位置関係を把握し終えると、不意打ちとばかりにしびれ粉を撒き、動きの鈍った淋の後ろを取ると慣れた動作で横抱きにした。
喉を掴み、右腕を後ろに回させ強めに固定する。
「動くな! 今、サイコキネシスで彼女のパンツをずりおろした! 動けばスカートをめくるぞ!」
そう言うはずだった。
彼女がスカートさえ履いていれば!!
しかしここでスカートを履いている美羽とベアトリーチェの2人はバリケードの向こうで、淋はパワードスーツの下でパワードインナーをしっかり着用していた。
これではずりおろすどころか奪うのも無理だ。
仕方なし、武尊にとっては次善の策をとることにした。
「彼女を無事解放してほしかったら、道を開けろ!」
そう言った瞬間、武尊は唐突に目がくらむほどの睡魔に襲われた。
ゼロの距離で、淋の放つヒプノシスを受けたのだ。
「――くそッ!」
緩んだ拘束から右手を抜いた淋は、武尊を突き飛ばして距離をとるやいなやライトニングブラストをぶつけた。
「うわあっ!!」
派手にぶっ飛ばされた武尊は背後の隔壁に頭からぶつかって、盛大な音を上げる。
健流も六黒もまっすぐ前を見据えたまま、武尊にちらとも目を向けなかった。
「女性を人質に取ろうとは、卑劣なやつめ!」
バリケードの向こう側にいて、わずかでも時間稼ぎにと篭城作戦を取るつもりだった敬一だが、先の武尊の行動がよほど頭にきたのか、パワードレーザーを手に飛び出す。
その体には既にヒロイックアサルトの光が流動し、コンスタンティヌスによるディフェンスシフトの強い輝きと寄り合わされた紐のように絡み合っていた。
「その言葉にはぼくも全く異論はない」
健流が同意する。
「……ぃ、っつつ…………って、おいッ」
「だが、だからといってここでおとなしく降伏するつもりもない」
どいてくれと言ったところでどくはずがないのも分かりきっている。
健流は智杖を構え、敬一に向かって行った。
相手はレーザー銃だが、ここでむやみに使える武器ではない。接近戦であれば、単純に長いリーチを持つ智杖の方が有利だとの計算があった。
肩を狙って突き出された石突を冷静にパワードレーザーで受け止める敬一。だが続けて放たれた後ろ回し蹴りを背中に受けて、敬一はわずかによろめいた。
「敬一殿!」
「おっと。おぬしの相手はわしがしよう」
加勢に向かいかけたコンスタンティヌスの前をふさいだのは闇黒ギロチンを持つ六黒だった。その身からは既にアボミネーションが放たれている。
「――我に畏怖などといったこけおどしは通じぬ」
すらりとバスタードソードを抜き放ち、タワーシールドを構える。
「きさまもここで踏んばらんか」
強敵・コンスタンティヌスとにらみ合いながら、六黒は退こうとした脇の悪路を叱咤した。
「はいはい」
(こういう泥臭いのは私の好みではないんですがねぇ)
「言っておきますが、私は女性だからと差別したりはしませんからね」
ディフェンスシフトをまとい、ライトニングブラストの白光を手に宿した淋をひたと見据え、悪路は鬼神力を発動した。
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