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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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第14章 不死者

「いっ……いたたたたたた…」
 割れるような頭の痛みを我慢しきれず、高柳 陣は目を開けた。
「あ、目が覚めた?」
 夜の深まった空を背に、真上から椎名 真が見下ろしている。
 強い風でばたばたはためく服。
 背中の下はゴツゴツとしていて、寝心地は良くない。
 視界にチラチラとなびく三つ編みが見えて、枕元にもう1人、ミリオン・アインカノックがいることに気づいた。
「えーと。俺は一体…」
 身を起こそうとした直後、襲っためまいに頭を抱える。
「危ない!」
 ふらりと横に揺れた体に腕を回し、あわてて真が引き戻した。
 ヒューーーッと吹き上がってくる風。
 足元は暗くてよく見えなかったが、床がないのだけは分かる。
「――ここ、どこだ?」
「風龍の右後ろ足の骨の上です」
 ミリオンが淡々と答えた。
「俺、たしか落ちてて…」
(そこに巨大エネルギー弾というか、エネルギーの柱みたいなのが降ってきて…)
 陣は割れるように痛む頭をむち打って、その瞬間のことを考えた。
 あのとき、自らを紙のように貫くに違いないエネルギー弾の威力を少しでも弱めようと、銃を持つ手を上げた。
 その銃に、白い糸が絡みついたのだ。
 グン! と強い力でそちらに引っ張られ、エネルギー弾の進路から危ういところではずれる。
 それは、ナラカの蜘蛛糸を用いて屋上から風龍の足に乗り移っていた真の放った糸だった。
「ミリオン君にサイコキネシスで手伝ってもらって一緒に引き寄せたんだけど、ただちょっと、着地点まで気にしてる余裕がなくて」
 石のような骨に頭から盛大にぶつかって、今まで気を失っていたというわけだった。
「あー、それで頭痛と吐き気か」
「すみません」
「いや、謝ることじゃねぇよ。俺の方こそ礼を言わなくちゃな。助けてもらったんだから。
 それで、今どういう状況なんだ?」
 ミリオンはずっと肋間越しにドゥルジのいる頭部の方を見上げて無言を貫いているため、真がこれまでの説明をした。
「つまり、やつの目的地へ移動中なわけだ」
「みんな、小型飛空艇やレッサーワイバーンで追いかけようとしているのは見えたんだけど、どんどん引き離されて」
「足止めが必要だな」
「――足止めでなく、やるんです。あいつはオルフェリア様を殺そうとしました。このまま行かせるわけにはいきません」
 ミリオンの赤い瞳が不穏な光を放っている。
 彼の静けさが見た目通りのものでなく、内側の熱い怒りゆえなのだと気づいて、陣はにやりと笑った。
「さあ行こうぜ。第2ラウンド開始だ」



 風龍の頭の上で胡坐し、ドゥルジはぼんやりと月を見上げていた。
「なぁ、俺はときどき思うんだ。なぜ人間は、そんなにも戦うのが好きなんだろうな?」
「戦いたがってるのはてめぇの方だろ。ひとのせいにすんじゃねぇ」
 風龍の脊柱の中ほどで、陣が答えた。
 振り返ったドゥルジの面には、そこに彼らがいることに対する驚きはない。
 やはり先ほどの質問も独り言ではなく、陣たちに向けての質問だったのだろう。
「ならばなぜここにいる?」
「おまえが俺らのパートナーを傷つけたからだろうが」
「助けたいのであれば、石を渡せばいいだけだ。それもせずに俺を追ってきた、おまえたちを俺はほかにどう評すればいいだろう」
「うるせぇ! おまえの評価なぞ知ったことか! 俺はみんなを苦しめたおまえをぶっつぶしたいだけだ!!」
 叩きつけるように返し、陣はスプレーショットを放った。
 ドゥルジが前方に張ったフォースフィールドにより、弾はことごとく破砕する。
 陣がドゥルジの足を止めている間に、低い体勢から真とミリオンが左右から距離を詰めた。
 はじめのうち、ドゥルジの放ったエネルギー弾をフォースフィールドで弾いていたミリオンだったが、さすがに数メートルと近づいては受けきれない。
 真正面からのエネルギー弾がミリオンのフォースフィールドを貫いたとき、ミリオンの姿は掻き消え、宙を飛んでいた。
 その姿もまた、エネルギー弾で煙のように消される。
「面白い技を使う」
「ミラージュは初めてですか?」
 背後をとったミリオンが、後頭部を狙って最古の銃を撃つ。しかしドゥルジの反応の方が早く、弾はフォースフィールドに阻まれた。
 ドゥルジの伸ばした手がミリオンのフォースフィールドに接触し、パチパチと火花を散らす。
「フォースフィールドか。しかし、ひ弱だ」
 そのひと言でたやすくフォースフィールドを突き破ったドゥルジの手がミリオンの銃を持つ手を握りつぶそうとする。
 その腕に、何かが絡みつくのを感じて、ドゥルジは動きを止めた。
「糸か」
 月光にところどころきらめく光の道をたどって、その先の真を見る。
 彼は風龍の肋間骨や椎骨、頭骨に糸を張り巡らし、まさしくクモの巣のような状態で宙に足場を作り上げていた。
 糸の引き合いをしても負ける。
 先の戦いでドゥルジの超常的な腕力を見ていた真は、ミリオンがその場を離脱したのを見て、あっさりとその糸を放棄した。
 新たな糸を引き出しながら、ドゥルジに向かって糸の上を走る。
 ドゥルジのエネルギー弾は正面からくると分かっていた。この距離では面攻撃は間に合わないからだ。
 糸のしなりを利用して大きくジャンプし、エネルギー弾をかわした真は、ドゥルジが中心となるように糸を八方へ飛ばした。
「いけ!」
 ねじりをくわえながら糸を引き戻し、ドゥルジに絡みついたところで轟雷閃を放つ。
 青白い稲妻が糸を伝い走った。
 しかしドゥルジの放ったエネルギー弾がひと足早く、糸の収束部を両断する。
 轟雷閃はフォースフィールドに散らされ、寸断された糸はぱらぱらと落ちて風に流された。
「……くッ」
 宙の自分に向かってきたエネルギー弾は、糸を骨に絡ませて方向を変えることで回避。糸の足場に下りた真は、続けざまに数本の糸を放つ。何本かは途中で切られ、残った糸もフォースフィールドに阻まれたが、風龍の骨を利用して張ってある糸をくぐることで角度を変えた数本の糸が、ドゥルジの首と右腕に巻きついた。
「これで終わりだ」
 真が宣言する。
 首に巻きついた糸は、少し引くだけでドゥルジの首を切り落とす。
「今すぐみんなを元に戻せば、糸をはずします」
「ぬるいぞ、真! 今すぐやっちまえ!」
 ぱしぱし足を踏み鳴らす陣と、その隣でこくこく頷くミリオン。
 外野の声は、完全無視することにした。
「そうすれば、俺が従うと思うのか?」
 首を落とすと脅されながら、みじんも追い詰められた様子を見せないドゥルジの不敵な嗤いに、真が警戒を強めた瞬間。
 ドゥルジは自ら、一歩後ろに下がった。
「!!」
 うなじに糸が食い込んだ感触に、あわてて真が糸を緩める。だが右腕の方が間に合わず、糸はドゥルジの右腕を肘の少し下で輪切りにした。
 肉と骨を絶つ、ずぶりとした嫌な感触が伝わってくる。
 しかし腕は落ちない。
 糸が通り抜けて落ちたすぐあとを白い光が走って、傷口はきれいに消えてしまった。
 まるで最初からなかったように。
「人間。その武器の欠点は、鋭すぎることだ。だから修復も最小限ですぐ癒える」
「……なら、これでどうだ!」
 真は怪力の籠手で、左之助に習ったばかりの「気合の一撃」を叩き込んだ。
 ヒロイックアサルトの輝きに包まれた拳がフォースフィールドを貫き、ドゥルジの右肩から胸部かけて大きな穴をあける。
 突き破られた肉片は小石と化し、闇に飛び散った。
「やるな、人間。バッククラッシュがきたぞ」
 どこかその痛みを甘受するような声で、すれ違いざまドゥルジがささやいた。
「おまえが傷つけた兄さんからの一撃だ」
(バッククラッシュって……限界値を超えた衝撃の中和作用がうまく働かないで衝撃がくることだったっけ? やっぱりこいつ、生物じゃないのか?)
 ヒュンヒュンと風を切る音がして、散っていた石が戻ってくる。みるみるうちに穿たれた穴が修復していく様を、いくぶん呆然としながら真はただ見ていた。
 最後の石がはまり、完全にふさがりかけたとき。
 陣とミリオンによる集中砲火がドゥルジに浴びせかけられた。
「真! 距離をとれ! 近すぎる!」
 陣の言葉に初めてそのことに気づいた真が飛びずさる。彼が張り巡らせた糸の中心に戻ったとき、それを待っていたようにドゥルジの放ったエネルギー弾が瞬時に全ての糸を断ち切った。
「うわ!」
 糸が緩み、宙へ投げ出される。
 足下には何もない闇が口を開いているだけだ。
「真!!」
 闇に落下しながら真は最後の糸を放ち、かろうじて風龍の前足に巻きつかせ、飛び乗ることができた。
 骨と骨の隙間から、上の様子を伺う。
 そこに、ついに小型飛空艇の一団が追いついた。



「それじゃあルース、鴉、よろしくね〜」
 途中で運転を変わっていたアスカは、ベルフラマントをまとってオイレから風龍の尾に飛び移った。
 ここから気配立ちして近づき、ルースたちがドゥルジの注意を引いている間にあの自己中男に一発かましてやるのだ。
(よくもよくもベルを〜っ! もう、久々にカッチーンってきたわ! あいつ、絶対に許さない!)
 走り出したアスカの上で、ルーツと鴉の乗ったオイレとヘリファルテが加速する。
「とりあえず、あの死龍の前方には回らない方がいいだろうな」
 ドゥルジのエネルギー弾だけで厄介なのに、風刃も避けつつではとても攻撃まで手が回らなくなってしまう。
「やつの注意をひくには何が一番有効か…」
「そういうことなら任せろ」
 鴉がドゥルジの真上に旋回した。
「おい! そこのクソガキ! まったく、しつけのなってねえガキだな! 親の顔が見てみてえよ! もう少し礼儀作法というものを学んできたらどうなんだ?
 ああ、あれか。こんな派手なことをやらかす奴だから、そんなもの存在しねえか!」
 うるさいハエとばかりに無視していたドゥルジの体が、あきらかに強張った。
 これまで退屈と嗤いしか浮かべていなかった面に、今初めて別のものが浮かぶ――無表情と、そして怒りと。
「なるほど、精神的なゆさぶりか。精神・心の動揺は魔術にも影響する」
 対角を飛んでいたルーツが、ドゥルジの変化に気づいて便乗した。
「子は親の背を見て育つと言うが、君がそういった感じなら、親もよろしくないようだな!」
 彼らは、自分たちが一体何をしたのか、きっと気づかないままだっただろう。
 触れてはならないものに触れた。
 たとえ龍の気を引きたいと思っても、逆鱗にだけは触れてはいけないのだ。
 まさしくルーツの考えた通り。精神は能力に影響する。ただし、ルーツが考えたものとは真逆の意味で。
「なんだ!?」
 ヘリファルテとオイレが、一瞬でひしゃげた。
 ハンドルが固定し、操縦が奪われる。2台は空中で衝突し、火花を吹いて落下した。
「サイコキネシスか…! なんて強力な…」
「くそったれが!!
 おい、掴まれ!」
 鬼神力で鬼神化した鴉が、墜落する機体からルーツを抱いて脱出する。
「ばか〜〜〜! 気を引けとは言ったけど、怒らせろとは言ってませんわぁ〜〜っ!」
 下の暗い森に吸い込まれるように消えた2人に向かってアスカが叫んだ。
「……きさまたちに、俺と母さんの何が分かる…!!」
「――はっ」
 つい、2人のばかっぷりに叫んでしまったせいで、せっかく気配立ちしていたのがだいなしになってしまった。
 そちらを見ると、ドゥルジはどう見ても、激怒していた。
「母さんほど優しい人はいない。その母さんが、この12年、一体どんな思いでいたか…!
 俺たちの絶望がきさまたちに分かるというのか!」
「分かりませんわぁ。話していただけないのに、分かるはずもないでしょう〜」
 彼の放つ不穏な気配に圧倒され、ドゥルジが前に出る分アスカも後退する。
 2人の間に、さっと割り込む者が現れた。
「ドゥルジよ。婦女子に手を上げるは名折れ。ここは私が貴公のお相手をいたす。
 円卓の騎士の力、その身をもって知りなさい」
 サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が、自分の背にアスカを庇い込み、視界から隠した。
 彼はハルバードをふるい、猛攻をかけているように見せかけて、ある地点までドゥルジを押し出す。
 次の瞬間。
 ヒュウッと何かが空を切る音がした。
 ダンッと音を立てて、ブラックコートをなびかせたカイがドゥルジのすぐ後ろに着地する。
 漆黒の太刀・奄月が、右肩を切り落としていた。
「わけなんぞ知るか。おまえが渚にしたことを、オレはどんな理由であろうと許さない。
 おまえはここで沈め」
 すばやく刃を寝かせ、胴を払って両断する。
 だが、カイが思ったような効果はなかった。
 手応えはあったが、切った先から癒着し、元に戻っているのだ。
 信じがたいものを見る目で、カイは自分の鼻先で走る、溶接しているかのような白い光と、消えていく傷を見つめた。
「人間。そうとも。きさまたちはいつだってそうだ。右手で理解を示しながら左手で切りつける。今さら驚きもしない」
 カイの奇襲に、我を忘れるほどだったドゥルジの怒りの熱が冷めたようだった。
 感情の欠落した声で、まるで月に語りかけるかのように言う。
 振り返ったドゥルジの左手が、カイの顔面に向けて突き出される。掌に収束している力が、カイの頭を跡形もなく吹き飛ばそうとしたとき。
 舞い降りた要が、背後から全力で体当たりをしかけた。
 ドゥルジの放った力はそれて上空に消え、カイはその一瞬に乗じて自分のオイレに飛び乗ると、即座に離脱する。
 要は、右肩がまだ修復途中なせいもあって体勢が大きく崩れたドゥルジを、自分ごと奈落の鉄鎖で拘束した。
「これならいくらおまえだって避けられないぜ」
 密着した状態で改造魔道銃「散」とスプレッドカーネイジの銃口を、額と心臓に押しつけた。
「悠美香を元に戻せ」
「撃ってみろ、人間。俺を殺すことができたなら、俺の意思に関係なくあれは解除されるぞ」
 事ここにいたっても、ドゥルジは不敵に嗤うのみだ。豪胆なのかそれとも……要に、それだけの覚悟がないと読んだか。
 殺してやると思うのと、実際に相手の目を見て引き金を引き、脳を撒き散らすのとは全然別物だ。
「できないと思うのか?」
「できたならとうにしているだろう。先の男のように」
「――くそッ! なめるな!」
 奈落の鉄鎖を解き、一歩距離をとりながら、心臓を撃ち抜いた。
 胸部は、ほとんどちぎれんばかりだった。
 腹部にかけてかなりの大穴があいたが、吹き飛ばされた石はまたたく間に戻り、どんどん穴をふさいでいく。
「ばかな!?」
 肉片はおろか、赤い血の一滴もこぼさない。
 機械にも見えない。
 ただ、石が結合し、人肌に変わっていく。
 右肩と胸部は、もうほとんど埋まってしまった。
「人間はおかしな考え方をする。俺が人間でないと知りながら、人と同じ位置に急所がないと驚くのか」
 腹に穴があいたまま、そうつぶやく姿は、悪夢の住人さながらだった。
「くそッ…!」
 いったん距離をとろうとする要。
 だが遅く、肩を掴まれて鎖骨を握りつぶされてしまった。
「……っ、あ……っ」
「月谷くん!!」
 要はバランスを崩し、落下した。
 地獄の天使を出すことはできたが、痛みにうまく操れず、数度羽ばたかせただけでまっさかさまに落ちていく。
 ブラックコートをまとっていたせいもあって、その姿はあっという間に闇に飲み尽くされてしまった。



 砕かれてもすぐに元に戻ってしまう。血の一滴も流れない体で、どこを攻撃すれば倒せるというのか。
 もう、頭に銃弾を撃ち込んだところで死ぬ相手にはとても思えない。
 次の手を考えあぐねている前で、ドゥルジの修復はどんどん進み、あっという間に胸部も右肩も元通りくっついてしまった。
 もはや攻撃の痕跡を残すのは、やぶれた服のみ…。
 指先を動かして回復具合を見ていたドゥルジは、ふと自分を取り囲んだ人間たちの姿を見て、小首を傾げた。
「人間。俺はおまえたちを殺すことが目的ではない。俺が求めているのはあの石だけだ。たとえ100人だろうと1000人だろうと、おまえたちの命にそれだけの価値はない。
 あくまで渡さないというのであれば、もちろんおまえたちを排除して取り返すのみだが。たとえ100人だろうと1000人だろうとな」
「……ふざけていますね。こんな真似をしておいて、まだ自分の要求が通ると思っているとは…」
 レッサーワイバーンの上で、霜月がぽつりとつぶやいた。
 そして、彼はまだ殺すと言っているのだ。今度はさらに多くの生徒たちを手がけると…。
 少し離れた距離で、やはりレッサーワイバーンに乗ったアイアンに目で合図を送る。
 2人は反対方向から同時に突っ込んだ。


 これだけのものを目にしながら、まだ戦意を失わない者がいる。
 ドゥルジは真正面から向かってくる霜月を見て、その殺意を感じて、人間というものはつくづく理解しがたいと言いたげに首を振った。
 霜月が、その身を蝕む妄執を放つ。
 だが効いている様子はない。効いていないはずはないのに――心があるなら。
 あるいは、畏怖が何かを知る者であるなら。
 強化光条兵器の居合刀を抜く霜月。
 待ち受けるドゥルジに、後ろからアイアンのファイアストームが高波のように襲いかかった。
 フォースフィールドが炎を分かち、白く輝く。逆巻く炎はフォースフィールドごとドゥルジを飲み込むかに見えた。
「おまえ…」
 炎の操り手が、レッサーワイバーンの男と同一であることにドゥルジが一瞬とまどう。その隙をつくように、霜月の居合刀が大上段から振り下ろされた。
 ギイィィ……ン――――
 低周波の音波のような音が、フォースフィールドと光の刃で起きる。ぶつかりあった力が、互いを押し戻そうとさらに輝きを強めた。
 そうする間にも、霜月自身ファイヤーストームの炎にあおられていたが、家族を傷つけたドゥルジに対する憎しみが、痛みを凌駕していた。
 殺意に鋭さを増した視線で射殺さんばかりにドゥルジを見下ろす。
「うおおおおーーーーっ!!」
 霜月は全体重をかけて居合刀を押し込み、切り裂いた。
「避けろ! 霜月!!」
 見逃せない好機。
 フォースフィールドが散った一瞬に、アイアンがコピスを媒体として爆炎波を呼び出し、放出した。
 勢いを増した炎が生きた蛇と化し、ドゥルジにぶつかる。
 だがほんの少しよろめかせただけで、炎は盾形に新たに張られたフォースフィールドによって、大河を別つ岩のように流された。
 フォースフィールドは前方に集中している。その姿に、佑一がヘリファルテで急襲をかけた。
 爆炎波が消える前にドゥルジへ奈落の鉄鎖を投げつける。
 鉄鎖はドゥルジの背中に当たり、風龍の脊柱ごと彼を縛りつけた。
 鉄鎖の効果で、風龍自身、ぐらりと揺れて落下しかける。
 ほぼ垂直に降下――落下しているのか?――するヘリファルテから、佑一は奪魂のカーマインで仰向けに縛りつけられたドゥルジの額の一点めがけて連射する。
 何発、何十発もの弾を撃ち込まれ続けたフォースフィールドは、やがてガラスのように破砕した。
 額を射抜かれ、頭部の一部が砕ける。
 右腕や胸のようにはいかないのか、頭部を破損したドゥルジの動きが一時静止した。
 飛び散った石が、再び戻り修復が始まる。
 その喉に、まるで縫いつけるかのようにカイの奄月が深々と突き刺さった。
「いまだ! やれ!」
 カイが離脱すると同時に、全員の攻撃が集中する。
 雨のように降りそそぐ銃弾と魔法に、ドゥルジの手足がちぎれ飛ぶ。
 だがドゥルジが千々に砕けるより先に、風龍の背骨がもたずに砕けた。
 風龍はドゥルジが縛りつけられた上半身と下半身に分かれ、夜の森へと落下していったのだった。