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ハートキャッチ大作戦!

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ハートキャッチ大作戦!

リアクション

「ちょっと待て、これはヤバいじゃん!?」

「ふぅ……顔が随分近いですね」

「俺の奢りだ。気にするな」

 玲が宝良と同席して暫し後、三者三様の意見が注がれたのはクリームソーダ……の上に刺さったストローである。
どう見ても一人用じゃないクリームソーダの上には、鼻先にあたるかどうかくらいの距離で先が分かれたストローが刺さっていた。

「ああ、嫌なら二人で一つのポッキーというのもある。勿論、コレも俺の奢りだ」

 金髪を掻きあげた和哉が優雅に笑う。

「……それは」

「ウェイターさん。二人で一本のポッキーというのは少々お値段設定が高すぎる気がします」

「……俺はウェイターに戻るからな」

「コラ、和哉ぁ!!」

 二人を残してサッサと立ち去る和哉。

「……はぁ、カフェだし、飲みもんでも飲んでゆっくり話せりゃいいな〜☆って思ってたけど。随分面倒くさいじゃん」

「キミはどうしてこのイベントに? 蒼空学園のため?」

「獅子神こそ、イルミンスールのためにやってるのぉ?」

「私は、食べ放題のイベントと聞いてやってきただけです」

 キッパリと言い切る玲に、宝良が吹き出す。

「危ねぇ、鼻から緑の液体流すとこだったじゃん」

「垂れ流すのはいいが、器の外にね」

 黒のポニーテールを掻き上げた玲がクリームソーダに口をつける。そのうなじに釘付けになる宝良。

「……真面目なんだ?」

「そう? 人から言われた事はないから」

「付き合う?」

 ストローから口を離した玲が宝良の目をじっと見据える。

「……そんな軟弱な言葉でキミは私をどうにか出来ると?」

「おっと。じゃあねぇ……ゴホンッ」

 余談であるが、少しだけ復活したミナギも密かに事の顛末を見守っている。

 親指を立てた宝良はとびきりの爽やかな笑顔で、

「この後ホテル行かない?」

 フッと笑顔を浮かべる玲。

「な〜んてにゃ☆にゅひひ、冗談冗談。びっくりした?」

「キミ、ジャンケンなら何を出す?」

「え? そんなのノーテンキのパー一択じゃん!」

「私はグーだ……鉄拳のグーだ。私の勝ちだな」

「アハハ……って! それ俺の勝ち……」

ーースパアアァァンッ!!

 下ネタを許せぬ玲の一撃が宝良のヘルメットの紙風船に問答無用で炸裂するのであった。


「宝良が敗れ去ったか……俺の手助けをもってしても破談とは……どう仕様も無いな」

 少し遠くで事の成り行きを見守っていた和哉がそう呟くと同時に、屋外のテーブルにおいて、今回のイベントで最も盛大に交渉が決裂していたのであった。




「あー、その巨体は入りきらないから外だな」

「だな。屋外にテーブルがある。あと、生徒の避難もさせておいた方がいいだろうな」

「和哉、助かるぜ、話が早い」

「そう言うレイスこそ、飲み込みがいいな」

 イベント後にカッコイイけど彼氏にはしたくないと囁かれたウェイターのレイスと和哉によって、屋外に出されたテーブル。そこに座る、というよりは根を降ろしていたのは、黒い風船ボディにキュートな一つ目と艶やかな唇、そして赤い髪のような触手を持つ謎のゆる族でセイバーの天上天下唯我独尊 丸(てんじょうてんがゆいがどくそん・まる)であった。

 出会いが悪い男女が後々親しく、切っても切れない関係になっていくというのは映画やドラマの鉄則であろうが、ここにそれに従わないカップル候補が悲劇の幕を開けてしまっていた。




「……ん?待て、今お前何て言った?」

 頭上から降り注ぐ瓦礫と化したテーブルの残骸を華麗に避けながら、パートナーの丸を見上げて叫んだのはニンジャの篠宮 悠(しのみや・ゆう)であった。

「乙女……? ……お前… 生 物 学 上 雌 だ っ た の か よ!?」

 そう叫んだ悠は、イベントに参加し、カフェへと向かう丸に同行した時の事を思い出していた。



「ワタクシの美貌を遺憾無く発揮する日が来たようだな!」

 萎んだ時は18cmになる体が今日は隣を行く悠と同じくらいの大きさになっているのは、丸の期待の現れなのだろうか?
 そんな事を考えながら悠はパートナーに話しかける。

「まさかお前が参加すると言い出すとは予想外だったぜ。まぁ精々……無駄な迷惑は掛けるなよ?」

「フフフ、さぁ、恋の駆け引きというものが如何なるものか、少年少女よよく見ておくがいい! おお、そこの男! ワタクシの目を見て話すがいいぞ」

 そう言う丸の目から無駄に星がキラッ☆となるのを、面倒くさそうな顔で止める悠。

「おい、まだイベントは始まってないって!」

「そう照れるものではない!いいだろう…ワタクシの唇を捧げようぞ!」

「だから始まってないって言ってるだろうが! 鋭利なもので突き刺すぞ?」

 鋭利なものという単語に既にハッスル状態であった丸の動きがピタリと止まる。丸は中の具が出てしまうとかで、針や刃物を極端に嫌うのだ。

「……まさかとは思うが。悠、おぬし……」

 丸が触手でチョンチョンと悠の肩をつつく。触手はちょっと濡れているので悠が露骨に嫌悪感を示す。

「何だよ?」

「ワタクシの美貌に嫉妬しているのか?」

「誰がするかぁぁーッ!? オレは平穏に過ごしたいんだ」

「ぬぅ……家で寝ていればよいであろう?」

「……あのな」

 頭を抱えた悠は、必死に冷静になるよう自己暗示をかける。

「(どうせコイツの事だ……絶対何か騒ぎ起こすに決まってる。不本意だがこのUMAをオレがしっかり見張っておかねぇと)」

「まぁよい。ハンティングはこれからなのだからな!」

「……せいぜい仕留められないようにしろよ」

 気合の入った丸を見ながら、悠はカフェへと近づいていくのであった。
そして事態も悠の予想通りの展開へと近づいていったのである。



「……って、やっぱりこうなるんだよなぁ!! おい、丸、落ち着けって!!」

 暴れる丸を説得する悠に、フェルブレイドの長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が話かける。

「ごめんなさい! 俺が積極的に声をかけてしまったから、こんな事に」

「あんたは悪くない、つうか寧ろ偉いよ!」

「だけど、俺もまさか彼女があんなジャンケンをするなんて思ってなかったから」

「丸は、グーだったんだよな? 触手を絡めて団子みたいな」

「さすがの俺でも、アレで頭叩かれると、紙風船どころか頭蓋骨まで割られそうだから避けたんだけど、正しかった?」

「間違ってない!」

 悠と淳二が暴れる丸を見て、大声でそう会話する。
 辺りは空高く打ち上げられたテーブルの落下音や悲鳴を上げて逃げ惑う生徒達で一杯なため、大声じゃないと会話できないのだ。

 そもそも淳二は「もし、向こうから声をかけられたら、その人とも仲良くなるかも」というノリでイベントに参加していた。

「(家に帰ってパートナーにばれたらやばいかもしれませんが何とかなるでしょう)」

 そう考えていた淳二の過ちは、誰も同席しようとしなかった丸の席にうっかり腰を下ろしてしまった事である。

 もし失敗したら、惚れた者の弱みとして素直に敗北しようと思って淳二であったが、今やそのジャンケンでの失敗は、命を賭けるレベルにまで達していた。丸の手にはハリセンが握られているが、そんなものの効果は今や関係ない。振り下ろされた丸の一撃は、解体現場でクレーン車が吊るした鉄球並の威力を持っていたのだ。

 飛び散る瓦礫をかわす淳二は、セミロングの髪を揺らし丸に向かって跳躍する。

「ごめんなさい、俺は貴方の気持ちには応えられないし、勝敗も貴方の勝ちで構いません……だからこんな事をしてはいけません!」

「思えば乙女でありながら心に決めた男が居ない……こんな由々しき事態のワタクシをおぬしは、おぬしは弄んだのだ!」

「それはちが……オブッ!?」

 一瞬油断した淳二は丸の触手に弾き飛ばされてしまうのであった。




 同じころ、カフェではミンストレルの水橋 エリス(みずばし・えりす)は、ローグのエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)と獣人でセイバーのアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)の二人に同時に口説かれていた。

 パートナーの二人が付き合いだしてイチャイチャしだし、自分も恋人が欲しくなり今回のイベントに参加してはみたものの、どうしてもこういう事に中々積極的になれずにあちこちをうろうろと歩き回っていたエリスに声をかけたのはアルフであった。
実年齢はともかく、外見13歳以下の子はご勘弁と、鼻息荒く気合も十分なアルフの目に映った北欧人の父と日本人の母を持つハーフのエリスは、金色の三つ編みも相まってか、十分に彼のストライクゾーンに入っていた。

「男はいつだって狼なんだぜ」

「あなた獣人じゃない?」

「……ほら、薔薇の学舎は女性との出会いに乏しいし」

「その台詞はもう聞き飽きてるよ、アルフ」

 エールヴァントがジト目でアルフを見つめる。彼の目にはアルフがまるで赤ずきんを狙う狼のように見えていた……実際のところ、アルフは変身すると狼でもあるが。

「でもこれ、ゲームとしての勝利条件が全く提示されていないんだけど、どうなるのかな? カップルが成立したら勝ち? それとも頭の風船を割られて人の多い方が負け? チーム人数の配分とか偏りそうなんだけれど……」

「うん、あなたの言うとおり突っ込みどころは満載ですよね」

 頷きあうエリスとエールヴァント。

「……おい、エールヴァント」

 席を立ったアルフがくいくいと手招きする。
エールヴァントもエリスに一礼し、席を離れる。

「何?」

「エリスは正直なところ、どうなんだ?」

 アルフがエールヴァントの肩を抱く。

「どうって?」

「好みのタイプなのか? 確か髪が長め。思慮深い感じの人って言ってたよな?」

「うん……アルフは明るい雰囲気、社交的な感じの人がタイプだよね?」

「相棒として言うが、エリスは残念ながら俺に惚れてるぜ? おまえに勝ち目はないよ」

「は?」

「いいな? つまり、そういう事だから」

「それはエリスさんが決める事だろう?」

「全く……聞くだけ野暮ってもんだ」

「じゃあ、聞いてみようぜ?」

 エールヴァントとアルフが肩を怒らせて席に戻ってくる。
カフェで注文した紅茶を一口飲むエリスに二人が同時に聞く。

「「好みはどっち?」」

 目をパチクリさせたエリスが、暫し考え込む。

「……そうですねぇ、私を守ってくれる人がいい、かな? でも……」

 次の瞬間、屋外から丸に吹き飛ばされてきた淳二がエールヴァントとアルフのすぐ近くに着弾する。

「……つまり、アレを倒せと言うことか」

「ああ、珍しく意見があったな」

「あのさ、人の話は最後まで……」

 アルフとエールヴァントの前には、失恋のショックで巨大化した丸が、必死に止めようとするパートナーの悠を触手で振り回している光景が広がっているのであった。