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Tea at holy night

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Tea at holy night
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*天国OR地獄〜恐怖の闇鍋パーティ〜*

 その日は、寮の談話室を借り切ってパーティをやることになっていた。

 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)の青い瞳に映ったのは、とても食料とは思えない『何か』だった。
 それが、これから行われるパーティの主役である『鍋の中』でぐつぐつと音を立てて煮込まれていた。

 おかしい。鏡 氷雨は思い返していた。
 自分が持ってきたのは、普通のスーパーに打っている鳥肉。人数が多いから、一キロも買っておいた。
 集まっていた食材も、たしか普通の食材、野菜、魚介もあった。
 

 緑色の輝きを放ちながらも、真っ黒い煙が滲み出ている『何か』だった。
 鍋はもはや、魔女の作る秘薬が入っているかのようにも見えるが、鉄釜ではなく土鍋なのだ。

「日本の魔女なら、土鍋で薬とか造りそうだよね」
「あれ? 主様どうしたのー?」

 満面の笑みで緑色の瞳を輝かせていたのはおまけ小冊子 『デローンの秘密』(おまけしょうさっし・でろーんのひみつ)
 うきうきとした様子で、ピンクの不利振りしたエプロンを身につけてお玉を持つ姿は、かわいらしいの一言だ。

「ううん。奏ちゃんのためにがんばったんだよね。うん、キットヨロコブヨ」

 最後が片言になったが、おまけ小冊子 『デローンの秘密』は全く気にならなかったようだった。そして、緑色がオレンジに輝き、最終的に紫色の煙を上げるようになると、また嬉しそうに緑の瞳を細める。

「それと、仕上げにまたこれも入れて……」

 これまた、よくわからない物質だった。なんと表現してよいのか、筆者にもわからない。この世の物とは思えない代物で、なんと例えたらいいのかがわからない。
 だが、その物質を入れることによって色がまた元に戻る。

「よ〜し、完成♪」
「(色が一周した意味はあるのかな……)」

 ため息交じりに、その鍋以外の準備を手伝うことにした。とりざらにレンゲ、おはしに飲み物も他の参加者と共にテーブルに並べていく。
 鍋パーティといっても、この一つだけではない。だから全員が死亡フラグというわけでもないし。

「ま、いっか」
「えええ、な、なんですか? あのおなべ……」

 ルクレーシャ・オルグレン(るくれーしゃ・おるぐれん)は、真っ青な顔をしておまけ小冊子 『デローンの秘密』の持ってきた鍋を見て呟いた。
 到底、食べ物とは思えない色合いをしているのを見て、「あれは、軌道修正のしようがないですね」とため息をついた。既におかれているお鍋も、下は水炊きだったのを好き勝手に材料を放り込むので、チゲ鍋にしてなんとか誤魔化してある。
 危うく、闇鍋になるところだったのをたべられる程度のものにとどめたのだが、これはもうどうしようもなさそうだった。肩をがっくりと落としてとぼとぼと歩いていると、玄関が勢いよく開かれた。

「わるい、遅くなった……」

 コート姿で駆け込んできた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、少しやつれたような顔つきだった。遅れてくるという連絡もあったことから、仕事上がりの足でここへきたのだろう。ぐら、と倒れそうになっているのを何とか堪えているところに、ルクレーシャ・オルグレンは声をかけた。

「正悟さん?」
「うわ、ね、む……」

 そう短く言葉を発すると、そのまま崩れるようにルクレーシャ・オルグレンに向かって倒れこんでしまった。

「大丈夫ですか?」
「う、外の騒ぎに巻き込まれて、余計疲れが」

 その言葉を聞いて、外に耳を済ませると悲鳴と甲高い笑い声が聞こえる。

「焼かれてたまるかああああああああ!!!!!」
「いいからいいからっ、大丈夫! 痛いのは最初だけだからさ〜!!」

 必死に逃げるリドワルゼ・フェンリス(りどわるぜ・ふぇんりす)を、中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が手に火球を作り出しながら微笑んで追いかけていた。
 時折投げつけられる火球をよけながら、反撃する間もなく脱兎のごとく逃げていた。狼の獣人なのに。情けなさをかみ締めながら、振り向けば可憐な笑顔を浮かべてその手には火球を握り締めている。
 その可憐な笑顔のまま放たれるのは、ひどく残虐な言葉だ。

「だって、鍋の材料が足りないでしょ♪ 狼の肉だってきっとおいしいわよ!」
「あんだけ材料あるんだからいらないでしょうに!」
「ふーん。なんか今ウザイって思ったから丸焼き決定ね☆」
「いやあああああああああ!!!!! シャオ様お願いしますおゆるしををををををっ!!!

 窓の外の追いかけっこを眺めていたのは、ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)だった。賑やかな雰囲気の中に馴染めず、幾度目になるかわからないため息を漏らした。
 そのうえ、パートナーは最近出来たらしい恋人といちゃついている。全く持って、彼にとっては目の毒だった。

「外に、でますか」

 いっそあのバカ騒ぎを間近で見ているほうが、この和やかな雰囲気よりも楽しめるかもしれない。そう思い立ちあがろうとすると、ぼふ、っと勢いよく抱きつかれた。
 流れるような黒髪が、視線の中に入ってくる。その黒髪の持ち主は、夕月 燿夜(ゆづき・かぐや)だった。

「ミルッ! どうした、元気がないぞ?」
「……耀夜様、また我を追ってこられたのですか?」
「む、また様をつけおってからに……まぁよい。今宵はおいしいお茶をもらったので、一緒に飲むのじゃ☆」

 にっこりと笑って、いつの間に用意したのかティーセットをとりだし、既にポットに入れられたお茶をティーカップに注ぐ。甘い香りがあたりに漂っていく。
 ミリオン・アインカノックはため息交じりに口を開いた。

「モノ好きですね。我とお茶を飲みたいだなんて」
「このお茶はのぅ、絆を深めることの出来るお茶なのじゃ」

 気にせずに夕月 耀夜はにっこり笑ってカップを差し出す。それを見て、さらにため息を漏らす。

「わらわは、そなたがいいのじゃ。そなたでなければ、意味がないのじゃ」

 そう呟き、睫を伏せた。それを、ミリオン・アインカノックは受け取る。

「だれも、悪いなんていっていません。つくづく、モノ好きな人だと思っただけですよ」

 その言葉に、夕月 耀夜はぱぁっと顔を明るくする。自分の分のティーカップを手にして、乾杯をするために少しだけカップをコツン、とぶつける。

「乾杯じゃ」
「……絆を深められますように、ね」

 少しだけ意味深な言葉に、夕月 耀夜は頬を赤らめながら微笑んでいた。