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Tea at holy night

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Tea at holy night
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*遠いあの人を想って*

 ケーキ屋でのアルバイトを終えて、自宅の鍵を開けて中に入った。
 今日はクリスマス。雪も降ってきて、ムードも満点の中、白波 理沙(しらなみ・りさ)は一人だけの部屋に「ただいま」と声をかけた。

 明かりをつけ、コタツにもぐりこむ。電源が入っていなかったからまだ冷たいだろうと思ったのだが、ほのかに温かみを感じる。すると、なかからティーカップパンダが顔を出す。

「あっためてくれてたんだ?」

 声をかけると、ティーカップパンダは肯定を示すためかころころと転がって見せてくれた。くす、と小さく微笑んでゆっくりとなでてやる。そこで、改めてコタツの電源を入れた。

 そして、思い立ったように台所に立ち、やかんを火にかける。その間、バイト中にもらったレースにくるまれた紅茶を鞄から取り出した。

『このお茶は、遠く離れた人の息災を願うと、そのとおりになるんですよ』

 にっこりと笑った緑の髪の機晶姫の笑顔が、目を閉じても思い出される。

 お湯が沸いて、ポットに茶葉とお湯を注ぐとコタツにカップとポットを持っていく。しばらく置いてからカップに注ぐと、甘い香りがする。
 ベランダへの引き戸を開けて、夜空を見上げる。雪がはらはらと舞い落ちてくる。ティーカップパンダが肩に飛び乗ってくる。

 甘い香りの湯気を吹き飛ばしながら、紅茶を口にする。
 思い出すのは、遠くに離れてしまった昔の恋人。

「今頃、どうしてるの?」

 雪空に問いかけると、その問いかけがそのまま帰ってくるような気がした。

「私は、元気。今日だってアルバイト先は大繁盛で、ケーキを買いに来た女の子から紅茶をもらったの」

 大きな雪が一つ、紅茶に落ちる。

「不幸なんかじゃないわ。だって、私には私を思ってくれる、たくさんの仲間がいるわ」

 もう一口、紅茶を飲み込んだ。そして、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、もう一度空を見上げる。

「私は、幸せだよっ☆」

 にっこり笑った顔は、あの人には見えないだろう。
 でも、この気持ちなら届くと思いたい。願いを、思いを届けてくれる紅茶だもの。


 白波 理沙の胸は、とても温かい気持ちでいっぱいになった。





*聖夜=フル出勤*


 境野 命(さかいの・みこと)はサンタクロースの格好をして客寄せバイトをしていた。赤い上下に白いひげは安物だからやけにちくちくする。
 子供が通れば「ほっほっほ〜」と笑顔を振りまくが、カップルが通るたびに帽子を目深に被り鋭く睨みつけていた。

「おのれ。本来ならこの曜日は休みにも拘らず、信者でもないにも拘らず、平然と人に仕事を押し付けてのほほんと過ごす2人組み………鬼畜の所業じゃねえかああああ!!!!」

 と、休憩中に帽子と髭をはずしてから、裏路地で叫び声をあげていた。
 差し入れを持ってきた天ヶ淵 雨藻(あまがふち・あまも)は、そんなパートナーを哀れそうに見つめながらため息をついた。

「元気そうだな。差し入れいらなそうだ」
「天ヶ淵か……なんだよ、くるんなら残りのケーキ40個くらい買ってってくれ」
「や、そんなに食わないし……ほら、いい物をもらってきたんだ。まぁ、飲めよ」

 いいもの。といわれて、天ヶ淵 雨藻のことだから酒かと思えば、魔法瓶を取り出した。
 そしてカップに注がれるのは、甘い香りのする紅茶だった。

「あとは、弁当。こっちは買って来た奴だから期待すんなよ?」
「おお、ありがとう……てか、何だこの紅茶」

 境野 命は首をかしげながら紅茶を一口すする。気持ちまで優しくなるような柔らかな味わい。ほぉ、と息を吐いた。

「これ、聖なる夜の紅茶って言うんだ」
「へぇ。なんだよ、クリスマス製品かよ」
「違う違う。これは、れっきとしたいわれのあるもんなんだって」

 苦笑しながら、この紅茶にまつわる物語を、ゆっくりと語りだした。
 ただ、添えられていた手紙についていた物語ではなく、天ヶ淵 雨藻が知る『騎士が兄であり、姫が妹』のバージョンを語って聞かせた。

「え、偉い兄ちゃんだなぁ」
「おう。そうだろう」
「そうか……俺が配っているケーキも、そうして食べられてるんだよな……うん」
「(お、ヤル気でてきたな)それ、気付け代わりに」

 そういって、ブランデーの小瓶から、数滴カップにたらす。甘い香りに深みが増して、口にすれば体の心から温まってきた。
 弁当をかっくらい、サンタ帽と髭を付け直すと颯爽と持ち場へと戻っていった。

「残り3千個うったらあああああ!!!」
「ええええ??? それは売れないだろ!?」
「うっせえ! 文句があるならお前も手伝え! トナカイのコスプレも余ってんだ!」

 そういうなり、天ヶ淵 雨藻の首根っこをつかみ、店先の販売に戻った。トナカイは終始哀しげな表情だったが、サンタ役の境野 命はにこやかにアルバイトを続けていた。
  






*吊り橋効果?*


 荒野のテントの中、贈られてきたプレゼントに囲まれて伏見 明子(ふしみ・めいこ)は紅茶を煎れていた。
 鍋で温めたシチューを器に盛りながら、フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)はため息をついた。

「ええと、何でパーティに行かなかったんですか?」
「あのね、パーティなのに着るものもないだけじゃなく、プレゼントも用意できないからよ」

 さらに盛大なため息をついて、伏見 明子は紅茶のカップをパートナーである機晶姫に押し付けるようにしておいた。

 だが、いけないという連絡をしてからすぐに、ルーノ・アレエとニーフェ・アレエからプレゼントが届けられたのだ。
 ケーキに料理、もし余っても保存が利くパンであったり、綺麗な硝子細工のツリーであったり。

「まったく、あの子達は……」

 ありがとうを直接いえない苦しさが募っていく。
 本当は……

 アルディーン・アルザスへの言葉を考えていたのだ。
 プレゼントがなくても、ドレスがなくても、彼らならきっと温かく迎えてくれただろう。
 それでも行くことができないでいたのは、自分の不甲斐無さを目の当たりにすることを恐れたからかもしれない。

 そう思いながら、送られてきた貴重な紅茶の香りを楽しむ。
 甘く優しい香りは、ルーノ・アレエに似ていた。機晶姫で、兵器であるにも拘らず、誰よりも人を思いやる心優しい機晶姫。

 アルディーン・アルザス……いや、オーディオは一体何をそんなに憎悪しているのだろうか。
 一見すると、ただの子供の駄々にも思えたが、彼女の根底はやはりアルディーンのものに思えた。

「なら、今後ルーノに関わるときには答えがなくちゃいけない。ルーノは機晶姫たちのあり方を示してくれた。でも、それであの女は納得するのかしら?」
「過去を、塗りつぶしてしまう結果ですからね……」

 フラムベルク・伏見の言葉に、紅茶の優しい味が、急に渋く感じられる。深々とため息をつき、ティーカップで指先を温める。

「どうしたらいいのかしらね」
「ルーノ・アレエは、確かに恵まれています。パートナーもない存在でありながら、あんなにも助けになってくれる仲間がいた。ジャンクやから再生してもらったり、バイクとして駆け回ったりしている少数の例外もありますが……あれ?」
「珍しく頭を使いすぎたかしら、まぁ、落ち着きなさい」

 混乱している様子のパートナーに苦笑しながら、紅茶をすする。

「いえ、あの。はい。わかりました。ルーノは兵器です。ですが、兵器として自覚している機晶姫は少ないと思います。あえてそう埋め込まれたと思っても、仕方のない事な気がします。特に、契約者の間では……」
「そうよね。どちらかといえば、人間に近いほうが多いわ。それに、機晶姫はあくまでも種族として扱っているわけだし」
「機晶ロボと違い、自我をもっているのが特徴的ではあります。ただ、どうなのでしょう、彼女は……アルディーンの経歴を見る限り、彼女は人でありながらも『人であることを望まれていなかった』のかもしれません」
「……そうか」
「そしてあのオーディオですが……アルディーンの記憶が本当に完全であったとしても、オーディオとしての意識があるはずです」

 フラムベルク・伏見ははっきりとそういいきった。目の奥には、何か核心めいたものがあった。

「そう、なの?」
「いや、よくわかりません」

 がく、と肩を落とすと、紅茶を危うく零しそうになる。ため息をもう一つついて、シチューに手を出す。そして、あ、と伏見 明子自身が声を上げた。

「なんでこんな大事な夜に、敵のことばっかり考えてるのよ私ったら!!」
「ま、マスター?」
「つり橋なの、吊り橋効果なの!? ときめいてるの!?」
「マスター、落ち着いてください」

 あわあわとフラムベルク・伏見に身体をさすられて、ようやく自分を取り戻す。
 そして深々とため息をつくと、そうね。と言い放つ。

「でも、おかげでなんか頭がすっきりしたわ。年明けには、逢えるかしら」
「きっと」

 本当に、まるで思い人を思うかのように、2人は荒野の中で聖なる夜を過ごしていた。






*家族のためならえんやこら*


 パーティ会場に、続々とプレゼントが届けられていく中、朝一番に荷物を届けに来たのはパラミティール・ネクサーだった。

「友を思えど祝うことを仲間に任せ、自身の生活の安定を確保する。衣食が足らねば、礼節もままならない……人、それを金欠と言う……」
「エヴァルトさん!? 大丈夫ですか!?」

 目の下にクマをこさえていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)もといパラミティール・ネクサーに、驚きを隠せなかったニーフェ・アレエは悲鳴に近い声を上げる。
 少しでも、と珈琲とオードブルを取ってくると、皿後と食べる勢いでかき込む。

「助かった。ルーノさんは?」
「今姉さん席をはずしてますから、何か伝えておきましょうか?」
「おめでとう、と伝えてくれ。本当なら、改めてのお誕生日会に行きたかった、と」

 がく、と落ち込みながら、再度バイクに乗り飛び去っていった。
 ありとあらゆるスキルを駆使し、プレゼント配りやらケーキ宅配やらを行っていた。
 空を駆け巡り、大陸中を行き来し、バイト代を弾むと言われれば地球にも下りた。
 幸い、空を飛んでいる分には速度違反を取られないので何とか夕方には休憩する時間をとれそうだった。

 おうちでお掃除をしていたミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、メールを受け取るなりそそくさとお出かけの準備をしていた。
 パーティ会場から届いているたくさんのプレゼントや、お料理とケーキを冷蔵庫にしまったのを確認してから、家の鍵を閉める。

 ベンチでぐったりとしているエヴァルト・マルトリッツに、ミュリエル・クロンティスは苦笑しながら歩み寄った。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、な、ん、と、か……」
「実はさっき、ニーフェさんからプレゼントが来たの」
「え、なに?」

 がば、と身を起こすと、取り出したのは小さめの水筒。二つのカップに注ぐと、一つをエヴァルト・マルトリッツに差し出した。

「ミルクティーか」
「少しでも疲れが取れたら、と思って」

 にっこりと笑うと、あ、と小さな悲鳴を上げてカップを持ち上げて乾杯をする。
 エヴァルト・マルトリッツが不思議そうに首をかしげると、「こうすると、いいんだって」と笑いかける。

「じゃ、乾杯、か?」
「それでね、大事な人の息災を願うと、そのとおりになるんだって」

 ああ、とエヴァルト・マルトリッツはため息をついた。招待状に、そんな言葉が添えられてたのを思い出した。

「じゃ、ミュリエルが来年も元気でありますように、だな」
「お兄ちゃんが、無茶をしないように。危険な目にあいませんように、って祈ります」

 お互いに暖かなミルクティーを飲むと、ちょうど雪が降り始めた。
 少しはクリスマスらしい時間を過ごせたような気がするな。

 エヴァルト・マルトリッツは、そんなことを思っていた。 



 



担当マスターより

▼担当マスター

芹生綾

▼マスターコメント

 世界中の人たちに謝罪をしたい気分です。
 企画をしたにも拘らず、当日に上げられない力のなさを痛感しております。まことに申し訳ありませんでした。
 人数といい、日程といい、無謀すぎる挑戦でした。
 今度からは自分の力を過信せず精進したいと思います。

 楽しみにされていた皆様、本当に申し訳ありませんでした。
 個別コメントは、相変わらず皆様全員には出来ませんが……本当にありがとうございました。

 次回ですが、年明け1月半ばくらいにはまたやらせていただきたいと思います。
 またどうぞよろしくお願いいたします。