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Tea at holy night

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Tea at holy night
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*山葉涼司とのクリスマス*



 夏合宿で知り合った機晶姫の姉妹から紅茶をもらうなり、火村 加夜(ひむら・かや)はすぐさま思い人へメールをした。
 用意したプレゼントを渡すだけでは芸がない、というか、改めてその気持ちを確かめたかった。
 その機会を与えられて、気合を入れて支度を整えていた。



 火村 加夜が山葉 涼司(やまは・りょうじ)を尋ねたのは、昼過ぎの丁度お茶の時間だった。
 クリスマスとはいえいまだにやること山積みな校長職は、山葉 涼司をかなり疲弊させていた。
 その疲れを少しでも癒せれば、と……機晶姫の姉妹から受け取った聖なる夜の紅茶と、ミニクリスマスケーキを用意して現れた。
 既に了解を得ているから、校長室に軽くノックをして顔をのぞかせる。

「涼司くん」
「おお、加夜か。どうしたんだ?」

 書類の山に埋もれながら、来訪者の姿を確認するなり驚いたように目を丸くする山葉 涼司の顔には疲れが見えた。
 火村 加夜は中に入るなり校長の机に駆け寄り、不安そうな顔をする。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いです」
「ああ、これくらい大したことじゃない。それよりも、今日はどうかしたのか?」
「どうかしたのかって……もう。昨日メールしたじゃないですか。今日はクリスマスイヴですよ?」

 可愛らしく小首をかしげる姿に、山葉 涼司はどきりとした。よく見れば、火村 加夜は暖かそうなコートに、かわいらしいワンピースをまとっておめかしをしているようだった。
 気恥ずかしそうに、山葉 涼司は頭をかいた。

「あ、ああ……そっか。あんまり忙しくて、忘れてたぜ」
「これ……プレゼント」

 そういって差し出したのは、丁寧にリボンで飾られた包み。開いてみると、青いセーターだった。アラン模様の入った、かなり凝った仕上がりは、市販品と比べても見劣りしないだろう。
 以前、好きな色は何色かと問われて、とっさに青と口にした。それは、火村 加夜の髪と、瞳の色でもあった。
 鮮やかな、澄んだその青が目に焼きついて離れなかったのだ。

 作った本人は気がついていない様子だったが、とっさに口にしてしまったとはいえ、そのときのことを思い出して山葉 涼司はわずかに頬を赤らめた。
 だが……と、唇をかむと、一呼吸を置いてそのセーターを机に置く。そして、目の前の理解者にまっすぐ視線を向けた。
 
「……ありがとうな」
「涼司、くん?」

 喜びというよりも、少し悔しげな表情をしているのに気がついて、火村 加夜は不安げに、青い瞳で見つめる。すると山葉 涼司は少し哀しげに微笑んだ。

「環菜は無事に取り戻せた。でも、まだ何もかもが元通りってわけじゃない。それまで俺は……俺は、その想いに答えられない」

 その言葉は、とてもまっすぐに火村 加夜を貫いた。だが、それでも哀しさが沸いてくることはなかった。山葉 涼司の手を、そっととる。

「私は、友達からで良いって、そう言ったよ。カノンちゃんのこともあるし、まだ色々忙しいのもわかる。でも、まだ理解したいから。友達からでも、涼司くんのことをもっともっと理解したいの」

 その言葉の返事の変わりに、火村 加夜の手を強く握り返した。それが嬉しくて、火村 加夜はうつむいてしまった。

「だから、このプレゼントは私の一方的な気持ちでいいの。返してもらおうなんてそんなこと思ってないよ。ただ……」
「そのお茶、あの姉妹が配ってた奴だよな」

 言葉を切るように、山葉 涼司が呟いた。はっと顔を上げると、優しそうに微笑んでいた。
 今度はさすがに涙を流してしまいそうだった。

 ほんの少しだけ、前に進みたかった。停滞してしまったこの関係が、前に進むにはもう少し時間が必要だと自分でも理解していた。
 でも、今日は、今日だけは……女の子らしいわがままを言いたかった。
 火村 加夜は顔を上げて、その手をぎゅっと握り締めて自分の胸に押し当てる。だが火村 加夜が口を開くと、山葉 涼司がもう片方の手でその口を塞いだ。

「一緒に飲もう。絆をより深められるお茶、なんだろう?」
「……うん」

 応接用のソファに腰掛けて、ケーキに飾られた自分そっくりのマジパンと睨めっこし、火村 加夜の煎れる紅茶を、山葉 涼司はゆっくりと楽しんだ。
 たまった仕事はひとまず置いて、彼女との時を楽しむためだけに今を費やした。
 いつか想いがつながることを願って、互いの絆が来年はもっと深まることを祈って。
 二人は同じ思いで、紅茶を飲んでいた。










「五月葉 終夏。貴女もどうかこのお茶を受け取ってください」

 にこやかに金の機晶姫、ルーノ・アレエはレースにくるまれた茶葉を手渡してくれた。
 黒い指が、五月葉 終夏(さつきば・おりが)の繊細な指を包む。その優しい想いが、ほんの少し背中を押してくれた。


 夜。
 間もなくクリスマスイヴが終り、クリスマス当日になろうという時間。
 薄茶の髪を一つにまとめている五月葉 終夏は、今日は少しだけ女の子らしい格好をしていた。
 とはいえ、スカートは気が引けてしまったのか、寒くないように黒いタイツと、キュロット。それに、白いコート。

 ルーノ・アレエたちが主催していたパーティはもうそろそろ終わりをむかえようとしていた。
 パーティが行われている会場の屋上で、五月葉 終夏は待っていた。
 来るかどうかもわからない相手だ。携帯の送信履歴を、改めて見やる。

 『23:50 パーティ会場の屋上まで来られたし』

 送信相手は、山葉 涼司。お昼ごろ、火村 加夜とともにささやかなティータイムを過ごしていたらしいというのは、既に聞き及んでいた。

 それでも構わなかったのだ。
 彼女は、誰かと競い合い、蹴落としてまでとは考えてはいなかった。
 ただほんの少し、ほんの少し今まで持っていなかった勇気をもらったから。
 大事な友人から受け取った勇気を、思いを伝えることが出来たらそれだけでいいと思っていた。

 その機会が、与えられたならば、だけれど。

「やっぱり、無理かなぁ」

 時計は23:55を指していた。間もなく、日付が変わる。やはり、自分はただの友人の一人だから、急にこんなメールは迷惑だったに違いない。
 日付が変わったら、お詫びのメールくらい入れてもいいかな。それとも、明日直接逢ってから謝った方がいいかな。

 ひざを抱えて、白いため息を漏らした。

「悪い! 遅くなった!!」

 寒空に響いた声に、五月葉 終夏はどきりと心臓が跳ね上がったのを感じた。口から飛び出てしまうのではないかという驚きもあったが、もしかしたら幻聴かもしれないと思い、恐る恐る振り向いた。
 そこにいたのは、山葉 涼司だった。

「何とか今日中の書類を片付けたところだ。ぎりぎり、間に合ったか?」
「……遅いよ。全く、風邪を引いちゃうところじゃないか」

 わずかな皮肉を口にしても、その口元は嬉しそうに持ち上げられていた。
 水筒に用意してあった紅茶を、山葉 涼司はゆっくりと口にした。

「これも、聖なる夜の紅茶なのか」
「今日何度目?」
「さてな。もう結構な量飲んだ気がする」
「楽しそうで何よりだよ。せっかくのクリスマスだもの。いくら校長だからってのんびりする時間くらい欲しいよね」 

 くすくすと笑いあっているうちに、時計の針が12時を指していた。
 五月葉 終夏は鐘がなる前に、プレゼントのヤドリギを取り出した。申し訳程度にリボンを結んである。
 それを見たとたん、山葉 涼司は目を丸くして顔を赤らめた。

「や、や、ヤドリギ!?」
「ヤドリギはね、魔よけや、幸運を呼ぶって言い伝えがあるんだよ」
「……なんだ、知らないのか?」
「え、何を?」

 きょとん、とした様子で首をかしげた五月葉 終夏に、12時を告げる鐘が鳴り響く中、山葉 涼司は耳打ちした。

『ヤドリギの下で待つ女の子には、男の子はキスをしてもいい風習がある』

 鐘がなり終わる頃、五月葉 終夏は顔を真っ赤にしていた。
 そんな風習知らなかった、そういおうとして、口をパクパクとさせている。顔の色もあいまって、まるで金魚のようだった。

「ち、違うんだよ!? 今年一年色々あったけど、君が来年は平穏無事で過ごせますようにって!!」
「そ、そそうだよな。ありがとう、終夏」

 苦笑しながら、ヤドリギを受け取ると山葉 涼司はコップの中のお茶をグいっと飲み干した。自分も一気に紅茶を飲み干す。
 今日来てくれてありがとう。そして願わくば、君が幸せでありますように。君の行く道が、光に照らされますように。
 そんなたくさんの思いを込めて、五月葉 終夏は再度口を開く。

「君に、光があらんことを」
「お前が、来年も息災であるように」

 互いの言葉を交わしあい、五月葉 終夏はにっこりと微笑んだ。
  







*御神楽 環菜とのクリスマス*



 無事にナラカから帰還した御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、いまだ療養している状態だった。
 まだ全てが解決したわけではないのだが、今はひとまず身体を休めるのが第一だといわれて、部屋に軟禁されている状態だった。

 そこで唯一自由に出入りを許されているのは、御神楽 環菜からの指名もあり影野 陽太(かげの・ようた)だけとなっていた。

「環菜、調子はどうですか?」
「悪くはないわ」

 そう呟いて、窓の外を見上げる。分厚い雲が見えて、月すら出ていない。そんな様子に呆れていまい一つため息をついた。

「せっかくのクリスマスだって言うのに、こんなところで……しかも病人服で過ごすなんてね」
「仕方ありませんよ。大事な身体なんですから」

 苦笑しながら、影野 陽太はこまごまとした世話を焼いていた。飲み物やお菓子、食事の世話は勿論していたが、清拭やおトイレの付き添いはパートナーたちであるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が引き受けていた。
 だが、その二人も今はルーノ・アレエ主催のパーティに顔を出していることだろう。
 そんな折、御神楽 環菜の携帯が鳴る。着信音を聞いて、影野 陽太はどきりとして時計を見やるが、まだ予定よりも10分早かった。

「こんな夜中に……あら?」

 差出人は、エリシア・ボック。どうやら、タイムカプセルメールのようだった。

『TO:御神楽環菜
 FROM:エリシア・ボック

 10分後に影野陽太からのメールが届く予定ですわ。恐らく恥ずかしい内容だと思います。
 もしも傍らに陽太がいるなら、存分にツッコミを入れてやってくださいまし』


 くす、と御神楽 環菜は笑みを零した。脇でお茶の支度をしている影野 陽太は、いつも以上にそわそわして落ち着かない。
 一まずは、とおとなしく10分待つことにした。どんな恥ずかしいメールを送ってくるのか、とても楽しみに。

 そうしていると、影野 陽太は愛想のないティーカップに、紅茶を注ぐ。甘い香りのする、かぎなれない香り。
 だが、その特徴ある香りは耳にしたことのあるものだった。

「聖なる夜の紅茶? 洒落たものを用意したのね」
「あ、いえ、これは……ルーノさんからもらったんです。是非、2人一緒に飲んで欲しいって」

 恥ずかしそうにうつむいた影野 陽太の頬は、赤く染まっていた。

「あの物語みたいに、ずっと離れ離れじゃなくて、よかったわね」
「え?!」
「ニーフェが、私にもくれたのよ」

 そういって、ベッド脇のチェストの引き出しからレースに包まれたものを二つ取り出した。
 一緒に入っていた御菓子から、どうやらノーン・クリスタリアとニーフェ・アレエがお見舞いがてら置いていったらしいことがわかった。

「はい。あの、俺……離れてる間のこととか、たくさん、いや、今までのことも、全部話したいんです」
「もう十分に話したじゃないの、今日だって……あら、ちょっとまってね」

 熱っぽいまなざしを向ける影野 陽太を制止して、御神楽 環菜は携帯を開いた。差出人は、目の前にいる恋人。

『環菜へ

 メリークリスマス
 貴女が今このメールを読むことが出来る幸いを切望します。

 あの夏の終わりの夜に告げたとおり、俺は貴女のことを世界で一番、愛しています。
 貴女は、俺の最愛の女性で、あとファーストキスの相手でもあります。
 くちづけを交わした『はじめてのひと』(そして唯一の相手)が貴女だということを、本当に嬉しく想います。

 ずっと環菜のことだけを見つめて、貴女の為だけに強く有能になろうと走り続けました。
 結局貴女を守れず、支えられもしませんでした。
 貴女が孤独に、不可避の死と向きあい気丈に生きた時、何も出来なかった自分自身の不甲斐なさに絶望を感じます。

 だから、今度こそ貴女の隣で貴女を支えたいと願います。

 富も地位も名誉もいりません。
 ただ貴女の隣にずっと立って、貴女の笑顔を間近で見ることができる幸せだけを望みます。
 貴女の幸福が、俺の幸福です。
 でもワガママな俺は貴女ともっとふれあいたい、心を重ねあいたい、想いを紡ぎあいたいとも願ってしまいます。

 俺は環菜のことを世界で一番、愛しています。
 貴女の手をとって、ずっと隣で歩き続けたいと想います。

 いつか気が向いたら返事をください』


 御神楽 環菜は携帯を閉じると、低い声色で囁いた。

「……陽太?」
「は、はいい!?」

 心臓が壊れてしまいそうな情けない悲鳴に似た声を上げて、影野 陽太は振り向いた。

「あのね。あなた……一体いつになったら自覚するわけ?」

 ため息混じりに、そのおでこを支えながら影野 陽太を睨みつける。

「え? え? あ、あの……環菜?」
「気が向いたらですって? 気が向いたらなんて寝ぼけたこといってないで、自分で問いただすくらいのことしなさい」
「で、でも……あの」
「あなたはね、この私が好きになった男なのよ? いつまでもそんなだらしのないこといってるんじゃないの」

 気丈な口ぶりでそういいつつも、耳まで真っ赤になった御神楽 環菜の言葉に、影野 陽太も釣られて赤くなってしまった。

「ほら! 女にここまで言わせたらなにをするの!?」
「は、はい……すみません」
「いちいち謝らないの」

 ギシ、とベッドに体重を預けると、軽く唇を重ねた。
 満足げに微笑む御神楽 環菜は、今度は自分から影野 陽太の首に腕を回した。
 そして、新たなメールの着信音がなるなり、いつもの癖で御神楽 環菜に勢いよく突き飛ばされる。


『TO:御神楽環菜
 FROM:ノーン・クリスタリア

 環菜おねーちゃんへ
 おにーちゃんのこと、よろしくお願いします』



 そのメールには、すかさず返事を返した。そして、思い出したようにエリシア・ボックにも返事を返す。たくさんの感謝の気持ちを込めて。
 突き飛ばされて目を回している影野 陽太を引っ張り起こすと、用意された紅茶に口をつけた。

「来年も、いい年になるといいわね」
「……ええ、きっと素敵な年になります」

 窓から見える外は、雪がちらつき始めていた。




 パーティ会場は、深夜に差し掛かってもまだ終わろうとはしていなかった。
 そんな中、会場におかれているケーキやお菓子類を食べつくさんとする勢いのノーン・クリスタリアに、メールが届けられた。
 差出人は、御神楽 環菜。

「あれ? なんで環菜おねーちゃんからメール来てるんだろう?」
「なんて来てるんですか?」

 ニーフェ・アレエの問いかけに、ノーン・クリスタリアが嬉しそうに答えた。

「言われなくっても、大事にしてあげるから安心しなさいだって。おにーちゃんのことだといいなぁ」

 すっかりメールの送信予約のことを忘れていたノーン・クリスタリアは、まだまだ始まったばかりのパーティを堪能しようとしていた。

 抱えたお菓子は、友達からのプレゼント。速達で届いたそれを、大事そうに抱えながらもおいしそうにほおばる。
 首には、先ほど交換会でゲットした手編みのマフラーが巻かれている。存分に楽しんでいる様子の精霊に、赤毛の魔女は声をかけた。

「楽しいクリスマスになりましたわね」
「うん! おねーちゃんも、おにーちゃんも、大好きな人たちが幸せなのは、本当に本当によいね!」

 満面の笑みでそういったノーン・クリスタリアに、エリシア・ボックは微笑みかけた。彼女の手には、交換会で手に入れた古王国時代に流行ったアンティークのブレスレットがはめられていた。
 願わくば、もう少しこの幸せが続いてくれますように、と赤毛の魔女は祈った。












*ルミーナ・レバレッジを想うクリスマス*


 ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)救出はかなわず、本当だったら二人で過ごすはずだった高級レストラン(かなり無理をして予約したのである意味キャンセルできてラッキーだったかもしれない)の前を、風祭 隼人(かざまつり・はやと)は通り過ぎていた。
 まだ全てが解決したわけではない。だから、喜びに満ち溢れることのないこの気持ちを抱いて、彼は男友達の集まっている友人宅へとお邪魔した。

 部屋にいるのは、彼女がいなかったり、彼女と別れたばかりだったり、童○だったり、かきいれだというのにバイトも首になってロクな食事が食べられなくてひもじい思いをしてたりする男達ばかりだった。
 彼らは風祭 隼人の顔を見るなり、舌打ちをした。それでも、風祭 隼人はにこやかに声をかけた。

「よぉ」
「なんだよ、お前が来るところじゃねえぞ?」

 そっけなく言い放たれ、風祭 隼人は買い込んだシャ○メリーとフライドチキンを差し出した。

「ほら、今日くらいは楽しもうぜ?」
「お前……こんなにたくさん、どうしたんだ?」
「予定してたクリスマスディナーがなくなったからな、まぁ、おすそ分けだ」
「お前……!!」

 男達の目からこぼれる汗に感動しながら、ボーイズトーク(??)に華が咲く。
 チキンを食い散らかしても、叱責する女はここにはいない。ホントは酒を飲みたいところだがさすがにそれはまずいだろうと遠慮しながらも、ジュースで酔っ払い始める。下世話な話題も、だれもしかりつけたりはしない。
 大半が、女の愚痴であったり仕事の愚痴であったり、世界情勢だったり税金だなんだかんだ、果ては近所のゲームショップが新作を値下げしないというどうでもいい話題までしていた。
 ふと、部屋の中に一つのフィギュアが飾られているのを見つけた。

 それは、風祭 隼人にとって愛しくて仕方のない女性……ルミーナ・レバレッジをかたどったものだった。
 御神楽 環菜の計らいか、容姿端麗で生徒達からの信頼も篤い彼女を模したグッズは大量に出回っていた。とくにそこに置かれているフィギュアはクリスマス仕様のデザインで昨年発売されたプレミアムものだった。

「ああ、凄いだろ?」
「あ、ああ」

 見とれていたのがばれたらしく、持ち主が自慢げにそのフィギュアを手にとって頬ずりした。

「この素晴らしいフォルム、肉体美。黄金率といっても過言ではない。素晴らしすぎるよ……はぁはぁ、このサンタさんドレスのスリットの脇からのぞく黒い紐パンツがまたたまらん男の欲望を刺激する……!!!!」
「この中の下着、そうレースですっけすけって噂だぜ!? ブラジャーも勿論……むふふふ」
「おい、やめろよ……!」
「おいおいおい、男たるもの、こういう妄想はするもんだろう?」
「しかもこれさぁ、ルミーナさんのサイン色紙つきなんだぜ?」

 なんだてえ!!!!!? 思わずハモってしまった驚愕の叫びに、隣から苦情がきそうだったが今の彼らには関係のないことだった。
 眼鏡をきらりと光らせたフィギュアの持ち主は、自慢げに言い放つ。

「ルミーナさんは、こんな変態の俺を認めてくれたんだ……まさしく天使!!!」
「まて、ルミーナさんは俺のものだ!」
「いや、彼女に相応しいのはこの俺だ。あんなに自愛に満ちた女性なのに内面は娼婦のような」
「それはフィギュアの話だろうが」

 いつの間にか、男達はルミーナ・レバレッジは俺のものだという論議を開始していた。風祭 隼人も途中までは参加していたが、馬鹿馬鹿しくなってその輪から外れると、すぐさま壁を強く叩いた。そして、鋭くその場にいた男達を睨みつけた。

「ルミーナさんに相応しい男は俺だ。それを今証明してやる!」
「良いだろう、お前の思いが本物かどうか、俺たちが確かめてやるぜ!!」

 なにやらよくわからないうちに、互いに武器を構え始めた。風祭 隼人は、一呼吸置くため目を閉じた。
 瞼の裏に映るのは、優しい微笑。柔らかな金の髪。

『隼人さん』

 ふくよかな胸元、すらりと伸びた足。足の……フ、太ももから先とか……そんなはしたない妄想はここで終わらせるんだ!

「ルミーナさんに相応しい男は、俺だけだ!!」


 風祭 隼人のクリスマスは、まだ始まったばかり……だと思う。