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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第20章 思い思われ・・・振り向くのはいつの日か

「キレイ・・・。森の中にこんな美しい町があるなんて・・・」
 セピアやモノトーンの町並みが粉雪で真っ白に染められ、六連 すばる(むづら・すばる)は茶色の瞳に映るその光景を、うっとりとした表情で見つめる。
「大きな教会が街灯の灯りで輝いているように見えますね。まるでイルミネーションみたいに・・・」
 劇場広場を歩いていくとホワイトとブラックを基調にした石造りの、バロック様式の教会を見つける。
「中の様子はどんな感じなんでしょうか・・・」
「スバル、どこへ行くんですか。行くところはそっちじゃなくてこっちですよ」
「マスター・・・あ、すみません。先生・・・でしたね、人前では」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に呼び止められ彼の方へ振り返る。
「グリュック川畔をゆっくり散策いたしましょう。ここは学外ですし、マスターと呼んでも大丈夫でしょう」
「いいんですか?それではマスターと呼ばせていただきます」
「それとも“アルテッツァ”と、名前で呼んでみますか?」
「・・・そ、そんな!名前でなんて、呼べません・・・もったいないです」
 まだ彼を名前で呼ぶなんて自分にはもったいないと、すばるは顔を赤らめて首をふるふると左右に振る。
「イブの夜に連れてきてもらえただけでも嬉しいですから」
「そうですか。グリュック川畔から町の様子を眺めてみませんか?」
「ゴンドラに乗るんですか?」
「えぇ、2人の乗りのやつで」
「は、はい。ご一緒させていただきます」
 両手の指を合わせて嬉しそうに彼の後をついていく。
「あーっもう、なんでこんな綺麗な町に来てまでガキのお守りなのぉ?」
 観光したいのにここまで来てそれが出来ないヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は、不服そうにムッとした表情をする。
「うまいぎゃね〜、さすが祭りでは出るもん違うぎゃ。ポップコーンも美味いと感じるぎゃ〜。レク〜。次はここのチュロスぎゃ〜」
「ちょっとよたか、アンタぼろぼろこぼしすぎ!」
「何をそんなに怒ってるぎゃ?」
 今にも噛みつきそうな勢いで怒鳴る彼女に対して、親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)がきょとんとした顔をする。
「レクの周りに鳩ぽっぽがいるぎゃよ」
「そうよ、さっきから鳩につつかれまくっているのっ。でもそれは、ア・ン・タがこぼしたポップコーンのせいよぉ!」
「にしても、アルはどこ行ったぎゃ?スバの姿も見えないぎゃが?」
「(こんのぉ〜、聞き流したわねっ)」
 右から左へ軽くスルーした彼の態度に、レクイエムは殴りかかりそうになる拳を片手で押さえて堪える。
「で、2人はどこにいるぎゃ」
「あぁ、ゾディたちね・・・。あの子は“メンテナンス”って言っていたわ。きっと、“彼女”の精神を安定させるための処置でもしてるんじゃないの?」
「“メンテナンス”・・・でも、本当なんぎゃね〜?」
「さぁ、そうなんじゃないの?メンテナンスじゃないなら何だっていうのよ」
 疑わしそうに首を傾げる夜鷹にレクイエムが聞く。
「んーんーんー、レク、スバの顔、誰かに似てないぎゃ?」
「誰かいたかしらそんな人。ろくに観光も出来ないし、苛々して思い浮かばないわよっ」
 損な役割を押しつけられた気分のせいで、頭が働かないから分からないと怒った口調で言う。
「アルが執着している、“あのオンナ”ぎゃよ。じゃなきゃ、あの学院の被検体と契約する時、黒髪にこだわり抜いた理由に説明が付かないぎゃ」
「・・・ふーん、なるほど。“自分へのメンテナンス”でもあるワケね。壊れかかっている“人形”同士のクリスマス・・・て所かしら?」
 夜鷹を軽く睨み、手に入らないもののせいで暴走しないように抑えるためかと、レクイエムは可笑しそうに失笑する。
 その頃、アルテッツァたちはゴンドラに乗り、ゆっくりと川くだりを楽しんでいる。
「どうですか、スバル。ここから見る夜景もいいでしょう?」
「はい、とても素敵です。こんな所に連れてきていただいて、ありがとうございます」
「用意しておきました。・・・少し、冷めているかもしれませんが」
 寒そうにコートの袖の中へ手をひっこめるすばるを見て、暖かい缶ココアを差し出す。
「あ、お気遣いくださり・・・感謝します」
「ボクの方こそスバルにサブパイロットの役割をしてもらって、いつもお世話になってしますから。とても感謝していますよ」
「このところイコンでの出撃が多かったですからね。私のようなものでも役に立てることが証明出来て嬉しいです。これからも、パイロット技術を磨きます」
「えぇこれからもお願いしますね、スバル」
 お役に立てるだけで嬉しいと謙虚に言う彼女にニッコリと微笑みかける。
 そんな2人をレクイエムと夜鷹が、シュヴール橋の傍から見下ろす。
「あら、偶然。あの子たちが下を通るわ。こっちは苦労しているのに、2人きりで川くだりとはね・・・」
「お、言ってる側からアルたちが来たぎゃ!おーい・・・もぎゅ」
 2人に呼びかけようとする夜鷹の口をレクイエムが押させる。
「今、アンタが声かけたら台無しよ」
「ふぁふはっはふぁらふぇふぉふぉへへふぉへふぁっ。ふぃひはへひはひふぁふぉっ!(訳:分かったから手をどけて欲しいぎゃっ。息が出来ないぎゃよっ!)」
「あら、ごめんね」
「ふはぁ〜。まぁそう怒らないぎゃ、今日はクリスマスイブぎゃよ。2人を楽しませてやるのを楽しいと思えばいいぎゃ!」
「よたかみたいに都合よく考えられないわよ、はぁ〜まったくもうっ。楽しませる・・・ね。“氷術”を使ってちょっとした演出をしてげようかしら」
 そう言うとレクイエムは街灯の陰に隠れ、氷術でダイヤモンドダストのように川へ降らせてやる。
「一応、アタシからの感謝の気持ちよ」
 また呼びかけようとする夜鷹の口を塞いで遠くから2人を見守る。
「ダイアモンドダストですか?キレイ・・・」
 町の灯りを受けて星のようにキラキラと輝くそれを見上げ、すばるは目を閉じて心の中で誓の言葉を呟く。
「(マスターと、いつまでも共にいられますように・・・。“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”)」
「スバル、こちらを向いてください」
 声に出さず何かを唱えるように下を向く彼女に声をかける。
「・・・はい!マスター・・・」
 橋を通り抜ける寸前、アルテッツァに口づけられる。
「(次にあったときは、どんな手を使ってでも、彼女をボクのものにします。“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”全ては、彼女のために・・・ボクは生きます)」
 心の中で呟き終わると彼女から手を離す。
 本来ならすばるではなく思い人が来ていたら、その彼女が隣に座っていたかもしれない。
「マスター、私・・・マスターと共に、生きていて、いいんですね」
 彼から離れたすばるが、顔を見上げて言う。
「・・・手を、握っていても、いいですか?―・・・とても、暖かいですマスター・・・」
 無言で頷く彼の手をそっと握る。
 今は振り向いてもらえなくても、彼と共に生きて振り向いてもらえるようにずっと手を握り続ける。