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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第22章 お家にやってきた愛らしいアリスの誕生日

「どこか予約取れればいいんだけどな・・・」
 ぽちぽちと携帯を操作してのんびりと食事が出来そうなレストランがないか探し、和原 樹(なぎはら・いつき)はネット予約出来ないか確認する。
 今日、12月25日はショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が始めて樹たちのところへやってきた日なのだ。
 アリスにとっては誕生日のようなものだから、お祝いしてあげようと考えた。
 樹も彼のパートナーたちもあまり記念日には拘らないが、年に1度のことだからとプレゼントも用意してある。
「お、予約出来た!」
「その店か。なるほど、我らに娘ができた1周年を祝うのも悪くないな」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が傍から携帯の画面を覗き込む。
「まったく知らない人がそれを聞いたら、変な誤解を生むからそういうこと言うなよ・・・」
 携帯を閉じた樹は周囲の視線を気にしつつ、顰め面で彼を軽く睨む。
「ショコラちゃん、お店予約取れたから行こうか」
「早く店に入って暖まろう」
「うん・・・」
 ベンチの上で座って待っていたショコラはこくりと頷き、差し出された樹とフォルクス手を握って歩く。
「確か、ミラーハウスの近くだったな。うん、ここだ」
 樹はマップを見て位置を確認して2人を案内する。
 入り口は氷で出来た森のような雰囲気で、中に入ると氷雪のオブジェのように観葉植物のような灯りで店内が照らされ、ちょっとカジュアルな感じのレストランだ。
「公式な場でなければ、さほどテーブルマナーを気にする必要はないと思うが。フォークやナイフの順番を間違えると後で困るからな」
「だよなぁ。余分に出してもらうのも気が引けるし。そのまま使っても食べられるけどさ、ちょっと食べづらかったりするし」
「まぁそれ以上に、何でそれで食べているのか変な目で見られそうだな」
「はははっ、同感だな・・・」
 そう言うと樹たちはソファーの上にとすんと座る。
「意外と中は寒くないんだな」
「これ可愛いね、樹兄さん」
「北欧神話の中に出てくるエルフだな」
「エルフ・・・?」
「リョースアールヴだよ、光のエルフって呼ばれることもあるんだ。確か、天にあるっていわれているアールヴヘイムに棲む妖精たちの総称だったかな?」
「そうなの」
 話を聞きながらショコラッテは壁際に飾ってあるその可愛らしい人形をじっと見つめる。
「レジの傍に飾ってあったのなんて、髪型とかショコラちゃんにちょっとだけに似てるかもしれないな」
「私そっくりのお人形がいるの?」
「うん、そうだよ。後で見てみようか。とりあえず何か頼もう、何がいい?」
 樹はメニューを開いて今日の主役へ渡す。
「ありがとう樹兄さん。ザウアーブラーテンがいい」
「マリネ液に長時間漬け込んで焼いたお肉か。そんなに量がないみたいだから俺もそれにするか」
「ふむ、付け合せは甘酸っぱいリンゴ入りのキャベツ煮とクロースか。写真のやつは軽そうな感じだな」
「そうだなフォルクス。Aセットにするとソーセージ入りのジャガイモスープがついてくるみたいだな。Bセットはそのスープとデザート、それとドリンクか・・・」
「我もそれにするか」
「樹兄さん、Bセットにしてもいい?チーズケーキが食べたいの。後、暖かいハーブティーも・・・」
「うんいいよ。今日はショコラちゃんの誕生日だから、好きなものを頼んでいいからさ」
「ありがとう」
 彼の顔を見上げた少女が嬉しそうに口元を少しほころばせる。
「じゃあAセットが2つ、Bセットが1つで・・・パンでいいかな?―・・・3人ともパンで」
 ライスとパンどちらにしますかと聞かれ、2人が頷くのを見て樹が決める。
「見て、ショコラちゃん。窓から夜景が見えるよ」
「本当・・・キレイ」
 ソファーから身を乗り出すように、ショコラッテは窓の向こうをじっと見つめる。
「色が変わっていく・・・不思議ね」
 絵本から出てきたお城のようなミラーハウスはイルミネーションのように、ブライトブルーからだんだんとライトブルーカラーへと色を変えながら光を放っている。
 入り口の方へ視線を移すと氷の鏡で出来た魔法使いのモニュメントがある。
「あれが観覧車だよ」
「そうなの?おっきいね」
 樹が指差す方向を見た少女は、赤色の双眸を丸くする。
 クリーム色に淡く輝いている観覧車を見つめ、まるで夢でも見ているかのようにぽーっとした表情をする。
「2人も、料理がきたぞ」
 テーブルに料理が運ばれ、景色に夢中になっている2人をフォルクスが呼ぶ。
「美味しそう、いただきます」
 ショコラカッテから料理に手をつけ始める。
 ナイフとフォークを使ってクロースとお肉を切り一緒に口へ運ぶ。
「―・・・柔らかくて美味しいね。フォル兄が言ってたクロースは、じゃがいもなのね?もちもちしてる」
「じゃあ俺も食べようかな。うん、美味いっ。手作りの自家製パンはふわふわしてて食べやすいな。ふぅ・・・スープで結構温まるし、寒い冬にはぴったりだよ」
「ソーセージが歯ごたえあって美味いぞ、樹。このリンゴ入りのキャベツ煮、さっぱりしていて量も我たちにちょうどいい」
 談笑する2人をショコラッテはいつものように、静かに嬉しそうに見つめる。
「お料理、美味しかった」
「そうか、よかった。それと・・・ショコラちゃんにプレゼントがあるんだけど」
「何・・・?」
「我と樹が一緒に選んできたんだ」
 フォルクスは可愛らしい包装紙に包まれた箱をカバンから取り出してショコラッテに渡す。
「開けてみていい?」
「あぁ、開けてみてくれ」
「ブローチね、ありがとう・・・キレイ。素敵ね」
 箱を開けると中からピンブローチが出てきた。
 ショコラッテはあまりアクセサリなどを身に着けないが、これなら使いやすいと思って選んだ。
「赤っぽい石の中に金色の光が揺れてて、ショコラちゃんの瞳と同じだなって思ったから・・・。フォルクスと一緒に選んだんだ」
 彼女の瞳と同じ色のファイアオパールのピンブローチを見つけてそれにしたのだ。
「つけてみるね」
 2人にピンブローチをつけてみせる
「よく似合ってるよ。―・・・ショコラちゃんっ」
 頬にお礼のキスをされた樹は照れて笑いをし、傍らにいるフォルクスは自然に受ける。
「(私は兄さんたちの娘になりたいの。でも今は妹でもいい。樹兄さんが大人になったら、きっと2人の娘にしてね)」
 椅子に座り2人を見つめてそう心の中で呟く。
「なんだか本当、照れちゃうよ。あははっ。あ、ショコラちゃん。ケーキとハーブティーがきたよ」
「うん。いい香り」
 ショコラッテはカップの取っ手を掴むと、レモンバームとベルベイヌにアップルを少し加えたハーティーに口をつける。
「ケーキの上にお人形がいるね」
「あっ!レジの傍にあったショコラちゃんそっくりのお人形だ。もしかしてお店の人が俺たちの話を聞いて、サプライズでくれたのかもな」
「そうなの?嬉しい」
「一緒にシャメとってあげるよ」
 ショコラッテとエルフの砂糖菓子の人形が乗っている小さなホールケーキを一緒に、パシャリと樹が携帯で撮ってやる。
「ありがとう」
「食べてみてよ」
「うん・・・甘くて美味しい」
 素敵な1日をくれた2人に感謝し、3人で見た夜景を覚えておこうと、もう1度窓の向こう側を見る。