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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第27章 わんこは冬でも元気に駆け回る

「うぅ〜・・・おそとさむぃよ〜」
 数時間前までこたつの中にくるまっていた彼方 蒼(かなた・そう)が、寒そうにコートの両端を握り締める。
「ほら、蒼。遊園地についたよ。えーっと、定番のコーヒーカップもあるけど、この町では一般的なのはゴンドラだね」
 傍で寒さにぷるぷると震えているわんこに、椎名 真(しいな・まこと)が大人しい乗り物を勧める。
 クリスマスの雰囲気も今日で終わりだからと蒼を連れてきた。
「後は遊園地といえばメリーゴーランドとか、最後は観覧車に乗ったりするよね。どれから乗ろうか?あれ・・・蒼!?」
 マップを見て選ばせようと、隣にいるはずの蒼の方へ振り返るといなくなっている。
「あっ、あんなところに・・・」
 慌てて周囲を見回して探すとジェットコースターの乗り場の前にいるわんこを発見した。
「にーちゃんあれのるー!」
「それって大人しいのじゃないよ」
「これがいいーっ」
「え、マジ・・・?」
 明らかに恐ろしい作りのレールを見上げて、さーっと顔を青ざめさせる。
「うん、のりたいっ」
 蒼は黒色の双眸を輝かせ、ぱたぱたと尻尾を振って真を見上げる。
「あはは・・・仕方ないなぁ。落ちないように安全装置を下ろしておかなきゃね」
 わんこに袖を引っ張られて列に並んで50分後、ジェットコースターに乗り込むと腰にベルトをはめて、安全装置を肩へ下ろす。
「なんだかわくわくするね、にーちゃん」
「えっと、あのランプが3つ青になったら・・・スタート・・・・・・するんじゃなかったけーーーっ!?」
 従業員が安全装置の確認を終えた後、1秒も経たずにスタートしてしまい、あまりの速さに真が驚愕の声を上げる。
 ゆっくり赤から青へ変わるのではなく、てててーんっ!!と、まるでミサイルが飛んでいくようにレールの上を走り始めたのだ。
「うわぁああーっ、何あのレール!!角度が急すぎるだけじゃなくってぐるぐる登っていくよ!!?」
 60度の角度という急か角度に加えて螺旋状のレールに、思わず悲鳴を上げてしまう。
 ゴォオォォオオーーーッ。
「わっふぅぅぅうう!たのしーいーー!!」
 一方、蒼の方は向かい風を受けながら大喜びしている。
「レ、レールがないよ!?」
 ダタタンッと速度を緩めず進むジェットコースターのレールが途切れてると思った真は、真っ逆さまに落ちるんじゃないかと涙目になる。
「あるよ、にーちゃん」
「へ・・・?」
「きゅーすぎて、ここからじゃみえないだけー」
「何だ、あるのか。ビックリしたよ・・・って、うそぉおおおっ!?ほわぁあああぁあぁぁああーーーっ」
 真たちの頭をがっくんと揺らし、逆ゼットに近いレールを爆走する。
「と、止まっ・・・てなぁぁぁあぃいい!!」
 レールの端で2・3秒止まったかと思うと、今度は終着点へ戻るためにジェットコースターが逆走する。
「まきもどしみたいにもどっていくよーっ」
「ひぁああぁあーーっ!!―・・・はぁ・・・はぁ〜」
 ようやくジェットコースターが終着点へ戻った頃、真は顔中から冷や汗を流し、瞳から一筋の涙を流した。
「ねぇ蒼。アイスかファストフードでも食べてちょっと休憩しない?」
「うーん、まだだいじょーぶっ」
「えっ、大丈夫なの?」
「たべるならふーどしょっくまんしょんにいこうよ。そこならほんとーにたべられるものがでるから、そこでおしょくじしよう〜」
「(ショップじゃなくってショック!?何だかイヤな予感がするな・・・)」
 ニコニコ笑顔で危険ゾーンへ誘おうとするわんこを見下ろして顔をひきつらせる。
 元気にはしゃぐ蒼の言葉に断りきれず、結局フードショックマンションの中へ入ってしまった。
「にーちゃん、なんいどともーどをえらぶんだって」
「難易度はリイシューとシュタルクの2つだね。モードは3種類か、アオスシュテルベンとシュレッケン、ヴァイネン・・・どれにしようかな。って蒼、何で勝手にボタンをしちゃったんだよ!?」
「おもしろそーなのえらんじゃった」
「な、何かもうヤバイ雰囲気しかないよこれ」
 シュレッケンの難易度とアオスシュテルベンを選ばれてしまい、またもや顔を蒼白させる。
「テーブルと椅子があるね、席につくってことかな」
「にーちゃんのとなりにすわろっと♪」
 真たちを含む人々が席につくと、“本日はご来店いただき、ありがとうございます。まもなく皆様の前に料理が運ばれますので、席を立たずにしばらくおまちください。”アナウンスが流れた。
「あ、ここに料理を運んでもらえるんだ?」
 メイドスタイルの従業員がテーブルに料理を並べていき、それを置くとさっと部屋から出て行ってしまう。
 料理を盛った皿の上に銀の蓋を被せた状態で、まだ見ることが出来ない。
 その後に、“それでは皆様、ごゆっくりと料理に召し上がられてくださいませ”とアナウンスが流れた。
「召し上がられるってどういうこと?召し上がっての間違えだよね?」
「うぅん。がいどぶっくには、そーゆーあなうんすがきこえるってかいてあるよ」
「え、いやいやっ。いろいろとおかしいよそれ!普通、差し出した料理を食べてもらうために、召し上がれって言うよね!?」
「ちがーう。めしあがられるの」
「召し上がられるって、もしかして料理にってこと・・・?」
「そーだよ♪」
 いつもだったらそういうのは怖がるはずの蒼が、いきいきとした表情で言う。
 “だってあとらくしょんだよ?おばけやしきじゃないから、こわいことあるはずないよー”、てことなのだろう。
「ふ・・・蓋が勝手に動いたよ・・・。って、下からジャガイモのパイが!?」
 勝手に動いたのかと驚いた真だったが、その下にあるパイがふわふわと浮かび上がって皿から落としたのだ。
「うわぁあーっ、フードが襲ってくるよーー!」
 パイは“オマェたちが今日の昼メシだぁあ!!”と大声で喋り、真たちを喰らおうと襲いかかる。
「蒼っ、危ないーっ」
「にーちゃん!」
 真は蒼を庇いパイにばくっと喰われてしまった。
「(遊園地でアレなフラグあるなんてありえないってー!)」
 消化されてたまるかと真は必死にもがく。
「にーちゃん、にーちゃんっ。ずぼっとでるか、たべればそこからでられるよー」
「蒼・・・!何でこいつの倒し方を知っているんだよ!?」
「うーんとね、がいどぶっくにかいてあるっ」
「(ってことは、本当に食べられたりしないってことか。ははは・・・そうだよね)」
 わんこの言う通りに、真はぬぼっと這い出てパイをぶち破る。
「はぁ〜驚いた。一瞬、食べ物に消化されるかと思ったよ」
「あ〜きえちゃったー」
 終了時間のベルが鳴ったとたん、料理たちはぽぉおーんっと破裂して跡形もなく消え去った。
 さすがにぐったりしたのかマンションから出た後、保護者の真の方が先にへばってベンチの上に座り込んでしまった。
「だいじょーぶ?にーちゃん」
「ああ、大丈夫大丈夫・・・ほら、楽しかったんだよね?」
「たのしいーよ。もっとほかのところにもいってみたーい」
「その前にちょっとだけ休ませてくれないかな」
「うーん、わかったよ〜」
「じゃあ飲み物を買ってきてくれないかな?それを飲み終わったらまた遊ぼう」
 しゅーんと悲しそうな顔をする蒼の頭を、真が優しく撫でてやる。
「わかった〜、かってくるね」
 ぱっと黒色の双眸を輝かせたわんこがショップへ走っていく。
「はい、にーちゃん。かってきたよ」
「ありがとう、蒼」
 ホットのリンゴジュースが入ったカップを受け取って飲む。
「ふぅ・・・」
「のみおわった?じゃあいこー♪」
「―・・・え、またそういう系!?」
 ジュースを飲み終わったとたん蒼に袖を引っ張られ、また絶叫マシーンの乗り場へ連れて行かれてしまった。
 絶叫系に乗る度にだんだんと平気になってくると思ったが、結局ぎゃぁああぁっと悲鳴を上げて慣れることはなかった。