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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第32章 貴方のお傍にずっと・・・

「ふぅ、寒いですね・・・。やっぱり1人でいる人なんていないですよね・・・この時期」
 真夜中の町中の道を行き交うカップルを見て真口 悠希(まぐち・ゆき)は羨ましそうに呟く。
「あれ?―・・・お店の近くにいる方、もしかして・・・静香さま?」
 店内にある花の模様が描かれたグラスを窓から覗いている桜井 静香(さくらい・しずか)を見つけ、そっと遠慮がちに近寄り声をかける。
「やっぱり静香さまですね。えっと・・・その、今お1人ですか」
「うん。たまには1人で見て歩くのもいいかな、と思ってね。でも・・・ちょっと寂しいかな」
「向こうにゴンドラがありますよ静香さま。ボクと・・・・・・一緒に乗りませんか?」
 もしかしたら断られてしまうかと思いながらも、勇気を振り絞って彼女を誘う。
「―・・・せっかくのクリスマスの夜なのに、僕と・・・一緒でいいの?」
 友達を過ごさずに相手が自分でいいのかと、静香は考えながら聞く。
「は、はい!」
 大切な人とのひとときを過ごせるチャンスを掴んだ悠希は、嬉しそうに可愛らしく微笑む。
「悠希さんが言うならご一緒させてもらうかな」
「ありがとうございますっ。そのっ、静香さまと乗れるなんて・・・とても嬉しいです」
「僕の方こそ声をかけてくれてありがとうね。ちょっと風が出てきたから揺れてるね、上手く乗れるかな」
「お・・・お手をどうぞ静香さまっ」
 悠希はゴンドラの上へ先に乗り、静香が川に落ちないように手を引く。
「―・・・なんか結構ゆ、揺れてる・・・わぁっ!?」
 ぐらぐらとバランスを崩してしまいゴンドラの上へ倒れかかってしまう。
「だ、大丈夫ですか!」
「うーん・・・何とかね。悠希さんが受け止めてくれたから。ごめんね、怪我とかしてない?」
「はっ!?ボ、ボクは大丈夫ですっ」
 静香を助けるため必死になるあまり悠希は、懐の中に倒れた彼女の身体を両手でキャッチしてしまった。
 かぁっと顔を真っ赤に染め、ぱっと静香から手を離す。
「(どうしよう・・・触れてしまいましたっ)」
 頭の中がパニックになり、両手を握り締めて放心状態になる。
 抑えようとしても触れた時のドキドキが止まらない。
「どうしたの悠希さん」
 そのことに気づかない静香は彼女の顔を心配そうに覗き込む。
「ぁっ、あの。そのっ大丈夫・・・です」
「本当に?」
「は・・・はいっ」
 今までにないほど顔を近づけられ、悠希の心はもう爆破寸前だ。
「それにしても寒いね。そうだ、カフェでテイクアウトしたハーブティーを冷めないように、ポットに移し変えたんだけど。いっぱいあるから悠希さんもどうぞ」
「―・・・あ、いただきますっ。この香りは・・・カモミールですね」
 彼女の声で我に返った悠希はカップを受け取り、リンゴのような甘酸っぱい香りのハーブティーに口をつける。
「あ、静香さま・・・その。先日のパティシエコンテスト・・・なんですけど」
「うん・・・?」
「ボクのお菓子のメッセージにお気付きにならなかったフリをなされた時・・・ちょっぴり、ボクのこと何とも考えていないのかも・・・って思ってしまいました。ごめんなさい」
「ごめんね、あの格好だったから。ちょっと雰囲気に合わせてみようかな・・・・・・って、思ったんだけど」
「でも・・・その一方で静香さまがそんなはずない・・・って強く信じてもいました。えへへ・・・」
「やっぱりああゆう感じ、ボクには合わないよね。悠希さんのこと傷つけちゃったかなって、心配だったんだ」
「いえ、気にしてないです!だって静香さまはそんなこと言うはずないですから」
 カップで手を温めながらニコッと笑ってみせる。
「・・・ボク、実は静香さまと出会う前・・・百合園に来る前なんですけど。女の子っぽい外見のために虐めとか受けていて。こんな風に、少しのことで人を疑っちゃう・・・猜疑心の塊だったんです」
「そうだったの?悠希さんって誰にでも優しくていい子なのに、そんなことされるなんて・・・」
「でも、今は・・・百合園に来てから多くの方を信じられる様になりました」
 金糸の髪をふるふると振るい、今は信じることが出来る者たちに巡り会えたと、悠希の過去を聞き悲しそうな顔をする彼女へ顔を向ける。
「そして、その切欠は・・・家族以外で初めて信じることが出来たのは静香さまでした・・・。その優しさや何事にも真摯に向かう静香さまの姿が、ボクの心を溶かしてくれたからです」
「僕は自分で決めたことを最後までやりとおしたいからね。それにどうしても困っている人とか見ちゃうと、放っておけないし。それが少しでも悠希さんの心を癒せたなら・・・嬉しいな」
「だから・・・ボク、まだまだ頼りないかもですが。そんな静香さまの心の支えになれたらって・・・」
「え・・・、僕の・・・?」
 支えになるという彼女の言葉に目を丸くして首を傾げる。
「静香さま・・・ボク誓います。どんな遠く離れることがあっても貴方のこと、これからもずっと・・・」
 シュヴール橋の前へゴンドラが流れていく頃合を見て、悠希はすっと立ち上がる。
「(そう・・・静香さま、何があっても。たとえ、困難が時に2人を分かつことがあろうともずっと・・・。一生、貴方を信じます・・・永遠に愛しています。一生、貴方と共に生きてゆきたい。“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”)」
 橋の下を通りきる間に誓いの言葉を心の中で呟き、ゴンドラの上に座って見上げる静香をじっと見つめる。
 風が止みスゥーッと通り抜けると、2人の姿を町のクリスマスイルミネーションが明るく照らす。
「悠希さんの思いを返してあげらるか・・・分からないけど。もし、それでもいいなら僕の傍にいて欲しいな。でも・・・それって僕は答えられないかもしれないのに、傍にいて欲しいだなんて都合のいい言葉だよね・・・」
「―・・・いいえ。愛で返すだけが全てではありません。ずっと静香さまのお傍にいられるならボクは・・・幸せです」
 答えてくれないかもしれないという言葉に涙を堪え、共に生きて生きたいと瞳に涙を浮かべる彼女の手をそっと握る。
「本当?」
「えぇ・・・だから泣かないでください」
 瞳から零れ落ちそうになる静香の涙をハンカチで拭う。
「あのね、ハロウィンにお菓子を作ってくれたお礼に、これよかったら・・・」
「ボクにくれるんですか?ありがとうございます!嬉しいですね、何が入っているんでしょうか」
「開けてみて」
「これってボクと静香さまが仮装した姿のお菓子ですか!?」
 箱の蓋を開けたとたん、悠希は驚きのあまり声を上げる。
 その中には2人がハロウィンで仮装した姿の砂糖菓子が入っているのだ。
「魔女の仮装が可愛かったから作ってみたんだよ。でもそれだけじゃ寂しいかなって思って。この時期の雰囲気に合わせて、雪の結晶っぽいクッキーを作ったんだけど」
 物足りなさを感じた静香が、ホワイトチョコの手作りクッキーも入れたのだ。
「こんなプレゼントをいただけるなんて、すごく嬉しいです静香さまっ」
「ちょっと失敗しちゃってるかも。お菓子を作るのって難しいね・・・」
「作ってもらえるだけで十分です!(静香さまからクリスマスプレゼントをもらえるなんて、何だかとっても幸せですっ)」
 悠希は箱に蓋をして大事そうに抱きしめる。
 ぴったりと寄り添う砂糖菓子の人形のように、ずっと一緒にいられるようにと願った。