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虹の根元を見に行こう!

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虹の根元を見に行こう!

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★1章



 ――キマク郊外、
「ゲドー、連れてきやがれです」
「はぁ? 何処にだよ」
 魔道書、俺様の秘密ノート タンポポ(おれさまのひみつのーと・たんぽぽ)が、パートナーであるネクロマンサーゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)の足元に歩み寄って、そう言った。
 そもそも、何故か理由を言わず、タンポポはここまでゲドーを連れてきたのだ。
「虹の根元を見に行こうって依頼がありやがるです。タンポポもそれに参加しやがりたいですよ」
 その言葉で、ようやくゲドーが合点がいった。
 しかし、だからと言ってそんな依頼には参加したいと思わない。
 だが、
(虹の根元なんてねぇはず……ってことは、参加者全員目的を達成できねぇ。つまり全員不幸、俺様ハッピー)
 にっと笑うと、
「いいぜぇ、連れてってやるよ」
 ゲドーには珍しい返事をしたのだった。
 そのままシルキス達の元へ向かい、
「ちぃーっす、タンポポちゃんも仲間に入れてやってくれ。帰りのこともあるから俺様も同行させてもらうが、俺様は皆でわいわいっつーのは苦手だ。わりぃが俺様は空からついていかせてもらうぜぇ」
「え、あ、はい」
 困惑するシルキスに押し付けるような形で、ゲドーはレッサーワイバーンに乗って空へ飛び立った。
「じー……」
「あ、あの、こんにちは。シルキス・バトナーと申します」
「タンポポも虹を見やがりたいです。一緒に連れていきやがれです」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「みゅ……」
 どうも噛みあわないシルキスという相手だが、タンポポは後ろをぴったりついていくのだった。

 コンジュラーの鬼崎 朔(きざき・さく)は、一目で場違いなシルキスを見つけ、ポンと肩を叩いた。
「ここにいる皆は、きっとシルキスさんに優しいと思う。だから私はシルキスさんにちょっと厳しい事を言わせていただきます」
 そう朔が宣言すると、シルキスは緊張した面持ちで言葉を待った。
「……世の中は理不尽で溢れています。自分が何かをした訳ではないのに、不幸や苦難は突然やってきます。それは……シルキスさん、貴女が一番よくわかってると思います」
 その言葉にシルキスは頷いた。
 そして、朔が過去を思い出しながら話す様子に、その言葉の重みを感じ取っていた。
 それはとても、厳しくて優しい言葉なんだと、わかっていた。
「もしかしたら……為すすべもなく、受け入れるしかない事になるかもしれない。でも……これだけは覚えておいてください。どんな不幸、苦難、逆境、理不尽に見舞われても、自分を強く持って……負けない様に。心の強さこそが生きるための秘訣なのだから。まあ、どうしても不安なら、心の強さをくれる人を作ることだ。というわけで、荷物、半分持ちます。皆のところに行きましょう」
「ありがとうございます」
 シルキスの深々としたお辞儀に、朔は小さく微笑した。



「よっす、ラナ!」
「お久しぶりですわ、ラナさん」
 群集の中から、プリーストのシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はラナを見つけると、細い腕を彼女の首に後ろから絡め、シリウスのパートナーである剣の花嫁、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)も挨拶に訪れた。
「シリウス、それにリーブラも!」
 久方振りの再会に自然と顔が緩むラナの前に、黒い影がにゅっと現れ、視界を塞いだ。
「キミ! 久々じゃないかニャー! 半年振りくらいじゃないかニャー!?」
「シリウス、悪戯ですか」
「おいおい、オレはいつから悪戯っ子になったんだよ」
「……ゆる族、ですわ」
 てっきりシリウスの悪戯かと思っていたラナは、リーブラの言葉とニャーという語尾から記憶を探った。
 それは、すぐに辿り着いた。
「ミーの事忘れた? クラウツだニャー! 相変わらず綺麗な人だニャー! スタイルも良いしルックスも良いニャー! 今晩ミーと一緒に食事でもどうかニャー? ニャー!?」
 ゆる族、クラウツ・ベルシュタイン(くらうつ・べるしゅたいん)はマシンガントークを繰り出して、ひたすらにラナの前で跳ね、迫っていた。
 ――ガッ!
「ウッ、ニャー!?」
 眼前のクラウツが頭に星を飛ばしながら、揺らいで倒れると、そこには銃のストックを手にしたソルジャーのシュネー・ベルシュタイン(しゅねー・べるしゅたいん)が立っていた。
「すみません、ラナさん。久しぶりなのにパートナーが失礼して」
 白髪のポニーテールを揺らしながら、シュネーはパートナーの非礼を詫びた。
「いいんですよ、シュネー。お久しぶりです。それに……クラウツも」
 目を回しながら倒れ、既にシュネーによって足を抱えられているクラウツを見て、ラナは笑って返した。
「全く……このお調子者には困ったものよ。それはともかく、お久しぶりです、ラナさん。声はあれから問題ないようで?」
「そうそう、色々大変だったみたいだな。でも元気そうでなによりだ」
「ありがとう。もう、大丈夫ですよ」
 2人の友人に心配されラナは、熱くなった胸を押さえながら感謝の言葉を述べた。
「そうですか、それはなによりですわ。それでは、私とクラウツは護衛に回らせてもらいます」
 唐突に出た言葉にラナはきょとんとしていたが、シュネーは一度お辞儀をすると、クラウツを引き摺って群衆の中に消えた。
「護衛……? シリウス、何か知っていますか?」
「おいおい、依頼はそっちだろ? 虹の根元までの護衛を頼むって」
 言葉の選択がおかしかった。
 その違和感にラナは囚われたままだが、シリウスは目敏く彼女を発見した。
 群衆から1人ポツンと離れて、オロオロしている本当の依頼主だ。
「お、シルキス、シルキスだろ!? 今日はよろしくな」
 シルキスはそれが自分だとわからずに辺りを見回した後、ようやく自分が呼ばれたのだとわかり、パタパタとシリウスの前に駆け寄った。
「初めまして。私のためにありがとうございます。シルキス・パトナーと申します」
「オレはシリウス・バイナリスタ。こっちがパートナーのリーブラだ」
「リーブラ・オルタナティブです」
「さてと、自己紹介も済んだし、また虹の根元を探しに行くか」
「また……?」
 シルキスはシリウスの言葉にひっかかって、問い返した。
「シルキスみたいに探しにいったこともあるんだぜ? ……迷子になって、院長先生に連れ戻された終わりだったけどな」
「そうだったんですね!」
 同士を見つけたとあって、シルキスはパッと笑顔を浮かべた。
「それじゃ、行こうぜ! ……って、どこに行けばいいんだ?」
「それはアテネが……」
 行き先を知っているのはアテネだけだった。
「荷物、お持ちしましょう」
 旅慣れていなさそうなシルキスからリーブラは荷物を預かり、4人は未だ群衆の中にいるアテネの元に向かった。



「こんにちわ〜♪」
 朔のパートナー、アリスの花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)が、アテネの元にやってきた。
「あのね、ここに拳系アリスって呼ばれている子が居るって聞いたんだけど……」
「アテネだよ!」
 アテネは元気一杯に手を挙げて、存在を示した。
「あ! あなたがアテナさん? 初めまして、花琳って言います! 突然ですが……私をアテナさんの弟子にしてください! 何でもしますから! 私……強くなりたいんです!」
「いいよ! お友達だね!」
「え、あ、弟子……でも、お友達にもなりたいです!」
「アテネは大歓迎だよ!」
 わーいと喜び合って2人は手を取り合った。
「あ、あの〜同じアリスですね、よろしくお願いします!」
「わっ! アリスが3人に増えたよ! よろしくね!」
 アリスのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)はパートナーから離れて、まずはアテネに挨拶をしてきた。
 アテネに少し相談があったのだ。
「最近、ちょっと悩んでることがあって……。私って、普通すぎてむしろ変わり者アリス、じゃないのかな、って。アテナさんだって拳系ですし……。他のアリスの方々が個性的すぎるのかもしれませんが……」
「なら、一緒に弟子になりましょう!」
 花琳が唐突に言うと、ミュリエルは驚いた。
 だが、それはいい提案にも思えた。
 少し考えをまとめようと試みるのだが、個性的なアリス達にそれは打ち消されてしまう。
「今日は弟子とお友達が一気に2人も増えた!」
「同期ですね!」
「わ、わわわっ!?」
 アテネと花琳と手をつなぎ、ぐるぐると回るのだった。