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虹の根元を見に行こう!

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虹の根元を見に行こう!

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「瑛菜部長の留守を、しっかり守ろう! アテナちゃんを手伝うね! ラナ・リゼットさんは、初めまして! ボクも名前は知っているよ。お互いアーティストとして、よろしくね!」
 ミンストレルの赤城 花音(あかぎ・かのん)は、まずはパラ実軽音楽部の1人として、アテネとラナに挨拶に訪れた。
「ありがとぉ! お願いだよ!」
「初めまして、今日はよろしくお願いしますね」
「あの……」
 花音のパートナー、シャンバラ人のリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、シルキスには聞こえないように、アテネとラナに提案した。
「相手の狙いが、お三方ならば。お三方が逃げの一手……場所を選んで、待ち伏せを仕掛けるのは如何でしょう?」
「う〜ん、もう上から偵察してる人もいるみたいだよ! それに……」
「あまり速い展開というのは、シルキスさんの負担になるかもしれませんね……。あのような格好ですし、何よりこれほどの人数がいれば、パラ実生も今日のところはこないかもしれません。ですが、ありがとうございます。私達まで心配をかけてしまって……」
 リュートの提案は、戦いに関してはあり、だった。
 しかし、シルキスの負担が増しそうな展開は望ましくなかった。
「じゃあシルキスさんに、ともかく勇気を灯さないとね! 確かに……虹の根元は実在しないのかも知れない。だから、冒険と困難を乗り越えて、紡がれる絆を感じさせなくちゃ!」
 そう言うと、花音とリュートは少し離れたシルキスの元に向かって声を掛けた。
「ボクは、この冒険の経験を生かして、新しい歌詞を創るために頑張るよ! だから……シルキスさんも、負けないでね! しっかりと治療して、夢を広げようね!」
 花音の元気のよさにシルキスはビックリしながら、笑顔で頷いた。
「シルキスさんは、よろしければ、僕の馬に乗ってください」
「よろしいんですか?」
「構いません。ここまで来るのにさぞお疲れになったでしょう」
「では、ほんの少しだけ。あとは皆様と一緒に歩いて行きたいです。私のワガママなんですから」
「では、しばしの間……」
 リュートはシルキスを後ろに乗せて、しばしの間、彼女を後ろで感じていた。

「あたしも、虹の根元がどうなってるか見てみてえ」
「そうですね。妖精がいれば、とても素敵なのですが」
 グラップラーの泉 椿(いずみ・つばき)がそう言うと、シルキスは子供の頃に聞かされた話を思い出しながら言った。
「オルフェも虹の根元がるって信じています。妖精さんもきっといます!」
 椿と共にシルキスに話しかけていたウィザードのオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)も、虹の根元を信じている1人だった。
「妖精がいるのか! そいつは余計に見たくなってきたぜ」
「母がよくしてくれた話なんです。だから、いたらいいなあと思います」
「母ちゃんか〜。あたしは昔父ちゃんに、虹の根元を見に行きたいって頼んだことがあるんだ」
 椿が少し遠くを眺めた。
(あ、シルキスを勇気付けなきゃなのに!)
 ちょっとした自爆だった。だが、その場を救う者は多かった。
「オルフェは虹の根元に宝物が埋まっていると聞きました。ちょっとワクワクしますよね。ですから、掘り起こしてみたいんです」
「宝物、ですか。何が出てくるんでしょう? やっぱり、宝石とか、でしょうか」
「何でもいいんです。虹の根元に埋まっている物ならば、それはそれで貴重でしょうから」
「虹の根元には金銀財宝が埋まっており、そのために光り輝いている、という話もあるが、地球でも未だ発見者はいない。見つかれば、歴史的快挙と言えよう」
 ドラゴンライダーのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も宝の話に食いついた。
「聞けば手術をするそうだが、知識は?」
「いえ、あまり……」
「手術に使われるものは、注射器やら小さな刃物だ。だが、俺のような戦闘タイプの人間にしてみれば、刀剣類に比べたら大したものでもない。よく斬りつけられたり、酷い時は貫通したりするからな」
「う、うう……」
「だがそれは、守るべきものを守るため、己の意地を通すため、等々……自分にとって大切なもののために受けた傷だ。それは恐れるような事ではなく、時には誇りにさえなる。つまり、貴女が大切に思っている人を安心させるために手術をする、と考えれば多少は気が楽になると思うが……如何だろうか?」
「ちょっと過激な例えだが、その通りだな!」
「オルフェはちょっと怖いです〜」
「ですが、少しわかった気がします」
「そうか、しかし、済まなかった。ついつい喋ってしまって。話は虹の根元の宝だったな。そうだな、虹の根元には……」
「でも、鬼がいるかもしれないわよ」
「お、鬼です、か!?」
 母の話に出てきた妖精とはかけ離れた存在を口にされ、シルキスは驚いて声の方を見た。
 ウィザードの鳳 フラガ(おおとり・ふらが)が、眼鏡のフレームをくいっとあげながら笑顔を向けた。
「ごめんね、ちょっと脅かしちゃった。でも虹にも一杯神話があるわよね」
「大丈夫、鬼はあたしがやっつける!」
 椿が心強い言葉を言うと小さな笑いが起きて、シルキスは気持ちを穏やかにして尋ねた。
「ちょっとビックリしました。どんな神話があるんですか?」
「ギリシア神話に北欧神話、オーストラリアやインドの古典などがあるわよ。虹を神だったり、橋だったり、蛇や弓にも例えられてるわ」
「へぇ〜。俺は祝福の虹なら知ってるのだがな」
 シルキスと一緒に新たな知識に感嘆の声をあげたのは、英霊の柚木 瀬伊(ゆのき・せい)だ。
「祝福の虹、ですか?」
「それは、昼ではなく夜にそっと架かる虹。太陽ではなく、月の光を受け白く輝く虹……ムーン・ボウ。条件が複雑で、目にすることが難しいのだが……それ故に、夜の虹はこの世で最高の祝福、と言われているそうだ」
「私、それも是非見てみたいです。そう、今日の夜にしましょう」
「野宿になるであろうが、それでも?」
 あっ、と口元を押さえて、シルキスはそんな用意はしていませんね、と苦笑いをした。
(珍しく瀬伊が饒舌だね。その調子で勇気付けてあげて。俺は綺蓉と……って、綺蓉?)
 それと同時に、瀬伊のパートナー、フェルブレイドの柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)の胸ポケットから何かが飛び出し、シルキスの肩に乗った。
「――ひゃ、ぅっ」
 シルキスは歩みを止め、肩を怒らせながら完全に身体の動きが硬直した。
 ――チロッ。
「ななな、何、肩に何か!?」
 今にも卒倒しそうなほど青ざめたシルキスは恐る恐る自分の肩にゆっくりと首を回し、目線を動かした。
「はは、俺も驚かせちゃったね。こいつは俺自慢のゆるスターで、綺蓉っていうんだ。美人だと思わない?」
 そこにいたのは小さなネズミで、シルキスの頬をふんふんと鼻で突きながら、遊んでいた。
「あっ……」
 自分の肩に乗ったのが奇怪なものでもなく、ましてや虫でも何でもないと知るや、シルキスはほっと胸を撫で下ろし、貴瀬のゆるスターに恐る恐る指を差し出した。
 ――ふんふんっ!
 匂いを嗅いでいるのか、それとも鳴いているのかシルキスにはわからなかったが、小動物というのはやはり、心を擽るものだった。
「小動物見てると、和むと思わないかい?」
「ええ、そうですね。こんなに可愛らしい……あっ、美人なネズミさんがいるなんて」
(綺蓉を連れてきて正解だったかな)
 貴瀬はそんなことを思いながら、少しの間だけ綺蓉をシルキスと遊ばせるのだ。
「でも、見たかったです。祝福の虹も。私は手術を……怖いですけど受けなければならないから……」
「何、今は目にすることが出来なくても、手術に成功したらいつか機会は巡るだろう。今は、己がなすべきことをするといい」
 未来で成せばいい。
 それが瀬伊の精一杯のメッセージだった。