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ちょこっとLOVE FESTA

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ちょこっとLOVE FESTA

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 フェスタの名前に相応しいように、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、ピンクのドレスに赤い薔薇のコサージュをつけて、菅野 葉月(すがの・はづき)を待っていた。葉月は、赤い薔薇の花束を持って現れ、ミーナをエスコートしてくれた。一緒にいろいろなチョコレートを見て回るのも、お菓子の家の街並みを眺めるのも、二人でならなんでも楽しい。
 ミーナはチョコ・フォンデュの噴水そばまで来ると、近くのベンチに腰を下ろした。メインイベントであるチョコ・フォンデュはもう少し時間が経たなければはじまらないようで、まだ人影はまばらだ。
「葉月、見ててわかってると思うけど。ワタシ、そんなに上手じゃないけど……」
 と、ミーナは昨日一緒に作ったチョコレートを差し出した。葉月は、じゃあ僕のも、とチョコレートを差し出した。昨日みたいなカジュアルなかっこうもステキだけど、スーツ姿もステキだな……と、ミーナは葉月にぽっと見とれた。そんな人が自分に花束を贈ってくれて、エスコートもしてくれる。この幸せを、忘れないようにしよう、とミーナは思った。つまらないヤキモチを、もうしないで済むように。
「ほら、もうすぐチョコ・フォンデュがはじまる時間だよ」
「ほらほらっ!これがメインイベントなんだから!」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)がチョコ・フォンデュの噴水までウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)を引っ張ってきた。手には完成したチョコレートをラッピングしたものを持っている。
「チョコレートなら、もうたくさんつまみ食いしたじゃないですか〜」
 ウィルヘルミーナは、ファイリアの口元をハンカチでぐいっとぬぐって上げた。
「でも、甘いものは別腹だもん!」
「そんなこと言ったら、今日は別腹しか使いませんよ〜」
「あははっ!あっほら、始まったよ!!」

 噴水から、こぽっこぽっと小さな音が聞こえてきたかと思うと、すぐにどばっと、茶色い液体が出てきた。強い甘い香りが辺りに漂ってくる。
 ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、街中の甘い香りでもうすでにうんざりなのに、さらに強く漂ってくる甘い香りに顔をしかめた。となりでは朱宮 満夜(あけみや・まよ)が、甘い香りの中で平気な顔をして甘いチョコレートを食べている。まったく信じられんな。
「カカオなんて本来、甘いモノではないのだからな。満夜が食べているのは不純物の塊であろうよ」
 ミハエルの言う不純物とはもちろん『砂糖』のことである。
「いいじゃない。チョコとスイーツは乙女のたしなみです♪ミハエルも一緒にチョコ・フォンデュしましょう。ほら、たくさんフルーツがあるし」
 満夜は、しかめつらのミハエルを楽しそうに見つめた。
「フルーツは、そのまま食ったほうがうまいはずである」
「フルーツはそのまま食べても美味しいよねっ」
 いつの間にか、隣にいた女の子が目を輝かせて会話に参加してきた。
「ほんっと、ヴァイシャリーってやることがハデだね〜?!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は、噴水の横に山のように積まれているフルーツを見て、ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と考えている様子だ。妙にテンションが高いけれど……
「郁乃様?!大丈夫ですか?」
 先ほど郁乃様が口にされていた『オトナのチョコ』はブランデーがたくさん入っていたようだったけれど……秋月 桃花(あきづき・とうか)は、ハラハラとした様子で郁乃を見つめた。
「なんだ?酔っぱらっているのか?」
 ミハエルは郁乃の様子を見て言った。まさかチョコレートに酔っているわけではあるまいな。まぁ、この甘い香りに頭がいかれたとしてもおかしくはないが。
「大丈夫だよー。桃花、食べに行こうよ!」
 郁乃は、フルーツの山に近づくと、桃花にイチゴを取って見せた。
「ほらぁ、おっきなイチゴだよー。チョコつけよう!」
「あっ、待ってください。郁乃様、フォークを使わないと」

 郁乃がフルーツの山から、イチゴを手に取ったのを見て、なんとなくチョコ・フォンデュを遠巻きに見ていた人たちが集まってきた。大きな噴水がチョコレートを噴き出す姿に圧倒されて、なかなか近寄れなかったのだろう。
「まだチョコレートを食べるのでございますか」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は、ティッシュで鼻を押さえながら、泣きそうな声を上げた。今日は朝から刺激物でもあるチョコレートを大量に与えられた結果……鼻血まみれになっている。
「あら、何を言ってるの?これからが本番というものでしょう?!」
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)は、不敵な笑みを浮かべた。何か楽しいことを考えている時の表情である。
「あああああ、ティア。なにを考えているのですかーっ!」
 さすがに清良川 エリス(きよらかわ・えりす)も学習してきたらしい。この表情の時のティアは『やばい』!
「ダメどす!ダメどす!ダメどすえーっ」
 慌てふためくエリスを見て、ティアは言った。
「あら、まだあたし何もしてないわ?」
「もう、さんざんしたじゃないどすかぁっ」
 ここに来るまでも大変だった……。ティアは可愛い女の子がいると、カカオ99%のチョコレートをプレゼントして、泣きそうな顔を見ては喜んだり、人ごみでチョコチューブを『うっかり』ぶちまけては、女の子のほっぺを舐めたりした。そのたびにエリスはハンカチを差し出したり、頭を下げたりするハメになった。
「うふふ。そんなのちょっとしたイタズラですわっ。それに、あたしと同じようなことを考えている人たちもいるようだし……?」
 ティアはチョコ・フォンデュに集まっている人たちを楽しそうに見つめた。

 酔っぱらって足取りの危なかった郁乃が、フォークも使わずにイチゴをチョコ・フォンデュに付けようとしたのがきっかけとなったが、彼女に悪気はなかったはずである。

 ぽちゃん。

「おい、あいつ。チョコ・フォンデュの中に落ちたぞ」
 ミハエルが冷静な分析を加えているところに、桃花が走っていく。
「郁乃様!大丈夫ですか!!」
 急いで抱え上げたものの、郁乃はふにゃん、としている。ブランデーってけっこう後から効いてくるものなんだね。白いドレスを茶色に染めた郁乃を、桃花が愛おしそうに救いだしたところに……

 ぼちゃん。

 さっきよりも豪快な音がして、噴水に落ちた人がいた。
「キミたちねぇ……!」
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)が反論するよりも先に、チョコをぱちゃぱちゃとかけられている。これは不可抗力ではなく、人災というものだ。
「心配することはない。高級食材もたくさん用意したのだよ」
 ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)は、ふふふ、と不敵な笑みを浮かべ、用意した高級食材各種をどぼん、とチョコ・フォンデュの中に入れた。これは、闇鍋かロシアンルーレットか?!
「ラスティさん、なんかコレ、取りにくいです」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が、チョコ・フォンデュ用のフォークでは支えきれず、手を添えて取ったものを見せる。
「お。これはパラミタスケスケマンジュウガニ!高級食材だよ」
「おー。でも……チョコにカニ、ですか。……ポチにあげるです」
「だれがポチだー。俺を助けろよぉ……」
 チョコレート溜まりというのは、案外足が滑るのか、自分で這い出るのが困難なようである。しかし、レイナはポチ……こと、なぶらにカニをひょい、と渡すとまた別の食材を探しだした。
「あ、今度は、美味しそうなイチゴです!」
「お。それも美味いイチゴだから、当たりである」
「おー。これは……あげるです」
 レイナが今度は日比谷 皐月(ひびや・さつき)にイチゴチョコを差し出した。女の子はともかく、なぶらが入ったチョコ……皐月は一瞬、躊躇したが、これも一応女の子がくれるチョコにカウントしてオッケーだよな?と思いつつ、あーん、してもらう。女の子からのあーん、サービス付きとか、オレ、神じゃね?
「ん、うまいなっ」
「美味いイチゴだからな」
 ラスティはなんだか誇らしげだ。

「あいつら、何してるんだ」
「いいじゃない、楽しそうで。私たちも行きましょう」
 ますます頭痛の強まったミハエルを、満夜がムリヤリ引ったたせる。
「おい、ちょっと待て。はしたないことするのではないぞ」
 そんな忠告は、もちろん満夜の耳には届かなかった。満夜は、躊躇なくチョコ・フォンデュにダイブして、闇鍋に参加コースだ。
「やれやれ」
 ミハエルは、満夜の姿を見て、にたりとした。闇鍋の中で一番美味しそうなのは……やはり女の子だからな。