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第4章 幸せな一日

ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、参加しているみんなに「お茶にいたしましょう」と声をかけた頃には、どこから持ってきたのか、いつの間にかチョコレート・フォンデュの噴水の周りはキレイに掃除され、カフェテーブルとイスがセッティングされていた。
 ヴァイシャリーの街も、夕日に照らされ、お菓子の国のようなデコレーションが、ますます幻想的なものに見えた。自分が絵本の中に入り込んでしまったような、そんな錯覚がする。
 桜井 静香(さくらい・しずか)とラズィーヤの周りには、二人にチョコレートを渡したい人たちが集まってきている。街の人たちにも人気があるのか、それぞれに自分で作ったチョコレートやフェスタで買ったチョコレートを手にしている。すでに多くのチョコレートを受け取っていたらしい、静香とラズィーヤの周りには、愛らしいラッピングが山となっているが、定期的にラズィーヤのメイドが、馬車に運んでいるようだ。二人ともにこやかにチョコレートを受け取っている。
「ホワイトデーには、お返しをしなくてはなりませんわね」
「うんっ。そうだね!」
「静香様、たくさんいただいてしまって、お返しが大変ですわね」
「でも、みんなの気持ちだもん。うれしいよっ!」
 イルマ・レスト(いるま・れすと)朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)に促されて、ラズィーヤの前へと立った。
「あっ、イルマさん」
「あら、イルマさん。チョコレートは上手に作れました?」
「はい。おかげさまで……それで、これ……受け取っていただきたいのです」
「私に?どうもありがとう。うれしいですわ」
 甘いモノ好きなラズィーヤは、本当にうれしそうにチョコレートの包みを受け取った。その中身はみんなのおかげで、カレー風味ではなく、イルマの真心そのもののような、あまーいチョコレートとなった。無事に渡せてほっとしているイルマの肩を、千歳はそっと抱き、静香とラズィーヤ、二人の周りの喧騒から離れた。

「今日は一日、おつかれさまでしたっ!売上はどうでしたか〜?」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、可愛いチョコレート色のメイド服姿で、スカートの裾をふりふりと揺らしながら、ホット・チョコレートを配っている。
「ヴァーナーさんも、おつかれさまでしたっ」
 橘 舞(たちばな・まい)は、ヴァーナーからホット・チョコレートを受け取ると、両手でカップを包み、ほっとした表情を見せた。一日カエルパイの売り込みをして、さすがにちょっと、お疲れの様子。
「まあまあの売れ行きよね。こういうイベントをするなら、ま、ドリルのヤツも悪くないじゃない」
「ブリジット、また、そんなこと言って」
 舞は、ブリジットを窘めた。そして、横に置いてあったバスケットの中から、ホワイトチョコ仕様のケロッPチョコカエルパイの可愛らしい包みを差し出した。
「よかったら、おひとつどうぞ」
「わー。ありがとうです!」
 ヴァーナーはうれしそうに、カエルパイをエプロンのポケットにしまった。
「じゃあ、ボクはみなさんにホット・チョコレートを配ってくるです〜」
「いってらっしゃい」
 ブリジットはそう言うと、可愛らしく歩いていくヴァーナーの後ろ姿を見送った。
 うん。今日は悪くなかった。でも……。ブリジットは目線を横へ滑らせ、ちらりと静香と笑顔で話しているラズィーヤを見た。だからって、ドリルがイイヤツってことにはならないんだからね!
 ヴァーナーが配って歩くホット・チョコレートを受け取って、やっと篠宮 悠(しのみや・ゆう)リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は、腰を下ろした。一日歩き回って、すっかり疲れてしまった。
「楽しかったな。まぁ、中にはヘンなチョコレートもあったけど」
 悠が愉快そうに言うと、リースは少しだけ悲しそうな顔をした。
「どうした?疲れたか……?」
「いえ、それは大丈夫です。ただ、悠さん。たくさんチョコレートを召しあがっていらっしゃったから、私が差し上げたチョコレートが気に入らなかったのか、と……」
「なんだ。そんなこと心配してたのか。リースのくれたチョコレートに勝るものがあるわけないだろ!」
「そっか。とっても嬉しい……」
 リースはほっとした表情を浮かべ、悠とホット・チョコレートのカップを合わせた。

 手作りチョコレートのラッピング箱を前に、二人の影は、じっと見つめ合っていた。
その宝物のような箱を開けてしまうのがもったいなくて、お互い贈り合ったものの、一日なんとなく、開けそびれてしまっていた。このまま、持って帰って大切にするのも悪くないとも思う。けど、やはり目の前で喜ぶ顔が見たい。
冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の手をそっとチョコレートの箱の上に置かせて言った。
「あたしからのチョコレート、開けてみて。日奈々みたいに上手にはできていないかもしれないけど。……あたしの気持ちだから」
「……うん。」
 日奈々がスルリ、とリボンをほどくと、中からは、ロシェが出てきた。日奈々は一粒、口に入れてゆっくりと味わうと、うるんだ瞳を千百合に向けた。
「おいしい……ですぅ。ありがとう、千百合……ちゃん……」
 千百合はイスから身を乗り出して、そっと日奈々の頬に唇を寄せた。

「はーい、みなさん。ホット・チョコレートですよ〜」
ヴァーナーが大きなお盆を持って、テーブルの上にカップを置いていく。
「くちをあけろー」
崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)が、自分のチョコレートの箱の中からトリュフをひとつ取って、ヴァーナーの口元に持っていく。
「あーん。ん……もぐもぐ。おいしいです〜」
ヴァーナーはニコニコ顔。
「じゃあ、私のは、ちびちゃんに!」
崩城 理紗(くずしろ・りさ)があーん、とすると
「……理沙よ、この茶色い物体xは……」
「なんでー!私もがんばったんだから!」
「ねぇねぇ、それより、ほら……」
姫野 香苗(ひめの・かなえ)がみんなをそれとなく促した先には、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の姿。
「いつもありがとう。ついでのようで悪いけど、本当に感謝しているのよ」
「御姉様……」
小夜子は亜璃珠から受け取ったチョコレートを胸に大切そうに抱えた。
「でもさー、あれって結局、さよちゃんほとんど自分で作ったんじゃ……」
桐生 円(きりゅう・まどか)のツッコミに、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がまあまあ、と取りなした。
「いいじゃないか。幸せならば」
シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が、そんな二人の姿に目を細めて、言った。

「みんな、今日は楽しんでくれたかなっ?」
静香が噴水の周りに集まった、百合園女学院の生徒たちや一緒にフェスタを楽しんでいた街の人たちに向かって言った。
「今日は、いつもボクの生徒たちがお世話になっている街の方たちの協力もあり、ステキなバレンタインの一日を過ごすことができましたっ」
ありがとうございました、と話す静香の声が、通りに静かに響く。みんなが静香の言葉に耳を傾けている。
「ボクたちの心の中には、もちろん普段から感謝の気持ちや人を愛する気持ちがあります。でも……その気持ちは、思っているだけでは伝わりません」
 静香はそこで、みんなの顔を見渡した。
「今日はバレンタインということもあり、このような形で、気持ちを表すことができ、みんなが自分の大切な人に、思いを伝えることができました。……でもね、好きな人に好きっていう気持ちを伝えることができることは、本当に幸せなことだから……恥ずかしがらずに、好きな人に素直に好きと言える、そんなステキな人になってください」

静香が横に立っているラズィーヤに目線を送ると、ラズィーヤは主催者として、感謝の言葉を述べた。
その姿は、やはりこの土地を統治する、ヴァイシャリーの者にふさわしい堂々たるものだった。
ラズィーヤは最後に、こう付け加えた。
「みなさまへの感謝の気持ちとして、また、今日の日のお返しをするためにホワイトデーも、良い日にすることをお約束いたしますわ」
 そして、にっこりとほほ笑んだ。

≪おしまい≫

担当マスターより

▼担当マスター

藤森あず

▼マスターコメント

  マスターを担当しました藤森あずです。
  今回は、バレンタイン・イベントへのご参加ありがとうございました。
 
  お久しぶりの方は、大変ご無沙汰して申し訳ありませんでした。
  初めましての方は、これからもよろしくお願いいたします。

  約一年ぶりの復帰ということで、緊張してしまいましたが、
大好きな恋愛系イベントでもあり、女の子たちが可愛らしくて、
とても楽しんで書かせていただきました。
 
 ご参加いただいたみなさまにも、楽しんでいただければ幸いです。

  それではまた、別のシナリオでお会いいたしましょう。