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「ニンゲンクイタイ! ワカイニンゲンガイイ!」

 ワイバーンの登場によって、状況はまったく変わってしまっていた。
 横転した車からは動物達が逃げ出してしまったが、市街地で暴れ続けるワイバーンを放っておくわけにはいかない。
 しかしワイバーンに対抗できる力を持つ野犬狩り部隊とイルミン生徒達は未だ険悪な雰囲気で、足並みはまったく揃っていなかった。

 不幸中の幸いは動物も人間も死者は出ていない事だ。
 まだ、と付けるべきかも知れないが……

「こいつ! いったい?!」
 人間の言葉を喋る奇怪なワイバーンを前に、動揺する透乃。
「……透乃ちゃんがあんなをこと言うから、本当に出てきたんですよ」
 陽子が透乃をじと目で睨む。
「で、でも、こんな変なのは呼んでないよー」

 無差別に暴れまわっているように見えたワイバーンだったが、なぜか透乃と陽子を優先して狙う傾向があった。

「だいたいなんで私達ばっかり狙うのさ!」
 ワイバーンの攻撃を必死に避けながら透乃が不満を口にする。

 ……それはワイバーンにも聞こえていたようだ。
 ワイバーンは透乃の質問に答えてくれた。

「オマエタチフタリ、アブラガノッテ、ウマソウ」
 透乃達を見ながらワイバーンがそう言って舌なめずりする。
 ……なかなかグルメなワイバーンだった。

「うぅ……最近ちょっと食べ過ぎたかなーって思ってたけど……」
「透乃ちゃん、帰ったら一緒にダイエットしましょう」
「ぶ、無事に帰れたらね」
 必死に逃げ回る2人。
 ある意味、この戦いがダイエットになっているかも知れない。


 ワイバーンがあの2人を狙ってくれているおかげで、イルミン生徒達は体勢を立て直しつつあった。

「ふぅ、なんとか一命は取り戻したようじゃな……」
 アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)によって怪我人の治療が進められていた。
 近くの建物の一室を借り受け、簡易病棟としているのだ。
 治療の甲斐あって、重傷を負っていたクロが意識を取り戻す。

「クソッ、あいつ……よくも……」
「これは応急処置なんです、まだ動いちゃダメですよぅ」
 目を覚ましてすぐに戦いに行こうとするクロを必死に止める明日香。
「は な せ! あいつは絶対許さねぇ!」
 無理やり明日香を振りほどこうとするクロ。
「ダメですぅ、おとなしくしてぇ!」
 明日香の力では、いつまでも止めていられそうになかった。

「……そんな我侭言わんと、おとなしゅう頼みます」
 見かねた綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がクロの傷口に触れる。

「う゛……」
 軽く触れただけだったが、クロに激痛が走った。
 たちまちおとなしくなるクロ。
「ほら、やっぱり無理したらあきまへんえ」
 また暴れださないよう、きつめに包帯を巻きつける風花。

「風花さん、ありがとうございましたぁ」
「ええんよ、がんばろな」
「はい」
 ワイバーンのせいで怪我人は次々と運ばれてくる。
 協力して治療に駆け回る2人だった。